第 0003 話

年配の祖父母にとって、母は息子を産めなかったことが原罪であり、千尾家の大罪人だった。母は嫌われ、さまざまな苦労を強いられ、母はこれら全てが千尾里奈のせいだと感じていた。だから、母が彼女を好きになるはずがなかった。

「私は喜田星志を好きではない」千尾里奈は冷たく言った。冷静な口調で、自分の傷ついた心を隠そうとしていた。

斎藤由美子は何か言おうとしたが、千尾里香に止められた。彼女は斎藤由美子の袖をひっそりと引いて、首を振った。

斎藤由美子は千尾里香に目を向け、悔しそうに口を閉ざした。

「ママ、里奈はそんな子じゃない。私は里奈の姉さんで、星志は里奈の義兄なの。里奈がそんなことをするわけがないよ。里奈は正直でいい子だから、そんなことは絶対にしない」千尾里香が斎藤由美子に言った。

斎藤由美子は冷ややかに千尾里奈を見て、「里香がこんなに信じているのに、あなたは裏切らないで。姉さんの男を奪うような破廉恥なことはしないでね」と冷やかした。

千尾里奈は呆れた。

一体誰が破廉恥なのか？

彼女は何もしていないのに。

母がそう言うのが理解できなかった。

千尾里奈は悲しみと怒りを感じながらも、何も言わなかった。母の前では、何を言っても間違いだと知っていた。彼女の存在が母にとっては間違いであることに、長年慣れてしまったのだ。

沈黙で母の怒りや嫌悪に向き合うことに慣れていた。

「......」

喜田星志は喜田家の人々をホテルの入り口まで送った。

「星志、どう思っているの？」谷口美穂（喜田星志の母）が眉をひそめて尋ねた。

彼女はそもそも千尾里香を好んでおらず、正確に言えば千尾家が好きではなかった。婚姻においては古くから、結婚は家柄の釣り合い関係あると言われていた。千尾家は裕福ではあるが、喜田家には遠く及ばない。星志が千尾里香と結婚するのは、喜田氏グループには何の利益にもならないのだ。

さらに、こんな事態が起きた今、星志がこのチャンスをつかんで、千尾家を泥沼に突き落とすべきだと彼女は考えていた。

千尾里香が星志を裏切り、星志が千尾家の次女を娶ることになるなんて、彼女は全く考えてもいなかった。

星志はどうしてこんなに千尾家の娘が好きなのか？

この世に女性がいないのか、千尾家だけに女性がいるのか？

「結婚したら、当然しっかりと生活しないと」喜田星志は平気な顔で答えた。「早くお母さんに孫を抱かせられるように頑張ります」

「......」

谷口美穂は怒りで顔が変わった。

喜田隆行は「うん」と言った。彼は満足げな眼ざしで喜田星志を見て、「そう思っているなら良い」と微笑んだ。

谷口美穂はさらに怒りを募らせたが、声を上げることはできなかった。

義父が星志を支持している以上、彼女が逆らえるわけがない。

義父が喜田氏の会長であり、喜田家の家主だから。喜田氏グループでも、喜田家でも、義父の威厳が漂っていた。彼女は心の底から畏敬の念を抱き、反論することはできなかった。

運転手が車を持ってきた。喜田星志は喜田隆行たちを車に乗せた。

「上がって、一日中疲れたでしょう。しっかり休んで」喜田隆行は微笑みながら言った。

喜田星志は頷いた。

車が視界から消えるまで見送った後、喜田星志はホテルに戻った。

喜田星志が部屋に戻った時、千尾家の人々はまだいた。喜田星志を見て、千尾家の人々の表情は少し気まずかった。

喜田星志は落ち着いて部屋に入った。そして千尾佐助に言った。「こんなに遅くまでお疲れ様です。お父さん、お母さんも疲れているでしょう。早く休んでください」

千尾佐助は喜田星志がまだ自分をお父さんと呼んだことに喜んだ。笑いながら「そうだね」と返した。

斎藤由美子と千尾里香は喜田星志の考えが読めず、不安だった。

「行こう」千尾佐助は千尾里香と斎藤由美子に言った。

千尾里香は目を赤くしながら喜田星志を見つめ、ソファに座ったまま動かなかった。

斎藤由美子は喜田星志を見て口を開いた。「星志よ、里香が言いたいことがあるの」

喜田星志は千尾里香を見て頷いた。「言って」

平静な表情で、嫌悪感も喜びも見せなかった。

その落ち着きが、逆に千尾里香を不安にさせた。彼女は喜田星志に激しく非難され、侮辱される方がましだと思った。そうすれば、せめて喜田星志が怒っていると表明できるのだ。彼が彼女を気にかけている証拠になるからだ。

しかし、彼が今のように冷静でいるのは......彼女のことを全く気にかけていないからなのか？

千尾里香は、喜田星志が自分を全く気にかけていないとは信じたくなかった。もし喜田星志が彼女を気にかけず、愛していないのなら、なぜ彼女と婚約し、交際しているのか？

「星志......」千尾里香が名前を呼ぶと、瞬間的に涙が溢れた。

喜田星志は眉をひそめ、千尾里香を見て言った。「今日は俺と里奈の大事な日なのに、お義姉さんが涙で祝福するのか？」

千尾里香は心が痛み、涙が止まらなくなった。彼の平静な言葉が、彼女にはさらに深い傷を与えた。

彼が本当に、全く気にしていなかった。

彼女の涙、彼女の弱さに、彼は全く心を動かさなかった。

「お義姉さん、そういうのは......縁起が悪いよ」と喜田星志は冷たく言った。

千尾里香はもう耐えられず、口を押さえて泣きながら逃げ出した。

「里香」斎藤由美子が急いで後を追った。

千尾佐助は千尾里奈と喜田星志を見てため息をつき、去っていった。

部屋には千尾里奈と喜田星志だけが残り、突然静まり返った。