第 0007 話

千尾里奈は喜田星志の横を通り過ぎて外の部屋へ向かい、ソファの上にある衣服を見つけた。それは自分のものではなく、全く新しいものであった。彼女はその服を持って、洗面所に入って着替えた。

ゆったりとしたスポーツウェアはとても快適だった。

着替えが終わると、千尾里奈は部屋を出た。

「食事に行こう」と喜田星志が言った。

千尾里奈は頷いた。

彼女は本当にお腹が空いていた。

千尾里奈は喜田星志について部屋を出て、エレベーターで下に降り、レストランに着いた。喜田星志はすでに料理を注文しており、座るとすぐにウェイターが料理を運んできた。軽めの小皿料理がいくつかと粥が出され、千尾里奈は自分が六杯食べられると思った。

しかし実際には一杯食べたところで、もう食べられなくなった。

なぜなら、喜田星志が彼女の食べる様子をじっと見ていたからだ。

千尾里奈は不思議に思った。彼女は喜田星志と同じ時間で同じ物を食べているのに、喜田星志は二杯食べたのに対し、彼女は一杯しか食べていない。食事の仕方も遅くはなく、喜田星志も優雅に食べていた。

それなのに、なぜ彼は同じ時間に彼女より多く食べるのだろう？

口が大きいから？

千尾里奈はこっそりと彼を見たが、普通の男性の口の大きさだった。

千尾里奈は箸を置いた。

「もう食べないの？」喜田星志が眉をひそめた。

千尾里奈は頷いた。実際にはまだお腹が空いていたが、彼の視線のもとでは全く食べられなかった。一旦、スナックでも買いに行こうと思った。

喜田星志は驚くこともなく、女性の胃の容量は元々小さいことを知っていた。彼の観察によれば、千尾里奈の食欲はまあまあ良い方で、粥一杯といくつかのおかずを食べた。しかし彼は多くの女性を見てきたが、彼女たちは主食を食べず、野菜や果物だけを少し食べることがほとんどだった。

「部屋に戻ろう」と喜田星志が言った。

千尾里奈は頷き、喜田星志について部屋に戻った。

部屋に戻ると、千尾里奈は困惑した。

次はどうすればいいのだろう？

「今晩はここに泊まって、明日、君のものを喜田家に運ばせる」と喜田星志が言った。

結婚しているのだから、当然喜田家に住むべきだ。

千尾里奈は驚いた。

まったくもって予想外だった。

心の準備もできていないのに、もう喜田家に引っ越すのか？

喜田星志と一緒に過ごすのか？

千尾里奈は少し慌てた。

「私は......今、学校に住んでいるけど」と千尾里奈は言った。

喜田星志は頷いた。「わかってる。これからは学校に住む必要はない。君の学校は喜田家から車で20分ほどだ」

千尾里奈は何も言えなかった。

学校に住みたい。

喜田星志と一緒にいたくない。

だが言えなかった。

千尾里奈は本当に窮屈に感じた。

もし他の人なら、「嫌だ」と言っていただろうが、喜田星志の前では、いつも気が弱くなり、反論できず、彼と対立することができなかった。

「どうした？」と喜田星志が彼女に尋ねた。「喜田家に住みたくないのか？」

千尾里奈は言葉を失った。

言ったら彼が怒るのが怖かった。実際、彼が怒っても彼女をどうすることもできないだろう。彼女を叱ったり、手を出したりすることはないのに、ただ怖くて情けないのだ。

喜田星志は千尾里奈を見つめ、彼女の返事を待っているようだった。

そのため、千尾里奈はますます本音を言えなくなった。

千尾里奈がどう返答すればいいかわからないでいると、電話が鳴り、突然の音が少し気まずい雰囲気を打破した。千尾里奈は心の底からほっとし、「電話に出てくる」と喜田星志に言った。

少し離れて、画面に表示された「お姉さん」という文字を見て、千尾里奈は頭が痛くなった。

深呼吸して電話に出た。「お姉さん」

「里奈、どこにいるの？」と千尾里香が優しく尋ねた。

「まだホテルにいる」と千尾里奈は答えた。

千尾里香の方は沈黙していた。

千尾里奈も沈黙して何も言わなかった。

彼女は姉に喜田星志と寝たことをどう言えばいいのか分からなかった。

「それで......いつ帰るの？」と千尾里香が慎重に尋ねた。

「明日」と千尾里奈は言った。

千尾里香の方は無言のままで、千尾里奈は彼女が電話を切ったのかと思った。電話が切られたか確認しようとしたその時、向こうからまた千尾里香の声が聞こえた。「あなた......星志と一緒にいるの？」

その声はさらに慎重で、不安が滲んでいて、何かの答えを恐れているようだった。

千尾里奈の心は緊張し、一瞬沈黙してから、彼女は頷き、か細い声で「うん」と答えた。

「うん......分かった」と千尾里香は慌ただしく電話を切った。

千尾里奈は電話を見つめ、ぼんやりしていた。

彼女、姉、喜田星志......未来の日々が安穏ではないことを彼女は予感した。彼ら三人の愛憎劇は、今始まったばかりだった。

「千尾里香からの電話か？」と喜田星志が尋ねた。彼は知っていて問うていた。

千尾里奈は我に返り、彼を見て頷いた。

喜田星志はつれなく眉を上げ、千尾里香のことはもう続けて言わなかった。

彼にとって、二股をかけた女性について話す気はなかった。

「先に休んでいて。ちょっと出てくるから」と喜田星志が言った。

千尾里奈は頷き、心の底から安堵した。喜田星志と二人きりでいるのが怖かったからだ。

喜田星志が出て行った。

千尾里奈は簡単に身支度を整え、ベッドに入った。彼女は自分が色々考えすぎて眠れないと思っていたが、しばらくすると寝入ってしまい、喜田星志が帰ってきて物音を立てるまで目を覚まさなかった。