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◇出会い系マッチングアプリ 27

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-15 06:22:17

27

 その日から玲子は子作りをするべく発奮するのだが、対して

夫の匠吾は週末しか相手にしてくれない。

 だが妊娠する時はたった一度の夫婦の営みでもするという話も

聞いたことがあり、当初はそんなに焦ってはいなかった。

 4か月目に入っても妊娠の兆しはなく、この辺から玲子に焦りが

見え始める。

 実は匠吾は軽度ではあるものの不妊と診断を受けていた。

 治療次第で子供は授かれるレベルと言われていて、だからこそ

玲子との夫婦生活において、スキンを使わなくてもやり方次第で

妊娠しない方向へもっていけるという根拠があり、家族会議の上での

計画となった。

 そんな具合で夫のほうに元々子作りする意志がないものだから

妊娠などするはずもなく、しかし厚顔無恥な玲子も流石にりっぱな家を

買ってもらうために早く妊娠したいなどとは、そこはやはり新婚さん妻で

夫の匠吾には言えなかった。

 悶々としていた玲子は、ある日閃いた。

 夫と同じ血液型の男を探し、パパになってもらえばいいや、と。

 出会い系マッチングアプリで血液型と見た目、学歴などを加味し、

無事? 妊娠し玲子は喜びを噛み締めるのだった。

 たまたまこの年からちょうど母子に危険を及ぼす可能性のある羊水からの

採取ではなく母親の血液から簡単にDNA鑑定できるようになっており

天は沙代たちに味方した。

 玲子の妊娠7週目を待って玲子にはDNA鑑定であることは伏せ

内臓疾患があると妊娠にリスクが出て来るので検査を受けなさいと

知り合いの病院で血液検査を受けさせた。

 念のため匠吾も頬の内側を綿棒で擦るという口腔上皮細胞の採取を行った。

 10日後検査結果が簡易書留で送られてきた。

 結果は予想通りで匠吾の子ではないと判定が下りたのだった。

 正直判定を聞くまで匠吾は内心ドキドキだった。

 性交渉をしているからには万が一ということもあったからだ。

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    89「次に派遣されて来た|女性《ひと》は、|魚谷理生《うおたにりお》さんっていう人で約1年続いたけど、何て言えばいいのか……。 仕帰りにたまにお茶して帰るくらい打ち解けてきて、仕事もお願いすれば説明しなくてもあらかたスムースに作成してもらえるくらいになって上手くいってると思ってたんだけど、残念なことになってしまってね。 彼女が辞めてから何度も自分の中で何がいけなかったのだろうかと自問自答したけども『どうしようもなかった』としか……ね、思えなくて」「相馬さん、それって具体的には言いにくいことなんですか?」「これから一緒に働くことになった掛居さんにはちょっとね」「意味深に聞こえましたが……」「魚谷さんに、恋愛感情を持たれていたみたいなんだ。 最初に気付いた時に『自分にはトラウマがあって一生誰とも結婚しない生き方に決めている』って彼女にカミングアウトしてたんだけどねー。『結婚を押し付けたりしないのでたまにはデートしましょ』と言われ、まぁそれでうまく仕事が回っていくならいいかなと思い、たまに……と言っても魚谷さんが辞めるまでに3度出掛けたくらいかな。 あとはこうやってブースで息抜きに雑談したり彼女の相談に乗ったり、仕事帰りにお茶して帰ったり。 とにかく彼女が気持ちよく仕事ができればと付き合ったんだけど……」「上手くいってたのに、最後上手くいかなかったのはどんな理由だったのでしょうか」「あれは、仕事が落ち着いてきて定時上がりになった日のことだった。 帰りにお茶でもと誘われてカフェに入った時のこと。『私こちらに入社して1年経ちました』と彼女から言われ『ああ、もうそんなになるんだね。これからもよろしくお願いします』と返したんだ」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇相馬さんは素敵な男性 88

    88「サイン?  う~ンっとっと、そう言えば朝から熱でもあるのか顔を赤くしてた日が   あった、かな。 ちょっとその日は変で僕とあまり視線を合わせてくれなくて。 それで僕の方もなんとなく槇原さんに声をかけづらくなってしまって、 そういうのもいけなかったかもしれないなぁ。 まぁ辞めたくらいだから、僕との仕事は息が詰まってしんどかったのかも しれないね」 「彼女、ちゃんと辞める理由があったみたいなので相馬さんとの仕事が 嫌だったわけではないんじゃないかと」 「そうだよね、変に勘ぐってもどちらにとってもよくないと思うから そういうことで、とは思うけどもね」 私は槇原さんがどういう女性《ひと》か知らないから断定はできない けれど、もしかしたら相馬さんと毎日近い距離での仕事だったから しんどくなったのかも、と思わなくもなかった。 片思いってしんどいものだから。  私も匠吾と両思いになって付き合うようになるまでは、ドキドキしたり 心配だったりでずっと不安だったもの。  相馬さんみたいな素敵な男性《ひと》からアプローチがあれば 私も彼におちるかもね、なぁ~んて。 だけど相馬さんからはまず異性に対する溢れだす特別な感情?  みたいなものがぜんぜん出てない。  だから私もぜんぜんっ意識しないで仕事だけに集中できるんだけどね。 周囲の噂だけを鵜呑みにする限り、相馬さんが次々に派遣の女性と 何かあって彼女たちが辞めたのでは?  みたいにとられている節があるけれども普段の仕事振りと今話してる 彼の様子から、そういうのじゃないっていうか、相馬さんは誰彼なしに 女性に手を出す人じゃないっていうことが分かる。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇疑心暗鬼 87

    87「……といいますと」「……といいますとですね、私の前にいた2人の派遣社員の人たちはどちらも短期で辞めてしまったと聞いています。 相馬さんは私のこともいつ辞めるか分からないって思ってません?」「実は、疑心暗鬼……少し思ってた、思ってる?」「簡単に言いますと『頑張りまぁ~す』ということを言いたかったのです。 それでその疑心暗鬼になっている理由を知りたいということです。 よければどうして派遣の人たちが続けて短期間で辞めることになったのか。理由が分かれば、私はそうならないように気をつければいいと思いますし」「じゃあ、僕の分かりにくいかもしれない話を聞いて何か気付いたこととかあったら意見ください」「OKです」 これまであったことを話しますと言った相馬さんは顎を少し上げ、窓の外、視線を虚空《こくう》に向け口をへの字にして思案しはじめた。 彼の視線が私のほうへと戻り私の視線と絡まった時、被りを振り「思い当たることがないんだよねー」と言った。「入社した時の様子はどんなでしたか? その時からあわなさそうな雰囲気ありました? あわないっていうか馴染めないっていうか」「最初の印象はすごく良かったんだ。 頑張りますっていう勢いみたいなものを感じたね」「へぇ~、じゃあ仕事を任せていてずっとスムーズでしたか? それとも何か……」「掛居さんに訊かれて思い出したけど、そう言えばミスが続いたことがあったね」「相馬さん、相馬さんに限って叱責なんてされてませんよね~?」「気にしないようにって。 次から気をつけるようにとフォローしたけど、まぁ僕のフォローの仕方がまずかったのかもしれないなー。 真面目な人だからものすごく謝罪されて困ったよ」「その辺りから何かしら彼女がサイン出してなかったでしょうか?」

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