偽りの愛を断ち、ハーバードの優等生へ
親友の兄である不二裕斗(ふじ ゆうと)と付き合い始めて二ヶ月。ちょうどサンクスギビングの時期だった。
親友の不二杏奈(ふじ あんな)が、やけに秘密めいた口調で私に囁いた。「ねぇ、お兄ちゃんが彼女を連れて帰ってくるんだって!一緒に見に行こうよ、雫!」
私は胸を高鳴らせて、精一杯お洒落をした。これでようやく「彼女」として、彼の家族に紹介してもらえるんだと信じていたから。
ところが、玄関をくぐった瞬間、目に入ったのは、彼が別の、洗練された美しい女の子を抱き寄せ、両親に笑顔で紹介している姿だった。
「彼女は沢村冷夏(さわむら れいか)。僕のガールフレンドだ」
裕斗も私に気づき、一瞬、明らかに動揺したのが分かった。
しかし、次の瞬間、彼は何事もなかったかのように、その女の子に軽く言った。
「ああ、こっちは妹の友達で、うちでバイトしてる学生......まあ、お手伝いさんみたいなものさ」
お手伝いさん?
彼の心の中では、私はキスや添い寝は許されても、決して表には出せない「バイトの学生」でしかなかったのだ。
私は踵を返し、彼の寝室ではなく、ハーバードへ向かう便に乗り込んだ。