心に刻んだ名前
私は今、かつて学校で私をいじめていた男と一緒にいる。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、静かに部屋を照らす。私はほんのわずかに腕を動かした。
すると、腰に回された腕が、それに応じるようにぎゅっと力を込める。
高田智秀は私の首筋に唇を押し当て、寝起きの掠れた低い声が、耳元に落ちた。
「昨夜は……ちゃんと寝てたのか?」
一瞬、身体がこわばった。でも、私は素直に小さくうなずいた。
昔の私なら、少しくらいは抵抗したかもしれない。けれど、彼は三週間という時間をかけて、私にひとつのことを教えた。
──従えばいい、と。
彼が私の手を取り、指を絡めた。
ゆっくりと、指の間をなぞるように撫でながら、私の髪に顔を埋め、低く笑った。
「今度は……ちゃんとつけてるんだな?俺の指輪」
……
彼の視線の先は、私の薬指。そこには、煌めくダイヤの指輪がはまっている。
これまでに彼が私に渡した指輪は、二つ。一つは冷蔵庫の奥に隠し、もう一つはマンションの庭にある噴水へ投げ捨てた。
その二つの指輪が招いた結末は、今は思い出したくない。
ただ、三つ目の指輪が導いた未来は、もう決まっている。
──私は、この世で最も恐れていた人と、
結婚するのだ。