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All Chapters of 池中のもの: Chapter 21 - Chapter 30

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第 21 話

「京司、どうしたの?気が散ってるみたいだけど?」沙夏は車に乗ってしばらく座っていたが、京司はずっとタバコを吸っていて、すでに2本目を吸い終えたというのに、車はまだ駐車場から動いていなかった。京司はタバコの最後の一口を吸い、残った半分を窓の外へ投げ捨てると、横目で沙夏を見た。「足、もう大丈夫か?」沙夏は口をへの字に曲げ、「忙しい人なのに、私の足のことなんか覚えててくれて、ありがたいわ。死ぬわけないじゃない」と言った。まだこのことを根に持っていた。本当なら、この機会に大げさに騒いでやろうと思っていたのに、思ったほどの展開にはならず、澪に至っては何のリアクションすら見せなかった。「今はお前
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第 22 話

ライジング側ではすでに企画が確定していた。しかし、一本の電話が入った途端、プロデューサーたちは皆呆然とした。「いや、なんで小池京司が急に口を挟んでくるんだ?まさかこれくらいの金に困ってるわけでもないだろ?」山崎は不可解そうに言った。すると、もう一人の女性プロデューサーが苦笑しながら答えた。「あの橘沙夏って人、うちのゲームでVIPランキング1位だし、小池社長の大事なお姫様でしょ?女を喜ばせるために決まってるじゃない」少し太めの男性スタッフが言った。「でも、実際に橘さんを起用するのも悪くないと思うよ。全サーバー1位っていう肩書きを使えば、小池さんみたいな無名の女性を使うより、よっぽど話題性が
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第 23 話

凛の口元から笑みが薄れた。凛は一度口を開きかけたが、すぐに澪の手を握りしめる。「ごめんね、本当はただ、来てほしかっただけ。本気でブロックするつもりなんてなかったんだ」「でも、こうして来たってことは、あの男より私のほうが大事ってことだよね?」凛は唇を噛み、少し不安げな目で澪を見つめた。「わかったわよ、ちゃんと追加すればいいんでしょ」スマホを取り出し、すぐにブロックを解除して、再び友達リストに追加する。それから、ふと思い出したように尋ねた。「で、ライジングには行くの?」澪は、ほとんど迷いなく頷いた。「それでこそ、澪。ほら、もう追加されてる。でも、その格好はちょっとマズいんじゃない?ちょっ
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第 24 話

凛は澪の手を引いて椅子に座り、脚を組みながら言った。「まあ、話し合って決めましょう。60億が足りないなら、もっと出しますから」山崎は、初めて金を積まれることで頭を抱えた。すると、沙夏がすかさず言った。「いいわよ。あんたがいくら出そうと、私は同じだけ出す。まるで、自分だけが払えるみたいなこと言わないで」凛は軽蔑の目で沙夏を一瞥し、鼻で笑った。「お金持ってるって?でも、それ本当にあんたの金?」「じゃあ、あんたの金は自分のものだとでも?」「当然。少なくともそれは宮司家の金よ。何もしなくても、私の取り分はある。でも、あんたは?」「……っ!」沙夏が言い返そうとした瞬間、山崎が慌てて手を挙げ
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第 25 話

凛は呆れたように笑い、山崎を睨みつけた。「山崎さん、まさか私が暇を持て余して、このくだらないプロモーション映像のためにあの女と争ってるとでも?」山崎の額にじわりと冷や汗が滲む。やっと理解した。これは役を巡る争いじゃない。プライドの戦いなのだ。周囲の視線が再び沙夏に向けられる。何とも言えない空気。言葉にしようのない視線。それが沙夏の苛立ちに火をつけた。沙夏は机を叩き、立ち上がると、指を凛に突きつけて怒鳴った。「あんた、頭おかしいの?!澪はあんたの母親なの?!なんでそこまで肩持つわけ?私を敵に回して、あんたに何の得があるのよ?!」「好きでやってんのよ!旦那にすら見捨てられてんのに、私まで見
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第 26 話

凛は我慢しているが、どこにも発散する場所がない。「澪、こっちへ来い」京司の声が響いた。凛が振り向き、鋭い目で澪を睨みつける。「行くな」澪は立ち尽くした。混乱と絶望の中、京司の冷たい視線が突き刺さる。震える足を、無意識に前へと動かしてしまう。だが、凛がその手を強く掴んだ。「ここまできたんだから、もういいでしょ!なんで行くの?!今日こそ、あの男にはっきり決めさせなきゃダメよ!離婚するのか、それともあの女と手を切るのか、どっちか選ばせるのよ!こんなに大勢が見てるのに、まだ自分を貶めるの?少しはプライドを持ちなさいよ!」澪は唇を噛みしめ、京司を見つめた。京司は険しい表情を浮かべ、一言も発さ
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第 27 話

店主は心配そうにため息をつき、ラーメンをそっと澪の前に押しやった。「さあ、早く食べな。のびちまうよ」澪は涙を拭い、微笑みを作る。箸を取り、麺をつまむと、大きく口を開けて食べた。まるで、何日も食べていなかったかのように。澪は無心に麺をすすりながら、ぽろぽろと涙をこぼした。それは、大粒のまま丼の中へと落ち、熱いスープに溶けていく。それごとすすり込んでも、彼女はもう何も感じなかった。この小さなラーメン屋は、中年夫婦が営んでいた。二人とも四十代半ば。若い頃に子どもを授かったが、不運にも事故で亡くしてしまった。以来、夫婦はこの店を守りながら、貧しい者にはできる限りの施しをしてきた。それは、せ
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第 28 話

澪はとても勤勉だった。皿洗いだけではなく、客が帰った後には自らテーブルを片付けることも欠かさない。店主夫婦は、そんな彼女の働きぶりを見て、思わず目を細めた。ここまでちゃんとやってくれるなんて、給料を出さないのが申し訳なくなってきた。だが、京司の予想とは裏腹に――澪は苦労に耐えかねて戻るどころか、むしろこの生活を心から気に入っていた。店主夫婦は彼女を家族のように扱ってくれる。一緒に食卓を囲み、買い出しにも連れて行ってくれる。京司と一緒にいたときよりも、ずっと温かく、ずっと幸せだった。まるで、本当に家ができたような気がした。女将は、澪に料理を教えようとした。麺の茹で方や、簡単な炒め物など
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第 29 話

高身長のシルエットが、店の入り口に静かに佇んでいた。逆光に照らされ、彼の顔ははっきりとは見えない。澪は無意識に手の中の皿を強く握りしめた。なぜ、ここに?彼は今ごろ、沙夏と二人きりの時間を過ごしているはずだったのに。「……遊びはもう十分か?」低く落ち着いた声が響く。まるで、何事もなかったかのように。彼女が半月以上も姿を消していたというのに――彼にとって、それはただの気まぐれな遊びだった。女将は、思わず二人を交互に見比べる。「……あんた、澪とはどんな関係なの?」つい、そんな言葉が口をついて出た。「夫だ」女将は驚いて口をパクパクさせた。想像していた夫とは、まるで違っていた。彼女が思い
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第 30 話

彼女は自分が本当に怒っているのかどうかわからなかった。ただ、彼の無関心を思い出すたびに、彼が自分のお腹の赤ちゃんを受け入れてくれないと考えるたびに、この息苦しい場所から逃げ出したくなった。ちょうどその時、澪の携帯電話が突然振動した。彼女は携帯を取り出して画面を確認した。凛からのメッセージだった。澪が視線を上げると、京司もまた、彼女の携帯をじっと見つめていた。彼女が反応する間もなく、彼はすばやく携帯を奪い取り、そのままメッセージを開いた。凛のメッセージはこうだった。【澪、私は監禁されて、カフェの中のものも全部差し押さえられた。私の絵は全部ダメになったけど、あなたの肖像画だけは必死に守った
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