Semua Bab 生きた魔モノの開き方: Bab 11 - Bab 20

31 Bab

11品目:ヴァルドルのフルコース ~肝臓のポタージュ~

 ヴァルドルは昨日までと同じく、狭い檻の中で膝を抱えて座っている。 別に気にかける必要もないのだが、どうにも気になってしまって、僕は準備をしながら、さりげなく檻の近くを通り、魔物の様子を伺った。すると、かすかな声が聞こえた。 「……ま、こ……ぐ……で……」  魔物の言葉はわからない。助けを求めているのか、神に祈りでも捧げているのか。 いや、意味のある言葉なはずがない。この魔物にそんな知能はないだろう。  ……本当に? 「助手君、そろそろ時間だ」  考えを巡らせているうちに、エルドリスの声が響いた。 僕はヴァルドルを一瞥し、調理台へと戻る。 生放送の時間が迫っている。今日もまた、お届けしなければ。  "極上のエンターテインメント"を。    ◆ 「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」  カメラに向かって、いつもの挨拶をする。 「本日は、フルコースの第三弾。ヴァルドルの肝臓を使ったポタージュを作ります」「ヴァルドルの肝臓は、鉄分と脂肪が豊富で、クリーミーな味わいが特徴だ。燻製にすることで、濃厚な旨味が際立つ」  エルドリスは説明しながら、檻の扉を開いた。僕は彼女に言われる前にヴァルドルの鎖を引き、昨日と同じように蹲《うずくま》った態勢にさせる。  彼女の靴底が魔物の横っ腹を蹴りやり、まるで猫でも転がすかのように、全長四メートルの魔物の体を仰向けにした。 「では、開いていく」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-15
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12品目:ヴァルドルのフルコース ~舌と腕肉のステーキ~

 刑務官事務所の片隅で、僕は魔導通信機の受話器を握っていた。 「ネイヴァンさん、エルドリスから伝言を預かっています」  受話器の向こうから、退屈そうな声が返ってくる。 「おいおい、エリィの声が聞きたかったのに、きみかあ。……で?」「『パーティ次第だ』と」  一瞬、沈黙があった。 次に聞こえたのは、ククッという笑い声。 「へえ、そいつは面白い」「そうなんですか? 僕には何が何だか」「エリィに伝えてくれ。『衣装を用意する』ってな」  また伝言ですか、という文句は飲み込み、「わかりました」と返す。  僕にはもうひとつ、この男に確認したいことがあった。その答えを得るためにも、相手の機嫌を損ねるのは得策ではない。 「ネイヴァンさん、教えてください。あなたが用意したA級魔物ヴァルドル。あれは、魔物なんですよね?」「ふうーん?」  何故そんなことを聞く、とでも言いたげな声が上がる。それもそのはず。『30分クッキング』は魔物を調理する番組であり、食材として用意される肉はすべて魔物だ。 だがそのうえで、ネイヴァンは僕の真意を察したらしい。彼はきちんと、僕と同じ世界観の答えを返してきた。 「まあ、エリィの答えを聞く限り、あの魔物は確かに魔物だったんだろうよ」  ◆ 「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」  今日も生放送が始まる。 「本日はヴィアンド(肉料理)として、ヴァルドルの腕肉――」「舌と腕肉の二種のステーキを作る」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-16
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13品目:ヴァルドルのフルコース ~指のデセール、頭蓋骨と骨髄液のカフェ・エ・プティフール~

 出勤するやいなや、魔導通信機の受話器を持った上官に手招きされた。 「お前にだ。ネイヴァン・ルーガス氏から」  昨日のメニュー変更の件かもしれない。 受話器を受け取って「もしもし」と応答すると、早速不機嫌そうな声が耳に飛び込んできた。 「きみさあ、困るんだよねえ。エリィをちゃんとコントロールしてくれないとぉ」「すみません。昨日のメニューのことですよね?」「それ以外に、なぁにがあるんだよ」「すみません」「まあきみ程度のひよっこにエリィは乗りこなせんだろうなぁ。初めっから期待しちゃいないが」「あの」「なぁんだよ。弁明でもするかぁ?」  ついでだから言ってしまおう。 「エルドリスからまた伝言があります。『三日は待たない』と」「わぁかった、わかった、『明日だ』って言っておけ」「明日って、何がです?」「ああ? 俺は忙しいんだ。エリィに聞けよ」  通信が切れた。正確には、一方的に切られた。 ため息を吐く僕を、上官が見ないふりしていることにも僕は気づいていた。    ◆ 「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」  笑顔の能面にも慣れてきた。 「本日は、フルコースの締めくくりとして、デセールとカフェ・エ・プティフールを作ります」  僕がそう告げる後ろの調理台で、魔物の深い呼吸音が響いていた。 そうだ。今日はいつもと違う。ヴァルドルは生放送の前から調理台の上に上半身をうつ伏せる形で、首と右腕を固定されている。 その光景をバックに僕とエルドリスは並んでオープニングを撮っていた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-17
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14品目:魔ココジュース

「おいおいエリィ、もう少しそっちへ寄らせてくれよ」「うるさい。肘から先を失いたくなければ気をつけの姿勢で黙っていろ」「酷いぜまったく。なあ、新人監督官殿?」「ううっ、苦しい……」  ぎゅうぎゅう詰めの檻の中で、エルドリスはできる限りネイヴァンから距離を取ろうとしていた。しかし、狭い空間では限界がある。逆にネイヴァンはこれ幸いとばかりにエルドリスに密着しようとし、そのたびに肘打ちや足蹴りを食らっていた。その流れ弾が僕にも当たる。  通常、この転送用の檻は、死刑囚一人を島へ送るためのものだ。ゆえに狭い。極端に狭い。なのに今、この中には僕、エルドリス、ネイヴァンの三人が詰め込まれている。身動きはほとんど取れない。僕はエルドリスの肩に頭を押し付けられ、ネイヴァンの膝に挟まれたまま、完全に潰されそうになっていた。三人の中で一番背が低い僕にとって、この圧迫は地獄そのものだ。 「うっ……死んじゃう……」「ネイヴァン・ルーガス。私に膝を当てるな、気色悪い。脚まで切り落とされたいか」「エェェリィィ……俺は今、最高に傷ついてるぜぇ?」  こんな状態で、本当に転移できるのだろうか。 「準備はいいか」  檻の前に立った上官の声が響く。いいわけがない。 「転送開始!」  合図とともに、檻の周囲に魔法陣が展開し、光が視界を満たした。  次の瞬間、僕たちは檻ごと別の場所へと投げ出された。 転移の衝撃で、体がぐちゃっと潰されそうになる。視界がぐるぐる回り、気づけば僕は檻から転がり出て、黒い砂の広がる砂浜に転がっていた。 「うっ……」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-18
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15品目:煙葉魔(スモーグ)で一服

「血統?」  とエルドリスが問うた。ネイヴァンが片頬を引き上げて笑う。 「まあ、エリィは知らないか。知ってるのは帝国の中でも一部の貴族や軍のお偉方くらい。あとは、長生きな爺さん婆さんとかな」「もったいぶらずに端的に言え」「はいはい、わかったよ。ネイファ家っていったら、良い意味でも悪い意味でも一目置かれている一族だ。先祖が魔物と交わったっていう」  ネイヴァンは片手の指で輪を作り、そこにもう片方の手の指を差し入れる。 「……くだらん」  エルドリスは呆れ顔でひと言発すると、ネイヴァンから顔を背け、黒い砂浜のあちこちにバラバラと転送されてきた調理器具や荷物の整理を始めた。 「ネイヴァンさん。やめてください、その話」  僕は意を決して言う。 「なんでだよ。俺はいい意味で一目置いてる側だぜ? なにせネイファ家には数十年に一度、隔世遺伝か何かで変わった能力を持つ子どもが生まれるんだろ?」「……僕は違います」「いいや、きみがそうだと聞いてるぜ?」「誰から」「そりゃあ企業秘密だ。バラしたら俺の信用に関わる。で、実際のところ、きみの"もうひとつの胃"ってのはどんなもんなんだ?」  そんなところまで知っているのか。  僕は首を左右に振った。 「知りません。デマでしょう、そんな話」  それ以上この話を続けたくなくて、ネイヴァンから離れる。そしてエルドリス同様、黒い砂浜の上に散らばった調理器具やらなんやらを拾っていく。 だがネイヴァンはしつこく僕についてくる。 「いいじゃあないか、教えろよ。きみの能力がわかれば、『30分クッキング』の演
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-19
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16品目:リーピッドの丸焼き

「そうだ、忘れていた」  ネイヴァンが急に立ち上がり、木箱の中を探り始めた。エルドリスと僕が訝しげに見つめていると、彼は満面の笑みで振り返る。 「衣装に着替えようじゃあないか」「はい?」  と思わず声が出る。 「せっかく死刑囚島《タルタロメア》に来たんだ。いつもの黒い革エプロンじゃつまらん。きみたちそれぞれに合った衣装を用意しておいた」  ああ、またこの演出家が変なことを言い出した。  エルドリスが承知するはずがない、と思って彼女を振り向いてみたが、彼女は不機嫌そうに腕を組んでいるだけで、黙ったままだった。 僕はふと、何度か仲介させられた伝言のひとつを思い出した。 『衣装を用意する』  ネイヴァンはそう僕に言《こと》づけ、僕はエルドリスに伝え、エルドリスは何も言わなかった。つまりはその時点で”無言は肯定”の承知をしていたのかもしれない。不承不承《ふしょうぶしょう》だろうが。  ネイヴァンは僕たちとの温度差を意に介さず、木箱の中から衣装を取り出した。 「ほら、エリィの分だ。ちゃんと着るって約束したよな?」「馬鹿言え、約束はしていない」「だが、死刑囚島《タルタロメア》にきみを連れてくる条件のひとつと受け取ったはずだ。勘の良いきみならな」「……チッ、食えんやつめ」  結局僕もエルドリスも、ネイヴァンの執拗な押しに負けて、着替えることになった。   衣装はそれぞれ、島の探索に適したものが選ばれていた。 エルドリスは、黒い狩猟服にマントを羽織り、膝丈のブーツを履いている。動きやすさを重視しながらも、彼女の持つ威圧感を損なわないデザインだ。&
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-19
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17言目:お前が食べて判別しろ

 森の奥へ進むにつれ、空気が変わってきた。どこか肌にまとわりつくような不快感があり、湿った土の匂いも強くなっている。葉擦れの音すらどこか不気味に感じる。 「エルドリス、まだ進むんですか?」「当然だ」「でも、死刑囚島《タルタロメア》は、中心部へ行けば行くほど上級魔物が多くなると聞きました。この辺りで一度――」「戻りたければ、勝手に戻れ」  彼女は僕を振り返ることもなく言った。その背中はあまりにも迷いがなかった。 本気ではないが、思わず言いたくなってしまう。 「……あなたを拘束魔法で縛って浜辺へ連れ戻すことだってできますよ」「珍しく監督官らしいことを言うな。だがそんなことをしてお前に何の得がある。低級魔物ばかり開いていても、視聴者は満足しないぞ」「確かに視聴率を考えれば、あなたが上級魔物を捕らえて開いてくれた方がいいに決まってます。でもそれ以前に僕には、監督官としてあなたの命を守る義務があるんです」「ハッ、終身刑の囚人の命など」「あなたは死刑囚ではありません」  僕がそう言うと、エルドリスは振り返って立ち止まり、溜息をついた。それからネイヴァンに目で合図を送る。 ネイヴァンは小さく頷くとカメラのスイッチを切り、休憩とばかりに近くの木にもたれた。 僕は二人の阿吽の呼吸のようなものに戸惑い、真意を求めてエルドリスを見る。 彼女の青水晶のような瞳は、真っ直ぐ僕へと向けられていた。 「この島には、目的があって来た」「目的……って、『30分クッキング』の特別企画でしょう?」「それは建前だ。私はこの島で、"魔物にされた人間"を探したい」「えっ」  短い静寂。森の遠い奥の方から、魔物の唸るような鳴き声が聞こえる。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-20
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18手目:魔性という名の魔法

「ほう、お前の能力は識嚥《シエ》というのか」  エルドリスの口元に薄く笑みが浮かぶ。 「それで、お前の言いぶりだと識嚥《シエ》は"魔物にされた人間"の判別に使えるようだな。一体どんな力なんだ?」「え……知ってるんじゃないんですか?」「私はさっき砂浜で、お前とネイヴァン・ルーガスが話すのを聞いただけだ。だが"もうひとつの胃"、その名だけで大方、能力の予想はついた。胃に入ったモノに関する魔法を使えるとか、成分を分析できるとか。それが生物だった場合、能力を奪える、記憶を読める、とかな。いずれにしても何らかの形で、胃に入れたモノの正体を暴ける能力だろうと考えた」「……鎌をかけたんですね! 卑怯です!」「そう怒るな。お前が悪い」「なんで僕が!」「私に能力を隠していたな。酷いじゃないか、私はお前に延命魔法で妹を生き長らえさせた話までしたのに。それでなくとも監督官であるお前は私の出自、年齢、身長、体重、使える魔法、今朝食べたものまであらゆる情報を得ているだろう」「そ、それはだって、被監督者の基本情報を知っておくことは監督官の義務ですし」「公平《フェア》じゃないと思わないか? 私とお前は盃を交わした対等な同志のはずなのに」  駄目だ、言い負かされる。  反論の言葉が出てこなかった。どうしようもなくて俯いていると、彼女が僕に歩み寄り、僕の正面で足を止めた。  白い綺麗な手が視界に入ったかと思うと、その手は蝶のようにひらりと動いて僕の顎先に留まり、俯く僕の顔をクイと持ち上げる。  僕を見下ろす青い瞳。まるで氷の結晶が光を受けて輝くような、冷たくも美しい。 「私に教えてくれないか、お前のすべてを」  それは魔法だった。 知っている。彼女の魔力は延命魔法にし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-20
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19食目:クラーグルの切れ端

「何だ? ぐずぐずしている時間はないぞ」  彼女はナイフを振りかぶったまま、訝しげに僕を見下ろす。 「クラーグルの一部を、ほんの少しだけ切り取ってください」「なんだと?」「お願いします。僅かですが勝算があるんです」  エルドリスは考えるような表情を見せたが、すぐにクラーグルに向き直り、ネイヴァンから最も遠い触手の先へとナイフを投げた。 触手は1cmにも満たない幅だけ切り取られ、音もなく地面に落ちる。ネイヴァンを捕らえる触手たちに大きな動きはない。 「これでいいか」「はい!」  僕はうねうねと動き続けるそれに駆け寄って素早く拾った。 「おい、何をする気だ」  エルドリスが背後で戸惑うような声を上げるが、答えている余裕がない。僕がこれから何をするか、彼女の位置からは見えないだろう。 僕は触手の切れ端を口に入れ、ごくんと飲み込み、二つある胃のうち、識嚥《シエ》へと落とした。  次の瞬間、視界が明滅し、目を開いているのに暗転する。 たった一度だけ味わった、あの嫌な感覚。 クラーグルの記憶が流れ込んでくる。 ―――――  長い手足を木々に絡ませ、植物に擬態して、ただ待つ。 幼いころから繰り返してきた狩り。 研ぎ澄まされた感覚が、獲物の気配を捕らえる。 音がする。 小枝が折れた。 空気が揺れる。 獲物が近づいてくる。 距離が縮まる。 あと少し。 獲物が完全に射程内に入る。 ここだ。 瞬時に絡みつく。 迷いはない。 獲物の全身に触手を這わせ、がんじがらめにする。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
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20品目:クラ―グルの活け造り

 夜の帳が下りる中、焚き火の炎が砂浜を揺らめかせる。 「皆さま、こんばんは。『30分クッキング』です」  いつものように調理台の手前に立ち、僕は魔導カメラへ語る。 「本日も特別企画として、死刑囚島《タルタロメア》よりお届けしております。食材はこちら、クラ―グルです」  調理台の上に横たわるのは、蛸に似た巨大な魔物。無数の触手は束ねられて、ぎちぎちと締め上げられているが、まだ抵抗の意思があるのか、拘束の下でしきりに蠢《うごめ》いている。 「クラ―グルはA級魔物に分類される非常に危険な存在ですが、味は絶品と言われています。本日はこのクラ―グルを、活け造りにしていきます」  エルドリスがナイフを手に取り、クラ―グルの巨体に歩み寄る。 「まずは、触手の一本を開く」  刃が触手の表皮に触れた瞬間、クラ―グルが激しくもがき出す。しかし、エルドリスは構わず、縦一直線に浅く切り込みを入れた。そして切り込みに両手の親指を差し入れる。 「クグルゥゥゥゥ……ガァ……」  ズルッ、メリメリッと嫌な音を立てて皮を剥いでいく。剥ぎ終えると、手際よく内側の肉を削ぎ始める。 「ピィィィィィィィ……ギャアアア……」「薄く削いだ方が、食感が良くなる」  削ぎ取られた肉は透き通るような白色。それを、まだ生きているクラ―グルの顔の上に飾り付けていく。趣向を凝らした活け造りだ。 「次に、頭部を処理する」  エルドリスは、クラ―グルの頭部に垂直に刃先を当てる。そして体重をかけて刺し込む。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-22
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