それを知った私は思わず心が緩んで、そんなことは気にしないことにした。里桜のふわふわした小さな手が私の手を握り、キラキラした目で言った。「お兄ちゃんが鶏と山のキノコでスープ作ってます。一緒に飲みに行きませんか。村の入口に住んでる大江(おおえ)さんも、明日うちに来るって」里桜を抱き上げると、思わず笑みがこぼれた。素朴な村人たちはとても親切だった。前の茶畑のオーナーは閉鎖するつもりだったらしい。もし閉まってしまったら、村の子供たちはお茶のおかげで育ってきた恵みを失うだろう。私が引き継いでよかった。ここのお茶は全て自然栽培で手摘み、昔ながらの製法で作られている。ただ交通の便が悪く、有名になるチャンスを逃していたのだ。私が引き受けたのは、村人たちを助けたいという気持ちだけではなかった。里桜について家に向かうと、雨はすでに小降りになっていた。雨上がりの土の匂いが漂う中、庭で誰かが忙しく動いているのが見えた。近づいてみると、菊哉が薪割りをしていた。上半身を裸にして、斧を振り下ろすたびに鍛えられた筋肉が美しく動く。日焼けした肌には細かい汗が光っていた。野性的で整った顔立ちの好青年だ。宣伝用のモデルとして使えるかもしれない、と考えていたら、じっとりと湿った熱い視線に気付かれてしまった。菊哉が振り向くと、私と目が合い、若者らしくすぐに顔から耳まで真っ赤になった。「成、成宮さん、おかえり」私は笑って訂正した。「おばさんって呼んで」菊哉は困ったように笑いながら言った。「里桜が桐葉ちゃんって呼んでるのに、僕がおばさんじゃ、呼び方がバラバラじゃないですか」家の中に入ると、菊哉はさっきより上着を羽織っていたが、まだ頬の赤みが残っていた。食事の時間。菊哉の料理の腕も本当にうまい。長年里桜の面倒を見てきたので、家事全般がとても得意なのだ。過去十年間の主婦生活を振り返り、ふと気付いた。家事が上手なのは女性だけじゃないんだ、と。食事をしながら、菊哉は民宿を建てる計画について話してくれた。実は観光客も結構来るため、茶畑のお茶を売ったほか、ここを観光地として開発できるかもしれない。前に私がその考えを話すと、菊哉はどうしても出資させてほしいと言い出した。今、彼の言葉を聞いた私
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