マイバッハの中、緑川葵(みどりかわ あおい)は霜月颯斗(しもつき はやと)のキスに酔いしれていた。彼女の服はすっかり脱げていたのに、颯斗はきちんとした服装のまま。二人の間のはっきりとした対比に、葵は思わず顔を赤らめた。颯斗は手を伸ばして彼女の腰を引き寄せ、低く笑いながら耳元で囁いた。「防音板は全部下ろしてある。運転手には聞こえないし、聞こうともしない。何を恥ずかしがってるんだ、ん?」普段は冷静な男のその動きがますます激しくなるのを見て、葵は愛おしさでいっぱいになって彼を抱きしめた。まるで潮のように押し寄せる快感が一気に高まり、頂点に届こうとしたその瞬間、不意に鳴り響いた着信音に遮られた。こんな時に邪魔が入って、颯斗は不快そうに眉をひそめた。それでも着信表示を見ると、通話に応じた。隣で息を整えながら、葵はふと画面を覗き込み、それが彼の親友の平野翔(ひらの しょう)からの電話だと分かった。「颯斗、お前、正気かよ……」颯斗は眉をひそめ、流暢なイタリア語で彼を遮った。「今はまずい。イタリア語で話せ」しばらく沈黙があり、向こうは深く息を吸い込んでから、イタリア語で続けた。「本当に山崎鈴音(やまざき すずね)と籍を入れたのか?いったい何を考えているんだ?昔、お前は彼女を助けるために視力を失ったのに、あの女はお前がどん底にいる時に見捨てて、他の男とくっついたんだぞ。あのままじゃ、お前、命を落としてたかもしれないんだ。そんな女と、またやり直す気か?!」耳慣れない言葉が、葵の頭の中で自動的に日本語に変換された。内容が理解できた瞬間、彼女は全身の血の気が引き、まるで氷の底に突き落とされたような感覚に襲われた。けれど颯斗は、そんな葵の異変にまったく気づいていなかった。「俺が彼女と結婚しなければ、山崎家は無理やり年寄りの男に嫁がせようとするんだ。そんな屈辱を彼女に味わわせたくない」「じゃあ、葵は?お前がした時、視力を失った時、ずっとそばにいたのは彼女だけだった。何年もお前を支え続けて、お前を愛し抜いてきた。俺たちみんな、その姿を見てきたんだぞ」怒りを抑えきれないその声に対しても、颯斗の返事は冷ややかだった。「うまく隠すつもりだ。彼女には絶対に気づかせない」「いつまで隠せるんだ?一生黙ってるつもりか?葵はお前と結婚したいって、本気で思っ
Read more