この年、大陸統一歴一四八年は、戦で幕を開けた。 エドナのマケーネ大公配下ロンドベルト率いる北方方面駐留軍イング隊が、その駐屯地であるアレンタ平原を出、国境を接するルウツ領セナンへ攻撃を仕掛けた。 対するセナンの国境警備隊は、その黒一色の旗印を見て恐怖を覚え、一戦も交えることなく撤退してしまった。 それに呼応するようにエドナのアルタント大公は配下のシグル隊を、古都バドリナードにほど近いルウツ皇国領ルドラへ進軍させたのである。 古の都バドリナードは大帝ロジュア・ルウツが大陸統一の足がかりとした要地にして、現在はその大帝が眠る場所、言わば聖地である。 それを自らの手中に収め、優位に立つべくルウツ皇国とエドナの両大公家はその機会を虎視眈々とうかがい、牽制しあっていた。 このままでは、バドリナードはがいずれ二つの部隊から挟み撃ちされ、エドナの手に堕ちるかもしれない。 その事態を憂慮した宰相マリス侯は皇帝に対し出兵を進言した。 マリス侯を後見人として即位した病弱なルウツ皇帝メアリはその案を採った。 かくしてルドラへの出兵はなし崩しに決まった。 しかし、どの部隊を派兵するかでまた一騒動が起きた。 宰相マリス侯は、由緒ある五伯家のいずれかを、と提案した。 一方で皇帝の妹姫で、近衞と皇都の警備を担う『朱の隊』を預かるミレダ・ルウツが真っ向から反対した。 曰く、今必要なことは、権威や名誉ではなく確実に勝つという裏付けである、と。 皇国の現状を見ればそれは当然のことであるが、マリス侯は渋った。 それが犬猿の仲であるミレダの案であり、何よりマリス侯は『蒼の隊』その物を毛嫌いしていたからである。 だが自らも武人であり、しかも皇帝に連なるミレダの言葉に反論できる者はいなかった。 そこまでの命知らずは、存在しなかったのである。 こうして渋々ながらもマリス侯は蒼の隊を派兵することを了承した。 しかし宮廷でそんな裏事情があったなどと言うことを、最前線の人間は知る由もない。 ただ
Terakhir Diperbarui : 2025-03-26 Baca selengkapnya