「汝に平安あれ」 先程見た光景と全く同じその言葉に、ユノーは思わず振り返った。 その視界に入ってきたのは、心ここにあらずと言うような表情を浮かべて起きあがろうとする上官の姿だった。 「……師匠。……どうして……こちらに?」 「どうしても何も、突然姿を消したのは、お前の方だろう。おかげで殿下はたいそうご立腹だ。しかもいらぬ手間を部下にかけさせるとは……」 珍しく戸惑った様な藍色の瞳を向けられて、けれどユノーは立ちすくみ、ややあって思わず数歩後ずさった。 そして、震える声でなんとか取り繕うとする。 「も……申し訳ありません……。勝手に……お邪魔して……。あの……」 けれど、経験値ではユノーは司令官と比べると完全に劣る。 鋭い視線を投げかけられて、彼は完全に口ごもってしまった。 「……ロンダート卿、何を見た?」 開戦の直前に投げかけられたのと、全く同じ質問である。 けれど、今度はユノーは返すべき言葉を持たなかった。 その様子に全てを理解したのだろう、シーリアスはわずかに吐息を漏らし、苦笑になりきらない表情を浮かべて見せた。 「わかった。酒場の笑い話のきっかけぐらいにはなるだろう。……全部本当の事だから、気にするな」 その言葉が終わるか終わらぬかのうちに、ユノーの涙が埃の積もった床に落ちた。 「…&hellip
Huling Na-update : 2025-04-15 Magbasa pa