บททั้งหมดของ I Still Love You ーまだ愛してるー: บทที่ 11 - บทที่ 20

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第十一話

「そうか」少しだけ考えるような表情をした崎本が、何か言いかけたところで会社に到着し、この話はそこで終わった。「長谷川、無理をするなよ」それだけを言い残し、崎本は自分のフロアへ向かうべく歩いていった。ほっとしたのも束の間、今から壮一と顔を合わせなければならないという現実は変わらない。なんとか気持ちを立て直し、日葵はフロアの自動ドアにIDをかざした。「おはようございます」個々のブースになっているため、誰がいるのかわからなかったが、とりあえず声をかけると、すぐに「おはよう」と返事が返ってくる。「調子はどう? 大丈夫?」柔らかな笑みを浮かべた村瀬に、日葵はすぐに頭を下げた。「昨日は申し訳ありませんでした」「いや、こっちこそ。あの後、打ち合わせが長引いて会えなかったから、仕事を押しつけてしまって悪かったな」ヘッドフォンを外してこちらを向いた村瀬に、日葵は首を横に振る。「いえ、本当にご迷惑をおかけしました」「今日も無理するなよ。これからもっと忙しくなるから」村瀬の言葉に、日葵もカレンダーに目を向ける。「はい。でも、声優さんたちの日程やイベントの手配も山積みなので……」その言葉に、村瀬は申し訳なさそうに顔をゆがめた。「悪いな。そうだよな、長谷川さんに頼りっぱなしだもんな……。おい、壮一!」フロアの奥にある仮眠室兼打ち合わせルームの扉が開き、壮一が出てきた。冷静を装うものの、日葵の心が大きく波打つ。「なんだ?」壮一は、そんな日葵を気にする様子もなく、完全に仕事モードの表情で村瀬を見る。「チーフとしての初仕事。もう一人アシスタントを入れろよ。このままじゃ、長谷川さんがいつ倒れるかわからない」村瀬の言葉に、壮一の視線が日葵へと向けられた。「長谷川。そうなのか?」初めて見る上司の顔に、日葵は呆然としながら壮一を見た。「長谷川、どうなんだ?」「いえ、あの……」言い淀んだ日葵に、壮一は小さくため息をつくと、淡々と言葉を投げた。「自分の今の仕事を持って、俺の部屋へ」有無を言わせない指示に、日葵は小さく返事を返した。壮一のデスクの前で、日葵はじっと立っていた。進行状況や仕事の内容を説明した後、壮一は日葵の資料とスケジュールを確認していた。「……なんだこれは」しばらくして発せられた言葉に、日葵はビクッとする。「社長も急いだな
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-12
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第十二話

「後は、明日のスケジュール……」自分のブースで事務作業をしていた日葵は、小さく息を吐いた。時計はすでに22時を回っているが、夕方から始まった打ち合わせはまだ終わりそうになかった。ストーリーはもちろん、キャラクターデザインなどの細かな修正や調整が続いている。しかし、日葵がその場にいたところで、正直なところ何もわからない。小さい頃から父がパソコンに向かう姿を見て育ったが、その才能は自分には受け継がれなかったと、日葵は思っている。理系よりは文系。そんな自分が、少しもどかしく思えた時期もあった。「長谷川!」静かなフロアに響いた声に、日葵はハッとして背筋を伸ばす。「まだいたのか……」壮一の声を聞き、日葵はぐっと唇を噛んだ。「すみません」「いや、もうこんな時間だろ……」呟くように言った壮一の声が、ため息とともに消える。「待ってろ」それだけが聞こえたかと思うと、壮一はすぐに姿を消した。(待ってろ、って言った?)胸の鼓動が早くなるのを感じ、日葵は落ち着かなくなる。「長谷川! 行くぞ」「え?」ジャケットを手に戻ってきた壮一を見て、日葵は驚きながら立ち上がった。「もう終われ。明日でいい」プライベートではなく、職場の同僚としての呼び方。そして、壮一が纏う雰囲気は完全に仕事モードだった。これ以上、言い争いをすることもできず、日葵は素直に従うしかなかった。無言でエレベーターに乗ると、壮一は迷うことなく地下駐車場のボタンを押す。「車なんですか?」無意識に口をついて出た言葉に、日葵は慌てて口を押さえた。「ああ、終電に乗れないことも多いからな」淡々とした口調に、日葵も納得する。不規則な勤務が続く壮一にとって、電車通勤は確かに大変だろう。(あれ?)ふと、朝、崎本に言われたことを思い出す。「でも、今日、部長に……」そこまで言いかけたとき、音もなくエレベーターのドアが開き、壮一が颯爽と歩いていく。日葵も慌ててその後を追った。「きゃ!」急いで歩こうとした瞬間、足を滑らせ、バランスを崩す。視界の隅に、素早く動いた壮一の姿が映った。「悪い」暗くなった視界の中で聞こえた、低く落ち着いた声。転ぶことなく、抱きしめられるように支えられたことに気づき、日葵は息をのんだ。「いえ、私こそ……」慌てて体勢を整え、壮一から離れる。その
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-13
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第十三話

また静寂が訪れ、気まずい空気に、日葵は息が詰まりそうになる。「ここで降ろしてほしい」そう言えればいいのに、帰る場所は同じだった。この何年かの間、会わなかった時間を簡単に埋められないのは、それ以前の時間があまりにも濃密だったせいかもしれない。生まれたときからずっと一緒にいたからこそ――今、大人になった壮一とどう接すればいいのかわからなかった。それは、壮一も同じなのかもしれない。もし、あんな別れ方をしていなければ。思い出話や、会わなかった間の出来事を話せたのかもしれない。けれど、今の二人には、それができなかった。無音の車内。気まずさに耐えきれなくなったのか、壮一がオーディオのボリュームを上げた。車内に流れたのは、聞き覚えのあるメロディーだった。「あれ? この曲……」どこかで聞いたことがある。そう思いながらも思い出せず、日葵は首を傾げた。切なくて甘い――オーケストラが奏でるその音楽は、驚くほど美しかった。「エンディングにしようと思ってる」その言葉で、すぐに今開発中のゲームのことだと理解する。日葵は耳を傾けた。「すごく素敵」思わず零れた言葉に嘘はなく、なぜか泣きたくなった。壮大なRPGのラストを飾るのに、ふさわしい曲だと思った。戦い、人間模様、それらを美しい映像と音楽が彩る――そう考えると、改めて壮一のすごさを感じずにはいられなかった。「やっぱり、天才だね」自然と零れた言葉。返事はないと思っていた。だからこそ、壮一の意外な言葉に驚いた。「それなら、日葵のおかげだろ」「え? 私の?」予想もしていなかった言葉に、日葵は自分の耳を疑う。「俺がピアノを始めたのは、日葵のためだよ」初めて聞く話に、日葵は呆然と壮一を見た。「どうして?」そう問いかけると――久しぶりに見る壮一の笑顔に、日葵の心臓が跳ねる。「小さい頃、日葵がピアノを弾くと、笑ったから」その言葉に――日葵の心は、ぎゅっと潰されるような感覚に襲われた。それ以上、会話が続くことなく、すぐにマンションのエントランスに到着した。日葵は、ちらりと壮一を見た。(……どうしてエントランス? 駐車場は地下なのに)疑問が浮かび、小さな声で問いかける。「チーフ……車は停めないんですか?」「いいから、長谷川。早く帰って寝ろ。顔色が悪い」日葵を見ることな
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-15
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第十四話

そんな時、目の前の電話が鳴り、日葵はハッとして受話器を取った。『長谷川さん、サニープロダクションの奥野様がお見えです』その言葉に、日葵は気持ちを入れ替えると、資料を手にフロアを出た。ミーティングルームに案内し、目の前の二人に挨拶をする。30代後半くらいの爽やかな印象の男性――奥野。そして、20代後半くらいのスーツ姿の男性――三ツ谷。「ではここで、開発者と社長の挨拶で大丈夫ですよね?」「はい、あと、この時間にゲームの体験を行いたいです」その言葉に、奥野も頷きながら、考え込むような表情を見せる。「わかりました。その時の段取りや企画については、またまとめてご提案させていただきます」テキパキと三ツ谷に指示を出しながら進める奥野に、日葵も「お願いします」と頭を下げた。「それで、12月24日のプレスリリースですが……」「え?」その言葉に、日葵は慌てて資料をめくる。(うそでしょ!)「長谷川さん?」日葵の様子に気づいたのか、奥野が不安げに声をかける。「奥野さん、プレスリリースって、もう……?」「はい……」奥野の言葉に、日葵は真っ青になった。確かに、資料には「12月24日」と書かれている。けれど――社内用のタブレットには『12月31日』と記載されていた。(こんなの無理……!)ただでさえ、今のスケジュールでいっぱいいっぱいなのに、1週間も早まるなんて考えられない。プレスリリースとなれば、ある程度の情報を公開する必要があるし、それがどれほど売上に影響するかなど、誰だって分かることだ。「あの……あっ……上司に相談させてください」何とか言葉を絞り出し、日葵は奥野たちに頭を下げる。「長谷川さん、我々も最善を尽くします。とりあえず今日は……」奥野の優しい言葉が、さらに申し訳なさと焦りを煽る。心臓が、バクバクと音を立てる。二人を見送ったあと、泣きたい気持ちを必死に抑えながら、壮一の部屋へと向かう。(私のせいで、みんなに迷惑をかけてしまう……)どこか、最近浮ついたような気持ちがあったのかもしれない。ぎゅっと唇を噛みしめ、震える手でノックをする。「はい」凛とした声が聞こえ、日葵はドアを開けた。「長谷川?」キーボードに手を置いたまま、パソコン画面を見ていた壮一が、日葵のただならぬ空気を察し、ヘッドフォンを外してこちらを見た。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-17
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第十五話

「すぐにもう一度スケジュールを組み直す。進捗状況を確認しろ。長谷川! お前はもういい! 行け!」「でも……」「お前が今ここにいて、どうするんだ!」その冷たい言葉に、自分の無力さを痛感する。(泣くな! 泣くな、私。泣く資格なんてない……)「はい。本当に申し訳ありませんでした」もう一度深く頭を下げ、部屋を後にすると、こらえていた涙が零れ落ちそうになる。そんな醜態を晒すわけにはいかず、化粧室に向かおうと小走りに廊下を進んでいたとき――「長谷川?」休憩室にいたのだろう、崎本に呼び止められた。完全に涙が頬を伝っていた日葵は、崎本の顔を見ることができず、足だけを止める。背後から近づく足音が聞こえる。(お願い……今は誰にも会いたくない)こんな顔を見られたくないし、今、優しくされることなど許されない。「どうしたんだ?」日葵の異変に気づいたのか、崎本が覗き込んでくる。「どうして泣いてる? 何かあった?」優しい問いかけに、日葵はブンブンと首を振った。「なんでもありません。少しミスを……」そこまで言った瞬間、冷ややかな視線を感じ、日葵は振り返った。「チーフ……」コーヒーでも買いに来たのかもしれない。けれど、壮一の目に映るのは、凍りつくような冷たい視線。その瞳に射抜かれ、心臓がバクバクと音を立てる。指先が、一気に冷たくなるのが分かった。「お前の今やるべきことは、それか?」呆れたようなその言い方に、日葵の心は真っ黒に塗りつぶされた。「ちが……失礼します」それだけを絞り出し、日葵は化粧室へと駆け込んだ。やるべきことは分かっている。社内のすべての書類や手配をやり直さなければならない。社内のスケジュールは「12月31日」になっている。 けれど、どこで「24日」が先方に伝わったのか、未だに分からない。そして――その原因を探ることに、もう意味はないことも。なんとか涙を止めようと、トイレの個室で必死に呼吸を整える。それでも、先ほどの壮一の冷たい声が頭から離れず、涙が止まらない。これこそ、今すべきことではないのに……5分ほどして、ようやく涙を抑えると、日葵は鏡をじっと見つめた。(今すべきことは、仕事)音が鳴るほど自分の頬を叩き、気持ちを奮い立たせる。そして、まっすぐ事業部へと戻った。ほとんど誰もいないフロアに、ホッと息を吐
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-18
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第十六話

(あっ、満月……)吸い寄せられるようにベランダへと出て、夜空を見上げた。真っ黒な空の中、ぽっかりと浮かぶ真ん丸の月が、静かに日葵を見下ろしている。ポロポロと涙がこぼれるのも拭うことなく、ただじっと月を見つめていた。その時――カタン突如、小さな音がして、日葵はハッとしてそちらに目を向けた。「こっち来て」静かに響いた声は、薄い防災壁の向こうからだった。壮一の声。その言葉の意味をすぐには理解できず、日葵は目を見開いた。「長谷川、こっちこい」長谷川、と呼ばれると抵抗できない。(ずるい)そう思いながらも、一歩一歩、二人を隔てる壁へと足を踏み出す。壮一の姿が見えないからこそ、近づくことができる。「ごめんなさい……」申し訳なさで、それしか言えなかった。壁にそっと手を添え、呟くように謝罪の言葉を述べる。「こっち」「え?」不意に響いた壮一の言葉の意味が分からず、日葵は聞き返した。「長谷川、外を見て」促され、日葵は視線を外へ向ける。そこには、壮一の手だけが見えていた。少し躊躇するような、掠れた声。その響きに勇気を出し、日葵はそちらへと向かう。そして――覗き込むように、壮一の視線と交わった。「チーフ、本当にご迷惑をおかけして……」「あーあ」日葵が言い終わる前に、壮一の声がかぶさる。その言葉の意味は分からなかった。でも、なぜか――壮一が泣きそうに見えた。日葵は、ただじっと壮一の瞳に映る自分を見つめる。その綺麗な瞳が揺れていた。「……悪かった」静かに響いた言葉に、日葵はブンブンと首を振った。「私が……」「いや、俺だって確認すべきだったし、もしかしたら見ていたかもしれない。なのに……あんな頭ごなしに……」その言葉を聞いた瞬間、ふっと力が抜けた。ほっとした途端、押し込めていた涙があふれ出す。嗚咽を漏らした頬に、ふいに温もりが触れた。驚いて顔を上げると――「長谷川、泣くな。大丈夫だから」優しく響く壮一の言葉。どれだけ、あの冷たい視線が自分を落ち込ませていたのか。日葵自身、気づいていなかった。優しく、壮一の指が涙を拭う。それを拒むことも、何か言葉を発することもできなかった。ただ、その手が温かくて――されるがままになっていた。そっと、頬を壮一の両手が包む。「ここ、叩いた?」撫でるように、昼間
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-19
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第十七話

週末になり、相変わらず休みなく働く壮一たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、日葵にできることと言えば、コーヒーを淹れることぐらいだった。「お前たち、もう上がれよ。たまには週末楽しんでこい」首を軽く回しながら言った壮一の声に、日葵と柚希は目を合わせる。「チーフ、お疲れですよね?」心配そうに声を掛けた柚希に、壮一はふわりと笑顔を見せ、軽くデコピンする。そんなやり取りを、日葵はただ見ていた。「お前みたいなひよっこに心配されるほど、年取ってない。早く帰れよ。……長谷川も」まるでおまけのような言い方に、日葵は小さく頷くと、視線を逸らしながらカバンに荷物を詰め込んだ。「柚希ちゃん、今日は終わろうか」なんとか先輩らしく振る舞い、柚希を見ると、柚希はなおも不安げな表情で壮一を見ていた。日葵とて、壮一のことを心配していないわけではない。目の下にははっきりとしたクマができ、顔色も悪い。気になって仕方がなかった。でも、それを言葉にすることも、態度に表すことも、今の日葵にはどうしてもできなかった。***一人で帰る気になれず、日葵はスマホを手にする。呼び出したのは同僚の佐奈。会社から一駅離れた、落ち着いた店を指定し、先に待っていた。普段あまり飲まないビールをチビチビと口に運びながら、ため息ばかりついている。「日葵。お疲れ」不意に聞こえた声に、俯いていたことに気づき、日葵は顔を上げた。「ごめん。ありがとう」小さく微笑んだ日葵に、佐奈は苦笑する。「なに? 疲れすぎじゃない? それとも何かあった?」適当に料理と飲み物を追加しながら、日葵はまた大きなため息をついた。「日葵、ため息つきすぎ。理由は仕事? それとも?」何かを察しているのか、佐奈にじっと見つめられ、日葵は言葉を選ぶ。「仕事で大きなミスをして落ち込んでる」そう言うと、佐奈は「そう」と軽く相槌を打った。「それと?」「え?」佐奈の問いに、日葵は意外そうに佐奈を見た。「ミスの大小はあれど、そんなこと今までに山ほどあったじゃない。そのたびに、こんなに目の下にクマを作って寝不足になったの、見たことない」佐奈の言葉に、日葵は言葉に詰まる。どうして、これほどまでに今回のミスが自分を落ち込ませているのか――分かるようで、分かりたくない気持ちだった。「昔から親同士が家族ぐるみで付き合
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-19
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第十八話

「日葵、話したいならきちんと説明しなきゃ」 鞠子の言葉に、日葵は言葉に詰まる。「つまりね、日葵は淡い恋心を清水チーフに持っていたのに、清水チーフは日葵に何も言わずにアメリカに行ってしまった。ずっとずっと一緒にいたのに」 代わりに簡潔に説明した鞠子の言葉が、日葵の心の中に突き刺さる。(やはり壮一は私を捨てた)「でも、どうして清水チーフは何も言わなかったんですかね? 何も言えなかったってこと?」 黙って聞いていた佐奈だったが、少し考えた後、日葵が考えたことのなかったことを口にした。(言えなかった?)「そうかもしれないわね」 そう答えた鞠子の言葉に、日葵の中で「どうして?」が駆け巡る。「それで、清水チーフに迷惑をかけたことが、日葵は引っかかってるの? それに、やっぱりまだチーフのことが気になるから、誰の誘いにも乗らなかったってこと?」 一人納得したように言う佐奈の言葉に、日葵は思わず声を上げる。「違う! そんなことは絶対ない! 私はもうそうなんて、壮一なんて……」 ついムキになって言ってしまい、日葵は言葉を止めた。「日葵……」「どうして私をこんなに振り回すのよ……。大嫌いなのに……」酔いも手伝って、呟くように言った日葵を、二人はただ見ていた。千鳥足でふわふわとしながら、タクシーを降りてエレベーターに乗り込む。「遅かったな」「え?」 誰もいないと思って乗ったエレベーターから聞こえた声に、日葵は目を丸くする。「チーフ……」 地下駐車場から乗ってきたのだろう、壮一に出くわして、日葵は言葉に詰まる。「気分転換できたか?」「あ……はい。先に帰ってすみません」「別に仕事もないのに残ることないだろ?」 その辛辣な言葉に、日葵は言葉を失った。「あっ、悪い。そういう意味じゃない」 日葵の顔色が変わったのに気づいたのか、壮一は小さくため息をついた。「どういう意味ですか?」 もう半ばヤケになり、日葵は顔を上げて壮一を見た。「無理をさせたくないだけだ」 いきなり言われたその言葉に、(柚希ちゃんをじゃないの?)と素直じゃない思いが溢れる。「誰をですか? かわいい柚希ちゃん?」「はあ?」 苛立ちを含んだその言葉と同時に、エレベーターは二人の階へと着き、音もなく扉が開いた。「ほら、降りろ」酔っているからだろうか、感情がコントロー
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-24
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第十九話

日曜日、崎本と昼に待ち合わせをしていた日葵は、朝早く目覚めてしまい、ため息交じりにベッドから降りた。壮一がいなくなったあの日から、ことごとく男の人を寄せ付けてこなかった日葵にとって、男の人と二人でどこかへ行くことは、やはり気が重かった。そんなことに慣れてもいないし、何を話すべきかもわからない。そんなことを思いながらも、日葵はいつも通り化粧をして、仕事のときよりは少しだけ明るい色の服を選ぶと、鏡に映る自分を見た。男の人とどこかへ行った記憶と言えば、壮一以外ない。その事実に気づき、自分でも少し自嘲気味な笑みが零れる。(私、何をしてたんだろう)別に壮一に義理立てする必要などもちろんなかったのに、結果だれとも付き合うことなく男嫌いのようになったのは、まぎれもなく壮一のせいだ。日葵はそんなことを思いつつも、まだ待ち合わせまで時間があるが出かけることにした。今日は壮一に会わなかったことに安堵して、待ち合わせの駅へとゆっくり歩く。梅雨ももうじき終わり、本格的にやって来るだろう夏を前に、少しだけ暑くて、日葵は長袖のカーディガンの袖をまくった。「長谷川」不意に聞こえた声に、日葵は振り返った。そこにはラフな格好をした崎本がいて、日葵は驚いて目を見開いた。「部長……早くないですか?」「それを言うなら長谷川もだろ?」確かにその通りだ。崎本が早いのなら、日葵も早いに決まっていた。お互いどちらからともなく笑いが漏れる。「ようやく長谷川が出かけることを了承してくれたと思ったら嬉しくて」サラリとその言葉を言う崎本は、大人で恋愛経験も豊富なのだろう。私服の崎本は、実年齢よりも若く見え、壮一とは違った魅力をもっている。優しそうで誠実そう。そんな印象を持つ人が多いだろう。そんなことを思いながら、日葵は正直に崎本に話すことにした。「部長と違って私は、あまりこういう経験がないので……どうしていいかわからなくて」最後の方が、こんなことを告白している自分が恥ずかしくて、日葵の声は小声になる。「え? 長谷川が?」意外そうな崎本の言葉に、日葵は小さくため息をついた。「どういう意味ですか?」「ごめん。それだけ可愛いし、モテてるし、意外だった。悪い意味じゃない」そう言うと崎本は優しく微笑む。「長谷川は何もしなくていい。今日は俺に付き合って?」その優しさに、
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25
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第二十話

「長谷川、ここで待ってて。飲み物買ってくる」少し先にあるコーヒースタンドを指さす崎本に、「ありがとうございます」と日葵は素直に従った。ここ最近、仕事でもミスをしたり、多忙を極めていた日葵は、ベンチに座るとぼんやりと海を眺めていた。昼過ぎの天気のいい海沿いは、キラキラと光が反射してとても綺麗だった。「はい、コーヒーでよかった?」手に二つのカップを持った崎本に、日葵は小さく頷くとそれを受け取った。「部長、ありがとうございます」そんな日葵の言葉に、崎本は柔らかい微笑みを浮かべると、日葵の横へと腰を下ろす。「何を考えてた?」「え?」いきなり言われた質問の意味がわからず、日葵は隣の崎本を見た。「とくには何も……。久々だなって。こんなゆっくりとした時間って」日葵のその答えに、崎本はホッとしたような表情を浮かべた。「向こうから戻ってくる時、あまりにも長谷川の横顔が遠くを見てる気がして、なぜか知らない人みたいに見えた」そこまで言った崎本は、めずらしく苦笑すると「何を言ってんだよ俺」と海に視線を向けた。「部長……」最近いろいろありすぎて、現実逃避していたのかもしれない。そんな心情が出ていたのだろうか?そんな真剣な崎本に、日葵の中にだんだんと疑問が湧き上がる。こんな中途半端な気持ちを持っている私が、部長のそばにいていいのだろうか?真剣に自分と向き合ってくれていることが、今日一緒にいるだけでも痛いほど日葵には伝わった。「あの、部長」「ん?」優しく微笑まれ、日葵はどう言葉にしていいか思い悩む。「今日は誘っていただいてありがとうございました。それで。あの」うまく言葉が見つからず、言葉を止めた日葵が何を言いたいのか、崎本は悟ったのだろう。「清水君? 長谷川をこんな風にしたの?」その言葉に、日葵は驚いて顔を上げた。「図星か」日葵の表情が、YESと答えてしまっていたのかもしれない。何も言えずにいた日葵に、崎本は髪をかき上げると小さく息を吐いたのがわかった。「聞いてもいい?知らないと俺はどうしようもできないから。それに、俺はずっと長谷川に好意を持っていることを伝えてる。聞く権利はあるよな?」珍しく強い口調の崎本に真剣な瞳を向けられ、日葵は小さく頷いた。日葵はキュッと唇を噛んだ後、ゆっくりと言葉を発した。「清水チーフとは、幼馴染ってことは言いま
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25
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