和真の幼なじみ、理子が再び彼の助手席に乗った。私は何も言わず、後部座席のドアを開けようとしたが、ふと動きを止めた。まさか、この短いドライブ旅行に、あの忙しい景まで参加しているとは。すぐに気を取り直し、控えめに彼へと頷く。景はメガネをかけ、どこか疲れた表情を浮かべていた。彼はまぶたを持ち上げ、私を一瞥すると、軽く頷き、そのまま目を閉じた。理子はシートベルトを締めながら、得意げに私へ向かって眉を上げる。「桃歌姉、私、車酔いするから前に座るね」和真も振り返り、私を見た。「車酔いは結構大変なんだ。君も、こんなことでいちいち拗ねるな」私は軽く笑い、「わかったよ」とだけ答えた。彼は少し驚いたようだったが、それ以上は何も言わなかった。なぜなら、その瞬間、理子が一口かじったパンをそのまま彼の口に押し込んだからだ。「美味しくないから、和真兄が食べて」和真は微塵も嫌がる素振りを見せず、当然のように半分食べた。理子はバックミラー越しに私を一瞥し、舌をぺろっと出して笑う。私は無視し、手元の炭酸水を開けようとした。だが、キャップが固く、何度か回そうとしても開かない。前の座席では、理子が自分の水を和真に差し出し、甘えた声を出していた。「和真兄、開けて~。私、昔から力ないの知ってるでしょ?」和真は得意げに、あっさりとキャップを開ける。二人は一本の水を、交互に飲み合っていた。まるで人目を気にする様子もなく。私は少し胸が悪くなり、水を置こうとした。その時、隣からすっと伸びてきた男の手が、私の炭酸水を取り上げた。黒のカジュアルスーツの袖口から、銀灰色のシャツのカフスがのぞく。布地はしなやかに男の華奢な手首を包んでいた。その手は美しく、骨ばっていて、指先まできれいに整えられている。窓から差し込む光の中で、まるで白玉のように滑らかだった。
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