世間では結婚のことを、恋を永遠に葬る墓場だと言う。それでも、二人で手を取り合って眠りにつく方が、一人寂しく朽ち果てるよりはましなのかもしれない。二ヶ月以上もかけて、一針一針、想いを込めて仕立てたウェディングドレス。シャンデリアの灯りに照らされ、純白のドレスは気品に満ち、まるで天使の羽のように輝いていた。あと数日で、この運命の一着を纏って愛する人の元へ歩んでいく――そう思うだけで、夢の中でさえ頬が緩んでしまう。十九歳から二十五歳まで。六年の恋が、ついに実を結ぼうとしていた。けれど、目覚めた朝は、その全ての幸せが突如として消え去る瞬間だった。「夕凪さん、朝早く五木宴之介 (いつき えんのすけ)様がアトリエにいらっしゃって、ドレスをお持ち帰りになりましたけど......ご存知でしたか?」アシスタントの桜井千鶴 (さくらい ちづる)から不思議そうな声で電話が入った。目覚めたばかりで頭がぼんやりしていた私は、思わず聞き返した。「えっ、宴之介がドレスを持って行ったの?」「はい......ご存知なかったんですか?」「ちょっと確認してみるわ」電話を切り、頭が少しクリアになってきたが、なぜ宴之介が朝一番でドレスを持ち出したのか、理解できなかった。家の中は既に結婚式の準備で溢れていて、ドレスを置く場所なんてない。式の前日に取りに行くつもりだったのに。電話をかけても出ない。もう一度かけようとした瞬間、宴之介から折り返しがあった。「ねぇ、宴之介。ドレス、持って行ったの?」単刀直入に尋ねた。「ああ」宴之介は認めた。たった一言で、その声には深い疲れと嗄れが滲んでいた。眉間に皺を寄せ、心配になって「どうしたの?具合でも悪いの?」と尋ねる。宴之介は一瞬の沈黙の後、冷たく淡々とした声で告げた。「夕凪、結婚式......中止にしよう」私の耳が鳴った。頭の中が真っ白になる。「どうして......?」「江崎怜 (えざき れい)が末期がんだ。医者の診断では、残り三ヶ月という話だ」その言葉に、私の中で衝撃が波紋のように広がっていく。一瞬、この厄介者をついに神様が連れて行ってくれるのかと、不謹慎な思いが頭をよぎった。「でも、それと私たちの結婚式が何の関係があるの?」「怜の最期の願いが......俺との結婚なんだ。それで、悔い
Baca selengkapnya