でも、確かに成瀬家の方々とは面識がないはず。「江崎さんですね?本当にお美しい。スタイルも素晴らしいし、凛とした雰囲気もおありで。あのような才能をお持ちなのも納得です」老夫人は私に微笑みかけ、褒め言葉を並べる。思いがけない賛辞に、私は戸惑いを覚えた。確かに幼い頃から美人の素質があると言われ、鏡の中の自分に見惚れることもあった。でも、さすがに成瀬家のような名門で、こんな褒め言葉をいただけるとは。きっと老夫人の教養の高さゆえの優しさなのだろう。私が言葉に詰まっていると、周山管理人が小声で「老夫人様です」と囁く。「老夫人様、ご丁寧なお言葉、恐縮です」私は微笑みながら軽く頭を下げた。「お声まで素敵」「......」顔が赤くなるのを感じながら、私も返礼の言葉を。「老夫人様とお呼びするのが申し訳ないくらい、お若々しくていらっしゃいます」「もうすぐ還暦を迎えるのよ」老夫人は柔らかく微笑んだ。想像していた名門の奥様とは全く違う。威厳ばかりを振りかざす人かと思っていたが、穏やかで親しみやすい方だった。短い挨拶を交わした後、早速本題に入る。還暦のお祝いに相応しい装いを、という依頼だった。ただし、老夫人は若々しい感性をお持ちで、同年代の方々が好むような控えめな装いはお望みではないとのこと。そんな特別なオーダーだからこそ、私のところに依頼が来たのだろう。「若々しすぎず、かといって年相応すぎない......そんなバランスの取れたデザインをお願いしたいの」お客様のご要望を理解し、老夫人の佇まいと雰囲気を改めて観察する。しばらく考えを巡らせた後、イメージが固まった。「では、採寸させていただきます」老夫人が両腕を広げて立ち、私が採寸を始める。傍らで桜井が寸法を記録していく。広間には他の女性たちも座っていて、私たちが作業する傍らで、彼女たちは談笑を続けていた。最初は気に留めていなかったが、次第に会話の内容が耳に入ってきた。臨也様......あの噂の次男様の結婚相手選びの話をしているようだ。「お義姉様、これだけの令嬢たちの中からも、お気に召す方はいらっしゃらないの?」「ええ、誰一人として。もう三度目の候補者たちなのに」「臨也兄様はご立派すぎるから、なかなかお気に召さないのも当然かしら」「まったく」老夫人が鼻を鳴ら
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