「リン、食事の支度ができたよ」 低く、穏やかな声が私を呼ぶ。「はい、今行きます」「こちらへ運ぼうか?」 戸口から姿を現したのは、従兄の天霧晧司さん。今日も優しい笑顔。「いえ、大丈夫です。今朝はとても気分がいいので」 本心からそう言ったのに、彼は心配そう。部屋の中へ静かに入ってきて、身支度を済ませた私を眩しげに見た。「今日は本当に調子がいいんです。洗顔も着替えも、途中で休むことなく済ませることができたんですよ」 クローゼットから、服を選ぶ余裕もあった。薄い緑色のサマードレス。「それはよかった。しかし、一度に動き過ぎてはいけないよ」「晧司さん、本当に過保護ですね。もうじき、あれから四か月にもなるんですよ」「まだ、四か月だね。正確には3か月半だ」 背を支えてくれる手。私がよろけたり、呼吸が苦しくなったりしないかと、注意深く見守る目。私より十五センチほど背が高くて、すらりとして逞しい。安心して寄りかかれる。長い足は、一人では速足なのに、私と歩く時は歩幅を合わせてくれる。顔を上げると必ず目が合うのは、いつも私を見ていてくれるから。 私の居室を出て、彼の寝室の前を通り、リビングへ。明るい朝日が差し込み、コーヒーのいい香りが漂っている。「今日もいいお天気」「梅雨明け宣言はないが、今年は早いのではと予想されているね。光で目が痛くはないかい?」「ええ。目は何ともないんですもの。……あ」「うん?」 晧司さんは私の視線を追った。リビングの階段を降りると、その先は『大きなリビング』。湖の上に張り出したテラスへと続く、この別荘の中でもとびきり素敵な場所。「テラスまで降りたい?」 遠慮がちに頷いた。駄目って言われるかな。でも、キラキラ光る水面を見ながら、晧司さんのおいしいお料理を食べたいな。 彼はちょっと思案してから、フッと笑った。わ、かっこいい。 見とれている間に、ふわっと抱き上げられた。お姫様抱っこ。緩くまとめたロングヘアが彼の腕にかかる。「晧司さん?」「では参りましょうか、姫」「え、あの……」「しっかりつかまって」「あ……はい」 おずおずと、肩に手をおいて首に手をまわす。病院からここへ移ってきた時も、ほかの時も、何度もこうして抱っこされた。そのたび、私でいいのかなっていう気持ちになる。十も年上の、よくは知らないけど大変な資産家だ
Terakhir Diperbarui : 2025-02-09 Baca selengkapnya