シャワーを浴びたあと、今日のことを話して聞かせた。川のそばで見つけた小動物の足跡は、思った通り晧司さんを喜ばせた。二人とも凝り性だから図鑑を出してきて、あれでもない、これでもない、もしかしたらこれかもと、ひとしきり楽しんだ。よく動いたからか、食事も一段とおいしく感じられた。 影野さんの評価はというと、合格だった。夕食後、ソファーで足をマッサージしてもらっている時、おそるおそる聞くと、「窓から見ていたよ。君の宝物は、よい人物のようだ」と言ってくれた。 「よかった……」 それなら、また会える。急に眠くなってきた……たくさん歩いたし、安心したせいかな。晧司さんの手、気持ちいい……。 「おやおや」 抱き上げて、ベッドへ連れていってくれる。ゆらゆら、ふわふわ……大好きな揺り籠――。 「遊び疲れて眠る、か。君にはそういう時間も必要だったのにな」 絹の上を滑る指のように妙なる声。優しく、深く、私をくるむ。額に押し当てられた柔らかなものは、おまじない。 旅立った夢の国で、晧司さんは、十頭立てのカボチャの馬車を操るのに四苦八苦していた。影野さんは月の都の使者になり、絶対に帰らないと宣言するかぐや姫に手を焼いていた。かぐや姫の顔は、私だった。 影野さんと出会って三日目。前日と同じ時間に出発し、同じ場所で会えた。道の端に寄ってスマートフォンを見ていた彼は、私に気付いて笑顔になった。 「こんにちは、すずさん」 「こんにちは。お待たせしました」 「いえ。待つのも楽しいものですよ。あなたを、という意味ですけどね」 さらっと、私を喜ばせることを言う。口がうまいんだけど、ホストっぽい感じでもなく――と思うのは勝手なイメージに過ぎないのか、私がホストと面識があるからなのか――。晧司さんとは別の強引さで、私を自分の世界へ引き込んでいく。 「行きましょうか」 「はい」 甘い声質が心地いい。しばらく黙って歩いていた彼は、コホンと咳払いをして話し始めた。 「さっき見ていたのは、仕事のメールなんです」 「そうだろうなと思いました。真剣なお顔だったから」 きりっとして、かっこよかった。
Last Updated : 2025-03-19 Read more