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All Chapters of 愛は星影に抱かれて: Chapter 21 - Chapter 30

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第2章 光と影の間で 第11話

 シャワーを浴びたあと、今日のことを話して聞かせた。川のそばで見つけた小動物の足跡は、思った通り晧司さんを喜ばせた。二人とも凝り性だから図鑑を出してきて、あれでもない、これでもない、もしかしたらこれかもと、ひとしきり楽しんだ。よく動いたからか、食事も一段とおいしく感じられた。  影野さんの評価はというと、合格だった。夕食後、ソファーで足をマッサージしてもらっている時、おそるおそる聞くと、「窓から見ていたよ。君の宝物は、よい人物のようだ」と言ってくれた。 「よかった……」  それなら、また会える。急に眠くなってきた……たくさん歩いたし、安心したせいかな。晧司さんの手、気持ちいい……。 「おやおや」  抱き上げて、ベッドへ連れていってくれる。ゆらゆら、ふわふわ……大好きな揺り籠――。 「遊び疲れて眠る、か。君にはそういう時間も必要だったのにな」  絹の上を滑る指のように妙なる声。優しく、深く、私をくるむ。額に押し当てられた柔らかなものは、おまじない。  旅立った夢の国で、晧司さんは、十頭立てのカボチャの馬車を操るのに四苦八苦していた。影野さんは月の都の使者になり、絶対に帰らないと宣言するかぐや姫に手を焼いていた。かぐや姫の顔は、私だった。    影野さんと出会って三日目。前日と同じ時間に出発し、同じ場所で会えた。道の端に寄ってスマートフォンを見ていた彼は、私に気付いて笑顔になった。 「こんにちは、すずさん」 「こんにちは。お待たせしました」 「いえ。待つのも楽しいものですよ。あなたを、という意味ですけどね」  さらっと、私を喜ばせることを言う。口がうまいんだけど、ホストっぽい感じでもなく――と思うのは勝手なイメージに過ぎないのか、私がホストと面識があるからなのか――。晧司さんとは別の強引さで、私を自分の世界へ引き込んでいく。 「行きましょうか」 「はい」  甘い声質が心地いい。しばらく黙って歩いていた彼は、コホンと咳払いをして話し始めた。 「さっき見ていたのは、仕事のメールなんです」 「そうだろうなと思いました。真剣なお顔だったから」  きりっとして、かっこよかった。
last updateLast Updated : 2025-03-19
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第2章 光と影の間で 第12話

「ふふ、大丈夫です。お仕事のこと、お聞きしても?」 「ええ。隣の山の中腹にある美術館に勤めています」  彼はホッとして表情を緩め、一度しまったスマートフォンを取り出して操作した。 「この辺りもアンテナが立って便利になりました。数年前は、山の中なんてつながらないのが当たり前で……ここです」  表示された美術館は、優しい色合いで有名な洋画家の名が付いている。常設展示の画像は、思わず見入ってしまう不思議な魅力を伝えてくる。 「素敵……」 「今は、神話などの物語を題材にした展覧会が開かれています」  スクロールして見せてくれたのは、ギリシャ神話をテーマにしたコーナー。ドキッとした。目玉として大きく紹介されているのは、太陽神と月の女神の双子を描いたもの。偶然の一致?  「すずさん?」 「あ……ええと、迫力があってすごいなって」 「実はこれ、ほかの企画が中止になって、急遽僕が企画したものなんです。知り合いの作家に協力してもらってね。これは彼の作品です」 「今にも動き出しそうですね。生命力に溢れてる」  アポロンの黄金の髪からはまばゆい昼の光が、アルテミスの弓矢からは月の雫が零れてきそう。 「気に入った?」 「ええ、とても」 「よかったら、ご招待しますよ。九月までは開いていますのでね」  そこから話がいろいろな方へ飛び、私は昨夜の夢のことを話した。彼は意外なほど笑った。 「ハハッ、『絶対に帰らない』ですか。それはいい! 月の都の使者は、姫を説得するまで自分も月に帰れないというわけですね」 「ええ。そう言って困っていました」 「でしょうね。あなたの保護者のカボチャの馬車も、大変そうだ」  しみじみとした口調は、晧司さんに大いに同情していた。ちょうど、昨日の川のところまで来ていて、私は新しい足跡はないかと探し始めた。 「気を付けて。すずさんはお転婆だから」  前日にけっこうはしゃいだ自覚があるので、否定できない。からかうような彼の口振りも楽しくて、この日もあっという間に時間が過ぎた。水筒の中身は麦茶。まろやかで、とてもおいしかった。
last updateLast Updated : 2025-03-20
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第2章 光と影の間で 第13話

 翌日、春日さんが一人で別荘を訪れた。七華さんは遅れて到着するという。 「社長、これを」  春日さんが取り出したのは、携帯電話。スマートフォンではなく、いわゆるガラケー。色は鮮やかなピンク。 「助かる。リン、君のだよ」 「私の?」 「ああ。出先で連絡手段が必要なこともあるだろうしね。メールはできるから、好きに使いなさい。もちろん、電話もね」  手のひらに乗せられた、折り畳み式の小さな電話。電話帳はここだな、と教えられて開くと、三人の番号がすでに登録されていた。晧司さんと、春日さんと、七華さん。 「ありがとうございます!」  私を守ってくれている人たちの、名前と番号。メールアドレスも入っている。私の命綱と言っても過言ではない。あとで、影野さんの番号も登録しておこう。  充電器の使い方を確認してから、説明書などをいったん箱におさめた。晧司さんは春日さんと仕事の話を始める前に、私に優しく声をかけた。 「明吉は、今日は夕方になるから。その前に散歩をしておいで。戻ってきてからおしゃべりすればいい」  昨日、一昨日より少し早いな……影野さんと会えるかなと心配になって、返事がワンテンポ遅れた。ああそうか、携帯電話があるんだっけと気付いて、さっそく使ってみることにした。 自分の部屋に戻り、机の引出しにしまっておいた『お守り』のメモを開いた。影野さんの番号を登録して、ショートメールを送信する。 『すずです。今日、少し早く会えますか?』  一分と待たないうちに、着信音が鳴った。画面には「影野さん」の文字。 「はい……天霧です」 『すずさん、影野です』  機械を通じて初めて聞く、彼の声。離れているのに、隣にいるように近く感じる。 「よかった、ちゃんと通じて」 『携帯の試運転ですか。僕が初めて?』 「ええ」 『それは光栄だな。時間のことは、もちろん大丈夫ですよ。今からでも』 「じゃあ、五分後に出ます」 『ハハッ、慌てないで』  場所は昨日と同じところ、と確認して電話を切った。散歩に行く時のバッグは用意してある。携帯電話をバッグに入れ、雲の上を
last updateLast Updated : 2025-03-21
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第2章 光と影の間で 第14話

 この日の会話で、影野さんが私と同い年であることが判明し、彼は「敬語はやめよう」と提案した。「呼び方もだ。同い年なんだから、さん付けでなくてもいいんじゃないかな」「うーん、じゃあ……」 影野、はもっとおかしい。夕李君? それだと、何だか年下を呼んでいるみたい。 考え込んでしまった私に、彼は晴れやかに笑った。「宿題だな」「宿題?」「そう。僕をほかの呼び方で呼びたくなるのを……待ってるから」 最後のところは、くっつきそうなほど額を寄せて。「……うん」 微笑み返す自分の頬が、熱くなっているのがわかった。 そこへ、よく知った気配が近付いてきて、止まった。顔を上げると、上の道を別荘の方へと登っていく七華さんだった。嬉しくて手を振りながら、ドキッとした。もう片方の手に、影野さんの指が絡まってきたから。 彼女は、出かけた言葉をぐっと飲み込んだように見えた。「一緒に行かなくてよかったの?」「もう少しだけ……」 七華さんの表情が気にかかったものの、彼の手を振り払うことができない。ドキドキしながら、私からも指を絡めようとした。緊張して、指が動かない。初めて恋をする少女のように震えていた。「かわいい、すず……」 彼の声も震えている。この山には多いけれどほかではあまり見られないという鳥の声が、大空に響いた。それは、舞台の幕を開けるベルの音。このまま、物語の先を見ずに過ごすなんてできない。一歩進み出た彼。人差し指だけ、きゅっと絡めた私。「あの、影野さん」「ん?」 顔に熱が集まっていく。なぜだろう。これから口にすることは、愛の言葉というわけではないのに。「アポロンて……呼んでもいい? その、ほかの呼び方ができるようになるまでの間……時々」 息が止まりそう。彼は、「なぜ?」とは聞かなかった。子供っぽいお願いを、笑うこともしなかった。低
last updateLast Updated : 2025-03-22
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第2章 光と影の間で 第15話

 冷静沈着で、表情もあまり変えることのない彼は、恐ろしいほどの切れ者。感情を表すことは少ないものの、晧司さんや七華さんのことは心から大切にしている。なのに、二人を突き放すかのような言葉を発するのはなぜ? 「あなたは、ご自分の力で真実にたどり着くことができる。私はそう信じています」 「真実……」 「記憶のことだけを言っているのではありませんよ。未来に関してもね。七華は……」  百年変わらぬ大樹の枝に、一輪花開いたかのような小さな笑み。それだけに、伝わってくるものは大きい。 「あれは、少々入れ込み過ぎだな。業務の範囲を超えている」 「晧司さんは……?」 「勇気がありすぎる……と、申し上げておきましょう」  私は得心した。突き放したんじゃない。私という存在に振り回されている二人を、思いやってのこと。「周囲の者がどれほど動揺したとしても」、それは自分がフォローするからと。何て……何て強くて、愛情深い人なんだろう。 「思うままに進んでください。七華は業務でしばらくこちらには来られませんが、その間に頭を冷やすでしょう。今日はこのまま連れて帰ります。次に来た時には、何もなかったように迎えてやってください。これは私の勝手な望みですが」 「はい。もちろんです」  それまでの間に、七華さんにショックを与えてしまった理由を突き止めたい。彼女の思惑と私の行動が、今は食い違っていても、未来ではまた手をつなぎたい。春日さんは、私の思いを読み取ったかのように頷いた。 「春日さんて、こうしてお話しすると熱い方なんですね」 「前に、あなたに同じことを言われました」 「私に?」 「ええ。そばで聞いていた社長が吹き出して、それは楽しそうに笑っていました」  その光景は、見えるようで見えないけれど、想像することはできる。職務に忠実な春日さんが、晧司さんのために思い出を覗かせてくれたことに感謝した。
last updateLast Updated : 2025-03-23
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第2章 光と影の間で 第16話

 七月が終わる頃には、影野さんと過ごす時間は私の当然の日課となっていた。七華さんは現れない。忙しい春日さんをわずらわせるのもと、私と影野さんが買い出しに行くようになった。彼は車で別荘の前まで来て、晧司さんに丁寧に挨拶をする。晧司さんは「リンを頼むよ。リン、ゆっくり楽しんでおいで。買い物は最後でいいんだよ」と私たちを送り出す。『買い出しの日』が『デートの日』に変わるまでに、時間はかからなかった。 影野さんが勤める美術館に行ったのは、八月の終わり。現在の特別展示がもうじき終わるため、彼は次の企画のことで忙しく、顔を見たのは一週間ぶりだった。 会えない間もメールはくれて、一通の返事を書くのに三十分も悩んだこともあった。あれもこれも話したい……と迷った結果、「お仕事頑張ってください。次に会えるのを楽しみにしています」と、当たり障りのない文面になってしまった。けれど彼は、それが嬉しかったと言ってくれた。「一生懸命考えたんだなって……『会いたい』って書いては消し、書いては消して、あの文面になったのかな、とね。僕の自惚れでなければ」 美術館に着く前、彼は見晴らしのいい場所で車を停めた。雄大な景色の中、風になびく私の髪をそっと押さえ、熱を帯びた瞳でそんなことを言われたら、もう我慢などできなかった。私の両肩に手を置いて言葉を待つ彼に、正直に伝えた。「会いたかった……影野さん。私のアポロン」「すず……」 初めての抱擁。彼の体躯は、細いのにしっかりと筋肉がついている。シャツの下の鼓動を聞きながら、私は今日帰らないのかもしれないと思った。 予感は当たった。 この日、私を案内するためだけに美術館を訪れた影野さんは、特別展示と常設展示をまわったあと、山を下りた。車内では展示のことで話が弾みながらも、時々挟まる沈黙にドキドキした。食事とお茶、それに映画。どれも楽しかったけれど、夜を待っていることは明らかだった。 暗くなってきた頃、再び山へ入った。行く手には、幻想的な雰囲気のホテル。彼は駐車場の手前で一時停止して、私をちらりと見た。私は、彼のシャツを摘まん
last updateLast Updated : 2025-03-24
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第2章 光と影の間で 第17話*

 ホテルの部屋が何号室なのかも、部屋の装飾さえも、情報がうまく頭に入ってこない。これから始まることと、彼の存在感に圧倒されて、息をするのが精一杯。 「すず……」 「影野さん……」  瞳の奥に炎が揺らめいている。肩を抱く腕に力がこもる。触れ合った唇は震え、いったん驚いたように離れた。それから、心を決めたようにしっかりと重ねられ、吐息が絡まり……性急な唇が、私の首筋、鎖骨と下りてきた。 「あっ……」  漏れた声は、熱を持って男性を求める時のもの。この体は、抱かれることを知っている。彼の指がスカートをたくし上げ、そのまま腰を抱かれてベッドに横たえられた。 「好きだ」 「影野さん……」  徐々にはだけていく胸元をなぞる唇に、太腿の内側を悩ましくたどる指に、返事をしたい……しないといけない……。 「考えなくていいから……今は、僕を受け入れてほしい……」  ムードを出すために抑えられた照明の中、直接彼が触れる部分が増えていく。ここのところ胸が疼いていたのはこの人のためだったのだと……甘噛みされて高まっていく中、体を明け渡す言い訳をしていた。大丈夫、彼は悪い人じゃない、私も彼が好き……。 「ゆう、り……」 「やっと名前呼んでくれた……」  胸のふくらみを強く吸われ、ピリッと痛みが走った。 「ンッ……」  所有印を付けながら、下半身への愛撫も強めていく。下着の中に手が入ってきて、腰が跳ねた。頭の隅を掠めた違和感。 「だ、め……」  はっきりしない制止。自分の反応に戸惑い、親指を噛んだ。そうするうちにも、人肌の温もりに誘われ、体の奥から溢れてくるものがある。 「だめ……? ほんとに……?」 「あ、んっ」  敏感なところを攻められれば、体は応えてしまう。私はこの行為が嫌いではない……おそらく慣れている……その相手は彼だったの……?   水音と、夕李の熱い息に、思考力が低下していく。とても大切に触れてくれているのがわかる。でも……。  違和感は、秘所に侵入してきた指先で、決定的なものとなった。開かれるはずのそこが、縮こまっていく。  ――違う!
last updateLast Updated : 2025-03-25
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第2章 光と影の間で 第18話

 夕李は、ひと言も私を責めることなく、別荘まで送ってくれた。普段は使わないカーステレオから、今日観た映画の主題歌が流れてきた。……ほんの少しの勇気があれば……私が立ち止まっているのは過去? 未来? 現在はどこにあるの……――そんな曲だった。 今夜は帰らないと思っていた場所へ、帰ってきた。シートベルトを外すのが怖かった。夕李との日々が、終わってしまうようで。「体を冷やさないようにね」「ええ。あなたも」「今日のことは気にしないで……うまく言えないけど、僕がすずを好きなことに変わりはないから」「夕李……」「次は笑える映画を観にいこう。いいだろ?」 ズキンと胸が痛んだ。彼は苦しんでる。私の気持ちを軽くしようと、無理に明るく振る舞おうとしている。「ええ。……おやすみなさい」 車内に長居すれば、彼の傷を深くする。シートベルトを外して、ドアを開けた。「すず」 腕を掴まれ、振り返った。「待ってる。……おやすみ」 言うべきじゃないのに言ってしまった、でも口から出たことは戻らないよな、と……寂しそうな瞳が語っていた。私も無理に笑みを作って、車を降り、ドアを閉めた。走り去る車。点滅するテールランプは、映画で使われていた暗号。 ――愛してる。 涙が出そうになったけれど、今の私に泣く資格はない。夕李の想いを、胸に刻み込むだけ。空には暗雲が広がってきている。「台風が近付いてるんだっけ……」 ざわっと揺れる木の枝が私を責めているようで、ゾクッとして玄関に駆け込んだ。「ただいま……」 家の中は、奇妙なほど静まり返っている。晧司さんの寝室にも書斎にも、気配は感じられない。リビングまで行ってみると、意外な光景が私を迎えた。 晧司さんが、ソファーで眠っている。それ自体は珍しくない
last updateLast Updated : 2025-03-26
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第2章 光と影の間で 第19話

 ラグにぺたんと座り、ソファーの縁に手をかけて呟いた。あなたはこの世の何より私を大事にしてくれるけど、私たちはただの従兄妹同士。夕李は私を愛してくれていて、私も心が動いたはずなのに、受け入れることができなかった。二人とも悲しそうで、それは確かに私のせいなんだ。「どうすればいいっていうの……」 起きてよ。教えてよ、晧司さん。あなたは全部知っているんでしょう。知識だけで構わない。経験として思い出せなくてもいい。今すぐ、知りたい。「り、ん……」 ハッと顔を上げると、彼は安心しきった笑みを浮かべていた。夢を見てる。今ではない、以前の私の夢だ。晧司さんのことを、たくさん知っていた頃の私――。 たまらなくなって立ち上がり、自分の部屋へと逃げ込んだ。 私の部屋は、奥のドアから専用のお風呂場へ行ける。すっきりしない気持ちを洗い流したくて、シャワーを浴びた。洗面所にもなっている脱衣所の鏡を覗くと、何をしてきたのか一目でわかる痕がいくつも付いていた。夏のワンピースタイプの寝間着では隠し切れない。髪を垂らしてごまかした。「晧司さん、大丈夫かな……」 さっぱりとした体で考えれば、自分の子供じみた振る舞いが恥ずかしくなる。悲しんでみても始まらない。デートが失敗したのは、私の心の準備が足りなかったせい。夕李は、待つと言ってくれた。今夜のことで、お互いに悪感情を抱いたわけでもない。 晧司さんの方は、妹の初デートで気を揉む兄のような気持ちだったのかもしれない。あれだけ過保護なんだもの、考えすぎてしまう前にお酒に逃げることは十分に考えられる。説明のつかないことが多いにしても、目の前の情報を的確に読み取る努力はできる。私が彼の立場でも、居ても立っても居られないだろう。 八月といっても、この辺りは朝晩の気温が低い。あのままでは風邪を引いてしまう。気になって見に行くと、体勢を変えることなく眠っていた。引き続きいい夢を見ているのか、表情は穏やか。ぐちゃぐちゃだった私の心も静まっていく。「リン……そっちへ行ってはいけないよ……リン&
last updateLast Updated : 2025-03-27
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第2章 光と影の間で 第20話*

「晧司さん……?」 「お帰り、リン」 「起きてた……?」 「かわいい気配と、石鹸の香りでね」  髪を弄ぶ指にドキッとした。腰を抱く大きな手も、夕李との行為を連想させる。 「ん? 今日はどんな悪いことをしたんだ? 言ってごらん」  耳を食べられてしまいそうな囁き方……背骨をすーっと撫で上げる触れ方……頭のてっぺんから足の爪先まで、ゾクゾクと電流が走る。  ――この感じ、知ってる! 「リン、答えるんだ」  髪をよける手つきも、私を射竦める目も、優しい従兄のものではない。男の人のもの。酔っているから? 寝ぼけて、昔の私と話しているつもりかもしれないし……何だか、怖い……。 「ンッ……」  腰から下の形を確かめるように丸く撫でられて、甘い声が漏れた。 「ほぅ……情熱的だ。さすが、若いな」 「え? ……あっ」  髪で隠していたキスマーク。晧司さんは、寝間着の襟から覗くそれに爪を立てた。 「ん、んっ」  局所的な鋭い痛みが、体の奥まで浸透する。いやがっていないどころか悦びさえも感じる自分に、戦慄を覚えた。体を反転させられ、彼がのしかかってきた。「よく見せなさい」とほかのキスマークに噛みつかれ、体中を点検するように脱がされていく。彼の肌の温もりに、泣きたくなった。 「はぁ、あ、ん……」 「もっと声を出して……素直になりなさい」  素直に、って……。夕李が付けた痕を上書きされ、背中も太腿も点検されて……足の指の一本一本まで、「私のものだ」と教え込むかのような念入りな愛撫。どっと溢れる愛液。濡れそぼった秘所を、晧司さんは異様な目で見つめた。 「や……恥ずかしい」 「許したのか? ここを」  氷のように冷たい声。思い切り首を横に振った。 「確かめなくてはな……」  侵入してきた指を、私の体は拒まなかった。
last updateLast Updated : 2025-03-28
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