エゼルは今でも塞ぎ込んでいる。昼近くまで起き上がろうとせず、あまり食事も取らない。痩せて顔色が悪くなってしまった。 シャーロットが「お体に悪いですわ。召し上がって」と部屋までパンを持って行っても、首を振るばかりだ。 頑固なまでに殻に閉じこもるエゼルをどう扱っていいのか分からず、シャーロットは何もできないでいた。 やがて早春から春の盛りになり、春まき小麦の種まきの季節になった。 種まきは魔法でやるわけにはいかない。 シャーロットは四苦八苦しながら作業をやった。自分の手のろさにイライラしたが、農民たちは気にしていなかった。「奥様は生まれて始めて種まきをするんでしょう。じゃあ上出来、上出来」 そんな事を言ってのんびり笑うのである。 するとシャーロットも気持ちが軽くなって、また種まきに取り組むのだった。 自分がまいた種が芽を出した時、シャーロットは感動してしまった。 小さくて硬いばかりの種もみが、こうしてきちんと芽吹いている。不思議でもあり、大げさに言えば奇跡のようにすら思えた。「今年はいい芽が出たね。奥様がしっかり耕してくれたおかげだよ!」 フェイリムが言う。 彼の横では、畑の脇に掘った水路に水が流れている。小麦は湿気に弱いので、水はけをよくしてやる必要があるのだ。 魔法でよく耕した土は、しっかりと返されて乾燥が進んだ。おかげで芽は病気にかかることもなく、すくすくと育っている。 次第に夏へと向かう気候の中、小麦も他の作物も旺盛に成長している。 農民たちは作物に気を配って、よく手入れしている。 シャーロットは初めて見る農村の春、生命の力強さに圧倒される思いだった。 ある初夏の雨の日のこと。 いつも通り遊びに来たフェイリムとティララとティータイムにしようとしたところで、メリッサが「しまったわ」と呟いた。
Last Updated : 2025-02-18 Read more