ついに私は久瀬言之(くぜ ゆきの)のお嫁さんになれた。今、彼はほろ酔い気分で、両手をベッドにつき、ナイトテーブルに挿したお花がひときわ鮮やかに咲いている。私は久瀬言之を愛している。死ぬほど愛している。手を伸ばし、彼のネクタイを掴むと、彼も素直に頭を下げてきた。先ほどの結婚式で、久瀬言之は初めて私にキスをした。ベール越しにほんの軽く唇に触れただけだったけれど、その唇の温度は一生忘れないだろう。彼のキスが、ついに落ちてきた。でも、それは私の唇ではなく、そっと額に落とされただけだった。私の心臓は情けなくも震えた。手を伸ばして彼の背中を抱きしめた。先月、私の誕生日に藤宮詠子(ふじみや えいこ)は私に何をお願いしたのか尋ねた。私は「言之と一つになりたい」と言った。藤宮詠子は「そんなもんかよ」と笑った。言之と一つになりたい。それが今の私の全て。そして、今日、願いを叶えた。その時、電話のベールがけたたましく鳴り響いた。久瀬言之の着信音はいつも空襲警報のように、遠くまで聞こえる。彼はちらりと見て、無視したが、その音はしつこく鳴り続けた。久瀬言之は電話に出た。「もしもし」と低い声で言った。私はこっそり彼の首に噛みついた。少し痒かったのか、彼は眉をひそめ、そしてますます強くひそめた。誰から電話がかかってきたのか、私には分からなかった。「なんだって?どこで?本当か?」彼は突然私の顔を押しやり、私から身を起こしてベッドから降り、適当にタオルを巻いて洗面所へ入って行った。シャワーの音と共に、彼の電話の声が途切れ途切れに私の耳に届いた。「どの病院?本当に彼女なのか?すぐ行く」彼は濡れたまま洗面所から出てきた。私は布団にくるまってベッドに座り、彼が脱ぎ捨てたシャツ、スラックス、ジャケットを慌てて着る様子を見ていた。「言之」私は理由もなく彼を見つめた。彼の表情は緊張していた。こんなに緊張した彼の顔を見るのは久しぶりだった。「どこへ行くの?」彼はスーツを着ながら、私をちらりと見て、早口で言った。「先に寝てろ」久瀬言之は出て行った。ドアを閉める音、階段を駆け下りる音、そして窓の外から車のエンジン音が聞こえた。私はバスローブを羽織って窓辺に駆け寄り、久瀬言之の車のテールランプだけが視界に入った。外
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