タタタ......取調室の外の廊下に響くヒールの音。あまりにも聞き覚えのあるその足音に、心臓が跳ね上がる。夜の悪夢で聞いた、あのヒールの音と寸分違わない。さすが警察、動きが早い。山田社長も逮捕されて連行されてきた。警察は男と社長の直接対面の機会を設定した。私は一方向ミラーの向こうで、息を潜めてその場面を見守る。私を誘拐した男の表情が一変し、血管を浮き上がらせながら目を剥いている。普段の高圧的な態度は影を潜め、うなだれる社長を男は激しい怒りの目で睨みつける。「なぜまゆちゃんの心臓を横取りした!手術中だったんだぞ!」男の声には、深い悲しみと怒りが溢れていた。社長は深く頭を下げ、いつもの威圧的な態度は消え失せている。今までに聞いたことのないような、へりくだった声で答える。「本当に申し訳ありません......私も突然の心臓発作で......心臓移植がなければ、死んでしまうところでした」怒りに震える男の姿を見つめながら、胸の奥が痛むような思いに襲われる。私も父に、こんなふうに愛されていたらよかったのに......そんな思いが胸をよぎり、羨ましさと切なさが入り混じる。程なくして、社長が連れ出された。目が合った瞬間、複雑な感情が押し寄せてきた。路頭に迷いそうだった私に仕事を与えてくれた恩は確かにある。でも憎しみも消えない。こき使われるだけじゃなく、命まで狙われたのだから。それと同時に、自分の弱さと欲の深さが憎らしい。この弱点につけ込まれたのだから。そして警察から、ついに全ての真相が明かされた。あのリストの改ざんは、社長の家族が娘への報復を恐れ、無作為に選んだ私の名前と差し替えたものだった。私はちょうどその時、心臓病で入院していた不運な犠牲者だった。例のヘビ柄の麻袋の一件は、社長の心臓移植手術後に起きていた。最近になって、原因不明の体調不良に苦しんでいたという。医師からは以前の移植に問題が生じており、余命僅かと告げられていたらしい。追い詰められた末に、彼女は占い師のような道士に救いを求めた。道士は「他人の寿命を借りる」ことで危機を乗り越えられると告げたという。そこで社長は私のことを思いついたのだ。こうすれば私という身代わりは永遠に黙り、全ての罪を背負わせる
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