もちろん、そのことは蓮見社長に言えない。 オフィスに戻った山本は、ドアを閉め、凌央に電話をかけた。 終えたあとほっと息をついて、社長室に報告しに行った。 報告が終わると、すぐに仕事に戻った。 彼は高給取りだが仕事の負担が重く、24時間体制で対応しなければならない。 毎日忙しく、疲れていた。最近、蓮見社長の機嫌が悪く、夜遅くまで残業している。髪の毛がどんどん抜けていて、30歳になる前に禿げ上がってしまうのではないかと心配になる。 昼休みの時間になればすぐにパソコンを閉じて社長室へ向かった。 「社長、今、行ってもいいですか?」 拓海の方で12時に予約したレストランがあり、事前に電話があった。 今行っても、もう12時を過ぎているだろう。 「この書類を見終わってからだ」凌央は目を落とし、書類を見ていた。山本には一度も目を向けなかった。 山本は静かに直立して、手を下げて待ち続けた。その姿はまるで彫像のようだった。 「それと、今月から乃亜に毎月400万の生活費を振り込んでくれ。それと、美容院の譲渡情報を調べてくれ。もしあれば美咲へ買ってプレゼントしろ」 凌央は考えた結果、美咲に毎月お金を送るのは不適切だと判断した。 美容院を彼女に経営させれば、もうお金に困ることはないだろう。山本は理由を尋ねることなく、凌央の指示を忠実に守った。 それが蓮見社長の決定だったからだ。 しかし、心の中では蓮見夫人に対して少し同情していた。 フォーブスのトップ3に入る富豪と結婚して、毎月400万の生活費で満足するなんて、他の豪族の奥様なら信じられないだろう。 もし凌央が山本の心の中を知ったら、きっと怒るだろう。 書類にサインを終えた凌央は書類を閉じ、ペンのキャップをはめ立ち上がり、オフィスを出た。 山本は静かに後ろについていった。 レストランの個室に入ると、拓海が茶を飲んでいた。 そのしぐさはまるで貴族のように優雅で、見る者を惹きつける。 山本は凌央を横目で見たが、彼の顔は炭のように真っ黒で、深い黒い瞳が少し危険な雰囲気を漂わせていた。 拓海は凌央が入ってくるのを見て、茶碗を置き、立ち上がり、温かく微笑んだ。「蓮見社長、お待ちしておりました」 凌央は
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