痴漢中毒 のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 9

9 チャプター

第1話

深夜のバスの中、私のスカートの下に手が伸びてきた。男の湿った熱い息が私の耳元にかかる。私はガラスドアに体を押しつけ、男の顔は見えなかった。ただ、大腿に押し付けられる膝の感触が鋭く伝わってくる。「お嬢さん、これはあなたの堕落の第一歩だよ」真夏の夜、蒸し暑さと湿気が一緒に襲ってきた。雨上がりの空気はどこかねっとりとしていた。私は全身ずぶ濡れでバスに乗り込んだ。車内には雨の匂いと汗臭が漂っている。私はドアの近くに立ち、時折窓から飛び込んでくる冷たい雨粒が顔に当たった。冷たい空気を吸い込み、濡れた服を見下ろした。張り付いた布が肌にまとわりつき、不快だったので、襟元を引っ張ってみた。この辺りには有名なIT企業があり、996(長時間労働)を終えたばかりの人々が多く乗っていた。時折、何かが私の大腿に触れる気がして、突然妙な感覚が湧き上がり、驚いて後ろを振り返った。ただのハンドバッグだった。どうやら気にしすぎていたようだ。私は深く息を吐き、濡れた前髪から水が滴り落ちるのを感じながら、再び周りに目をやった。バスが動くたび、周りの人が時折私に寄りかかってくる。私は不快感を隠せず、舌打ちしながら体をずらした。その時、誤って一足の革靴を踏んでしまった。私は顔を上げることなく、「すみません」と謝った。次の瞬間、急ブレーキがかかり、私は勢いよくガラスドアに押し付けられた。体を起こそうとした時、温かい手が私の大腿に触れてきた。驚いて振り返ると、誰も怪しい男は見当たらなかった。後ろには、スマホでメッセージを打つ若い男が立っているだけだった。しかし、あの手は止まらなかった。粗い手のひらが私の肌を撫で、くすぐったい感触が走った。私の心臓は激しく鼓動し、男の動きはますます大胆になっていった。頭の中で様々な可能性がよぎり、最終的に一つの結論に至った。まさか、私が痴漢に遭っているなんて!私は男の手を避けようとしたが、ガラスドアに押し付けられて動けなかった。熱い息が耳元にかかり、頭皮が緊張で引き締まる。「今すぐ離してくれれば、誰にも言わないわ。でも、もし......」私が言葉を終える前に、男の手は薄い布の中に滑り込んできた。パニックに陥り、助けを求めて声を上げようとしたが、男は私の口を力強く押さえつけた。彼の指が私
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第2話

その男は一体誰なのか。私の背後でどんな卑猥な表情をしていたのだろう。私は唾を飲み込み、呆然と床に座り込んだ。泥水が私の体を伝って床に広がり、足元へと流れ込む。さっきの自分の姿を思い出すたびに、多くの人に見られたかもしれないと思うと、自分にビンタをくらわせたい気持ちになる。どうすればいいのか、私は分からなかった。立ち上がり、服を脱いでシャワーを浴びようとしたその時、スマホの通知音が私を現実に引き戻した。我に返り、画面に目をやると、友達申請の通知が届いていた。アイコンも名前も空白だった。私は少し躊躇したが、結局承認ボタンを押してしまった。友達追加した瞬間、相手から一枚の写真が送られてきた。胸がドキンと鳴り、手がスマホを取り落として床に落ちる音が響いた。目を見開き、心臓がバクバクと高鳴り、空中で止まった手は震えていた。相手が送ってきたのは、先ほどバスの中での私の姿だったからだ。画面には、男の手がキラキラと光る液体にまみれ、スカートの中がすべて映し出されていた。私は震える手でスマホを拾い上げ、メッセージを送った。「あなた、誰?」相手は私の言葉を無視し、こう言った。「さっきは気持ちよさそうにしてたじゃないか、今になって知らないふりか?」全身に鳥肌が立ち、バスルームのドアの前で体を震わせる。彼は一体何を望んでいるのか。お金なのか、それとも…。それに、彼はどうやって私の連絡先を知ったのだろう。全身の汗が凍りつき、恐怖が心に押し寄せる。私は思わずスマホを強く握りしめた。再び通知音が鳴った。びくっと身を震わせ、画面に目を向ける。一瞥しただけで、魂が飛び出しそうになる。「服も着ないで窓を開けてるなんて、ずいぶん大胆だな」私ははっとして顔を上げた。バスルームの窓が開いており、カーテンが風に揺れている。慌てて窓に駆け寄り、カーテンを閉め、窓をきっちりと閉じた。あの男は私の家に監視カメラでも仕掛けているのか?彼は私を見張っているのか?次の瞬間、再びスマホが鳴った。画面に男のメッセージが表示された。「遅いな。もう録画したよ。カーテンを閉めても無駄だ」瞬く間に、一つの動画が送られてきた。動画の中には、浴室の前で裸のままスマホを見つめる私の姿が映し出されていた。私は唾を飲
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第3話

不意をつかれ、私は「あっ」と声を上げてしまったが、すぐに口を閉じた。男は私に寄り添いながら、腰の柔らかい部分を力強くつねってきた。だが、今回の男は明らかに昨日の男とは違う。動きが大胆ではなく、初めてのように感じられた。彼の手が私の腰に触れるたびに、その震えが伝わってきた。彼の爪が私の肌をかすり、私は身震いしたが、これで確信した。この男は昨日の男ではない、と。この男は、重労働などしたことがなさそうな手をしている。掌は柔らかく滑らかで、小指には長めの爪さえ残っていた。昨日の男は写真で見た限り、指の爪が短かった。そう考えた瞬間、男は突然私に寄りかかり、湿った熱い感触が伝わってきた。男の舌が私の首筋を這い回る。重い呼吸が耳元で響き渡る。周囲の乗客たちはひそひそ話をしているが、何を言っているのかは聞き取れない。ただ、彼らの嫌悪の視線が想像できた。私は恐怖に震えたが、必死に冷静さを保つ。わずかな理性が、この状況が何かおかしいと告げていた。たった二日間で、同じ場所で2度も痴漢に遭うなんて、宝くじに当たるよりも低い確率だ。しかも、こんな引きこもりの私がこんな目に遭うなんて、あまりに出来すぎている。まさか......心に疑念が生まれ、私はスマホを取り出し、先ほど拒否した友達申請にメッセージを送った。「この後、バスを降りてどこか行かない?」メッセージを送った瞬間、背後で通知音が鳴った。男の手の動きが止まり、手を引っ込めてスマホを手に取ったようだった。私は一か八かで、さらにメッセージを送った。「バスの中じゃ無理だよ。次の停留所の近くに、小さな路地があるのを知ってるから」男は明らかにためらっている様子だった。彼は私と一緒にバスを降りるのだろうか。バスの速度がどんどん遅くなり、私の心は不安でいっぱいだった。この男は私と降りるのか?それとも何か罠だと思っているのか、それとも他の問題があるのか......私は深く息を吸い込み、目を閉じて男からの返信を待った。しかし、バスが停留所に止まるまで、私のスマホには何の通知も来なかった。一気に心が冷えた。スカートを整え、ゆっくり開いていくガラスドアを見つめながらバスを降りた。やはり彼はついてこないのか。そう思った瞬間、背後から足音が聞こえてき
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第4話

男は私の服を乱暴に引き裂こうとした。私はその腕に思い切り噛みついた。男は痛みに叫び声を上げ、私を離して後ろに下がった。私は振り向いて、ようやく彼の顔を見た。男は背が高くて痩せており、まるで竹竿のようだ。彼が私の手首をつかむ手は、枯れ枝のように細かった。その手を振り払って私は一目散に走り出す。男はすぐさま追いかけてきた。「クソ女、どこへ逃げるつもりだ?俺はお前を一万円で買ったんだぞ!」500元で私を買った?その言葉に私は一瞬ぎくりとした。どうやらあの黒幕が私の情報を他人に売り渡したから、今日はまた別の男が私を襲ったということか。やっぱりこれは偶然なんかじゃなかった。そう悟った瞬間、私は急に立ち止まった。男は卑猥な笑みを浮かべ、手をこすり合わせながら一歩一歩私に近づいてきた。「怖がるなよ。お前が抵抗しなければ、ちゃんと優しくしてやるからさ」そう言いながら、彼は私に手を伸ばして捕まえようとした。私は避けることなく、彼が私をつかんだ瞬間にその腕をひねり上げた。男の顔色が一気に青ざめ、痛みにうめき声を上げた。「お、お前、何をするつもりだ?俺は金を払って......」彼の言葉が終わる前に、私は手錠を取り出し、手際よく彼の手首にかけた。「続きは警察署でゆっくり話してもらうわ」男は目を見開いて信じられないという顔で私を見つめた。「そんなバカな。あの男が調べたお前の背景だって完璧だったのに、どうして......」彼の言葉を無視し、私は男を引きずり小道の入り口へと向かった。最近、この都市で頻発している少女失踪事件を追って、私は警察としてこの街に派遣された。表向きには警察の身分を明かさず、闇に潜む連中をおびき寄せるために行動していた。ついに彼らが私に手を出してきたのだ。今回捕まえた男は、どうやら盗み見の根性しかない小物で、他人から情報を買って取引する程度の男にすぎなかった。しかし、この男を捕まえたことで事件の進展には大きな意味がある。この調子なら、黒幕をおびき出せるはずだ。私はチームに連絡し、応援を要請した。陽光が私の顔を照らす。男を警察署に連れて行こうとしたその瞬間、隣の男が突然冷たい笑みを浮かべた。嫌な予感がして振り向いたその瞬間、頭に袋をかぶせられた。もがきながらも周囲の状況は見えず
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第5話

目の前の少女たちを見て、私は眉をひそめた。彼女たちの写真を見たことがある。最近失踪した少女たちだ。彼らは女性を誘拐し、地下取引を行っているのだ。目をつけられた女性は皆、男たちの玩具にされ、数二万円で好き勝手に弄ばれる。そして最後には、辺鄙な村に売られて年老いた男の嫁にされる。それが、ここに連れてこられた少女たちの運命だった。その時、背後の鉄格子が耳障りな音を立てて開き、先ほどの男が現れた。彼は顔いっぱいに笑みを浮かべ、部屋の中の女性たちを指差した。「兄弟、見てくれ。どれもいい品だ。どれが欲しい?特別に安くしてやるよ」そう言って、彼は隣に立っていた背の高い男に視線を向けた。その男は部屋の中の全員をじっくりと見渡した。少女たちは恐怖で隅に縮こまり、すすり泣きが聞こえてくる。男は顎を撫でた後、一番年若く見える少女を指差した。見た男はすぐさま歩み寄り、少女の腹を一蹴りし、彼女の髪をつかんで入り口まで引きずった。「よし、思う存分楽しんでくれよ......」しかし、その言葉が終わらないうちに、私はその少女を背後にかばいながら男を睨みつけた。「私が一緒に行くわ」私の言葉に、ここまで私を連れてきた男は黙っていられなくなった。彼は私の肩を引き寄せ、口を塞いだ。「こいつの言うことなんて聞くな。早く連れて行け」私は彼の指に思い切り噛みつき、男の前に飛び出した。男は私を見下ろし、眼鏡のブリッジを押さえた。そのレンズの奥で、不穏な光がちらついている。私は拒否されると思っていたが、予想に反して男は私に手を差し伸べてきた。「お前に決めた」その時、あの男はまたもや阻止しようとしたが、眼鏡の男が威圧的に言い放った。「何だ、選ばせないつもりか?」男はしぶしぶうつむき、お金を受け取ると黙り込んだ。私は周りの皆の恐怖に満ちた視線を背に、引きずられるように連れ出された。突然、男は私の腕をつかんだ。疑念を抱いていると、彼が私の頭を軽く叩き、私を引いていた男に向かってニヤリと笑った。息が止まる。かすかな香りが鼻腔に入り込むが、その時はそれを気にする余裕はなかった。男の後に続きながら、私は不安でいっぱいになりつつ、逃げ出す機会を探していた。地下室は薄暗く、灰色の壁にはクモの巣が張り巡らされ、空気中にはカビ臭が充満してい
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第6話

どうして彼はここが出口ではないと知っているのか。 彼は一体何者なのか。 彼は私を助けようとしているの? でも、彼はお金を払って楽しみを求めに来たクズじゃなかったのか、一体どうして...... 次々と疑問が頭に浮かび、私は俯いて、もはや抵抗する力もなくなってしまった。 考える余裕もないまま、私は地面に倒れ、意識を完全に失った。 どれほどの時間が経ったのか分からないが、ぼんやりとした意識の中で誰かの話し声が耳に響いてきた。 軽くもなく強くもないビンタが私の頬に落ちる。 「おい、起きろ、ほら、起きろってば」 私は口を開け、目をゆっくりと開けた。すると、自分が硬いコンクリートの地面に横たわっていることに気がついた。 視界に入ったのは暗灰色の空。私は驚いて体を起こした。 頭の鈍い痛みを感じながら、私は先ほど麻酔薬を使われて気絶したのだと思い出した。 「やっと目が覚めたか」 突然の声に驚いて振り向くと、私を買った男がすぐそばに座っていた。 彼は面倒くさそうに舌打ちし、鼻に壊れた眼鏡をかけていた。 でも、彼はなぜ私を助けたのだろう? 問いただそうとする前に、彼は私に手を差し出した。「俺はチームから派遣された援軍、中川だ」 中川? 聞いたことのない名前だ。 私の疑念を感じ取ったのか、彼は咳払いをしてから言った。 「この組織は少し手強いんだ。疑われないように、俺もお前と同じく他の地域から臨時で派遣されたんだよ」 私はうなずき、体の痛みに耐えながら立ち上がった。 それで、私たちはこれからどうするのだろう? 中川は顎を撫で、不敵な表情を浮かべている。 私はしばらく待っていたが、彼は何も言わない。 「何か考えはあるの?」と私が尋ねると、彼は肩をすくめて言った。「ないね」 私は呆れ返った。この人、本当に頼りになるのか、それとも足を引っ張るために派遣された援軍なのか。 夜が訪れ、中川は取引で決められた時間に合わせ、私を再びあの隠れた地下室へと連れて行った。 それは山の麓にある古びた家で、その中に地下への抜け道があり、私と他の五、六人の少女たちが閉じ込められていた。 「おい、どうだった?楽しめたか?」 私の頭には袋が被
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第7話

この組織は一体何人を拉致しているのだろうか。そう考えると、私は拳を固く握りしめた。中川はわざとためらってみせたが、最後にはポケットから一束の札を取り出して男の手に押し込んだ。男は口元を耳まで裂けるほどに笑みを浮かべ、中川の腕を引っ張って外へ連れて行こうとした。その時、中川が私に目で合図を送った。彼は男の手を振り払うと、立ちすくむ私を指差して言った。「彼女も一緒に連れて行く」 中川、あんた頭大丈夫か?奴らは私が警察だと知っているんだぞ。こんな風に堂々と「彼女を連れて行く」なんて言ったら、怪しまれるに決まっているだろう?私は口を開きかけ、文句を言おうとしたが、ぐっと飲み込んだ。男は中川が指差す方向に視線を向け、私をじっくりと見定めた。彼の笑顔は硬直し、私がどうして中川を夢中にさせたのか疑っているようだった。「お前、他の子にしたらどうだ?こいつはもう一度遊んだだろ......」男が言い終わる前に、中川は素早く男のポケットに入れたお金を取り戻した。数枚の赤い札が地面にこぼれ、黒いコンクリートの上でひどく目立って見えた。男は無理に笑みを浮かべ、中川が振り返る瞬間、彼の手を掴んで言った。「分かった、連れて行っていい」中川はお金を再び男に渡すと、得意げに私の方へ歩いてきた。彼は男に背を向けて、私に笑みを浮かべた。その光景に私は唖然とした。これが「金の力で悪魔をも動かす」ってやつなのか?中川は私の腕を掴んで外へ連れ出そうとしたが、男が私たちを呼び止めた。振り返って見ると、次の瞬間、大きな麻袋が私の頭に被せられた。空気を裂くような音が耳元で響き、私はぎくりとした。まさかまた殴られるのか?これ以上殴られたら、人を救うどころか私自身が死んでしまう。しかし、予想していた痛みは訪れなかった。私は大きく息を吐いた。「どうせ袋を被せるんだから、叩くのはやめとけ。もし顔が腫れたら、俺はお断りだからな」私は中川の服の裾を掴んで車に乗り込んだ。冷たい風が麻袋の中から衣服に吹き込み、身震いした。まるで家畜としてトラックに詰め込まれたような気分だ。その時、中川が私の手を軽く引っ張った。「どうだ、賢いだろ?もうすぐ敵の本拠地に連れて行かれるんだから」私は目をつぶり、低い声で言った。「何が賢いよ。もし彼が俺たち
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第8話

この男、正気の沙汰とは思えない。 隙間から、男が一歩一歩こちらに近づいてくるのが見えた。そして、泥にまみれた靴が視界に入る。 その時、私の手の束縛が完全に解かれた。 これで終わりか。 私は驚愕し、麻縄を握り締めてまだ縛られているふりをしようとした。だが、中川が私の隣に歩み寄り、苛立ちを顔に浮かべて言った。「約束の女はどこだ?ここに連れて来たってことは、まさか俺を騙すつもりじゃないだろうな」 「俺はお前にたくさん金を払ったんだぞ」 その言葉を聞くと、男は自分が言おうとしたことを忘れたかのように、中川を引っ張ってどんどん遠くへ歩き出した。 私はゆっくりと彼らの後を追った。 ギギィッという音とともに、ドアが開いた。 強烈な悪臭が鼻をつき、私は思わず眉をひそめた。 中川の後に続き、彼は部屋の中で形ばかりの選り好みをしているように見えた。 突然、彼が冷たい何かを私に手渡してきた。 それは一丁のナイフだった。 ここに来てから今まで、目の前の男以外には誰も現れていない。普通、このような場所では警備が厳しいはずだが、この男は私たちを気軽に連れてきている。それも、私が警察であると知っていながら。 あまりにも不自然だ。 今は行動を起こすべき時ではない。 私はそっとナイフを袖の中に隠した。 中川は適当に一人の女性を選び、連れ出そうとした。 彼の指が白くなるほどナイフを握り締めているのが見える。 私は止めようとした。 次の瞬間、外から足音が聞こえてきた。 足音は一切止まらず、明らかにこちらに向かっている。まさか、既にバレてしまったのか。 心臓がドキドキと鳴り、中川が何か愚かなことをしないか心配でたまらなかった。 足音がぴたりと止まり、私の心臓も一拍漏れ、胸に重い石が乗せられたように息が詰まった。 誰かがドアのところまで来たようだ。 「おや、どうして突然いらしたんですか?」 男の口調は丁寧で、訪れた者が何かの大物であることが分かった。 中川も明らかに緊張していた。彼はゆっくりと私の側に退いた。 「今日は商売が順調ですね。もう何組もお客様がいらっしゃってますよ」 その言葉を聞いて、男はすぐに笑顔になった。「そうだな。今日は
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第9話

たとえナイフの刃先が彼の顔に血の痕を残していても、彼は平然としたままだった。 「当然だ、お前があのバスに頻繁に乗り始めたときから、俺は気づいていたさ」 それなら、彼は一体何者なのか? バスにいた仲間の一人なのか、それとも最初に手を出してきた男なのか? 無数の顔が頭をよぎるが、どれも目の前の男とは一致しない。 その時、彼が挑発的に手を振った。 私の呼吸が止まり、記憶がバスルームの窓の外でスマホを振っていた謎の男に引き戻された。 やっぱり、あの男か。 つまり、彼らは最初から私が警察であることを知っていて、わざと私の計画に乗ったというのか? しかし、どうしてわざわざ私の計画に乗る必要があったのか?私が警察だと知っているなら、普通は遠くに逃げるはずでは? 彼らは罠を仕掛けて、ただ私を捕まえたいだけなのか? 頭の中は疑問でいっぱいになり、耳の中で音がうなりを立てている。 次の瞬間、外から急いで駆け寄る足音と女性の叫び声が響いた。あっという間にドアの前に人だかりができた。 彼らの服装は統一されており、この場所の警備員のように見える。 私は油断せず、構えていたが、次の瞬間、男が私の拘束を振りほどき、私の手首をつかんで無理やりナイフの刃先を私の目に向けた。 私は目を見開き、ナイフの刃先を見つめた。 一体、いつの間に? 少し離れたところでは、中川が大勢の男たちに囲まれている。 私たちは完全に不利な状況にあり、勝ち目はほとんどなかった。 このままでは、本当にここで死ぬかもしれない。 ナイフが光を反射しながら、私の目に迫ってくる。 その瞬間、心の中に一つの考えが浮かんだ。 彼らは私をおびき寄せるために罠を仕掛け、捕まえるのはただ一つの目的に過ぎない。彼は私の死を使って、彼らに手を出そうとする警察全てを恐怖で抑え込もうとしているのだ。 彼こそがこの組織の黒幕、闇の中からすべてを操り、姿を見せない「売人」なのだ。 私は彼の手首に抵抗し、全身の力を振り絞る。 男の顔には凶悪な表情と、すべてが計算通りだと言わんばかりの得意げな笑みが浮かんでいた。 「お前らの死を使って、警察全てを脅してやる」 そう言いながら、彼の笑いは狂気に変わり、手に
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