真奈が迷っていると、休憩室のドアが突然開いた。中井がチーズケーキのカットを載せた皿を持って入ってきた。真奈は電話の向こうに向かって言った。「こっちは他に用事があるから、夜にまた連絡するね」「かしこまりました」通話が切れた。中井はケーキを真奈の前に置き、「これは先ほど総裁がご指示されたものです。奥様がチーズケーキがお好きだと伺いましたので」と言った。真奈はテーブルの上のチーズケーキをちらりと見た。たしかに昔は好きだった。ただ、冬城がそれを知っているはずがない。以前、彼が自分の好みを気にしたことなど一度もなかったのに。「ありがとう。ここで少し休むわ。彼が終わったら呼んで」「かしこまりました」中井が部屋を出て行った。真奈はテーブルの上に置かれたチーズケーキを見つめ、考え込んだ。冬城……一体何を企んでいるの?真奈は冬城がMグループに対して打つ手がないとは思えなかった。それに……今日の彼の行動はどう考えてもおかしい。もしかして……別の考えがあるの?午後、冬城は会議室から出てきた。テーブルの上のチーズケーキが一口も食べられていないのを見て、口を開いた。「この店のチーズケーキ、口に合わなかった?」「昔は確かに好きだったけど……いまは好きじゃなくなったの」真奈の口調は淡々としていた。冬城は目を伏せ、表情がわずかに陰った。「構わない。今日から、お前の好きなものを覚えていく」「冬城、グループの株式20%を私に譲ると言ったのは本当?」真奈は、冬城が会議室でただの思いつきで口にしたとは思えなかった。冬城が一度言い出したからには、すでに準備を進めていたはずだ。案の定、冬城は中井から書類を受け取り、真奈の前に置いた。「株式譲渡契約だ。法務部にも確認させた。あとはお前の署名だけ」真奈は半信半疑でテーブルの上の書類を手に取った。中を確認すると、確かに株式譲渡の契約書だった。どの条項にも抜けや罠はなかった。眉をひそめ、冬城を見つめる。「どうして私に冬城家の株を?」「それが、お前の信頼を得るためにできる唯一のことだから」冬城の声には迷いがなかった。中井は黙って休憩室を後にした。「この数日、どうすればお前に自分を証明できるか考えていた。でも……結局、これ以外に何も持っていないことに気づいた」
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