事態の進展は、いつも予想外の形で訪れるものだ。先ほどまで千恵は、自分の恋愛が惨敗に終わりそうだと傷心し、帰ったら弥生に泣きつき、初めての失敗を悼もうとしていた。だが、なんとその男性が再び戻ってきたのだ。車に乗り込んだ千恵の気分は、一瞬で変わった。彼女は唇を噛みながらも、心の中は甘く満たされて、次第に大胆になってきた。そして、車内で彼に話しかけてみることにした。「えっと、ちょっとお聞きしてもいいですか?」瑛介は彼女の言葉に気にせず、無表情のまま前方を見据えていた。「どうぞ」「うん、その......お名前を教えていただけませんか?いや、誤解しないでくださいね。ただ、どう呼べばいいかわからなくて」「宮崎と申します」彼は端的に答えた。「宮崎さん?」千恵は少し驚いたようだ。「宮崎さんですね」彼女の反応に、瑛介は何か考えているように眉を少し動かして尋ねた。「知っています?」千恵は首を振った。「いえ、ただ、とても響きが良い名前だなと思っただけです」そうか、弥生はその友人と親しい間柄を持っているのに、自のことは一切話していないのか。しかも、自分をまるで知らないかのように振る舞っている。この五年間、彼女は自分のことを完全に忘れ去ってしまったのだろうか。彼の苗字を知った千恵は、しばらく躊躇したものの、結局聞いてしまった。「それで宮崎さん、フルネームを教えていただけないですか?」瑛介は険しい顔のまま、何も答えなかった。千恵は諦めずに続けた。「じゃあ、連絡先交換はどうですか?」それにも彼は反応しなかった。しかし、千恵はめげることなく、むしろ今一緒に車に乗っているという状況に喜びを感じていた。千恵はこういうタイプの男性をよく理解している。表面上は冷たく無表情で、誰に対しても無関心のように見えるが、もし心を掴むことができれば、彼はただ一人の相手にだけ熱い情熱を注ぐものだ。そんな「この世でただ一人しか目に入らない」という感情、千恵は大好きだった。ただ、これまで彼女はそんな男性に出会ったことはなかった。多くの男性は自分の欲望をコントロールできず、美しい女に夢中してしまう。千恵の好む男性は世の中にほんのすこししかいないため、彼女の恋愛はいつも短命だった。第一印象で驚くほど魅力的だと感じ
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