話の途中、松山のお爺さんは毛筆を静かに置き、机の引き出しを開けた。そして、慎重な様子で紫檀の木箱を取り出し、それを篠田初に差し出した。「初ちゃん、開けてみなさい」篠田初は箱を受け取り、慎重に蓋を開けると、中には一枚の勲章が収められていた。その勲章には平和の象徴である鳩と剣の図柄が彫られている。彼女は困惑した表情で松山のお爺さんに目を向けた。「おじいちゃん、これは......?」「初ちゃん、これはね、君の祖父が亡くなる前にわしに託した大切なものだ。彼の英雄としての一生を象徴するものなんだ。それを今、君に引き継がせる」松山のお爺さんは、自分の義兄であった篠田茂雄の波乱に満ちた人生を思い返しながら、しみじみと語った。「君の祖父が亡くなる前、最も心配していたのは君のことだったんだ。彼は何度もわしに言い聞かせた。君と昌平の結婚生活が四年経った時に、この勲章を渡せと......」「今、ちょうど四年が経った。この勲章は君の祖父の祝福を込めたものだ。君たち夫婦の幸せな結婚生活と長寿を守ってくれるだろう」篠田初はその黄金で作られた勲章を手のひらに乗せた。その瞬間、まるで生と死を超えたかのように、祖父の少し荒れた温かい手の感触が彼女の手に伝わり、目には涙があふれた。「おじいちゃんが生きていた時も、心配ばかりかけてくれました。亡くなってからも、まだ私を守ろうとしてくれるなんて......私、本当に孫として失格です。ただ迷惑ばかりかけて......」彼女の脳裏には、祖父が亡くなる直前、彼女の手を握りながら何度も語った言葉が浮かんだ。「復讐はするな。もうあの危険で複雑な世界には戻るな。君が優秀である必要はないし、篠田家を復興する必要もない。ただ普通の女性として穏やかに生き、松山家の若奥様としての役割を果たすだけでいい。そうでなければ、わしは安らかに眠れない」しかし、今の現状は......はあ......私が不甲斐ないばかりに、祖父の小さな遺志すら守れなかった。この世で最も制御が難しいものは、人の心だ。復讐をすることも、篠田家を復興することもできる。だが、愛してくれない男の心だけは、どうにもならなかった。ここまで来て、彼女はできる限りのことをした。それでも希望が見えないのなら、諦めるしかないと悟った。ただ心に恥じることがなかった。「馬
Last Updated : 2024-11-29 Read more