億万長者の秘密が、今から明かされる のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

100 チャプター

第71話  

午後、森岡翔は新しい会社を設立した。社名は「東莱インターナショナル投資株式会社」。中村薫が社長を務め、金葉ホテルも傘下に入ることになった。しかし、今はまだ会社の形だけで、中村薫がさまざまな人材を集めなければ、本格的な事業は始められない。翌日。森岡翔が金葉ホテルに着くと、中村陽とその両親が、屋外駐車場の隅っこに隠れているのを発見した。やっぱり、彼らはまだ諦めていなかったのだ。森岡翔は彼らを無視して、そのままホテルの中へ入って行った。午前中は、特にすることもなく過ぎていった。途中、森岡翔は宅配便を受け取った。SCC本部から送られてきた、上級会員のバッジだった。バッジと言っても、実際にはSCCのロゴが刻印された指輪だった。森岡翔がホテルを出ようとしたその時、思いもよらない電話がかかってきた。電話の相手は、相川沙織の親友である渡辺艶だった。渡辺艶は、相川沙織が突然倒れて、今病院にいると告げた。森岡翔は、電話を受けて、一瞬固まった。相川沙織が倒れたって、俺に関係ないだろ?別れたのは彼女の方だぞ!電話するなら、高坂俊朗だろ?森岡翔は無視しようと思った。しかし、考えているうちに、どうしても気になってしまった。やっぱり、行こう。4年間の思い出があったんだ。自分自身に、けじめをつけるためにも。彼は車で渡辺艶に教えられた病院へ向かい、途中で果物を買った。限定モデルのブガッティ・ヴェイロンで果物を買いに行くなんて、当然、周りの人々の注目を集めた。果物屋は人でごった返し、店主は大喜びだった。あっという間に、普段の1日分の売り上げを達成してしまった。森岡翔は、いつもより多めに果物を買った。彼は病院の廊下を歩いていた。すると、診察室から、二つの声が聞こえてきた。「先生、お願いです、私の母を助けてください!お願いします!」「ああ…申し訳ありませんが、ここは慈善団体ではありません。お金がないと、治療はできません」「とにかく治療してください!必ずお金を用意しますから!」「正直に言いましょう。お母さんの病気は非常に重篤です。この病院で手術をしても、成功率は高くありません。もっと医療設備の整った病院を探した方がいいでしょう。そうすれば、成功率も上がるはずです」「先生、母はあとどれく
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第72話  

病院を出ると、森岡翔は深呼吸をした。すべてが終わった。完全に吹っ切ることができた瞬間。森岡翔は、今までにないほどの解放感に包まれた。彼は車を走らせ、病院の門を出た。「泥棒!泥棒!」彼の耳に、叫び声が飛び込んできた。森岡翔は急いで車を路肩に停めた。すると、少し先に若い男が財布を持ったまま、こちらに向かって走って来るのが見えた。後ろからは、30代くらいの女性が必死に追いかけてきた。「邪魔だ!どけ!死にたいのか!」若い男は走りながら、もう片方の手でナイフを振り回して叫んでいた。森岡翔は、体力を限界まで上げた自分の力を試してみたかった。ちょうど彼が動こうとしたその時、黒い影が猛スピードで目の前を横切った。森岡翔が泥棒の方を見ると、すでに片腕で地面に押さえつけられていた。泥棒は地面でもがき苦しんでいたが、鋼鉄のような腕から逃れることはできなかった。上級だ!間違いなく上級だ!それが、森岡翔の第一印象だった。森岡翔の精神力はすでに限界に達しており、五感が研ぎ澄まされていた。先ほど男が自分の横を通り過ぎた時、彼からは並外れた気迫を感じたのだ。彼は男の顔をよく見ると。病院で、医師に母親を助けてくれるよう、泣きながら懇願していた男ではないか!阿部破軍は、焦燥感に駆られながら、病院から出てきた。母親の病気は深刻で、多額の治療費が必要だった。しかし、彼には金がなかった。この数年、彼は海外で傭兵として働いてきた。たくさんの金を稼ぎ、もうすぐ家族を幸せにできると思っていた。しかし、最後の任務、とある小国の要人の講演を守る仕事で、正体不明の集団に襲撃され、12人の仲間のうち、生き残ったのはわずか3人だけだった。帰国後、3人は稼いだお金を、亡くなった仲間の家族にすべて分け与えることにした。自分たちは、少なくとも生きて帰ってくることができた。しかし、生死を共にしてきた仲間たちは、二度と故郷に帰ることができなかったのだ。しかし、まさか母親がこんなにも急に病に倒れるとは、彼は思ってもみなかった。すぐに手術をしなければ、手遅れになってしまう。だが、一体どこで、そんなに大金を工面すればいいというのか?金の切れ目が縁の切れ目、という言葉がある。ましてや、今回必要なのは、途方もない金額だ。どう
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第73話  

「阿部さん、私は森岡翔だ。これからは森岡さんと呼んでくれ」「森岡さん、阿部さんと呼ばないでください。破軍でいいです」「わかった、破軍。ちょっと手合わせ願えないか?」森岡翔は、以前から自分の実力を試してみたかったのだ。体力と精神力を限界まで高めてから、森岡翔は五感が格段に鋭くなり、体の中には無限のパワーがみなぎっているのを感じていた。「森岡さん、どうぞ!」阿部破軍は言った。彼もまた、この若者から感じた、かすかな脅威の正体を知りたかった。二人は10メートルほど離れた場所で、向かい合った。森岡翔には、格闘技の経験はなかった。鋭い感覚と、爆発的なパワーだけが、彼の武器だった。彼は全身の力を振り絞り、体中に力を漲らせた。その瞬間、森岡翔から放たれるオーラは、まるで古代の恐竜のようだった。阿部破軍は、強烈なプレッシャーを感じた。驚きながらも、彼もまた、長年、生死の狭間を彷徨ってきたことで身につけた、血なまぐさいオーラを漂わせた。森岡翔は地面を力強く蹴り、一瞬で阿部破軍との距離を詰めた。そして、迷うことなく拳を繰り出した。ただの手合わせなので、そして、森岡翔はまだ自分の実力を完全に把握していなかった。そのため、この一撃には、5割程度の力しか込めていなかった。森岡翔が突進してくるのを感じ、阿部破軍は強烈なプレッシャーに襲われた。ほんの一瞬、気を取られた隙に、森岡翔の拳が迫ってきた。彼は慌てて両腕をクロスさせて、胸の前でガードした。「ドンッ!」阿部破軍は森岡翔の一撃を受け、7、8メートルも吹き飛ばされた。森岡翔は、先ほど阿部破軍が立っていた場所に立ってて、歯を食いしばって、少し痛む右手を振った。一方、阿部破軍は、赤く腫れ上がった自分の腕を見て、驚きを隠せない様子だった。森岡翔の強さは、彼の想像をはるかに超えていた。最初、彼は森岡翔からわずかな脅威を感じてはいたものの、それほど気にしていなかった。なにしろ、森岡翔は若すぎる。まだ20歳くらいだろう。こんな若者が、いくら小さい頃から鍛錬を積んでいたとしても、長年戦場で生き抜いてきた自分に敵うはずがない。そのため、心の中では森岡翔を多少なりとも見くびっていた。しかし、たった一撃で7、8メートルも吹き飛ばされ、腕を腫れ上がらせられてしまったのだ
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第74話  

翌日、阿部破軍の母親の手術は成功した。執刀医は、江南省でもトップクラスの医学教授だった。病院側は、専属の看護師を二人、彼女の世話につかせた。森岡翔はメルセデス・ベンツGクラスを阿部破軍に与えた。彼もまた、仕事に戻った。森岡翔の影となり、彼の安全を守っていた。一方、中村陽の家族は二手に分かれていた。中村鉄と石川春花は、ホテルの前で待ち伏せしていた。中村陽は、江南インターナショナルマンションの前で待機していた。どうやら彼らは、このまま諦めて帰るつもりはないらしい。中村薫からの仕送りがなくなれば、彼らの生活は困窮するだろう。森岡翔は、彼らを無視した。一体、いつまで粘るつもりなのだろうか。今度は、彼らに思い知らせてやらなければならない。そんな中、中村薫から良い知らせが届いた。多額の資金提供を条件に、既に東莱インターナショナルに関心を示す者が出始めており、現在、交渉を進めているというのだ。東莱インターナショナルは投資会社なので、まずは優秀な弁護士チーム、交渉の専門家、そして評価チームを結成しなければならない。森岡翔は中村薫に、急いで人材を集めるように指示した。金はいくら使ってもいい、近藤強との共同事業も控えている。森岡翔は、新しく雇った人材が、そこで活躍してくれることを期待していた。夕方。江城にある富麗金沙エンターテイメントシティ。高木敏は、村上祐介を連れて、クラスの飲み会に参加するためにここにやってきた。今日の飲み会は、休暇中も学校に残っている学生たちが企画したものだった。すでに帰省から戻ってきている者も参加していたが、佐野紫衣は来ていない。彼女の家の事情で、数日休むらしい。高木敏が村上祐介を連れてきたのは、彼がそこそこのお金持ちの息子で、顔もまあまあイケメンだからだ。典型的なハイスペック男子を連れてくることで、彼女は少しばかり優越感に浸りたかったのだろう。広々とした個室に入ると、すでに20~30人ほどの若い男女が集まっていた。彼らは皆、美男美女ばかりだ。さすがはメディア大学の演劇学科である。高木敏と村上祐介が来ると、周りの視線が集まった。高木敏は、クラスの中でも目立つ存在だったのだ。「高木、この人は?紹介してよ」クラスメイトの一人が尋ねた。高木敏は、すかさず言った。「彼氏の村上祐介
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第75話  

スキンヘッドの男は、高木敏の髪を掴んだまま、他の学生たちを見て言った。「お前ら、こいつらと一緒だろう?さっき、この女にビンタされたんだ。どうすればいいか、教えろ!」「あなたが先に私に触ったのよ!」高木敏は泣きながら言った。「俺様が触ってやってるんだ、光栄に思え!どれだけ多くの女が、俺様に触ってもらいたがってると思ってるんだ、お前に興味はないんだよ!」個室には、重い沈黙が漂っていた。しかし、その瞬間、学生たちの後ろに隠れていた一人の女子学生が、こっそり村上祐介のスマホを拾い上げた。そして、メッセージに「富麗金沙47号室危険」と打ち込み、適当な相手に送信した。それから、彼女はスマホを元の場所に戻した。その頃には、村上祐介も少し落ち着いてきた。彼はスキンヘッドの男を見て言った。「黒田さん、ですよね?敏の代わりに私が謝ります。彼女を解放してくれるなら、いくらでも払います。いくら欲しいんですか?」彼も状況を理解していた。確かに人数は多いが、ほとんどが女子学生だ。もし暴力沙汰になったら、自分たちは一方的にやられてしまうだろう。それに、彼の他に戦う勇気のある者もいなさそうだ。みんな、恐怖で顔が真っ青になっている。「お前、この女の彼氏か?」スキンヘッドの男は尋ねた。「そうです!」村上祐介は答えた。「そうか!お前、なかなか話がわかるじゃねえか。2000万円払えば、解放してやる。じゃなきゃ、この女、なかなかいい女だし、ちょっと楽しんでやるのもありだな!ハハハ!」スキンヘッドの男は高笑いした。「祐介!助けて!」高木敏は泣きながら叫んだ。スキンヘッドの男に髪を掴まれ、身動きが取れなかった。スキンヘッドの男は、彼女に卑猥な行為を繰り返していた。「黒田さん、2000万円は多すぎます!俺たちはまだ学生で、そんな大金、払えません!敏を解放してくれるなら、200万円払います!」「200万円?乞食にでもやるつもりか?」スキンヘッドの男は、目を細めて村上祐介を見た。「本当にもう、これしか持ってないんです!黒田さん、どうか許してください!」実は、村上祐介が持っているのは本当に200万円だけだった。彼は確かに金持ちの息子だが、両親の商売はそれほど大きくなく、彼の生活レベルも高かったため、彼には貯金などほとんどなかった。これは、彼
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第76話  

森岡翔はソファに寝転がり、スマホをいじっていた。すると、メッセージが届いた。よく見ると、村上祐介からだった。メッセージを開くと、「富麗金沙47号室危険」と書かれていた。森岡翔は、慌てて立ち上がった。村上祐介が、理由もなくこんなメッセージを送ってくるはずがない。電話で確認しようと思ったが。しかし、考えてみれば、メッセージで連絡してきたということは、電話に出られない状況なのだろう。そこで、森岡翔は阿部破軍に電話をかけ、すぐに来るように言った。森岡翔は急いで階下へ降り、車で富麗金沙へと向かった。途中で阿部破軍と合流した。二人は急いで現場へ向かった。しばらくして、二人は富麗金沙に到着し、店員に案内されて47号室へやってきた。森岡翔がドアを開けて中に入ると、頭から血を流したスキンヘッドの男が、女性に乱暴しようとしているのが目に入った。村上祐介は数人の黒服の男たちに押さえつけられており、一人の男が彼の髪を掴んで、無理やり顔を上げさせていた。村上祐介は、充血した目でスキンヘッドの男を睨みつけていた。個室の隅には、20~30人ほどの若い男女がいた。森岡翔が入ってくると、その場にいた全員が驚いた。スキンヘッドの男は、高木敏への暴行を止め、森岡翔を見て、「お前は誰だ?ここはどこだと思ってるんだ?」と怒鳴った。森岡翔は、暴行を受けていた女性が、村上祐介の恋人である高木敏だと気づいた。村上祐介の恋人を目の前で乱暴しようとするなんて、こいつは完全にサイコパスだ。森岡翔はスキンヘッドの男の言葉には答えず、「破軍、あとは頼んだ」と言った。「かしこまりました、森岡さん」阿部破軍は答えた。そして、黒田に近づいていく。「クソ、死にたいのか!やっちまえ!」スキンヘッドの男は怒鳴ると、近くのビール瓶を掴んで、阿部破軍に襲いかかった。「ドゴッ!!!」スキンヘッドの男が阿部破軍に近づいた瞬間、彼はビール瓶を振り下ろす間もなく、数メートル吹き飛ばされて、床の上で転げ回りながら、うめき声を上げた。わずか30秒も経たないうちに、個室にいた7、8人の黒服の男たちは、全員床に倒れ込み、まるで豚の断末魔のような悲鳴を上げていた。黒服の男たちが倒れたのを見て、村上祐介は急いで起き上がり、自分の服を脱いで高木敏に羽織ら
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第77話  

佐藤六指の本名は、佐藤生。十数年前、彼はその拳ひとつで、江城の闇社会でのし上がった。彼の左手の指は6本あったため、六指というあだ名がついたのだ。時が経つにつれ、佐藤六指の名声は高まっていった。彼は、その冷酷なやり方で、江城の闇社会をほぼ完全に支配するまでになった。人々は彼を六指様と呼ぶようになり、本名を知る者は少なくなった。今、江城で彼を佐藤六指と呼ぶことができるのは、ほんの一握りの人間だけだった。黒田から電話を受けた佐藤六指は、富麗金沙で誰かがトラブルを起こしているとのことで、人を連れてきてほしいと頼まれた。まさか、彼の縄張りで、トラブルを起こす奴がいるとは?しかも、黒田を殴ってしまっただと?きっと、江城に来たばかりの、何も知らない奴だろう!黒田は、彼の右腕とまでは言えないが、それでも10人ほどの手下を従えている。そんな彼を倒すとは、相手も相当の実力者だ。佐藤六指は、100人以上の手下を引き連れて、富麗金沙へと向かった。彼が直々に動くのは、久しぶりだった。このままでは、体が錆び付いてしまう。富麗金沙に到着すると。佐藤六指は先頭に立ち、100人以上の手下が彼の後ろに続いた。そして、富麗金沙のロビーへと入った。佐藤六指は、その場に立ち尽くした。ロビーの中央に、一人の若者が座っている。若者の後ろには、中年男性が立っていた。そして、若者の足元には、先ほど自分に電話をかけてきた子分の黒田が、倒れ伏している。周りには、10人以上の警備員が倒れていた。さらに、富麗金沙の客が100人以上、その様子を見物している。何年ぶりだろうか。佐藤六指は、こんなに侮辱されたのは、何年ぶりか思い出せないほどだった。単に面子を潰されたというレベルの話ではない。これは、彼を完全に馬鹿にしている行為だ。こんなにたくさんの人が見ている中で、今日のことをきちんと処理しなければ、彼はもう江城で生きていけないだろう。佐藤六指は数歩前へ進んだ。森岡翔との距離は、7、8メートルほどだ。彼の後ろにいた100人以上の手下たちも、全員ロビーに入ってきて、佐藤六指の後ろに並んだ。周囲の野次馬たちは、いきなりこんなに大勢の人間が現れたのを見て、こっそりとその場を離れ始めた。巻き込まれて、怪我でもしたら大変だ。しか
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第78話  

今日、彼は森岡翔たちを、圧倒的な力で叩き潰さなければ、もう江城で顔向けできない。佐藤六指が動き出した瞬間、森岡翔の後ろに立っていた阿部破軍も動いた。彼は素早く森岡翔の前に出て、佐藤六指の拳を受け止めた。佐藤六指は森岡翔との距離が近かったため、一気に彼を仕留めようとした。しかし、突進していくと、森岡翔の前に、一人の男が立ちはだかった。森岡翔の後ろにいた阿部破軍だ。速い!佐藤六指は内心、驚愕した。彼と森岡翔との距離は、わずか7、8メートル。しかも、一直線だった。不意を突いて攻撃を仕掛けたはずなのに、相手はすぐに反応したのだ。間違いなく、上級だ。しかし、佐藤六指は怯まなかった。彼もまた、かつては多くの強者たちを倒し、江城の闇社会の頂点に立った男だ。彼は迷うことなく、阿部破軍に拳を繰り出した。阿部破軍は体をねじりながら、深々と頭を下げ、心の中で呟いた。(砲拳!)そして、カウンターで拳を放った。「ゴゴゴッ!!!」二人の拳が激突する!そして、お互いに弾き飛ばされた。阿部破軍は一歩下がって体勢を立て直した。彼は佐藤六指を見て、少し驚いたような表情を見せた。一方、佐藤六指は7、8歩も後退して、ようやく体勢を立て直すことができた。わずか一歩しか下がらない阿部破軍を見て、佐藤六指はさらに驚愕した。こいつ、強すぎる!佐藤六指は、この江城では、いくつかの名家に仕える隠れた実力者以外には、自分が最強だと思っていた。表舞台に出てくるような連中は、相手にならない。しかし、目の前の男は、自分の鉄拳を受け止めただけでなく、逆に6、7メートルも吹き飛ばしてしまったのだ。しかも、今、彼の右手は少なくとも3本の指が折れているのを感じていた。こいつらは、只者ではなかった。きっと、どこかの名家の出身だったのだろう。しかし、江城の名家ではなかったようだ。江城で名の知れた裏社会のボスとして、彼は地元の名家について、ある程度の知識を持っていた。各家の後継者たちとも面識があったが、目の前の男は、見たことがなかった。では、よそからやってきた大物、ということか。しかし、ここは俺の縄張りだ。たとえ龍であろうと、俺の許しなしには暴れさせない。名家の出身だろうと、関係ない!彼の後ろにも、大きな後ろ盾があった。そうでなけれ
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第79話  

富麗金沙は江城最大のエンターテイメント施設であり、1階ロビーは広大だった。巨大な機械の轟音が、ロビー全体に響き渡った。そして、カスタムメイドのアストンマーティンが一台、ロビーに滑り込んできた。続いて二台目。三台目。最終的に、12台の限定生産のスポーツカーがロビーに整列した。どれも2億円以上の価値がある。12台の高級スポーツカーの登場に、野次馬たちは息を呑んだ。普段は一台見かけるのも珍しいのに、今日は12台も。最初のアストンマーティンから、斉藤晨が降りてきた。彼は江城を代表する名家、斉藤家の御曹司だ。彼は江城SCCのリーダーであり、SCCの上級会員である。彼ほどの地位の人間であれば、現場に駆けつける必要はなかった。しかし、彼は先日、本部から江城に二人目のSCC上級会員が現れたという連絡を受けていた。江城SCCのリーダーとして、彼に会っておかなければならない。ちょうど今日は、森岡翔が上級会員招集令を発令したため、彼はここへやってきたのだ。12台の車から、12人の男女が降りてきた。男性が10人、女性が2人、年齢はほとんどが20代から30代だった。彼らは、江城の大半の勢力を代表する人物たちだった。普通の市民は彼らを知らなかっただろう。彼らがどれほどの力を持っているのか知る者は、限られた人間だけだった。普通の市民にとって、江城の闇社会の頂点に立つ佐藤六指は、雲の上の存在だった。しかし、佐藤六指は、真の大物たちが操る、駒の一つに過ぎなかったのだ。真の大物たちは、表舞台には姿を現さず、ひっそりと暮らしていた。斉藤晨は、彼らを従えて、森岡翔へと近づいていった。周囲の人々は息を呑んだ。これから、激しい戦いが始まるのだろうかと思った。「森岡さん、この件は、私の顔に免じて、穏便に済ませていただけませんか?」斉藤晨は森岡翔の目の前に来ると、そう言った。予想されていた衝突は起こらず、人々は固唾を飲んで、今後の展開を見守っていた。森岡翔は斉藤晨を見た。彼こそが、江城SCC唯一の上級会員であり、リーダーだったのだ。それに、破軍の母親の手術のために、第一病院に連絡してくれたのも、きっと彼だろう。「破軍!」森岡翔は声をかけた。阿部破軍は、森岡翔の声を聞いて、佐藤六指の首から手を離した。佐藤
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第80話  

「ありがとうございます、森岡さん!ありがとうございます!」佐藤六指は慌てて言った。「よし!森岡さん、どこかで一杯やろう!」「斉藤さん、どうぞ!」二人は一緒に、富麗金沙の上階へと向かって行った。その後ろには、江城SCCの会員たちが続いていた。行く前に、森岡翔は村上祐介の肩を軽く叩いて、先に帰るように言った。富麗金沙の支配人は、慌てて先回りして、彼らを案内した。そして、彼らは去って行った。残されたのは、100人以上の野次馬たちと、佐藤六指が連れてきた100人以上の子分たちだった。彼らは、まだ状況を理解できずにいた。あれで終わり?大激突が起こるんじゃなかったのか?江城最強と謳われた六指様が、平手打ちを二発も食らって、しかも、謝罪するなんて?多くの人々が、その場に立ち尽くす佐藤六指を見ていた。「お前は江城の裏社会のボスじゃないのか?なんでそんなにヘコヘコしてるんだ?殴られて謝るなんて、情けないぞ」そう言っているかのようだった。裏事情を知っている一部の人間を除いて、他の者たちは、この状況を理解できずにいた。黒田は、床に倒れ込み、気絶したふりをした。佐藤六指に八つ裂きにされるのが怖かったのだ。彼がいなければ、佐藤六指がこんな大恥をかくことはなかっただろう。今日のことは、すぐに江城中に知れ渡ってしまうだろう。江城の裏社会のトップだった六指様は、人々の笑い者になるだろう。もちろん、それは陰口でしか言えないことだった。高木敏たち、クラスメイトも、森岡翔の去っていく姿を見て、現実とは思えなかった。村上祐介に、森岡翔が一体何者なのか、聞きたい気持ちは山々だったが、どう聞いていいのかわからなかった。実は村上祐介も、状況が把握できていなかった。彼と森岡翔は、大学1年生の時、同じ部屋に住んでいた。4人のルームメイトの中で、二人は特に仲が良かった。しかし、まさか森岡翔が、こんなすごい人物だったとは。今度、じっくり話を聞いてみなければ。人混みの中にいた徳永芸と佐藤蘭は、顔を見合わせた。二人の目には、後悔の色が浮かんでいた。高木敏に誘われて、村上祐介たちの寮でコンパをした時、少しでも森岡翔と仲良くしておけばよかった。そうすれば、今頃は江城で怖いものなしだったのに。まさか、あんな大物だったとは。あの頃は、彼
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