桜子は姿を見せずとも、ホテルで起きていることはすべてお見通しだった。「桜子様、隼人社長と隆一さんがいらっしゃっています。お二人とも桜子様にお会いしたいとおっしゃっておりますが......いかがいたしましょうか?」翔太はイヤホンを押さえながら背を向け、声を低くして問いかけた。二人の男は即座に姿勢を正し、緊張で全身がこわばった。「私に会いたい?ふん、何を期待してるのかしら?割引でも頼むつもり?」桜子の声は冷たく、皮肉に満ちていた。「桜子様、お二人とも今日中にお会いできなければ帰るつもりはなさそうです。さすがに警備員を呼んで追い出すわけにも......」翔太は困ったように声を落としながらも、隼人と隆一のしつこさに若干うんざりしていた。「じゃあ聞いて。私に何の用があるのか」桜子の声は相変わらず冷徹で、まるで裁判官が容赦なく判決を下すようだった。「桜子様が、『私に何の用があるのか聞け』と仰っています」翔太はぶっきらぼうに二人にそう伝えた。「桜子さんにぜひお食事をご一緒していただきたいのです。感謝をお伝えしたくて」隆一は穏やかに微笑み、メガネを軽く押し上げた。「先日いただいたサイン入りレコードを母に送らせていただきましたが、母も大変喜んでおりまして、ぜひお礼としてお食事にお誘いするよう言われました。それができないと、母も心苦しいと言っておりまして」そう言いながら、彼は冷ややかな視線を隼人に向けた。隆一は桜子が優しく善良な人間であることを熟知しており、この理由なら断られることはないだろうと確信していた。ましてや、桜子が今は自分に気持ちがなくとも、隼人のように彼女を深く傷つけた男より、自分のほうがよほどふさわしいと信じていた。翔太は隼人の方を見た。隼人は淡々と二文字だけ口にした。「仕事」隆一の眉間に皺が寄る。桜子はその向こうでしばらく沈黙していたが、静かに低い声で指示を出した。「隼人社長を連れてきて」隆一と翔太は同時に驚きの声を上げそうになった。「?!」隼人の端正な顔立ちは緊張感の中で引き締まり、薄い唇がほのかに弧を描くように微笑んだ。その表情には隠しきれない喜びがにじみ出ており、まるで長く冷遇されていた愛妃が、突然天皇に寵愛されることになったかのようだった。「翔太さん、案内をお願いしま
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