All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 241 - Chapter 250

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第241話

内海智明はおばの罵声は聞かなかったことにして、おじとの電話を切った。そして電話を切ると、長い溜息をついた。彼は最近、疫病神に憑かれたのではないかと疑うほどついていないと思っていた。あれほどの人数がいて、内海唯花の髪の毛一本にも触れられないとは。内海唯花には確かに力を持った後ろ盾がいるようだが、それは一体誰なのか全く見当がつかなかった。テレビ番組制作に携わる誰もが手を出せない相手ということは、その後ろ盾は星城で大きな権力を持つ者に違いないが、内海姉妹を調べたところで、そういう大物は出てこなかった。内海唯花の夫はある大企業で部長だか何だかしているらしいが、ただのホワイトカラーに過ぎない。具体的に何をやっているのかも知らないが、村の人が言うには、彼は安いホンダ車を愛用しているらしい。内海家の若者の使っている車のどれも内海唯花の夫のよりいい車だというのに。相手は大した人物ではないらしい。本当に後ろ盾になれる者といえば、内海唯花の親友である牧野明凛しかいない。その牧野は星城で生まれ育ち、家もお金持ちで、彼女の伯母さんは玉の輿に乗っている。まさか、この牧野お嬢さんがずっと内海唯花を助けているのか?通報して警察に内海陸をつき出し、クズの親戚が必ず彼女のところに来ると内海唯花は予想してずっと待っていたのだが、昼になっても、そういう気配は全くなかった。結城おばあさんは内海唯花に結城理仁へ電話するようには言わず、自ら電話をかけた。祖母からの電話を受けた時、結城理仁は専用車に乗り、会社を出てスカイロイヤルホテルへ食事に行くところだった。一緒にご飯を食べると約束したから、九条悟の車が後ろについていた。「ばあちゃん」結城理仁は祖母の電話に出て、彼女の言葉を待たず、低い声で尋ねた。「ばあちゃんに頼んだこと、聞いてくれた?」「何だったかしら?頼まれたっけ?」おばあさんはすっかり忘れていたのだ。突然、車が急ブレーキをかけた。結城理仁は顔色も変えず、祖母との通話を続けていたが、暫く黙ってから口を開けた。「昨夜、何時に帰ったか聞いてくれって、ばあちゃんに頼んだだろう。もう昼だよ、返事をくれないのか」七瀬は振り向くと、主人が老夫人と電話をしているのを見て、隙を見て口を挟んだ。「若旦那様、また神崎さんです」神崎姫華は午前中結城
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第242話

佐々木唯月はもう店に帰ってきていた。就職活動はまだうまくいっていなかった。結城理仁はますます顔色が悪くなった。おばあさんは一体何を考えているんだ。結構楽しんでいるじゃないか。「もう無駄話はしないわ、早く来なさい。来ないとあなたが一体誰なのか唯花さんに真実をばらしちゃうわよ。本当に、和解のチャンスを作ってあげたのに全く感謝してくれないんだから、バカな子だね。もう一つ教えてあげるよ。神崎のお嬢さんがあなたにあげようとしてるプレゼントは唯花さんから受け取ったのよ。それが何なのか、受け取ったらわかるわよ」結城理仁の顔色が一段と暗くなった。おばあさんは彼と内海唯花のことに干渉しないと約束したはずだ。そのくせに彼の正体をばらすと脅してくるのだ。彼にそのまま通話を切られても、おばあさんは全く気にしなかった。もともと切るつもりでいたからだ。「若旦那様、神崎さんが道を譲らないのですが」運転手は結城理仁に振り向いて言った。一分くらい黙っていて、結城理仁はドアを開けて車を降りた。彼が降りて来るのを見て、神崎姫華は嬉しそうに、二つの白鳥を入れた箱を持って近づいていった。綺麗で大きな瞳が結城理仁の整った顔に釘付けになった。こわばった顔に冷たさしか感じ取れなくても、そのカッコよさは相変わらずだった。イケメン!かっこいい!彼女は本当にこのような結城理仁が好きなのだ。「理仁、これあげる。今朝助けてくれてありがとう。貸し借りはなしにしたいし、一緒にご飯を食べに行かない?私が奢るから、これでその借りを返すわ」神崎姫華は両手で箱を結城理仁の前に出し、わくわくしながら彼を見つめた。心の中で、唯花のアドバイスが本当に役に立ったと思っていた。内海唯花のアドバイス通りにしたら、結城理仁が車を降りてくれて、目の前に立ってくれた。結城理仁はその箱を見つめた。それは内海唯花のところから来たものだとおばあさんは言った。きっと内海唯花のハンドメイドだろう。前に彼女が彼にプレゼントする予定の鶴を神崎姫華にあげた時、彼は怒ったから、彼女が鶴のおまけに亀も作ってくれると約束したが、今になってもまだもらえていない。また神崎姫華にあげたのか?その疑問に気を取られて、彼は神崎姫華が差し出した箱を受け取った。彼女の前でそのまま箱を開けて
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第243話

結城理仁の車は結城グループを離れた。七瀬は主人の車が離れていくのを見て、ようやく神崎姫華を解放した。解放された神崎姫華は振り向き、七瀬にビンタをお見舞いした。七瀬は素早く彼女の手首をつかみ「神崎さん、私は女性だからといって甘く見る人間ではありませんよ」と冷たい顔で警告した。「放して!私を殴ってみなさいよ!できるもんですか!」七瀬は彼女の手を振りほどいて、そのまま冷たい声で言った。「目には目を歯には歯を。神崎さんが私に暴力をふるまうなら、こちらも遠慮しないつもりです」彼は確かにただのボディーガードに違いないが、自分の身分に対して決して卑屈ではなかった。主人も彼らをきちんと尊重してくれている。神崎姫華がもし本当に身分を笠に着て彼に手を出したら、七瀬も黙ってはいない。「あんたね!」神崎姫華は七瀬の冷たい態度に怯えた。彼女は内海唯花のように腕が立つ人間ではなく、ただ自分の身分に頼り、星城で思うままにやってきただけなのだ。今まで、彼女より身分の高いお嬢様にも会ったことがない。七瀬はこれ以上神崎姫華に何かを言うつもりはなく、冷たい一言を残した。「これ以上若旦那様に付きまとわないでください。若旦那様は神崎さんを好きにならないと保証します」言い終わると、七瀬は大股で彼を待っていた車のほうへ歩いていった。彼にそう言われた神崎姫華は怒りで顔が赤くなってきた。暫くしてやっと我に返り、走っていった車に叫んだ。「何様のつもりなの!言葉を謹んでちょうだい!私を誰だと思ってるの?」警備室の中にいた当直の警備員達は、神崎姫華の怒りの罵声を聞き、心の中でぶつぶつと言った。「あなたが誰なのかを知っているからこそ、そのような行動を取ったんですよ」神崎姫華は神崎グループの社長の妹で、今まで家族にちやほや甘やかされてきたのだ。一般人から見ると、彼女の身分は結構高いが、結城グループの人から見ると、神崎グループはただのライバル会社でしかないので、わざわざ彼女の機嫌を取る必要がどこにあるのか。結城社長が神崎姫華を追いかけることなどありえないことだ。だから、結城グループの人は、誰一人として神崎姫華を恐れる人はいない。結城理仁の車はある信号の前で止まっていた。結城理仁は九条悟に電話をかけた。九条悟は前の車を見て、思わず笑みをこぼし電話に出て言
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第244話

「理仁、来てくれたね」外の音を聞いて、おばあさんは店を出て孫の顔をみると、笑いながら近づいていった。孫が何の手土産も持たずに来たのに気づいた瞬間、不機嫌になり小声で諭した。「そのまま手ぶらで来たの?」「ばあちゃん、じゃ、どうやって来ればいい?」おばあさんは呆れてしまった。このバカ孫。全くロマンチックさの欠片もなくて、デリカシーもない!もしおばあさんが二、三ヶ月かけ、毎日耳にタコができるほど口うるさくこの孫に内海唯花を嫁にするように説得しなかったら、彼の性格から考えると、四十歳になっても独りぼっちのままだっただろう。「唯花さんに花とかプレゼントとか買ってあげるくらいはできないの?」「要らない。家のベランダには花がいっぱい植えられているから、朝から晩までいつでも観賞できるだろう」おばあさんは危うく彼に蹴りをお見舞いするところだった。が、それをなんとか我慢した。これは血のつながった実の内孫、蹴ったところで、後で後悔するのはおばあさん自身なのだ。「あ、結城さん、こんにちは」佐々木唯月は息子を抱いたまま出てきて、笑いながら義弟を店に連れて行った。結城理仁は義姉にきちんと挨拶してから、佐々木陽が彼に手を伸ばしたのを見て、自然に彼を義姉の腕から抱き上げると、彼は甘えた声でおいたんと呼んだ。「いい子だな」結城理仁は佐々木俊介と関わりたくないが、普通に佐々木陽がかわいくて、好きだった。佐々木唯月の丸くふっくらとした顔が視界に入り、結城理仁は不意にホテルの前で佐々木俊介を見たことを思い出した。ボディーガードの話によると、彼の隣に綺麗な女性がいて、親密そうに見えたそうだ。佐々木俊介は浮気してるのか?しかし、彼自身はそれを見ておらず、ボディーガードもただ佐々木俊介によく似ている人だったと言っていたので、不審に思ってはいたが、佐々木唯月には伝えなかった。もし佐々木唯月に教えた後、結局人違いだったら、彼は他人の夫婦の関係を壊す悪人になるじゃないか。牧野明凛は店の奥の部屋を片付け、空いたところにテーブルを置いておいた。結城理仁が入ってくるのを見ると、彼に挨拶しながら、テーブルをきれいに拭いた。そこに内海唯花の姿はなかった。結城理仁は彼女が多分キッチンにいると思った。彼女はそんなに多くの魚介類を買ったのか。
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第245話

結城理仁は何も言わず彼女を見つめた。二日ぶりに彼女に会えた。結城理仁はふと彼女のこの顔が好きだなと思った。夫婦二人はしばらく無言で見つめ合った。先にこの沈黙を破ったのは内海唯花だった。「手を洗ってから料理を持って行ってくれる?もう全部作り終わったの」結城理仁は彼女の言うことに頷きも断りもしなかった。ためらいながら、低い声で尋ねた。「どうしてそんなにたくさんの海鮮を買ったんだ?」重要なのは、彼にその支払い請求の知らせが来ていないことだ。彼女は自分のお金でこれを買ったのか?夫婦二人が冷戦状態だったとしても、この家庭を支えて養うのは夫である彼の役目なのだ。「どのくらいかかった?後で送金するよ。生活費は俺が出すって約束したから」内海唯花は自分の作った海鮮料理に振り向いて、笑いながら説明した。「お金はかかってないよ。神崎さんが海へ旅行に行って、そこから持って来てくれたの。たくさんもらったから、後でおばあちゃんが帰るとき、結城さんが送ってあげて。ついでにお義母さんとお義父さんにも持って行ってね。本当に新鮮だから」結城理仁の顔色が変わった。まさか神崎姫華が送ってきたものとは。この二人は元々恋のライバル関係になるはずだが、結城理仁が故意に身分を隠したため、まさかのまさか、二人が接点を持ち親友になる方向へと進んだのだ。「理由もなく一方的に頂くわけにはいかないだろう。神崎さんからこんなに多くの魚介類をもらったら、何かお返ししないとな。あとで送金するから、そのお金で何か買って彼女に贈るといい。それで今回のお返しにすればいいよ」どういっても、結城理仁は内海唯花にお金を送りたかった。二人はお互いをLINEの友だちから消してしまった。彼のその余計なプライドのせいで、先に頭を下げて内海唯花に友だち登録してくれないかお願いできないから、送金でその口実を作ろうとしていた。内海唯花がそのお金を受け取るためには、また彼のLINEを友だちに登録しなければならない。そうすると、彼も恥をかかなくて済むのだ。内海唯花はそこまで考えておらず、結城理仁の送金してくれるという好意は受け取らなかった。「私は神崎さんともう友達だから、そんな遠慮しなくてもいいの。ずっとお金ばかり気にしてると、神崎さんは私が彼女を馬鹿にしていると思って怒るかもしれないよ
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第246話

隣に座った孫が黙々と食べてばかりいて、妻への気遣いもしないのを見て、おばあさんはテーブルの下で孫の足を突いた。結城理仁は状況がわからないというように黒い瞳でおばあさんを見つめて、全くおばあさんの行動の意味を理解していないようだった。おばあさんは頭を抱えたいほど困っていた。彼女は夫と愛をこめて初孫を育てていた。後継者になる孫の教育に尽力していたが、どうしてうまくいかなかったのだろう。仕事の能力なら、おばあさんは何の不満もなかった。結城グループは結城理仁のもとでさらに発展し、神崎グループをはるかに超えて、ビジネス界の大黒柱のようになってきたのだ。しかし、その能力と裏腹に、感情面ではマイナスになっているんじゃないかとおばあさんは疑っていた。「唯花さんにエビの殻を剥いてあげて」仕方なく、おばあさんは小声で孫に言った。良きチャンスは掴むべきだとこのバカ孫は知らないのか。結城理仁はその薄い唇をぎゅっと結んだ。内海唯花は手がないわけじゃないだろう。自分が育てた孫のことなのだ。おばあさんは彼のことをよく知っている。結城理仁が唇を引き結ぶと、何を考えているのかすぐわかる。おばあさんは孫を睨んだ。結城理仁はおばあさんに睨まれ、一言も出さず、黙ったまま箱の中から二つの使い捨て手袋をとり、それをはめてから手を伸ばしてエビの皿を目の前に持って置いた。彼は淡々と言った。「内海さん、君は食べて、俺が陽君に剥いてあげるよ」おばあさん「……」唯花に剥いてあげろと言ったのに、どうして陽ちゃんになったのか。本当に救いようのない馬鹿だ!このバカ孫!内海唯花は結城理仁のやりたいことは遮らず、うんと答えて、使い捨て手袋を手から外した。結城理仁の動きは素早く、間もなく佐々木陽の皿は剥いたエビで一杯になった。しかし、結城理仁のその動きは止まらなかった。彼は佐々木陽の皿にはエビを入れず、次は別の皿に置いた。全てのエビを剥き終わってから、相変わらず何も言わず、内海唯花に一瞥もせず、そのままその皿を内海唯花の前に置いた。全部やり終わったら、彼は黙ったまま使い捨て手袋を外した。そして、何食わぬ顔で自分の海鮮スープをひと口飲んだ。内海唯花の料理の腕前はなかなかのものだ。彼は好き嫌いが激しいが、目の前の料理はどれも美味しいと思
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第247話

彼がそのまま動かないことに気づいて、内海唯花は彼の方を見た。「どうしたの?」結城理仁は唇をぎゅっと結び「何でもない」と返事した。「先に会社に戻るよ」「うん」内海唯花は適当に返事をして、また皿洗いに集中した。暫く彼女の背中をじっくり見つめてから、結城理仁は彼女に背を向け、キッチンを出た。佐々木陽と遊んでいたおばあさんは孫が出てきたのを見て、少しむっとして文句をこぼした。「理仁、唯花さんの手伝いをしなかったの?昼間ずっと忙しくて、きっと疲れてるわ」結城家の男ならみんな妻を溺愛している。おばあさんの息子たちも全員自分の嫁に非常に気を使って大事にしていたのだ。孫の代になってみると、どうしてこのような簡単なこともできないのか。「彼女が必要ないと言った。ばあちゃん、先に会社に帰るよ」結城理仁は低い声で説明してから、おばあさんの前を通り過ぎた。おばあさんが口を開けて何かを言おうとした時、結城理仁はもう大股で店を出ていた。彼女は力なくため息をついて、その言葉を呑み込んだ。店を出た結城理仁は車に乗り、店から離れた。暫くして、九条悟から電話がかかってきた。「どうした?」結城理仁は交差点で車を止め、信号を待っていた。「お前の一番下の義弟が刑務所に入れられたね」「そいつは義弟じゃない」結城理仁は冷たい声で親友が言った呼称を訂正した。彼と内海唯花の冷戦はまだまだ続いていて、この夫婦関係もいつまで続くかわからないのだ。内海家の人を親戚などと認めるわけがない。内海唯花すら彼らを親戚とは認めていない。「はいはい、わかった、義弟じゃないね」九条悟は内海家の人達が内海姉妹に何をやったのかを知っているから、さっきのは冗談でもきついと自覚した。「内海陸はチンピラを何人か連れてお前の奥さんを殴るつもりだったが、逆に仕返しされボコボコにされたあげく、警察に捕まって勾留されてるらしいぞ」内海唯花は怪我しなかったが、あの不良たちは拘束されたわけだ。「内海家の奴らがまた何かしようとしているのか?」結城理仁は内海家の人を見張るように九条悟に頼んだから、彼らに何か動きがあると、内海唯花より、結城理仁は先に知ることができる。「金で内海陸を留置所から出そうとしているんだよ」「人を集めて通り魔のように邪魔して殴ろう
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第248話

さすがはタイプが同じ人間同士、どうりでこの二人が親友になるわけだ。直接お金にものを言わせるやり方で、色気のないやり方だ。店にいた時、結城理仁は内海唯花に言った。ただで神崎姫華のものを受け取るわけにはいかないから、彼から唯花にお金を送金し、そのお金を神崎姫華に返せばいいと思っていた。そうすれば、神崎姫華に借りを作らなくて済む話が、内海唯花の主張で完全に論破された。夫婦二人はもうお互いのLINEを消して、内海唯花のほうは彼の電話番号もブロックしている。LINEの友だち登録をしない限り、送金も、おしゃべりすらもできない。今になって、結城理仁はようやく少し後悔した。自分の度量の無さで、ほんの少しの誤解のため、妻と冷戦状態になり彼女のLINEまで削除してしまった。ほら見ろ、今また登録したくても、言い訳の一つも出せないだろう。……スカイ電機株式会社にて。佐々木俊介はウキウキしながら社長のオフィスから出てきた。成瀬莉奈は上司の嬉しそうな顔を見て、彼について専用のオフィスに入りながら、ドアを閉めた。「佐々木部長、社長に何か言われたんですか?嬉しそうですけど」佐々木俊介は社長がサインした後の書類を置いて、手を伸ばし成瀬莉奈の腕をぐっと引っ張って、自分の胸に引き寄せ、彼女の細い腰に手をまわした。そして、ニヤニヤしながら彼女に言った。「莉奈、当ててみ?」「昇進?それとも給料をあげてもらった?」佐々木俊介は首を横に振った。彼の上には二人の副社長がいて、その一人は社長の親友で、もう一人は社長の実の弟だった。だから、佐々木俊介はもう副社長に昇進することができないと思っていた。部長で彼はもう十分満足していた。給料が上がるのもあり得ない話で、せいぜい少しボーナスが上がる程度だが、彼は副業があって、今ではほんのボーナスなど眼中にない。「もう、じらさないで、早く言ってよ、どんないいこと?」成瀬莉奈はわざと甘えた声でねだった。佐々木俊介は彼女の頬にキスをして、かすれ声で言った。「キスさせてくれたら、教えてやってもいいぞ」「やだ、もうキスしたじゃない?」佐々木俊介は愛おしそうに彼女を見つめた。成瀬莉奈は彼に見惚れて、とうとう彼の頭を引き寄せ、自ら彼の唇にキスをした。激しいディープキスをしてから、佐々木俊介はやっ
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第249話

「あいつは今太っていてブスになってるから、連れて行ったら、絶対皆に笑われるだろう。それは俺の顔に泥を塗るのも同然だ」言い終わると、佐々木俊介は成瀬莉奈の綺麗な顔を少しつねって、彼女を褒めた。「今ではあいつは莉奈と比べ物にならないよ。今の俺の心は莉奈のことでいっぱいで、あいつに対しては、本当に何の感情も湧かないんだ。この前、あの女に包丁を持って、町で追いかけられただろう?あいつが謝って、以前より俺に対する態度は良くなったけど、どうしても許せなかった。なにせ、あの日俺が逃げ切れなかったら、殺されてたかもしれないんだからな。あいつがあんな毒蛇みたいな女だと知ったのは、あの日がはじめてだった。陽のためじゃなければ、本当にあの家に帰りたくなかったんだよ。それに、お母さんと姉さんも言ったんだ。家の頭金を出したのは俺だ。それに、結婚前に買った家で、家のローンも俺が返しているんだぞ。どうして俺が住めなくて、あいつ一人が住めるってんだ?それに、あいつは俺の家族とも仲が悪いぞ。莉奈、俺の親と姉に会っただろう。俺の家族どう思う?」成瀬莉奈は少し考えてから答えた。「いい家族だと思うよ。ご両親とお姉さん夫婦も親切で、礼儀正しい人よ」彼女は佐々木家の人の前では佐々木俊介によくして、どこからどこまで彼の世話をしていたから、佐々木俊介との関係はとっくにばれていた。佐々木家の人間は彼女にそこまで親切には接していなかったが、彼女が佐々木俊介の愛人だからといって、彼女に偏見を持って不親切なことなどは一切しなかったから、教養のある人達だと思っていた。その後、成瀬莉奈が佐々木俊介によくしているのを見て、彼の母親は態度を変えて、親切に接していた。姉である佐々木英子も成瀬莉奈を連れて買い物に行って、何着も高い服を買ってあげた。「うちの家族はあんなにいい人で、唯月に対しても親切に接してあげたのに、あいつは一方的に家族と仲よくしようともしない。そのくせに、俺の親がよくないとか、姉が悪い奴だとか言ったんだ。とりあえず、あいつの目から見ると、佐々木家の人間は全員悪い奴で、あいつ自身は、世界で一番完璧な人間だと思ってやがる」佐々木唯月がこの話を聞いたら、きっと卒倒してしまうだろう。佐々木家の人間は自分の本性を隠すのが上手なのだ。佐々木唯月は何年も社会人として働いていて、自分が愚
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第250話

佐々木俊介はそう言うと、仕事を一旦放っておいて、成瀬莉奈を連れて会社を出た。彼は部長で、成瀬莉奈は彼の秘書だ。普段、佐々木俊介が商談をしに行くときには、成瀬莉奈をよく連れて行くから、二人が一緒に会社を出ていくのを見ても、誰も何も言わなかった。ただ清掃員のおばさんは会社のゲートで佐々木俊介が車で成瀬莉奈を連れて出て行ったのを見て、年配の警備員に言った。「佐々木部長は毎日成瀬秘書と一緒にいて、唯月ちゃんはこの二人が浮気していると心配じゃないのかしらね」佐々木唯月がこの会社に勤めていたから、昔からここで仕事をしていた従業員たちはみんな彼女のことをまだ覚えているのだ。警備員は清掃員のおばさんを一瞥して「いまさら?」という顔をした。彼は周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、声を潜めておばさんに言った。「毎日会社の隅から隅まで掃除しているってのに、何も知らないのか?佐々木部長は成瀬秘書ととっくにできているんだぞ」清掃員のおばさんは意外そうに声を上げ、興味深々に尋ねた。「あなたはどうやって知ったんだい?」「目のある人ならわかるだろうよ。仕事が終わった後、成瀬秘書はいつもブランド品を身につけ、綺麗に着飾ってるんだぞ。彼女が持っているバッグは5、60万円もかかるルイヴィトンのものだ。成瀬秘書の収入で、あんな生活はきっとできない。彼女は一般家庭の出だろう。ブランドの服、バッグ、それとネックレス、それは絶対佐々木部長が買ってあげたもんに決まってるさ。仕事が終わったあと、あの二人が仲良さそうに夜食を食べているのを見た人もいるんだぞ。あの二人の間に何もないなんて、誰が信じる?」おばさんは言った。「唯月ちゃんはまだ知らないでしょうね。彼女は佐々木部長と結婚した時、会社の全員をパーティーに招待したでしょ。あの時の唯月ちゃんがどれほど幸せそうに見えたか、いまだに覚えているよ。花嫁の唯月ちゃんは本当に誰の目も奪うほどきれいだったわ。あれからまだそんなに経ってないのに、佐々木部長はもう浮気してるなんて。男はね、やっぱりお金があると豹変するもんね」彼女は佐々木唯月がかわいそうだと思っていた。「唯月さんはこの二年間あまり会社へ佐々木部長に会いに来なくなったな。きっと主人が浮気しているのをまだ知らないんだろう。成瀬秘書もそんなに大人しい性格じゃないから、待
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