「私たちのことは、簡単には説明できないの」紗枝は困ったように言葉を濁した。エイリーもそれ以上は追及しないことにした。「気にするな。話したくないなら、無理して話す必要はない」「うん……」「じゃあ、もう帰るよ。今度は景ちゃんと逸ちゃんも連れてきてくれ」景之も逸之もエイリーのことが大好きで、エイリーも二人の子供たちを可愛がっていた。紗枝は頷いた。「ええ」エイリーを見送った後、車から降りてきた雷七が紗枝に近づき、新しい情報が入ったことを告げた。「私の得た情報が正しければ、景之さまの誘拐事件は、鈴木昭子と深い関わりがあるようです」「鈴木昭子……?」紗枝の瞳が僅かに揺れた。可能性は考えていたものの、やはり血の繋がった相手となると——しかも、自分に対する昭子の恨みと言えば、たかが拓司と数回会っただけのことなのに。「確実なの?」紗枝は問いただした。「景之さまの絵に描かれていた人物は鈴木虎男という者です。青葉の腹心で、現在は国外に逃亡しているとのことです」と雷七は報告した。鈴木青葉……先日の青葉の言葉が紗枝の脳裏をよぎった。「分かったわ。この件は今のところ内密にして」確かに鈴木家には、子供を連れ去った後、澤村家に一晩中探させても見つからないだけの力がある。今の自分には鈴木青葉と渡り合える力はない。たとえ景之と自分を苦しめた張本人だと分かっていても、何もできないのが現状だった。「承知いたしました」雷七も状況を理解している様子で頷いた。表立ってこの件を明らかにするより、しばらくは相手に気付かれないよう様子を見る方が得策だった。......黒木家も澤村家も雷七と同様、間もなく鈴木家の関与を突き止めた。だが、鈴木家と黒木家は姻戚関係にある。今この時期に決裂するわけにはいかない。子供に危害が及んでいない以上、鈴木家に手を出すのは得策ではなかった。黒木お爺さんは啓司に軽率な行動は慎むよう諭し、自ら青葉に連絡を取った。今回は大目に見るが、次があれば容赦しないと警告したのだ。啓司は心中穏やかではなかったが、新会社の基盤がまだ固まっていない今、鈴木青葉と対決する時ではないことも分かっていた。青葉は拓司の未来の義理の母。いつか必ず、二人とも相手にすることになるだろう。家に戻っても、啓司
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