景司の表情が少し真剣になった。「ゆかり、他のことなら何でもいい。でも、この件だけは絶対ダメだ。君は瀬名家の娘なんだ。他人の結婚を壊すような真似は許されないよ」「他人の結婚を壊すって何よ。それに、ちゃんと調べたけど、あの二人、もうすぐ離婚しそうなんだよ。お兄さんだって弁護士を派遣して助けたじゃない?」ゆかりは口を尖らせて言った。「あれだけ彼女を助けておいて、なんで私のことは助けてくれないの?」景司は、ゆかりがここまで事情を知っているとは思わず、眉をひそめた。「ゆかり、他の男じゃダメなのか?なんでよりによって彼なんだ?彼のことを調べたなら、信頼に足る人間じゃないって分かるはずだろう」感情を抑えつつ、冷静に説明を続けた。「里香は命懸けで彼を助けたのに、彼はそんな彼女を捨てようとしてる。それだけじゃない、散々な仕打ちをしてきた。命の恩人さえこんな風に扱う男が、君には優しくしてくれると本気で思うのか?」だが、ゆかりはまるで気にも留めずに言い放った。「彼が奥さんに冷たくするのは、奥さんが何も持ってないからよ。でも、私は違う。私の後ろには瀬名家がいる。もし私に酷いことをしたら、瀬名家を敵に回すことになる。それくらい、彼だって分かってるはずよ」景司の眉間にさらに深いシワが刻まれた。「ゆかり、まさか馬鹿なことを考えてるんじゃないだろうな?」ゆかりは景司の腕を振り払って言った。「いいの!私は彼が好き。一緒になりたいの。お兄さんが助けてくれないなら、自分でなんとかするから!」そう言い捨てると、冷たく鼻を鳴らし、景司を軽く突き飛ばすようにしてその場を去った。「ゆかり!」景司は彼女の背中を見つめながら、心配と無力感に苛まれた。ゆかりのわがままは、自分たちが甘やかしたせいだ。そのツケが、今まさに回ってきている。ゆかりは雅之に会おうと二宮グループへ向かったが、「社長室に行くには予約が必要です」と受付で止められてしまった。結局、雅之に会うこともできず、不満げにその場を後にした。車に戻ると、ちょうど部下から里香の情報が送られてきた。ファイルにざっと目を通したゆかりの目に、なんとも言えない感情が滲んだ。すぐに部下に電話をかけ、指示を出した。「家を一軒買って、里香に設計を頼むように手配して」夕方、里香がオフィスビルから出てくると、遠くに停まったロー
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