親王は名声を失っただけでなく、治療のため都に送り返されることになった。威勢よく都を出た一行は、今や衛所の兵に護送され、みすぼらしく都へ戻っていく。無相は女性目当ての一件だと主張したが、天方十一郎は調査なしには断定できないとして、厳密な取り調べを命じた。死士たちは全員が投降した。以前捕らえた二人の死士は任務中で、気骨があり一言も喋らなかった。だが今回は死士という立場は主張できない。もしそうすれば、衛所付近での発見は軍営襲撃の企てとみなされかねないのだから。そのため彼らは燕良親王家の護衛を名乗り、都への往復の警護が任務だと主張。特殊な身分ゆえ都に入れず、西山口の屋敷に滞在していたと説明した。一応の筋は通っていたが、黒装束という怪しい出で立ちが、玄武と十一郎に追及の糸口を与えてしまった。都への帰路、さくらと紫乃は同じ馬に乗っていた。「さくら、あなたが来てくれなかったら……」紫乃は今でも背筋が凍る思いだった。「感謝するなら五郎師兄よ。私の前に救ってくれたのは彼なの」紫乃は首を傾げた。「でも、天幕に飛び込んできたのはあなたじゃ……」「いいえ、五郎師兄が先よ」紫乃は振り返って、首を伸ばしに伸ばした。隊列の後方に一頭の驢馬がゆっくりと歩いているのが見えた。遠すぎて、まるで犬のような姿に見える。その背に猿でも乗っているかのようだった。紫乃は視線を戻し、思い出した。確かに音無楽章に抱えられて逃げ出し、あの臭い薬で毒を消してもらったのだ。「あの音無五郎が私を助けるなんて……いつも反りが合わなかったのに」「五郎師兄は実は気前がいいのよ」さくらは言いながら、目で玄武を探していた。出発時から姿が見えないが、どこにいるのだろう。「さくら、ごめんなさい。みんなを心配させて」紫乃の声が詰まる。「燕良親王家に近づくべきじゃなかった。みんなを巻き込んでしまって……」「バカね!」さくらは玄武を探す目を戻し、微笑んだ。「これは不慮の事故よ。あなたは十分気を付けていた。燕良親王邸には入らなかったし、飲食物にも手を付けなかった。相手が狡猾すぎたの。手段を選ばないうえ、あなたが従姉を油断していたのを利用したのよ」「でも……」紫乃は自責の念に駆られていた。「あの程度の品なら自分で買えたのに。ただ、断れば工房の評判に響くかと思って……」「私たち
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