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甘い男

작가: 液体猫
last update 최신 업데이트: 2025-04-19 19:08:37

 ──何だろうう。すごく懐かしい香りがする。

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は重たい|瞼《まぶた》を無理やり開けた。ズキズキと痛む脳を働かせる。ふと、首から上だけが浮いているという感覚に見舞われた。

 なぜだろうかと、視線だけを動かす。

「──あ、気がついたかい?」

 思いもよらぬ声が頭上から聞こえた。

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は驚きのあまり、|目眩《めまい》を忘れて起き上がってしまう。当然のように視界がぐらつき、ふらりと横に倒れてしまった。

「おっと。急に動いちゃダメだよ」

 声の主は|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体を支える。

 ──え? だ、誰? な、何で僕はこの人の|膝《ひざ》で寝てたの? あれ? でもこの人って……

 恥ずかしさと動揺を隠し、声の主の顔を見た。

 |宵闇《よいやみ》のように長い黒髪を三つ編みした男だ。女性の黄色い声が聞こえそうなほどに目鼻立ちは整っている。

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》とは違い、健康的な肌色をしていた。体格はよく、服に隠されていようとも、大きな肩幅から見てとれる。

「……えっと、町で会ったあの人?」

 突然声をかけてきて、|人攫《ひとさら》い顔負けに屋根上の散歩を|促《うなが》した。そしてあっという間に姿を消し、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の心に少しだけ疑問を残した男である。

 次第に体を|縛《しば》っていた|目眩《めまい》がなくなっていく。|眼前《がんぜん》の男に手を貸してもらいながゆっくりと起き上がった。

「ふふ、うん。そうだよ。あの時の散歩はどうだった? 私は、君と初|逢瀬《おうせ》出来て幸せいっぱいだったけどね」

 美しい見目に見合わない言動が飛び交う。|華 閻李《ホゥア イェンリー》の小さな手を優しく|撫《な》でた。瞳をとろけさせながら微笑み、子供を壊れ物のように扱った。

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は彼の放った言葉に小首を傾げる。銀の髪はさらりと流れ、大きな目とともに男を|直視《ちょくし》した。

 すると男はうっと言葉を詰まらせ、下を向いてしまう。|華 閻李《ホゥア イェンリー》がどうしたのと尋ねながら男の顔をのぞけば、彼は視線を|逸《そ》らした。そして天を仰ぎ見、子供の両肩を軽く叩く。

「これぞ、|至福《しふく》の時!」

 男の頬には嬉し涙が伝っていた。

 しかし|華 
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     白い毛並みの仔猫は|華 閻李《ホゥア イェンリー》の腕から逃れようと必死だ。けれど体力がほとんど残っていないようで、すぐにぐったりしてしまう。|華 閻李《ホゥア イェンリー》は急いで宿屋へ戻ろうと踵を返した。 直後、後ろから青い漢服に身を包んだ数人が近づいてくる。彼らは|華 閻李《ホゥア イェンリー》を囲うようにして、腰にさげている剣を抜いた。「……え? な、何!?」 大勢の大人に囲まれた|華 閻李《ホゥア イェンリー》だったが、驚くふりをしながら彼らを観察する。 ──肩と胸の部分に金色の|刺繍《ししゅう》。それに青い服……この人たちって、どこかの貴族の使用人ってところかな。 そんな人たちがなぜ寄ってたかって、見ず知らずの自分を囲うのか。|華 閻李《ホゥア イェンリー》はそれだけが疑問だった。「──そこの子供! その猫を渡せ!」 剣の切っ先を|華 閻李《ホゥア イェンリー》へと向け、数人が砂を踏みつける。「猫って……この仔猫の事?」 腕の中にいる仔猫を注視した。仔猫はぐったりとしており、息も絶え絶えである。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》からすれば、仔猫も目の前にいる男たちも、全く知らない者たちであった。けれど仔猫の様子を見ているうちに、放っておくことなどできないと決意する。 仔猫を抱く腕に力をこめ、男たちを睨んだ。そして聞き分けのない子供を演じていく。「い、嫌だ! 僕はこの仔猫の事気に入ったんだ。僕が飼う!」 駄々をこねるだけこねながらも、少しずつ後ろへと下がっていった。「猫、飼いたいもん! 僕、猫好きだもん! ぜーったいに、渡さないからね!」 あかんべーと、普段の|華 閻李《ホゥア イェンリー》からは想像もできないような我が儘ぶりを発揮。地団駄を踏みながら仔猫を抱きしめ、飼うの一点張りに尽きた。 けれど男たちは子供の我が儘ごときにつき合ってはいられないと、剣を容赦なく|華 閻李《ホゥア イェンリー》へと振り下ろす。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は寸でのところで剣による攻撃を回避し、我が儘な子供を演じながら砂浜を逃げ回った。 剣が背に迫れば、泣くふりをしながらしゃがむ。男たちが手を伸ばせば身を低くして彼らの背後に回避し、軽く蹴りを入れた。男たちが倒れていく瞬間を狙い、彼らの肩や背中などを使って側にある木に登っていく。

  • 鳥籠の帝王   白き獣

    「とりあえず、私は情報収集してくるよ。|小猫《シャオマオ》は宿屋に戻っていてくれ」 体重を感じさせない様子で|櫓《やぐら》から飛び降りていく。瞬間、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の眼前を彼の長い黒髪が横切った。「宿屋!? え!? 僕、どこにあるか知らないんだけど!?」   |櫓《やぐら》の中から|全 思風《チュアン スーファン》を見下ろし、困惑した声で質問する。すると彼は「ああ」と、頭を掻いた。「仕立て屋さんがあっただろう? あの通りに[|旅宿庵《りょしゅくあん》]ってところがあるんだ。緑色の看板だからすぐにわかるよ。そこで待ってておくれ!」 腰にかけてある剣を手にし、地面に突き立てる。するとそこから灰色の煙が現れ、|蝙蝠《こうもり》の姿に変わっていった。 蝙蝠をむんずと掴み、|華 閻李《ホゥア イェンリー》のいる|櫓《やぐら》へと投げる。「わわ、|躑躅《ツツジ》ちゃんを投げないでよ! って、ちょっと|思《スー》!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の説教もむなしく、|全 思風《チュアン スーファン》は既にこの場から姿を消していた。 彼の行動力に感心し、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は|櫓《やぐら》から降りていく。頭の上に|蝙蝠《こうもり》の|躑躅《ツツジ》を乗せ、言われた通りの場所へと歩んだ。  ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ 仕立て屋がある|周桑《しゅうそう》区へ到着した|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、緑色の看板の家を探す。しばらくすると頭上にいる躑躅(ツツジ)が、ペチペチと羽で叩いてきた。『キュイ』と、かわいらしい鳴き声と一緒に、とある家へと羽を向ける。「あ、あった! ここが|旅宿庵《りょしゅくあん》だね。確かに緑色の看板だ」 小麦色の外装と、|朱《しゅ》の屋

  • 鳥籠の帝王   第一歩

    「綺麗過ぎる? えっと|小猫《シャオマオ》、妓女なんだから化粧はするんじゃ?」 化粧は女性を変える。美しく、それでいて気品もある。それが化粧の魅力でもあった。 二人は女性ではないゆえに、化粧について詳しくはない。けれど女性が化粧を好むということは知っていた。 |全 思風《チュアン スーファン》は、それについて何らおかしいところはない。きれいなのはいけないことなのかと、困惑気味に眉をへの字にした。「これは|姐姐《ねえさん》に聞いたんだけど、女性は着飾る生き物らしいよ。全員がそうとは限らないけど……綺麗にすれば見栄えもよくなって、男性からの求婚も増えるんだってさ」 女の人の考えることはわからないよねと、彼の腕の中で考える。フグのように頬を膨らませ、あーでもないこーでもないとぶつくさ呟いた。 しばらくすると|全 思風《チュアン スーファン》に鼻先をつままれ、ジタバタとする。「|思《スー》!」「ふふ、ごめんごめん」 湿っぽい潮の香が飛ぶなか、|華 閻李《ホゥア イェンリー》を床へと下ろした。「……話を戻すけど、あの遺体は綺麗過ぎると思うんだよね。これは僕の勘でしかないけど」 |櫓《やぐら》は少しばかり高い位置にある。そのせいか、風の影響を受けやすかった。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の長く伸びた銀髪が、さらさらと揺れる。髪を押さえながら運河を見つめた。「あの遺体がどこから来たのか。それだけでも、ハッキリしたかな」 確信めいたものを瞳に乗せ、|櫓《やぐら》の柱へ|凭《もた》れかかる。切れ長の目をした|全 思風《チュアン スーファン》を見、どういう意味かわかるかと問うた。けれど彼はお手上げだ

  • 鳥籠の帝王   落ちてきた謎

     |華 閻李《ホゥア イェンリー》と|全 思風《チュアン スーファン》の二人は、死体があがったとされる|幸鶏湖《こうちょうこ》地区へ来ていた。 |幸鶏湖《こうちょうこ》地区は街の玄関口でもある食品市場から、まっすぐ北へ進んだ先にある。途中の脇道には職人たちの住む|周桑《しゅうそう》区があるが、そこには行かずにひたすら直進。その先には|周桑《しゅうそう》区や住宅街とは違い、華やかな町並みが広がっていた。 |朱《あか》の屋根や柱が建ち並ぶ区域で、寺院や|櫓《やぐら》が多く建てられている。それ以外にも|妓楼《ぎろう》があり、他地区と比べて一貫性がなかった。 寺院の近くでは|山茶花《さざんか》や|睡蓮《すいれん》なども売られており、花びらが舞っている。「──着いたよ。ここが、|幸鶏湖《こうちょうこ》区だ」 ほら。あそこを見てと、ある場所を指差す。|全 思風《チュアン スーファン》が示したのは、比較的大きな寺だった。 金の屋根に|朱《あか》色の外壁と柱の、美しい寺である。前後左右、東西南北を四つの|櫓《やぐら》で囲み、さらに高く伸びたたくさんの木々が出入り口以外を隠してしまっていた。「この寺は[|百日譚寺《ひゃくにちたんじ》]っていう名前でね、四方にある|櫓《やぐら》から寺を見張る仕組みになっているんだ」 顎をくいっとさせ、古めかしい作りの|櫓《やぐら》を見てと言う。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》はいわれるがままに|櫓《やぐら》を凝視した。ただ、木でできている以外特にこれといった変わった様子は見受けられない。 けれど|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、とあることに疑問を持った。小首をかしげ、大きな瞳で見つめる。「……何で、寺を見張る必要があるの?」「うん、いい質問だね」

  • 鳥籠の帝王   蘇錫市(そしゃくし)

     枌洋(へきよう)の村から数里ほど北東へ進むと、大きな街が見えた。そこは蘇錫市(そしゃくし)と呼ばれている都である。 蘇錫市(そしゃくし)は別名、水の都と呼ばれていた。 その別名の通り街へ入れば、そこかしこから潮の香りが漂ってくる。魚介の匂いも混じり、|華 閻李《ホゥア イェンリー》のお腹の虫が騒いだ。 見上げた空は蒼く、海はそれに負けないほどに水面が輝いて見える。|朱《あか》の建物は少なく、黄土色の建造物が多かった。 耳を澄まさずとも聞こえてくるのは人々の活気ある声、犬や鳥の鳴き声である。  街の中を流れる運河の両脇には建物がひしめき、その多くは飲食店だ。そこから脇道に逸れれば、織物工房や鍛治屋などが建ち並んでいる。 そこから奥へと進むと橋があった。橋を渡った先は一般家屋のある住宅街だ。よく見れば、住宅街と職人たちの住む地区を結ぶ道は一つではなかった。赤い橋が等間隔に作られており、どこからでも互いの地域を行き来できるようになっている。「あ、これ藤の花だ」 一部の橋には紫の花が絡みついていた。寒い冬の季節にしては珍しく咲いているなと、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は楽しそうに花を観察する。「|小猫《シャオマオ》、こっちだよ」「あ、うん」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》とともに街に訪れた青年、|全 思風《チュアン スーファン》が手招きをした。彼は一度住宅街まで進み、東側にある橋を渡って職人たちの住む地域へと足を伸ばす。「あれ? 服屋さんって、そっちなの?」  なぜ、わざわざ住宅街へ向かったのか。それを問いかけた。「私の知っている店は、少々入り組んだ場所にあってね。職人たちの住む地区……[|周桑《しゅうそう》]って言うんだけど、あそこは人が多い。加えて、これから行く店は住宅街からの方が近いんだ」 |周桑《しゅうそう》区は人通りがもっとも多いため、一歩進むだけでも一苦労する。目的地の服屋は住宅街側から橋を渡った目の前にあり、行きやすいのだと説明をした。「へえ……|思《スー》、この街に詳しいの?」「いいや、その服屋だけだよ。私のこの服も、その服屋で作ってもらったんだ」 少しだけはにかみ、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の手を取って歩き始める。 ──何か、今の|思《スー》。ちょっと寂しそうに見えた。気のせいかな? 少しばかりの不

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