Beranda / BL / 鳥籠の帝王 / 枌洋(へきよう)の村

Share

枌洋(へきよう)の村

Penulis: 液体猫
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-20 08:27:12

 奥へと進むほどに霧がかかり、視界が悪くなっていく。

 それでも|全 思風《チュアン スーファン》は平然とした姿勢で歩いた。|華 閻李《ホゥア イェンリー》を横抱きにし、楽しそうに鼻歌を口ずさむ。

 そんな彼らの後ろには|殭屍《キョンシー》と化した人々がいた。ふたりを襲うでもなく、ただ彼らを先頭にして飛びはねながら進んでいる。

 ──これ、かなり異常な光景だよね。と言うか、この人って本当に何者なんだろう?

 抵抗するだけ無駄ということを、子供はここ数日で学んだ。

 横抱きにされて男としての何かがガリガリと削られてく。それでも涙半分、諦め半分で、|全 思風《チュアン スーファン》にされるがままを受け入れた。

 体格のよい彼を見る。意外に長いまつ毛のようで、瞬きをする度に影が降りていた。スッとした鼻や、形のよい唇。宵闇をつけたような髪と瞳など、どれをとっても端麗さが際立っている。

 大きな肩幅を彩るのは太くて逞しい指だ。それが|華 閻李《ホゥア イェンリー》の両膝の裏、背中へと回っている。

「ふふ、どうしたんだい?」

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》からの熱い視線に気づいたようで、彼は無邪気な笑みを向けた。その場に立ち止まり、そっと子供の額へ唇を当てる。

 子供は少しばかりの照れを隠しながら、えっとと言葉を生んだ。

「な、何で|殭屍《キョンシー》があなたに従っているの!?」

 |殭屍《キョンシー》は五感はおろか、脳すら破壊されている存在である。どうやって生きた人間の場所を嗅ぎ分けているのかは不明だが、それでも誰かに従うということはまずなかった。

 あるとすれば|血晶石《けっしょうせき》という、謎の力のみ。それでも、その力を使ったとしても、数十体を同時に支配するということができるのだろうか。

 力を行使し続ければ倒れるだけ。できたとしても、|殭屍《キョンシー》側が暴走を始めてしまう可能性の方が大きい。

 けれどこの男、|全 思風《チュアン スーファン》が命を下した|殭屍《キョンシー》たちは、それらを真っ向から破っていた。

 ──まさかと思うけど、この人が村の皆を|殭屍《キョンシー》に変えたの!?

 もしそうだとするならば、許せるはずがなかった。|雨桐《ユートン》という幼い子供まで犠牲にするやり方に、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は嫌悪感を覚えていく。

「降ろしてよ!
Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terkait

  • 鳥籠の帝王   白と黒と黄

     |全 思風《チュアン スーファン》の手に握られているのは剣だ。鞘は|黄金《おうごん》ではあるが、蒼白い|焔《ほのお》に包まれている。 「私は容赦というものを知らないのでね」 |黄金《こんじき》に煌めく瞳を細め、鞘から剣を抜き出した。剣の中心には|焔《ほおの》の模様が刻まれている。焔はたった一つだけれど、強い存在感を放っていた。 鞘を腰にかけ、剣を握る。切っ先を村へと向け、一緒に屋根の上へと登っている|華 閻李《ホゥア イェンリー》を直視した。「君はここで待っていて」 空いた左手で、宙に紋を描いていく。やがてそれは小さな|蝙蝠《コウモリ》に変わっていった。 蝙蝠は円らで愛らしい瞳を瞬きさせながら、銀髪の頭上を陣取る。ふんすという鼻息が聞こえてきてしまいそうなほどに胸を張る蝙蝠を、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は軽くつついた。「わあ! この子、可愛い」   人懐っこさが目立つ蝙蝠を、ギュッと抱きしめる。蝙蝠と頬を合わせては、かわいいを連呼していた。 ──んんっ! |小猫《シャオマオ》の方が可愛い。蝙蝠、私と場所を変われ! 悶えたい気持ちを隠し、表情筋を強張らせる。どうしたのかと顔をのぞいてくる|華 閻李《ホゥア イェンリー》に悟られまいと、笑顔で誤魔化した。「……遊びはこのぐらいにしよう。この村を解放してあげないと、ね?」「解放?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》と蝙蝠は、息が合ったかのように小首を傾げる。 |全 思風《チュアン スーファン》は微笑し、顎をくいっとした。 視線の先には村がある。連れてきた|殭屍《キョンシー》たちまでもがおり、彼らは悲鳴にもならぬ雄叫びを静かに響かせていた。 |全 思風《チュアン スーファン》は不敵に牙をのぞかせる。そして剣を持って地上へと足をつけた。 右足の軸に体重を乗せ、剣を持つ右肘を少しだけ下がらせる。ふっと、一瞬の息遣いを空気に溶けこませた。 直後、目にも止まらぬ速さで地を蹴る。柄の部分で|殭屍《キョンシー》たちの

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   白氏

     |全 思風《チュアン スーファン》が迅速を用いて剣を振るう姿は勇ましかった。それでいて、恐ろしいまでの*|絶佳《ぜっか》、虚ろうほどの舞いである。「私を殺せるのは愛しい|小猫《シャオマオ》だけ! お前たちのでは無理なのさ!」 |殭屍《キョンシー》の胴体へ剣を突き刺し、足蹴を食らわせた。爪をたてながら直走してくる者には鞘で腹を叩く。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》へと向かっていく|殭屍《キョンシー》には、倒した者を片手で持って投げつけていった。 数分後に残ったのは無傷の|全 思風《チュアン スーファン》と、五体のどこかしらがなくなっている|殭屍《キョンシー》だけである。「……すごい」 近くで傍観していた|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、彼の強さに脱帽した。かわいらしく両目を瞬かせる|蝙蝠《こうもり》を頭上に乗せ、|全 思風《チュアン スーファン》という男の振る舞いを凝望する。  ──まるで、|殭屍《キョンシー》を玩具にして遊んでいるかのようだ。 強いという次元を超えていた。それが|全 思風《チュアン スーファン》という人物を物語っているのだろう。誰にも負けぬ強さ、そして意思を持っていた。結果として今の状態が起こり、どちらが悪なのかすらわからなくなる。   |華 閻李《ホゥア イェンリー》は足元に転がる|殭屍《キョンシー》を見下ろし、肩でため息をついた。 |全 思風《チュアン スーファン》の元まで寄り、不安を乗せた瞳で彼を見上げる。「掃除、終わったよ|小猫《シャオマオ》」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の頬に優しく触れた彼の手は、少しばかりの返り血で汚れていた。 「強いのはわかったけど、無茶しないでほし

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   毒花の舞

     どこからともなく吹き荒れる冷たい風が、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体を打ちつける。それでも、同じ土俵に立つことすら|厭《いと》わしい白服の男を無言で睨みつけた。 「……最低」 大きな瞳に嫌悪感を乗せ、白服の男へ吐き捨てる。怒りで震える拳を|携《たずさ》え、顔を伏せた。 「ああ、なるほどね。それで気配はするけど、姿が見えなかったのか。|小猫《シャオマオ》の言葉を借りるわけじゃないけど、お前……」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の肩を抱き寄せ、月を落とした瞳で白服の男を推し量る。「──|冥界《めいかい》に寝返ったのか?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》と語らう時の声とは真逆で、とても冷めていた。 木々に留まって体を休めている鳥たちが飛び去っていくのを知っても、彼の冷然たる姿勢は変わらない。むしろ、眼前にいる人間を羽虫としてしか見ていないかのよう。「冥界? ……っ!?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は頭上から降ってくる低い声に、体をびくりとさせた。見上げればそこには、いつもの|全 思風《チュアン スーファン》とは違う、濃い闇色を纏う青年がいる。 ふと、彼が|華 閻李《ホゥア イェンリー》の視線に気づいた。けれどいつもと同じ優しさに満ちた笑みを浮かべている。 それにホッとした|華 閻李《ホゥア イェンリー》は「何でもないよ」と、恐怖を我慢して首を振った。「め、冥界って何?」 恐る恐る聞いてみる。 |全 思風《チュアン スーファン》は|華 閻李《ホゥア イェンリー》が震えているのを知り、怖がらせてごめんねと、頭を撫でた。「|小猫《

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   怠慢と恐怖

     ざっ、ざっ、と、|全 思風《チュアン スーファン》は森の中を疾走していた。右手には己が愛剣を、左手には枝から造り出した細長い剣を握っている。  ──あの男、この私から逃れられるとでも思っているのか? 走る|全 思風《チュアン スーファン》は息切れはおろか、汗一つすらかいていなかった。口角を軽く上げ、白い牙をちらつかせる。 そんな彼の前には、逃走する白服の男がいた。男からは時おり、ぜぇはぁという荒い息遣いが聞こえてくる。噎せて咳をしながらも、振り向くことなく前を走っていた。 |全 思風《チュアン スーファン》は男の背中を凝視しながら微笑む。右手に持つ金色の剣で空を十字に絶った。それは衝撃波となり、瞬きする暇すらないほどの速度で男の元へと飛んでいく。「……っ!?」 しかし運がよかったと言うのか……男は木の根に足を取られて転んでしまい、|全 思風《チュアン スーファン》からの攻撃の直撃は免れた。「くっ、そ……な、んだよ、あいつ!」 震えながら起き上がる男の額からは汗が溢れている。四つん這いになりながら、近づく|全 思風《チュアン スーファン》に恐怖していた。「あれ? もう終わりかい?」 つまらないなあと、無邪気に笑う。けれと金色の瞳は|嗤《わら》うどころか、深い闇に染まっていた。くつくつと談笑しながら左右の剣先を地へと突き刺す。 諸刃の剣は文字通り、二本の剣か。それとも|全 思風《チュアン スーファン》か。 |全 思風《チュアン スーファン》は見下ろしながら、そんなことを囁いた。 恐怖で身を縮こませるしかなくなった白服の男に、哀れみの眼差しを送る。同時に、白服

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   花の舞

     何がいけなかったのか。ふと、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の脳裏にそんな考えが浮かんだ。 |殭屍《キョンシー》騒動に見舞われた村のその後を放置していたからか。 |殭屍《キョンシー》になった者は、もう人間には戻れない。それを知っていながら、無事だった人たちを村に置いてしまったからか──「……っ!?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は目頭を熱くし、村全体を悲痛な眼差しで見張った。  村全体に広がったのは血の池である。建物や村人だった者たち、木々ですら、血中へと埋まってしまっていた。そのなかには|華 閻李《ホゥア イェンリー》が気にしていた子供──|雨桐《ユートン》──も含まれている。「せめて、あの子だけでも助けられたら……」 大きな両目から一粒の雫が滴り落ちた。それは額の汗と混ざり、村の上空にある|彼岸花《ひがんばな》へと落下する。 すると|朱《あか》く、夕陽のように燃える大きな|彼岸花《ひがんばな》は恵みの水を受け、より一層の輝きを増していった。 しかし…… 彼岸花の輝きは弱まってしまう。バランスを崩し、斜めになってゆっくりと転落していった。花びらはもげ、雌しべと雄しべは抜け落ちていく。「……お願い、彼岸花。僕の気持ちに答えて! 村を救えなかった、小さな子供すら護れなかった僕に……」 両手を前に突き出した。手が汗ばむ。額にひっついた髪が気持ち悪い。 それでもやり遂げたかった。 瞳に映るのは、|殭屍《キョンシー》に成り果ててしまった子供。血の池に体半分以上を取られてしまっても、なおも動き続けている。けれど言葉は発しない。「少しでいいから、力を貸して!」 喉の奥から叫んだ。瞬間、彼岸花はのっそりとではあるが、元の位置へと戻っていく。 「……ありがとう、彼岸花」 負担が減ったのを見計らい、急いで宙に印を描いていった。 数秒後に出来上がったそれは六芒星の陣である。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は迷いなく陣を彼岸花へとぶつけた。陣を受けた彼岸花は一瞬だけ、さわさわと揺れる。それはすぐに止まり、大きさを感じさせない勢いで血の池へと沈下していった。 音すらしない落下を成功させ、村全体に広がっていた血を一気に吸い上げていく。 しばらくすると血の池が嘘だったかのように、村から鉄錆色《てつさびいろ》は消えてなくなっていた。 |

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   隠された姿

     ホーホーと、ふくろうの鳴き声が静寂の中を走る。 空には月明かりが妖しく輝き、数多もの星が浮いていた。星々は天の川を作り、終わりのない道を宵闇へと忍ばせていた。 そんな夜の※|戌《い》の|刻《こく》。 |殭屍《キョンシー》事件によって滅んだ枌洋(へきよう)の村から少し離れた場所に、誰も使っていない|廃屋《はいおく》があった。屋根や外壁はボロボロで、|蔦《つた》が絡みついている。 中には家具などはいっさなかった。代わりに|藁《わら》が山のように積まれている。 その藁の上に美しい銀髪を持つ端麗な顔立ちの子供、|華 閻李《ホゥア イェンリー》が眠っていた。横向きになり身を縮め、苦しそうに唸っている。 隣では、|華 閻李《ホゥア イェンリー》より小さな子供が一緒に寝そべっていた。少年に包まれているかのように、小さな体を彼に預けている。 「…………」 眠る子供を抱きしめている|華 閻李《ホゥア イェンリー》の隣には三つ編みの男──|全 思風《チュアン スーファン》──がいた。彼は藁に寄りかかり、無表情で天井を見上げている。 ──|小猫《シャオマオ》が無事でよかった。怪我もしていないようだし、安心した。でも…… 両目を細めた。鋭い眼差しで凝視しているのは|華 閻李《ホゥア イェンリー》ではない。一緒に寝ている子供だった。 身を起こし、うなされている少年の額に触れる。そして愛しい子が抱擁している子供へと目を向けた。 ──この子供は|殭屍《キョンシー》だったはず。だけど今は人間に戻っている。どういう事だ?  一度|殭屍《キョンシー》になってしまった者は、二度と人間へ戻ることはない。その方法すらなく、誰もが諦めるしかないのが現状であった。 

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   空っぽの入れ物と魂

     寒さが際立つ十二月の夜。この國──|禿《とく》──では|閉《へい》とも呼ばれ、立冬となっていた。 そんな冬の空は暗い。されど、|全 思風《チュアン スーファン》は、凍える様子がなかった。それどころか、中衣一枚だけでも寒いとは感じない。「──あれ? |王様《・・》、上着は?」 |全 思風《チュアン スーファン》とともに夜を楽しんでいるのは、年端もいかぬ子供だ。こちらも布一枚のみという格好にも関わらず、冬の寒さをもろともしていない。 子供は|雨桐《ユートン》という名で、|殭屍《キョンシー》に変えられてしまっていた。生きたまま死を体験し、村では人知を越えた出来事にも見舞われた。最終的には|華 閻李《ホゥア イェンリー》の決死の術によって、|雨桐《ユートン》のみ救い出された。 しかし救い出された子供は、とても大人びている。言い方を変えるならば、本当に本人なのかという疑問すら沸くほどに屈託していた。「……お前、|小猫《シャオマオ》が助けたいって願った子供じゃないだろ?」 |全 思風《チュアン スーファン》は子供を見、あることを思い|做《な》す。 腰にかけてある剣の柄を握った。子供でしかない|雨桐《ユートン》を、冷めた眼差しで見下ろす。 |雨桐《ユートン》は肩で笑い、おお怖い怖いとおちょくってきた。「あー……|拙《せつ》は争いたくないんだ。というか、王様に逆らうほど愚かじゃないからねえ」 真意の掴めぬ笑顔を浮かべる。両手を挙げて参ったと伝えた。「じゃあ、正体を言ったらどうだい? 私の気が変わらぬ内に──」 怒気混じりの声は、|雨桐《ユートン》に軽い悲鳴をあげさせる。|雨桐《ユートン

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20
  • 鳥籠の帝王   扉と鍵

     危険な状況に見舞われ始めているのは、どこも同じ。例外はない。 |雨桐《ユートン》の姿をした|麒麟《キリン》は、そう告げた。『詳しくは調査とかしてみないとわからないけど。どうにも、各勢力で怪しい動きをしている連中がいるようだよ』 人間の住む、この地上。麒麟が暮らす世界、そして|全 思風《チュアン スーファン》が治めていると言われている冥界。これらの世界で、それぞれが不穏な動きをしていた。なかには、別勢力で手を組んでいる者もある。 『今まで、よく気づかれずにやってたって思うよ』 だってそうだろと、ぶっきらぼうに口を尖らせた。『|拙《せつ》みたいな、考えるのが苦手な奴はともかく、あんたのような王様ですら騙せてるんだ』 麒麟は|全 思風《チュアン スーファン》を王様と呼んでいる。それは、彼が冥界の長であるという事実でもあった。 |全 思風《チュアン スーファン》は強い。普通の人間はおろか、仙術を持つ者たちですら立ち向かうこと敵わず。剣術も、体術すらも、敵う者を見つける方が難しいのだろう。 何者にも怯まない精神。美しく、それでいて人目をひく出で立ちの彼は、聡明な頭脳すらも合わせ持っていた。冥界という、名前以外は不明な場所においても、彼は絶対強者のまま。 その強さは麒麟の住まう地にまで届いていた。 そんな彼を、唯一谷底へ落とせる存在は|全 思風《チュアン スーファン》が敬愛してやまない少年、|華 閻李《ホゥア イェンリー》だけ。誰もが口を酸っぱくして、そう答えるはずだ。 『よーく考えてみなよ。そんなあんたを出し抜こうって奴が、冥界のどこかにいるんだ』 面白いよなと、他人事として爆笑する。 |全 思風《チュアン スーファン》は麒麟の言動にイラつき、大きな手で子供の両頬を挟んだ。麒麟はひたすら謝り続け、解放されたときには涙目になっていた。『せ、|拙《せつ》の事よりも! ……人間側は、この村を|血命陣《けつめいじん》で滅ぼした連中が|暗躍《あんやく》してるのは間違いないよ』 この言葉を聞き、|

    Terakhir Diperbarui : 2025-04-20

Bab terbaru

  • 鳥籠の帝王   裏で蠢(うごめ)く者

     ──これはまずい! ここにいたら、|小猫《シャオマオ》の体が持たない。  |朱《あか》く光る床から|淡《あわ》い|蛍火《ほたるび》のようなものが浮かんだ。それは無数にもなり、部屋中をふわふわと浮いている。 一見すると美しく、幻想的な光景だった。しかし現実はそうではない。この光が|華 閻李《ホゥア イェンリー》に触れるたび、子供は表情を苦痛に歪ませていった。「……っ|躑躅《ツツジ》!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》が名付けた|蝙蝠《こうもり》を|凝視《ぎょうし》する。すると|蝙蝠《こうもり》は黒い|両翼《りょうよく》を羽ばたかせ、天井目掛けて突撃した。 その一回で天井を突き破り、回転しながら外へと出る。「……|躑躅《ツツジ》、この陣を|破壊《はかい》しろ!」  言うが早いか、|蝙蝠《こうもり》の行動の方が先か。それを考える者はこの場にはいなかった。  |全 思風《チュアン スーファン》が後ろへと飛ぶ。 瞬間、|蝙蝠《こうもり》は口を開けた。大きく息を吸い、勢いをつけて吐き出す。放出したそれは|突風《とっぷう》となり、床に|燻《くすぶ》っていた淡い|蛍火《ほたるび》を消していった。|蝙蝠《こうもり》|の躑躅《ツツジ》は満足げに、ふんすと鼻を高く上げる。 |全 思風《チュアン スーファン》は急いで|華 閻李《ホゥア イェンリー》の細い首に指をあて、脈を確かめる。規則正しいとは言えないが、それでも正常に戻りつつあるようだった。 |全 思風《チュアン スーファン》は胸を|撫《な》で下ろし、床を確認する。多少、陣の名残があるものの、ほとんど光を失っていた。彼は|華 閻李《ホゥア イェンリー》を抱えながら、足で|血命陣《けつめいじん》の一部を|擦《こす》る。 そうすることで陣は機能を|喪《うしな》い、発動できなくなると考えたからだ。その|思惑《おもわく》は

  • 鳥籠の帝王   嫉妬と憎悪

     |妓女《ぎじょ》の高笑いは止まることがない。我を忘れて笑い続ける様は、美しさとは無縁なほどに不気味さが|際立《きわだ》っていた。「……|思風《スーファン》って、|思《スー》の事?」 体力が限界を迎えていく。目覚めたばかりだというのに、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の|瞼《まぶた》は閉じはじめていた。 けれど知った名を口にされたため、女を見つめながら小首を|傾《かしげ》げる。 |妓女《ぎじょ》は高笑いをやめ、|華 閻李《ホゥア イェンリー》をひと|睨《にら》みした。華やかな美女から一転、憎しみや|嫉妬《しっと》にまみれた瞳となる。|獣《けもの》のように|瞳孔《どうこう》を細め、怒りを足音に乗せて|華 閻李《ホゥア イェンリー》に接近した。やがて、怒りに任せた足取りが止まる。「わたくしの|思風《スーファン》様を、|馴《な》れ|馴《な》れしく呼ぶでないわ! |小僧《こぞう》が!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の前髪を|掴《つか》んだ。痛みに苦しむ|華 閻李《ホゥア イェンリー》を無視し、|妓女《ぎじょ》は身勝手な腹立ちまぎれに|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせる。 彼の頬に爪を立て、白い肌に血を流させた。 けれど|華 閻李《ホゥア イェンリー》は泣くどころか、キッと睨みつける。 それがいけなかったのだろう。|妓女《ぎじょ》からすればその強気な態度がますます|癪《しゃく》に触ったようで、爪をさらに深く食いこませた。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は痛みに|耐《た》えきれず、消えいる声とともに眉をしかめる。「ふふ……あはは! |小僧《こぞう》が生意気な口を聞きおって。そなたなど、わたくしの体の穴を埋める|贄《にえ》に過ぎ……」

  • 鳥籠の帝王   恋の行く先

     |全 思風《チュアン スーファン》は堂々と正面から|妓楼《ぎろう》の中へと|侵入《しんにゅう》した。普通ならばその時点で誰かが姿を現し、彼へ敵意や攻撃を向けてくるものなのだが……「静かだ」 彼の足音のみが|響《ひび》く。それでも|全 思風《チュアン スーファン》の手には剣が握られていた。 周囲を見渡せば|朱《あか》の|絨毯《じゅうたん》や柱、壁までもが|深紅《しんく》に染まっている。天井には異国の地から取り寄せたであろう|枝形吊灯《シャンデリア》が|眩《まぶ》しく輝いていた。「ああ、本当につまらない」 顔を下に向かせながら、そう、|呟《つぶや》く。三つ編みにした長い黒髪がゆらりと揺れた。それを気にする様子すらなく、ただ|朱《しゅ》の階段を登っていく。 そんな彼の周囲には人の姿をした者たちがたくさんいた。 女は白い|漢服《かんふく》を着、美しい|簪《かんざし》を頭につけている。子供は男女問わず着飾ってはおらず、質素な|漢服《かんふく》を着ていた。男たちは青や水色などの|漢服《かんふく》を着用している。 けれど彼ら、彼女たちは、うんともすんとも言わなかった。黒目の部分は消え、どこを見ているのかわからない白目だけを見開いている。 |瞬《まばた》きすらしない。 呼吸もない。 不気味そのものの、人らしき存在たちだった。「……ああ、これは考えてなかった。|小猫《シャオマオ》の事で頭がいっぱいになっていたな」  そこは予想していなかったなあ、と大笑いする。 剣を|一振《ひとふり》し、道を|塞《ふさ》ぐ者たちを|風圧《ふうあつ》で吹き飛ばした。飛ばされた者たちは壁や柱に体を打ちつける。けれど痛みを感じないようで、小さな|唸《

  • 鳥籠の帝王   捕らわれた華

     |全 思風《チュアン スーファン》は自らの鼻を疑った。 彼は死者と生者、そのどちらもを嗅ぎわける能力に自信を持っている。それは間違えるはずがないという絶対的な自信であった。 ──私は|冥界《めいかい》の王だ。その私を|騙《だま》せる者など、そうそういないはず。その私をここまでコケにした奴、か。会ってみたいものだ。 そして殺してしまいたい。そう願った。背景にあるものが何にせよ、大切な子を奪われたのである。|冥界《めいかい》やこことは違う世界のことよりも、それが一番許せなかった。 「……|爛 春犂《ばく しゅんれい》、もしもあんたの言う通りなら、私たちは何を相手にしている? そして、何に馬鹿にされた?」 死者を|統《す》べる王としての怒りは凄まじく、周囲に|強烈《きょうれつ》な突風を|撒《ま》き散らす。 笑う唇の裏にあるのは|静寂《せいじゃく》という名の|怒涛《どとう》。|漆黒《しっこく》を詰めた瞳は|燦々《さんさん》と燃え盛る|焔《ほのお》となった。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》は彼の変化に驚きを隠せないのだろう。恐怖とは違う、凍えるまでに|冷淡《れいたん》な表情を見せられグッと拳を握った。額から流れる汗は|妓楼《ぎろう》に集まる人々に対するものではない。|全 思風《チュアン スーファン》という人物への警戒の現れだった。 それでも今だけは頼もしい味方である。唯一正常かつ、目的をともにする者であるのだと、|全 思風《チュアン スーファン》に口を酸っぱくして伝えた。「……ああ、そうだったね。私たちの目的はそれだった」 |全 思風《チュアン スーファン》の瞳は|徐々《じょじょ》に落ち着きを取り戻していく。ふーと深呼吸をし、|爛 春犂《ばく しゅんれい》を見やった。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》は心の底から肩を落としている。&n

  • 鳥籠の帝王   鎖

     瞳が虚ろになった|華 閻李《ホゥア イェンリー》に、何度も呼びかけた。けれど|華 閻李《ホゥア イェンリー》はうんともすんとも言わない。「──|小猫《シャオマオ》!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の肩を揺さぶった。 その時である。周囲から|人《・》の気配が消えた。それは文字通り人が、である。屋台を前にして並ぶもの、食べ物を売る者も、しっかりと目の前にいた。けれど彼らからは、|人《・》としての気配がなくなっていた。 ──どういうことだ? 直前まで、普通に人間の気配で溢れていたはずだ。「……いったいどうなって……|小猫《シャオマオ》!?」 考える暇もなく|華 閻李《ホゥア イェンリー》を含む、食品市場にいる者たちが一斉に動きだす。どの人間も|華 閻李《ホゥア イェンリー》と同じく、瞳に光を宿していなかった。そして誰もが体のどこかしらに鎖をつけている。 そんな人たちは食べ物すら放置して、街の北へと歩きだした。「し、|小猫《シャオマオ》!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》を腕を掴み、行動を阻止しようとする。けれど凄まじい人混みのせいで手を離してしまった。 |全 思風《チュアン スーファン》は喉の奥から叫ぶ。|華 閻李《ホゥア イェンリー》を呼び続けながら邪魔をする人々をかき分けていった。 けれどおかしなことに、近づくどころか遠ざかっていく。|華 閻李《ホゥア イェンリー》の姿すら見えなくなるほどに人が増えていっているのだ。おそらく住宅街や|周桑《しゅうそう》など、蘇錫市(そしゃくし)の住人のほどんどが、鎖の言いなりになってしまっているのだろう。 女や子供はもちろん、性別や年齢関係なく集まっていた。「……っ!?」

  • 鳥籠の帝王   操られた華

     |華 閻李《ホゥア イェンリー》を包む|彼岸花《ひがんばな》は、少しずつ光を失っていく。根元から枯れ始め、花びらや雄しべたちがハラハラと崩れ落ちていった。けれど床につく前に消えていき、まるで幻でも見ているかのような錯覚に陥る。 同時に、白虎の前肢にあった|血晶石《けっしょうせき》が跡形もなく消滅するのを確認した。「──|全 思風《チュアン スーファン》よ。|閻李《イェンリー》はいったい何をした?」  なんとも言えぬ不思議な現象の場に居合わせた|爛 春犂《ばく しゅんれい》が問う。彼は全ての術を解除し、眠る|華 閻李《ホゥア イェンリー》につき従う|全 思風《チュアン スーファン》の肩に触れた。 「……正直な話、私にもわからない。だけど白虎の|殭屍《キョンシー》化を阻止し、|血晶石《けっしょうせき》そのものを消し去ったのは、間違いなく|小猫《シャオマオ》だ」 本人の意識かどうかは別として、と語り加える。|爛 春犂《ばく しゅんれい》の手を軽く払い、感情のない瞳で凝視した。けれどすぐに興味の対象から外す。 「どんな理由があるにせよ、|小猫《シャオマオ》が浄化した事に変わりはない」 |爛 春犂《ばく しゅんれい》に冷めた瞳を向けた。それは他言するなという証でもあった。「……安心せい、|全 思風《チュアン スーファン》殿。このような事、言いふらしはせぬ。言ったところで誰も信じてはくれまいて」「話が早くて助かるよ」 |全 思風《チュアン スーファン》の直前までの全てを敵視するような眼差しは消える。笑顔を浮かべ、暗黙の了解として、|爛 春犂《ばく しゅんれい》と握手を交わした。 しかしどちらも心の内を見せるようなことはしない。どちらかというと探りあっていた。笑顔で

  • 鳥籠の帝王   光の子、道の先を示す

     |華 閻李《ホゥア イェンリー》の背中から|彼岸花《ひがんばな》が生まれた。淡く、蛍のように優しく、それでいて、暖かい光をまとっている。「……っ|小猫《シャオマオ》!?」  いとおしい子へ腕を伸ばして助けようとした。けれど眩しくて直視できない。 |全 思風《チュアン スーファン》も、少し離れた場所にいる|爛 春犂《ばく しゅんれい》ですら両目を閉じてしまうほどだ。 それでも彼は諦めることなく、手探りで|華 閻李《ホゥア イェンリー》の居場所を見つける。子供の細腕を引っ張り、己の胸元へと押し戻した。「|小猫《シャオマオ》!」 未だ、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の背中に浮き出ている|彼岸花《ひがんばな》を睨む。触ろうとしても透けてしまい、剥ぎ取ることすら不可能であった。 それでもうつ伏せになっている|華 閻李《ホゥア イェンリー》の喉で脈を測る。トクン、トクンと、弱いが脈はあった。 目映いばかりに煌めく花は背から頭上へと移動する。両腕に包まれている白い仔猫の姿をした|神獣《しんじゅう》は、苦しそうに鳴いていた。「……はあー」  |全 思風《チュアン スーファン》のため息は、場を落ち着かせていく。|華 閻李《ホゥア イェンリー》を|床《ベッド》まで運び、安心の吐息を溢した。結界を維持したままの|爛 春犂《ばく しゅんれい》に目配せし、疲れと心配からくる汗を拭う。 再び|華 閻李《ホゥア イェンリー》を黙視した。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の瞳を隠すのは長いまつ毛で、ときおり苦痛に蝕まれるように濡れる。それは涙で、|全 思風《チュアン スーファン》は何度も雫を己の指先で拭いた。 ──白虎の身体に浮かんでいた青白い血管が薄れていっている

  • 鳥籠の帝王   涙、そして強くなる想い

     |爛 春犂《ばく しゅんれい》を加え、二人は蘇錫市(そしゃくし)で起きている出来事を再度話し合う。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は窓際に。 |全 思風《チュアン スーファン》はそんな子供にピッタリとくっつくように、隣へと座ってきた。 そして、情報を持ってきた|爛 春犂《ばく しゅんれい》は二人の前に腰を落ち着けている。 彼ら三人の中心には机があり、茶杯の中には緑茶が入っていた。おやつとして胡麻団子が置かれており、三人は各々で好きな物を選んで食す。そんななか、|華 閻李《ホゥア イェンリー》だけが他の二人よりもたくさん食べていた。「ねえ|小猫《シャオマオ》、さっきあんなに食べてたよね? まだ食べるつもりなのかい?」 胡麻団子を何個も頬張る|華 閻李《ホゥア イェンリー》に、|全 思風《チュアン スーファン》は顔を引きつかせながら問うた。 頬についた胡麻を取ってあげると、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は無邪気に「ありがとう」と言って微笑む。 ──んん! 可愛い!  愛くるしい見目の|華 閻李《ホゥア イェンリー》に幸せを覚え、満面の笑みになった。「──こほんっ!」 緩い現場を見かねた|爛 春犂《ばく しゅんれい》が、わざとらしい咳払いをする。しまりのない表情をする|全 思風《チュアン スーファン》を睨み、淡々と話を進めた。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》が持ってきた話は、以下の通りである。 [|國《くに》中で白服の男たちが目撃されている] [目撃された場所では|殭屍《キョンシー》が出現し、最悪街や村が滅んでしまう。この蘇錫市(そしゃくし)でも白服の男たちの目撃情報があり、何らかの形で関わっている可能性がある] [|殭屍《キョンシー

  • 鳥籠の帝王   従者の鎖

     太陽が真上に差しかかった頃、|華 閻李《ホゥア イェンリー》たちは昼食をとっていた。 辛さが決め手の|麻婆豆腐《マーボードウフ》、高級食材であるフカヒレを使用したスープ。肉汁たっぷりの|包子《パオズ》、卵とニラの色合いが美しい食べ物などもある。箸休めには、ほうれん草の唐辛子炒めもあった。食後のおやつとして月餅、杏仁豆腐なども置かれている。 それらはざっと十人前ほどはあった。「うわあ、美味しそう……ねえ、本当にこれ食べていいの!?」 数々の料理を前にして両目を輝かせる。|華 閻李《ホゥア イェンリー》は大きな瞳いっぱいに食べ物を映し、頭上を確認した。「うん、いいよ。私も多少食べるけど、|小猫《シャオマオ》は遠慮なくいっちゃって!」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》が見上げた先にいるのは|全 思風《チュアン スーファン》である。彼は我がことのように喜びながら、|華 閻李《ホゥア イェンリー》へとご飯を勧めた。 そんな二人は何とも奇妙な姿勢をとっている。どちらも座ってはいた。しかし|華 閻李《ホゥア イェンリー》は床にではなく、|全 思風《チュアン スーファン》の膝上にである。 |全 思風《チュアン スーファン》はがに股になりながら、|華 閻李《ホゥア イェンリー》を乗せていた。 そんな彼の頬は絶賛綻び中で、しまりのない笑顔をしている。その姿はまるで、普段は強面だが小動物を愛でる時だけは優しくなるような……何とも言えない緩み具合だった。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》の方は、それを当たり前として受け入れている様子。大きくて逞しい彼を椅子代わりに、満面の笑みで箸を走らせていた。 数分後、ものの見事に全てを平らげる。最後に残った杏仁豆腐すらもペロリとお腹の中へと入れた。「&h

Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status