Share

第十七話。

Author: 愛月花音
last update Last Updated: 2025-02-22 22:52:18

「あぁ君が良ければ、また行こう。今度も何かいいところがないか調べておく」

「は、はい。よろしくお願いします」

 亜季は嬉しそうに頭を下げる。賛成してくれたのが嬉しかった。

 すると丁度よく料理が運ばれた。

 季節のパスタやシーフードサラダ。そしてグラタンやスープなど。お洒落で豪華な料理が並ぶ。

「うわぁ~美味しそう」

「これは、豪華だな。早速食べるとしよう。いただきます」

 櫻井課長は手を合わせると、スプーンを手に取って、先にスープを飲んだ。

 トマトとオニオンのスープだった。

 亜季はシーフードサラダの方を食べてみる。新鮮で美味しい。

 スープも飲んでみたけど、これも美味しかった。

「うむ……美味しいな。さっぱりとしていて」

「はい。ワインも飲んでみようかしら?」

 亜季は一口飲んでみた。

 甘味がるので女性好みの飲みやすいワインだった。美味しい。

「これも美味しいですねぇ~」

 ついつい調子の乗って、たくさん飲んでしまう。

 ご馳走のパスタなども凄く美味しくて、あっという間に全部食べてしまった。

 ちょっとほろ酔いで、気分も楽しくなる。

 会計は櫻井課長が全額出してくれた。

 申し訳なく思いながらも車に乗り込み、路上を走らせた。走っている最中に、外を見ると綺麗な夜景が続いていた。

「フフッ、いい眺め。課長~もう少し、この景色を楽しみませんか?」

「楽しむって、どうやって?」

「何処か景色が一望できる場所に行くんですよ! えっと……確かチラッと見た時に雑誌に載っていたような」

 櫻井課長が運転をしながら尋ねてくるので、亜季は勝手にシートベルトを外して、置いた雑誌を手に取って広げ始める。

 ほろ酔いのせいか、ちょっと大胆になっていた。

「こら、勝手にシートベルトを外すな!? 危ないだろ?」

「あ、あった。この場所なら見れますね!」

 付箋が貼ってあるレストランのページに、景色が一望できる場所として載っていた。

 得意げに櫻井課長に見せる。

「確かに。ここから近いな。なら、行ってみるか?」

「はい。お願いします」

 亜季はニコッと笑顔を見せた。

 櫻井課長は、言われるがまま車を走らせて、目的の場所まで

行ってくれた。

 少し外れに景色が一望できる場所があった。

 確かに綺麗だった。もちろんデートスポットのため、あちらこちらでカップルが乗った車が停まっている。

 ベン
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 鬼課長とのお見合いで   第十八話。

    「今日のお前は、よく喋るな。まったく」 櫻井課長は、ため息を吐くと苦笑いしながら、こちらを見てきた。 亜季の心臓はドキッと高鳴ってしまう。「嫌ですか……? こんなお喋りな私は」 ジッと櫻井課長を見つめる。頬と身体は火照って熱い。 それは、酔っているせいか分からないけど。「いや……悪くない。むしろ早く声をかけるべきだったなぁと、今さらながら思う」「そうですよ! でしたら、次は櫻井課長が介抱して下さい」「松井……それ。どういう意味か分かって言っているのか?」「えっ?」 亜季は、きょとんと櫻井課長の方を見る。何をだろうか? 酔っているせいか、今日は大胆な発言が多いと自分でも思う。 しかし、その内容にイマイチ理解はできていない。「何がです?」「それは男から見たら、誘っているようにしか聞こえないぞ。もう少し警戒心を持て」「誘っている? 私が……何で?」 どうも酔っているせいか頭が回らない亜季。 よく分からないので首を傾げる。すると櫻井課長は目線を逸らすと、車から出ようとしてきた。「悪い……やっぱり頭を冷やしてくる」(何で櫻井課長が車から出ようとするの? 嫌だ。行かないほしい) 亜季は必死に腕を引っ張って止める。「ま、待って下さい! 私を置いて、外に出て行かないで下さい」「あ、こら。そんなに引っ張るな!?」 引っ張ったため衝撃で、櫻井課長の胸元に倒れ込む亜季。そのまま抱き締められた状態になってしまった。 お互い見つめ合う。 そうすると自然と唇が近くなり、重なり合ってしまう。 これが櫻井課長との初めてのキスだった。 亜季は目をつぶり、その感触を味わう。櫻井課長も、そのまま何度も角度を変えて唇を重ねてくる。 甘いキスから深いキスになっていく。 ソッと唇を離すと、櫻井課長は照れたように目線を逸らしてきた。「そろそろ帰るか。夜は冷え込む」「……はい」 亜季は小さく頷いた。 その後は自宅まで無事に送ってもらった。 頭がぼんやりとキスのことばかり考えて、あんまり覚えていない。 そして翌朝。 目を覚ました亜季は普通の日常に戻るが、徐々に記憶を取り戻していく。 酔った後のことの重大さを思い出し、亜季は慌てるはめに。「どうしよう。私……昨日、櫻井課長とキスをしちゃった!?」 これって大変なことだ。それこそ、今後の対応次第

    Last Updated : 2025-02-22
  • 鬼課長とのお見合いで   第十九話・三角関係?

    (ど、どうしよう。どうやって顔を合わせたらいいの!?) 亜季は耳まで真っ赤になりながら狼狽えてしまう。 すると美奈子が話しかけてきた。「亜季。あんた、いつものように、お茶を淹れなくてもいいの? 私がついて行ってあげるから」「えっ?」  急にニコニコしながら、お茶を淹れるようにと誘ってくる。 これは、事情を聞く気だろう。 結局、美奈子と2人でお茶を淹れることに。 そして思った通り、理由を聞いてくるので事情を話した。 言うたびに恥ずかしくなってくるが。「えぇっ~嘘。課長とキスしちゃったの?」「ちょっ……美奈子。声大きいから……シッ」「ごめん、ごめん。というかマジで?へぇ~もうそんな関係になったのねぇ」「いや……私が酔って、強引に引っ張ったからで。なり行きというか」 亜季はモジモジしながら言う。 美奈子は大声で言うから余計に恥ずかしくなってくる。 そんなロマンティックな感じではない。むしろ恥ずかしい失態だった。「例えなり行きでも、キスをしたんだから、お互いに両思いみたいなもんじゃない。向こうは、亜季のことが好きなんだしさ」 確かに…お見合いをして気持ちを伝えられたけど。 まだ気持ちを通わせた訳ではない。あの時だけだし……。 お茶を注ぎ終わると、片付ける。そこで亜季はフッと疑問が生まれた。「櫻井課長…どうして私のことを好きになってくれたのかしら?」「う~ん。櫻井課長の場合は一目惚れだったんでしょ? ただ単にタイプだったんじゃない? 顔とか」「そうかな? けして私は美人じゃないのに?」 むしろ自分は普通の方だ。これといって取り柄もない。 だからか、なおさら好みと言われてもピンッとこなかった。 亜季は頭が余計に混乱してきた。「人の好みは、人それぞれよ! とにかく櫻井課長にとって、亜季は特別な存在なんだから。自信を持って自分からアピールしたら? 櫻井課長みたいな草食っぽい人は、積極的に押した方がいいと思うわよ。見た目は肉食系みたいだけどさ」「積極的にか……」 確かに、もっと櫻井課長と親しくなるためには、今以上に頑張らないといけないだろう。 もっと櫻井課長と何処かに行ったり、一緒に居たい。 それに草食系って言われてみれば、確かにそうかもしれない。お互いに。「私、頑張ってみる。上手くやれるか分からないけど」「うん。頑

    Last Updated : 2025-02-24
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十話。

    「どうしたんだい? こんなところで泣いたりして?」「だ、誰?」 誰かに声をかけられたので慌てて振り向くと、見知らない男性社員だった。 背が高く、明るい茶色の髪。キリッとしているが甘いマスク。 全体に整った顔立ちをしたイケメンだ。 こんなにカッコいいのなら女性社員が騒いでいるはずだから、記憶に残ると思うのだが見覚えがなかった。「あなたは……?」「えっ? あぁ、そうか。まだ社員証を付けていないから」 その男性はカバンから名刺を取り出して差し出してきた。 すると男性はニコッと微笑んでくる。「異動してきたばかりだから、こっちで働くのは、明日からなんだ! 今日は、ただの挨拶まわりに」 と、自己紹介をしてくれた。 名刺を見ると八神冬哉(やがみとうや)と書かれてあった。 名前すらイケメン。 上の方を見ると、我が社がアメリカの方で経営している姉妹会社からだった。「それは、失礼致しました。私は企画営業部の松井です!」「企画営業部の松井さんか~よろしく。それよりも、さっき泣いていたけど、どうしたの?」「えっと……それは」 亜季は、どう答えたらいいか戸惑った。 見ず知らずの男性に涙を見られるなんて恥ずかしい。しかも理由を聞かれても、話すには抵抗がある。「もしかして、仕事でミスして叱られたとか?」 鋭い勘にズキッと胸が痛んだ。しかも当たっているし。 恥ずかしくなって、亜季は下を向いて黙り込んでしまう。「あれ? もしかして図星だった?」「半分当たりです。まだ仕事のミスならいいのですが。上司のデスクにお茶をこぼしてしまって……」 ただのマヌケや馬鹿としか言いようがない。ありえないミスだ。 しかもそれで課長に叱られて、めそめそと泣いているとは情けないだろう。「へぇ~それは、また可愛らしいミスだね」(可愛らしいミス……? これが?) 男性社員の言葉に驚いて亜季は思わず顔を上げて見てしまう。 すると彼はニコッと微笑んできた。「それにしても、それぐらいのことで叱るなんて……その上司。器が小さいなぁ~」 彼は、さらにそう言ってきた。 違う……櫻井課長は器が小さくない。 同情してくれたのだろうけど、課長のことを悪く言われたようで嫌だった。 思わず亜季はムッとする。「課長は器が小さくありません。これは私のミスなんですから叱られて同然で

    Last Updated : 2025-03-04
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十一話。

     「ううん。私が大事な書類の上に、こぼしたのがいけなかったから。櫻井課長は何も悪くないわ」「まぁ…そうだけど。でも亜季とはキスまでした仲なのに」 美奈子は納得いかない様子だった。本当にいい友人で同僚だと思う。 亜季のことを心配してくれる。「上司として正しい判断だと思うわ。私に特別扱いして怒らないとかフェアではないもの」 それは、さすがに上司としてはまずいと思う。 ひいきに繋がってしまうし、周りが納得しないだろう。 櫻井課長も特別扱いはできないと最初から言っていたし。「あんたは、大人ねぇ~私なら怒っちゃうわよ」 美奈子は呆れながら、そう言ってきた。櫻井課長は意味もなく怒る人ではない。 それは理解している。 だから余計に、落ち込んでしまったのだ。「まぁ、気にしないことね。もしかしたら、今頃は反省しているかも知れないし」「……うん。だと……いいけど」 亜季は、ため息を吐く。 美奈子と一緒に部署に戻ることにするが緊張感のまま。もう一度謝りたいが。 しかし電話中だったため、声はかけられない状態だった。 仕方がない。後にするかと思い、自分の席に戻ることに。 チラッとデスクを見ると、自分のスマホがチカチカと光っていた。 仕事中に私用の携帯を使うのはダメなのだが、気になって確かめてみる。 メッセージアプリに着信が2件。1件目は櫻井課長からだった。『さっきは立場とはいえ、言い過ぎた。すまない。今夜でも、お詫びをさせてくれ』 そう書いてあった。 気にしてくれていたようだ。 言い過ぎたって。チラッと櫻井課長の方を見ると、まだ電話中だった。 亜季は嬉しくて心臓が高鳴った。 まさかメッセージをくれるなんて。早速、返事を書いた。『こちらこそ。申し訳ありませんでした。お詫びは、こちらからさせて下さい』 これで、良し。 いつも誘って貰うばかりなので、たまには亜季から誘った。 そう思いながらも送信すると、もう1つのメッセージを覗く。母親からだった。『今日話があるから、あなたのアパートで待っているから。そのまま帰って来て』 そう書いてあった。また、お説教だろうか? お見合いの件が、どうなったかは母親に言っていないからだ。 きっと心配していることだろう。「どうしたの? 亜季」「母親からメッセージ。今日私のアパートに来るって。多分、説

    Last Updated : 2025-03-04
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十二話。

    母に言われると思っていたけど、やっぱり言われたか。家事のことを。 「分かっているわよ。自宅に居る時は、なるべく作るようにしているから」 「ならいいけど……。そんなことよりも、あれから、どうなったのよ? あなたたちの関係は?」 「うっ……」  早速、直球に言われてしまう。 どう反応したらいいか分からず戸惑った。課長とは色々あったばかりだ。 「まぁ…上司だし。毎日会っているわよ」 「会社のことも大事だけど、プライベートのことよ! まさか、断っていないでしょうね!?」  もし断ったりしていたら、うるさかっただろう。今も、うるさいのに。 それこそ顔向けができないとか色々言われそう。 亜季は、ため息を吐きながら座ると手を合わせる。 「いただきます。大丈夫。こないだも一緒に食事をしたばかりだし」 「まぁ、本当なの!? で、どこまで話が進んでいるの? 式の予定はいつ?」  式って……話が飛び過ぎだろう。 いくら、お見合いしたからって、いきなり結婚の話とは。今の時代はデートを重ねた上で決めることも多いのに。 「う~ん。そこそこ。たまに一緒に食事するだけ」  さすがに母親にデートしてキスをしたなんて恥ずかしくて言えない。 しかも、今日なんて叱られたなんて……。 言ったら、何を言われるか分かったものではない。 「はぁっ? それだけ? あんた……学生ではないんだから、せめて将来のことぐらい話し合いなさいよね」 「そんな無茶を言わないでよ…上司なんだから」 「いい年なんだから、それぐらいの強引があってもいいわよ。話を進めないと結婚なんて意識されないわよ!? 特に、あんたの場合は」 「そんなにガツガツとできないわよ。私だって立場があるし」  あんたの場合って。母親ながら酷い。 亜季は母の言葉にショックを受ける。それに櫻井課長だって、立場がある。 そう簡単に決められないだろう。亜季自身も。 「ハァッ~これだと結婚は、いつになるか分かったものではないわね。あんまり曖昧にしていると向こうから断られるわよ?」  母は、さらに酷いことを言ってくる。ズキッと、何だか胸が痛む。 櫻井課長に断られる。確かに、そういうことだって有りえるだろう。 亜季が想ったところで向こうが呆れ、愛想を尽かされたら終わりだ。 縁談も無くなる。言葉が出ない。 「とにかく愛想を尽かされないように頑張りなさい。あんたに、次があるかど

    Last Updated : 2025-03-05
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十三話。

    翌日。昨日のことを考えながら、会社に行く。 そうしたら何やら女子社員が集まって色めいていた。 どうしたのだろう? 何かのイベントでもあったのだろうか? 不思議そうに部署に入ると、先に会社に来ていた美奈子が亜季に気づいた。 そして、ウキウキした表情でこちらに来る。「亜季。おはよう。ねぇ、聞いてよ~今日、異動してきた社員が凄いイケメンらしいわよ!?」(異動してきたイケメン?) その瞬間、昨日のイケメン男性社員のことを思い出した。 そういえば、今日からって言っていたような?「……そうなんだ」 思わず亜季の表情が引きつる。 恥ずかしいところを見られて、逃げてしまったばかり。 できたら二度と会いたくないと思っていた人物だ。「しかも、アメリカの姉妹会社から海外企画営業部に異動したらしいの。期待のエリートで有名大学出身とか。かなりレベル高いらしいわよ?」 美奈子の表情は、かなりウキウキしていた。 亜季は余計に返事に困ってしまう。すでに会ってしまった後だけど。 もう学生のような雰囲気で色めく女性社員たち。 その雰囲気に亜季は一歩下がって見ていた。 前の亜季なら多少なりとも興味を持ったかも知れない。 エリートで、かなりのイケメン。女子なら一度ぐらい興味を持つ人物だろう。 だが今の亜季には、まったく惹きつけられるものが無かった。 頭の中は、課長のことばかり。 課長との今後をどうするかは、母親の言葉が頭の中から離れない。 むしろ、そちらの方が重要だった。「もう……反応が薄いわねぇ~亜季。まぁ、あんたの場合は意中の人が居るから、仕方がないけど」「な、別にそんな訳ではないから」 そう話す美奈子に亜季の頬は熱くなってしまった。 すると、その瞬間だった。大きな怒鳴り声が聞こえてくる。「こら、お前らココは会社だぞ!? 朝から無駄口叩いている前に、さっさと仕事を片付けろ」 出勤してすぐに櫻井課長の怒鳴り声が社内に響いた。一同静まり返る。 そして周りは、いつもの通りに自分らの仕事に戻った。 ただし女子社員は不満そうだったけど……。 (課長……さすがだわ)  一言で全員をまとめるなんて、なかなかできないことだろう。 亜季は、別のことで感心していた。 そして自分もデスクに戻ると、美奈子がこっそりと愚痴ってくる。「も~あんたの彼氏

    Last Updated : 2025-03-06
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十四話。

    「これは、八神さん。こんにちは」 「あ、名前覚えてくれたんだ? 嬉しいなぁ~もしかして、もうお昼休み済んだの?」 「えっ? はい…まぁ」  何故お昼休みのことを気にするのだろうか? 亜季は不思議に思いながら首を傾げると、八神さんは、残念そうな表情をしてきた。 「そっか…残念。せっかくだから昨日のことも踏まえて、一緒にランチを食べながら話を聞きたかったのにな」 (えっ? 何故……それを持ち出すの!?)  忘れていてほしかったのに。しかもこんなところで。 亜季は恥ずかしくていたたまれなくなる。 周りの女性社員たちの冷ややかな目線が怖い。 「す、すみませんでした」  亜季は頭を下げると、慌ててその場から逃げ出してしまった。 美奈子がエレベーターそばまで慌てて追いかけてくれたが。 息を切らしながら立ち止まる亜季。全速力で逃げたためヘトヘトだった。 「もう~亜季ったら急に逃げ出さないでよ!? せっかく、あのイケメンの八神さんと話ができたのに」 「……ごめん。どうしてもいたたまれなくて、」  だって、昨日のことを持ち出すからだ。 亜季にとっては忘れて欲しかった。見た記憶を全部。 なのにバッチリ覚えているし。 「あんた、もしかして昨日のことで何か見られたの? 泣いていたとか言っていたじゃない?」 「うっ……」  ここにも鋭い人が居たようだ。 恥ずかしくて思わず黙り込んでしまう。すると美奈子は察したのか、ため息を吐いてきた。 「図星か……」 「だって、まさか彼が来るなんて思わなかったんだもん。しかも泣き顔なんて…恥ずかしいわ」 「まぁ、確かに。でも、吐いたところを見られるよりはマシでしょ? 気にしないことよ!」  確かに吐いたところを見られるよりマシだけど。しかし例えが嫌過ぎる。 思わず宴会の吐いた時のことを思い出してしまった。 他に、もっといい例えがなかったのだろうか? 「美奈子。例えが、ちょっと」 「あら。私は衝撃的だったけど? フフッ……ほら、エレベーターが来たから乗るわよ。どーせ向こうも興味本位だから、その内に忘れるでしょ? 気にしない、気にしない」  意外と気楽に考える美奈子に亜季は苦笑いをする。 そうだといいのだが。 だけど彼の興味本位は、それで終わらなかった。  仕事が終わり、帰るために廊下を歩いていると、「松井さん」と誰かに呼ばれる。 (あの声は……まさか!?)

    Last Updated : 2025-03-06
  • 鬼課長とのお見合いで   第二十五話。

    「松井さんって、お酒飲める方?」 「いえ……あまり得意ではないですね」  以前の失敗を繰り返さないようにしたい。 どうもお酒を飲むと気持ちが大胆になってしまう。 もし八神にも、やったら大変なことになってしまうだろう。 「そうなんだ? 俺はワインでも飲もうかなぁ~」  八神は鼻歌を口ずさみながらメニュー表を見ている。 彼は随分と陽気な性格をしている。チャラいと言うか。 「そういえば、あれからどうなったの? 上司と上手くやれている?」 「うっ……」  亜季は驚いて飲んでいたお冷を喉に詰まった。 どうも彼は、それが気になって仕方がないようだ。 気にしなくてもいいのに。 「も、もちろんです。あれから、ちゃんと謝りましたし。課長も分かってくれる方なので。それに、後で言い過ぎたと言って謝って下さいました」 「ふ~ん。それなら良かった」  八神はニコッと微笑んできた。 どうして、そこまで自分のことを気にするのだろうか? 別に面白い内容でもないのに。 「あの~何でそんなに気にするんですか? 私のことを」 「う~ん? 泣いていたからかな?」 「泣いていたからって……そんな興味をひくようなものでは?」 亜季は意味が分からないと首を傾げる。 むしろ、いい年した社会人が泣いているとか自分の中では恥ずかしかったのに。 「だって上司に怒られたからって、泣いていたくせに俺が同情して言ったら、怒ったでしょ? 課長のせいではないって。言い訳もしなかった。そういうところを見て、純粋だなぁ~と思ってさ。君に興味を持ったんだ!」  そう話す彼に心臓が高鳴ってしまった。 まさか、男性にそんな風に見てもらえとは思わなかったので、余計に。 亜季に取ったら恥ずかしいことばかり。 怒ったのだって、課長を悪く言われて嫌だったわけで、純粋とかではない。 「八神さん……誤解をしています。私は自分が原因だから認めたわけで、ただの自業自得なだけです」  褒められるような事は何もしていない。 しかし彼はクスッと微笑んでくる。 「だからいいんだよ。今時の子なら言い訳や逆ギレのオンパレードだよ? 自分の非を素直に認められるなんて凄いよ。今の君のようにね」  その言葉に思わず亜季の心臓がまた高鳴ってしまった。 そんな風に思ってくれていると思うと悪い気はしない。 「……ありがとうございます」 「フフッ、照れている。まぁ気になるのは

    Last Updated : 2025-03-07

Latest chapter

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十二話。

    「そういうのを人は、甘えだと言うんだ。確かに、失恋は時間が経てば解決することもある。しかし、それから逃げたり自分の気持ちに嘘をつけば、必ず後悔する。君のは、自分から逃げているだけだ。相手が、どうとか言い訳をして、気持ちをひた隠しにしているだけ。そんな奴が成長なんて期待ができるわけがないだろう」 青柳は強い口調で厳しく言う。その言葉は亜季の心に深く刺さった。 腹が立つほど図星を言われたからだろう。「だって……仕方がないではないですか!? 私は責任がある大きな仕事があるし、櫻井課長は海外に行ってしまう。私が止めることなんて無理だし」 だって……本当は行ってほしくなかった。 でも、彼の出世の邪魔なんてできない。 だったら、別れるしか選択肢がない。 それがいけないことなのだろうか?「……無理? それで、君は満足しているのか?」「……えっ?」「自分に嘘をついてまで我慢をして。今の現状を本当に満足ができているのかと聞いているんだな?」「満足って。そんなの……しているわけ」 そんなのしている訳がない。辛くて……今にも泣きだしそうだった。 ずっと後悔ばかりで、自分でも呆れるぐらい情けないだけ。 大きな仕事を任されて、充実しているとは言えなかった。「どうして、一緒について行かなかったんだ?」「だって……」 櫻井課長に、ついて来てほしいと言われなかった。 やらなければいけない大切な仕事だってある。それを目標に今まで頑張ってきたので放り投げることができないし。「離れたくないなら無理やりでも一緒について行けば良かっただろ? なのに……そんなこともしない。それは新しい環境や不安。仕事を言い訳にして、他人任せで相手を信じていなかったせいだ! どこかで、辞めてくれるのではないかとか、相手が動いてくれるまで待っていただけの甘えだ」「………」 青柳の言葉は、キツいが真実を言われているような気持ちになった。 胸がギュッと絞めつけられているみたいに苦しい。 そのせいか何も言い返せなかった。(自分は櫻井課長に甘えていた……?)「自分から逃げているだけの奴が、相手に振り向いてもらおうなんて考えが甘い。逃げるなら最後までぶつかってからにしろ」 青柳の言葉にハッとさせられる。(私……今までどうしていたんだっけ?) 櫻井課長に誤解を解いた時も……初めて泊ま

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十一話・『恋の決断』

    『初めてメッセージをします。あれから、どうですか? 元気にやっているのなら、いいのですが』 青柳は気遣って、わざわざメッセージを送ってくれたようだ。 やっぱり櫻井課長に似ている。そういうところが。 亜季は急いでメッセージを返した。『メールとお気遣いありがとうございます。元気にしているかとなると、微妙なところです。少しずつ』 そこから先が打てなかった。 前向きにと打つはずだったのに、嘘を言っているような気がして。 あれからも立ち直ってもいないくせに。 (消そう……) 亜季は消去ボタンを押そうとしたが、手が震えてしまう。そのまま誤って送ってしまった。「あっ~どうしよう!? あんな中途半端な書き方をしたメッセージだなんて、相手に対して失礼じゃない」 送られた方は驚いてしまうだろう。何が言いたいのか分からないし。 謝りのメッセージを……。 亜季はそう思っていたら、またメッセージが届いた。青柳からだ。『返事ありがとうございます。さっきのメッセージを読ませてもらいました。無理に、元気に振る舞う必要はないと思います。悩み、相手の気持ちを考えているからこそ、人は成長ができるものだと思います!』 そう書かれていた。「悩み、相手の気持ちを考えているからこそ、成長ができる……?) 今の亜季には心に響く言葉だった。 もう一度メッセージを書いて送ってみた。『励ましの言葉ありがとうございます。凄く心に響きました。私は成長ができるでしょうか?』 すると、すぐにメッセージが届いた。『それは、俺にも分からない。でも君が成長をしたいと思うのなら、それは良い方向に向かうのではないか?』 それから青柳とは、自然とメッセージのやり取りが続く。 悩み相談とか……色々と。 彼は亜季に的確なアドバイスをしてくれるだけではなくて、聞いてもくれる。 そうすると自然と自分の心の中が、さらけ出せるようになってきた。 どうして、こんなにも心の中のことが言えるのだろうか? 不思議だ。 そんな時、青柳から『会わないか?』とメッセージが届いた。(会う……青柳さんと?) 正直、亜季は戸惑ってしまう。 まさか、会いたいと言ってくるとは思ってもみなかったからだ。 こんなにも相談に乗ってくれるし、素敵な人だと思う。だけど、今は新しい恋とか考えられなかった。 向こうは、た

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十話。

    (あ、照れているわ!?) 気づくと少し嬉しくなった。あぁ、やっぱり似ていると。 亜季は心の中でそう思った。雰囲気だけではない。 無愛想の中に、ちゃんと優しさが隠れているところ。笑うと何だか可愛いところまで。 心臓がトクンッと高鳴った。これは、どちらに高鳴ったのだろうか? そしてコーヒーを飲み終わると、帰ることに。 亜季は自分の代金を出すために財布を取り出そうとする。「いい……君の分も俺が払うから」「えっ……でも」「泣かせた上に、金まで払わせていたら男の面目が立たない」 青柳は、そう言うと亜季の分まで支払ってくれた。 泣いたのは自分が原因で彼のせいではない。何だか逆に、申し訳ない気持ちになっていく。 亜季は、お店を出るとお礼を言う。「あの……ご馳走様でした」「いや、こちらこそ悪かったな。じゃあ」 そのまま青柳は、立ち去ろうとする。 すると亜季は「あの……」と思わず彼に声をかけて止めてしまった。 何故、止めたのか亜季自身も分からない。気づいたら呼び止めてしまったからだ。「……何?」 青柳は振り向いてくれた。 止めた理由を何も考えていなかったため、亜季は戸惑ってしまう。 何か言わなくては、余計に気まずい。頭の中が混乱してきた。「よ、良かったらメッセージアプリのⅠDを教えて下さい」「はぁっ?」 青柳は驚いて聞き返してきた。それもそうだろう。 迷惑かけただけではなく、急にこんなことを言ってくるのだから。 亜季は、自分でも何を言い出すんだと思ってしまう。 体中が熱くなってしまう。どうも時々、大胆なことを言う癖がある。 櫻井課長の時もそうだった。焦りなのか、ただの無鉄砲なのか分からないけど。「いえ……何でもありません。今、言ったことは忘れて下さい」 亜季は、火照ってしまった顔を隠すために下を向いた。 馬鹿なことを言ってはダメ。彼は櫻井課長ではないのに。 恥ずかし過ぎて涙が出てくる。「別にいいけど」「えっ……?」 亜季は驚いて思わず頭を上げた。 今、確かにいいって言ったような気がする。聞き間違いではないのなら。 青柳を見ると、黙って亜季を見つめていた。本当に?「泣かれたあげく、落ち込まれると逆に気になってしまう。相談ぐらいなら乗ってやる」「あ、ありがとうございます」 ぶっきらぼうながらも、そう言ってく

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十九話。

    「……ありがとうございます」 亜季は、そのハンカチを受け取ると遠慮しながらも涙を拭いた。 しかし、さすがに駅近くの商店街で涙を流しているわけにもいかず、とりあえず亜季と青柳は近くの喫茶店に入ることにした。。 お互いにコーヒーを頼み、沈黙したまま時間だけが過ぎて行く。 黙って泣き止むのを待っていてくれる青柳。彼もまた優しい人なのだろう。 亜季とは、合コンで会ったきりの関係。放って帰ってもいいはずなのに、そばに居てくれた。そのお陰なのか、少し落ち着いてきた。 店員が持ってきたコーヒーにミルクと砂糖を入れて、静かにかき混ぜる。 一口飲むとホッと気持ちが楽になった。「……落ち着いたか?」「はい。お見苦しいところをお見せして、すみませんでした」「また謝っている。 こういう時は、ありがとう……と言うものだ!」 申し訳なさそうに謝罪をすると青柳は、そう言って指摘をしてきた。 亜季は驚いて彼を見る。 彼は、黙ったまま自分のカップに口をつけていた。「えっと……ありがとうございます」 言われた通りお礼を言う。そうすると、こちらをチラッと見て静かに微笑んでくれた。「どういたしまして」と言いながら。 フッと微笑む表情まで櫻井課長に似ているからだろうか? 彼の行動に亜季はドキッと胸が高鳴り動揺する。そして気になってしまう。「あの……青柳さんって、おいくつなんですか?」 急に何を言い出したのか自分でも驚く亜季だった。でも話を続けたくて、思わず声が出てしまったようだ。。 青柳は一瞬目を丸くする。驚いたのだろう。「28だけど?」「えっ……えぇっ!?」 てっきり30代だと思っていた。意外過ぎる年齢に亜季は驚いてしまった。 しかも同い年だったとは。 落ち着いているせいか、またハッキリした顔立ちだからか。「み、見えませんね……28には」「それって、俺が老けていると言いたいのか?」「えっ? いや、そういう意味ではなくて。落ち着いているというか、その……大人っぽいていうか……」 亜季は必死にフォローするつもりが、なかなか上手くフォローができない。 むしろ必死過ぎて、自分でも何を言っているのか分からないぐらいだ。「結局は、老けていると言いたいのか?」「いや……けして、そういう意味では……すみません」 言えば、言うほど墓穴を掘ってしまう。結局

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十八話。

    「えっと……雰囲気とか、話し方とか色々。あ、そんなことを言われても不愉快ですよね。すみません」「あんた。謝ってばかりだな」「えっ? 謝ってばかり?」 彼の言葉に驚いてしまった。そんなに謝っているのだろうか?「えっ……そうですか? すみません……あっ」 確かに本当だった。また謝っている。 申し訳ないと思っているせいかも知れないが。なんだか、余計に恥ずかしくなってきた。「……その櫻井課長って人。もしかして、あんたの好きな人か?」 何気ない青柳って人の発言にドキッとした。 返事に困っていると青柳は、「悪い。図星だったか?」と言って、謝ってきた。「いえ……好きな人ってよりも以前付き合っていた人です。残念ながら別れてしまいましたが」 亜季は寂しそうに苦笑いをする。 もう過去になってしまった人なのに、思い出して落ち込む自分が情けない。「ちょっと、そこの二人。何、葬式みたいに辛気くさい雰囲気を出しているのよ? せっかくの合コンなんだから、もう少し話して盛り上がりなさいよ!?」「……そう言われても」 美奈子に叱る亜季は困ってしまう。ガツガツしているわけでもないため、盛り上がれと言われても。 チラッと見ると青柳は気にすることもなく、お酒を飲み始めていたけど。 結局、その後も話が盛り上がる事もなく終わってしまった。 美奈子には呆れられてしまったが、どうしても次の恋愛がしたいと踏み切れなかった。意外と自分は未練が残る性格らしい。 情けないと思うけど、こればかりは、どうしようもない。 それから数日後。 何もないまま、ただ時間が過ぎて行く。窓から外を見ると、青空が広がり天気がいい。課長…元気だろうか? まだ、そう経っていないから変わらないと思うけど、会いたいと思ってしまう。。 別れを切り出したのは、自分のくせに会いたくて堪らない。 涙が溢れそうになりながらも、ただ青空を眺めていた。 夕方。仕事が終わり駅近くを歩いていた。 あの小料理屋には最近は行っていない。 行くと櫻井課長のことを思い出してしまうため遠慮していた。 亜季は一人でトボトボと歩いていると、向こうから見覚えのある人が歩いてきた。(あれ? あの人は……?) 合コンで出会った青柳って人だった。彼も亜季に気づいて立ち止まった。「あれ? あんたは……あの時の」「えっと……あの

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十七話。

     お昼休み。喫茶店でランチを食べていたところ。 見かねた美奈子がそう言ってくる。(失恋って。美奈子……その言葉は傷つく) それに合コンって。彼女の突然の発言に驚いてしまった。 行ったこともないのに。「いくら何でも……合コンは、ちょっと」「何を言っているのよ。、もしかしたら新しい出会いだってあるかも知れないじゃない。このまま失恋に浸っているよりも全然いいわよ!」「……美奈子」 失恋に浸る。確かに、このままだといけないと思う。 自分で終わらせた以上は、もう櫻井課長のことは忘れないといけないだろう。「合コンのセッテングなら、私が他の子に頼んであげるから。行くだけ行ってみなさい」 美奈子の強くそう言われてしまった。 そして、やや強引でもあるが亜季は合コンを引き受けることに。 そこに出会いがあるとは思えない。それでも櫻井課長を忘れる、きっかけになるのならと思ったからだ。 3日後。仕事が終わると美奈子に案内されて、お洒落な居酒屋に向かった。 フレンチ料理が多く、若い世代が人気そうなお店だ。 中に入ると、既に数人の男女が集まっていた。「お待たせ~」「美奈子~遅いわよ。ほら、座って座って」 1人の女性がそう言って招き入れてくれた。席に座ると、それぞれ自己紹介とアピールを始める。 美奈子はノリノリでアピールをするが、場慣れしていない亜季は完全に浮いてしまっていたが。 周りが慣れ始めた頃。私は1人の男性に目が行く。彼も慣れていないようだ。 皆と話していることもせずに1人でちびちびと隅で、お酒を飲んでいた。(あ、何だか智和さんに似ている) 怖くて近寄り難い雰囲気で物静かなところとか。顔立ちも似ている。 この彼は眼鏡をかけているが……。 少し寂しそうに見えるのは、自分とも似ている気がする。 亜季は少し彼のことが気になって、チラチラと見ていた。 (やっぱり似ているかも……智和さんに) すると酔った美奈子が亜季に声をかけてきた。「ちょっと、亜季。誰か気になる人でも居た? あ、もしかして、あの人が気になるの?」「えっ!?」 亜季は美奈子の言葉に驚いた。 ただ櫻井課長に似ていたから、少し見ていただけだ。慌てて首を振った。「違う、違う。そんなことないわよ」「いいじゃん。よし、席替えターイム」「ちょっ……美奈子!?」 美奈子

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十六話。

     そして私達は別れる。 別れたと言っても会社に行けば、変わらずに上司と部下の関係。普通に顔を合わせるし、必要なら会話だってする。「課長。企画書のことですが。このような感じで、どうでしょうか?」「あぁ、そこに置いておいてくれ。電話の後で見るから」「はい。お願いします」 櫻井課長は電話をしながら、そう言ってきた。 亜季は返事をするとデスクに企画書を置く。自分の席に戻った。 いつもと変わらない櫻井課長の姿だ。 しかし、その姿を見られるのは……あと少しだけ。 部長になる話は引き受けたと別の人から聞いた。これで良かったのだ! これで櫻井課長は何も障害がなく前に進める。 部長として新たなスタートが切れると言うものだ。「ねぇ、あんた本当に後悔していないの? 別れて」 仕事帰りに久しぶりに美奈子と食事をした。いつものイタリアンのお店で。 バスタを食べていると美奈子が心配そうに亜季に尋ねてきた。「……後悔していないと言ったら嘘になるわね」「だったら別れなかったら良かったのに……」「無理よ。そうでもしないと彼は、あの話を断るわ。あの人は優しいから」 今でも胸が痛む。無意識に櫻井課長のことばかり考えてしまうぐらいに。 でも櫻井課長は亜季の気持ちを優先するばかりに、自分の気持ちを犠牲にする。 それだけは、してほしくなかった。「私から見たら……亜季。あんたも十分優しいわよ?」「えっ?」「今時、自分の気持ちを優先して揉めるカップルが多い中で、あんた達は、お互いに譲り合っているじゃない。それって……お互いに優しいからで、相手を想い合っているからよね。本当……お似合いだったと思うわよ。あんた達は」 呆れつつも美奈子は、そう言って励ましてくれた。「ありがとう。本当ね。支え合えるような恋人同士になりたかったな」 だけど別れてしまった自分たちには、もう何もできない。 自宅に着くとスマホを覗き込む。メッセージの着信0件。 あれから櫻井課長とはメッセージをしなくなった。 別れたのだから当たり前だけど……寂しい。 アドレスを消す人。未だに残したり、連絡を取り合う人。亜季は、ずっと消さずに残してある。 もしかしたらメール来るかも……とか、そんなことをつい考えてしまう。 櫻井課長は生真面目で気遣う人だから遠慮して、送って来るわけがないのに。(未練

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十五話。

     私は、その夜。櫻井課長にメッセージを送った。大事な話があると。 待ち合わせた場所は小料理屋にするか迷ったが、綺麗な夜景が見える場所にした。  最後に彼と見たかったからだ。「大事な話って、何だ?」 櫻井課長から口を開いてきた。 亜季は静かに決心すると櫻井課長の目を見て話した。 星が見える美しい夜景を見ているはずなのに。亜季の心は真っ暗で、ずっと曇り空のようだ。 でも言わなくては……櫻井課長のためにも。「課長……私と別れて下さい」「……えっ?」 それを聞いた櫻井課長は驚いて一瞬固まっていた。しかし、すぐに我に返って否定してくる。 「どうしてだ!? もしかしてアメリカに行くことで決めたのか? 俺は断わると言っているだろう。君は、それでいいのか?」 いい訳がない。でも、このままではいけない。 自分と一緒に居ては、櫻井課長の負担になるだけで、ダメにしてしまう。 別れ時なのだ。「私……昔から智和さんのことが苦手でした。いつも怒ってばかりで怖いと、美奈……玉田さんと噂をしていて。だから智和さんとお見合いをすると知った時は地獄かと思いました。でも少しずつ、いろんな性格が知れました。優しさや温かさとか……」 いろんなことが思い出して行く。 けして怖い人ではなかった。本当は誰よりも優しくて気遣いができる温かい人。 この人のことを知れば、知るほど好きになった。かけがえのない人になっていくのが分かった。 でも…それだけではダメ。好きになるだけでは。 亜季が彼にしてあげられるのは、これぐらいしかない。「でも……ダメなんです。智和さんでは、私は幸せになれない。だから……もう終わりにして下さい。そして、海外に行って下さい」 亜季は泣きたいのを必死に我慢しながら伝えた。 涙なんて引っ込め。櫻井課長に後悔させないためにも我慢しないと。 亜季は後ろを向いた。 涙に気づかれないように。「……亜季……お前」「……私、昔から諦めのいい方なんです。 立ち直りも早いし。きっと課長のことなんて、すぐに忘れて他に好きな人ができているかも。八神さんも、まだ私のことを好きだと言ってくれてるし。乗り換えようかなぁ~なんて……」 お願い。受け入れて……心が揺らぐ前に。 その時だった。櫻井課長は亜季を後ろから抱き締めてきた。 亜季は驚くが、彼はボソッとこう言った。

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十四話。

    八神の言葉が、ずっと亜季の頭の中に残っている。 あれから八神と別れて、自宅に帰ってもずっと亜季は考え込んでいた。 どうしたらいいのだろうか? 次の日。会社に行くと、既に噂が部署の中まで広まっていた。 櫻井課長が姉妹会社に大抜擢されて、アメリカに課長として行くと。 いつの間に聞きつけたのだろうか。「亜季。本当なの?櫻井課長がアメリカの会社で大出世するって話って」「ちょっと……美奈子。声大きいから!?」 美奈子が亜季が来たのを確認すると、大きな声で真相を聞いてくる。 亜季は慌てて止めるが周りに聞かれてしまい、さらに騒ぎになってしまった。 どうしよう。こんなに騒ぎになってしまうなんて。「あの、まだ櫻井課長は迷っているみたいで。断わるかもしれないし」「どうして? こんな大出世の話を断る奴なんていないだろ? いたら、ただの馬鹿じゃん」 そう言ったのは、美奈子ではなくて一人の男性社員だった。そう言われると亜季の胸が痛んだ。 確かにそうなのだ。 こんな出世を断る人の方がおかしいのだろう。「……私では何も言えませんが、そういう話はあるみたいです」 周りは、さらに騒ぎ出した。驚く人や喜ぶ人も多く、なおさら否定もしにくい。 やはり櫻井課長は部長になるべき人なのだろう。断わるような馬鹿なことはしてはならない。「だとすると亜季は……どうするの? ついて行くの?」「私は、行かないわ。大きな仕事があるし。そのために頑張ってきたんだもの。それに、英語だって話せない。とても無理よ」「どうして? じゃあ、遠距離になるの? 亜季……それでいいの?」 美奈子は、それを聞いて驚いていた。 良くはない。でも、ついて行く勇気は亜季には難しかった。 それに大切な仕事がある。 そうしたら櫻井課長がいつものように出勤してきた。「おはよう。何だ? また、お前らは騒ぎを起こしているのか?」「おはようございます。課長、聞きましたよ!? 海外で部長になることが決まったらしいですね?」「凄いです。さすが課長」 皆は尊敬の眼差しで、そう言ってきた。 課櫻井長は既に知っていることに驚いていたが。「お前ら……いつの間に、そんな情報を知ったんだ? まったく、噂だけは仕入れるのが早いな」 呆れながら言っているのを、私亜季は後ろで黙って眺めていた。 これが櫻井課長の本来

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status