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第五十三話。

Penulis: 愛月花音
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-01 17:07:01

 それからの亜季の行動は早かった。

 一身上の都合で会社を辞めることにした。もちろん迷惑にならないように、仕事の引き継ぎはしっかりとやる。

 任された遊園地の担当は、男性の後輩に譲ることにした。彼は目を輝かせて喜んでいた。

 念のために必要なアドバイスをいくつか教えておく。

 そしてパスポートや飛行機のチケットを取った。

 他の人から見たら、せっかくの担当なのにとか、考えなしの無鉄砲な行動をしていると思われるかも知れない。

 それでも亜季自身は櫻井課長のところに行くと決めたのだ。

 美奈子に話したら、驚いていたが応援してくれた。

 そして飛行機でアメリカに旅立つ。

 目的地は櫻井課長の現在在籍している姉妹会社。不安がないわけではない。

 自分からフッた女を櫻井課長は受け入れてくれるだろうか?

 受け入れてくれたとしても初めての環境と、まともに話せない英語。

 上手くやれるかも分からない。

(智和さんは、きっと私の気持ちを配慮して、何も言わなかったかしら?)

 その可能性は高い。任せてくれた時は凄く応援してくれていた。

 そんなことも知らずに、勝手に誘ってくれなかったと拗ねていたのだろう。

 本当に情けない。今度は間違えないように、ちゃんと話し合いたい。

 亜季は飛行機の窓から外の景色を眺めながら、そう思った。

(課長……会いたい。それでも私は……もう一度)

 飛行機は何時間もかけて、アメリカに向かって飛んで行った。

 そして無事にアメリカに到着する。

 空港から出ると、亜季は地図と場所を書いたメモをカバンから出して確認する。

 会社の場所は、八神から聞いた。 そして詳しく場所を書いた英語のメモ。

 彼にお願いをして書いてもらった。

 亜季の決心を聞いた八神は協力をしてくれると言ってくれた。

 彼には本当に悪いことをしたと思っている。自分の勝手なワガママに。

 タクシーの運転手に、そのメモを渡して会社まで行ってもらう。

 自分の気持ちを心に秘めながら、タクシーは走り続けた。

 そして、しばらくタクシーで走っていると、目的の会社が見えてきた。

 櫻井課長が新しく勤めている会社は思った以上に凄く大きかった。

(ココで課長が働いているのね……凄い)

 タクシー代とチップを払うと、降りて会社の中に入って行く。

 受付で櫻井課長の所属している課を尋ねた。しかし下手な英
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     それからの亜季の行動は早かった。 一身上の都合で会社を辞めることにした。もちろん迷惑にならないように、仕事の引き継ぎはしっかりとやる。 任された遊園地の担当は、男性の後輩に譲ることにした。彼は目を輝かせて喜んでいた。 念のために必要なアドバイスをいくつか教えておく。 そしてパスポートや飛行機のチケットを取った。 他の人から見たら、せっかくの担当なのにとか、考えなしの無鉄砲な行動をしていると思われるかも知れない。 それでも亜季自身は櫻井課長のところに行くと決めたのだ。 美奈子に話したら、驚いていたが応援してくれた。 そして飛行機でアメリカに旅立つ。 目的地は櫻井課長の現在在籍している姉妹会社。不安がないわけではない。 自分からフッた女を櫻井課長は受け入れてくれるだろうか? 受け入れてくれたとしても初めての環境と、まともに話せない英語。 上手くやれるかも分からない。 (智和さんは、きっと私の気持ちを配慮して、何も言わなかったかしら?) その可能性は高い。任せてくれた時は凄く応援してくれていた。 そんなことも知らずに、勝手に誘ってくれなかったと拗ねていたのだろう。 本当に情けない。今度は間違えないように、ちゃんと話し合いたい。 亜季は飛行機の窓から外の景色を眺めながら、そう思った。(課長……会いたい。それでも私は……もう一度) 飛行機は何時間もかけて、アメリカに向かって飛んで行った。 そして無事にアメリカに到着する。 空港から出ると、亜季は地図と場所を書いたメモをカバンから出して確認する。 会社の場所は、八神から聞いた。 そして詳しく場所を書いた英語のメモ。 彼にお願いをして書いてもらった。 亜季の決心を聞いた八神は協力をしてくれると言ってくれた。 彼には本当に悪いことをしたと思っている。自分の勝手なワガママに。 タクシーの運転手に、そのメモを渡して会社まで行ってもらう。 自分の気持ちを心に秘めながら、タクシーは走り続けた。 そして、しばらくタクシーで走っていると、目的の会社が見えてきた。 櫻井課長が新しく勤めている会社は思った以上に凄く大きかった。 (ココで課長が働いているのね……凄い) タクシー代とチップを払うと、降りて会社の中に入って行く。 受付で櫻井課長の所属している課を尋ねた。しかし下手な英

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十二話。

    「そういうのを人は、甘えだと言うんだ。確かに、失恋は時間が経てば解決することもある。しかし、それから逃げたり自分の気持ちに嘘をつけば、必ず後悔する。君のは、自分から逃げているだけだ。相手が、どうとか言い訳をして、気持ちをひた隠しにしているだけ。そんな奴が成長なんて期待ができるわけがないだろう」 青柳は強い口調で厳しく言う。その言葉は亜季の心に深く刺さった。 腹が立つほど図星を言われたからだろう。「だって……仕方がないではないですか!? 私は責任がある大きな仕事があるし、櫻井課長は海外に行ってしまう。私が止めることなんて無理だし」 だって……本当は行ってほしくなかった。 でも、彼の出世の邪魔なんてできない。 だったら、別れるしか選択肢がない。 それがいけないことなのだろうか?「……無理? それで、君は満足しているのか?」「……えっ?」「自分に嘘をついてまで我慢をして。今の現状を本当に満足ができているのかと聞いているんだな?」「満足って。そんなの……しているわけ」 そんなのしている訳がない。辛くて……今にも泣きだしそうだった。 ずっと後悔ばかりで、自分でも呆れるぐらい情けないだけ。 大きな仕事を任されて、充実しているとは言えなかった。「どうして、一緒について行かなかったんだ?」「だって……」 櫻井課長に、ついて来てほしいと言われなかった。 やらなければいけない大切な仕事だってある。それを目標に今まで頑張ってきたので放り投げることができないし。「離れたくないなら無理やりでも一緒について行けば良かっただろ? なのに……そんなこともしない。それは新しい環境や不安。仕事を言い訳にして、他人任せで相手を信じていなかったせいだ! どこかで、辞めてくれるのではないかとか、相手が動いてくれるまで待っていただけの甘えだ」「………」 青柳の言葉は、キツいが真実を言われているような気持ちになった。 胸がギュッと絞めつけられているみたいに苦しい。 そのせいか何も言い返せなかった。(自分は櫻井課長に甘えていた……?)「自分から逃げているだけの奴が、相手に振り向いてもらおうなんて考えが甘い。逃げるなら最後までぶつかってからにしろ」 青柳の言葉にハッとさせられる。(私……今までどうしていたんだっけ?) 櫻井課長に誤解を解いた時も……初めて泊ま

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十一話・『恋の決断』

    『初めてメッセージをします。あれから、どうですか? 元気にやっているのなら、いいのですが』 青柳は気遣って、わざわざメッセージを送ってくれたようだ。 やっぱり櫻井課長に似ている。そういうところが。 亜季は急いでメッセージを返した。『メールとお気遣いありがとうございます。元気にしているかとなると、微妙なところです。少しずつ』 そこから先が打てなかった。 前向きにと打つはずだったのに、嘘を言っているような気がして。 あれからも立ち直ってもいないくせに。 (消そう……) 亜季は消去ボタンを押そうとしたが、手が震えてしまう。そのまま誤って送ってしまった。「あっ~どうしよう!? あんな中途半端な書き方をしたメッセージだなんて、相手に対して失礼じゃない」 送られた方は驚いてしまうだろう。何が言いたいのか分からないし。 謝りのメッセージを……。 亜季はそう思っていたら、またメッセージが届いた。青柳からだ。『返事ありがとうございます。さっきのメッセージを読ませてもらいました。無理に、元気に振る舞う必要はないと思います。悩み、相手の気持ちを考えているからこそ、人は成長ができるものだと思います!』 そう書かれていた。「悩み、相手の気持ちを考えているからこそ、成長ができる……?) 今の亜季には心に響く言葉だった。 もう一度メッセージを書いて送ってみた。『励ましの言葉ありがとうございます。凄く心に響きました。私は成長ができるでしょうか?』 すると、すぐにメッセージが届いた。『それは、俺にも分からない。でも君が成長をしたいと思うのなら、それは良い方向に向かうのではないか?』 それから青柳とは、自然とメッセージのやり取りが続く。 悩み相談とか……色々と。 彼は亜季に的確なアドバイスをしてくれるだけではなくて、聞いてもくれる。 そうすると自然と自分の心の中が、さらけ出せるようになってきた。 どうして、こんなにも心の中のことが言えるのだろうか? 不思議だ。 そんな時、青柳から『会わないか?』とメッセージが届いた。(会う……青柳さんと?) 正直、亜季は戸惑ってしまう。 まさか、会いたいと言ってくるとは思ってもみなかったからだ。 こんなにも相談に乗ってくれるし、素敵な人だと思う。だけど、今は新しい恋とか考えられなかった。 向こうは、た

  • 鬼課長とのお見合いで   第五十話。

    (あ、照れているわ!?) 気づくと少し嬉しくなった。あぁ、やっぱり似ていると。 亜季は心の中でそう思った。雰囲気だけではない。 無愛想の中に、ちゃんと優しさが隠れているところ。笑うと何だか可愛いところまで。 心臓がトクンッと高鳴った。これは、どちらに高鳴ったのだろうか? そしてコーヒーを飲み終わると、帰ることに。 亜季は自分の代金を出すために財布を取り出そうとする。「いい……君の分も俺が払うから」「えっ……でも」「泣かせた上に、金まで払わせていたら男の面目が立たない」 青柳は、そう言うと亜季の分まで支払ってくれた。 泣いたのは自分が原因で彼のせいではない。何だか逆に、申し訳ない気持ちになっていく。 亜季は、お店を出るとお礼を言う。「あの……ご馳走様でした」「いや、こちらこそ悪かったな。じゃあ」 そのまま青柳は、立ち去ろうとする。 すると亜季は「あの……」と思わず彼に声をかけて止めてしまった。 何故、止めたのか亜季自身も分からない。気づいたら呼び止めてしまったからだ。「……何?」 青柳は振り向いてくれた。 止めた理由を何も考えていなかったため、亜季は戸惑ってしまう。 何か言わなくては、余計に気まずい。頭の中が混乱してきた。「よ、良かったらメッセージアプリのⅠDを教えて下さい」「はぁっ?」 青柳は驚いて聞き返してきた。それもそうだろう。 迷惑かけただけではなく、急にこんなことを言ってくるのだから。 亜季は、自分でも何を言い出すんだと思ってしまう。 体中が熱くなってしまう。どうも時々、大胆なことを言う癖がある。 櫻井課長の時もそうだった。焦りなのか、ただの無鉄砲なのか分からないけど。「いえ……何でもありません。今、言ったことは忘れて下さい」 亜季は、火照ってしまった顔を隠すために下を向いた。 馬鹿なことを言ってはダメ。彼は櫻井課長ではないのに。 恥ずかし過ぎて涙が出てくる。「別にいいけど」「えっ……?」 亜季は驚いて思わず頭を上げた。 今、確かにいいって言ったような気がする。聞き間違いではないのなら。 青柳を見ると、黙って亜季を見つめていた。本当に?「泣かれたあげく、落ち込まれると逆に気になってしまう。相談ぐらいなら乗ってやる」「あ、ありがとうございます」 ぶっきらぼうながらも、そう言ってく

  • 鬼課長とのお見合いで   第四十九話。

    「……ありがとうございます」 亜季は、そのハンカチを受け取ると遠慮しながらも涙を拭いた。 しかし、さすがに駅近くの商店街で涙を流しているわけにもいかず、とりあえず亜季と青柳は近くの喫茶店に入ることにした。。 お互いにコーヒーを頼み、沈黙したまま時間だけが過ぎて行く。 黙って泣き止むのを待っていてくれる青柳。彼もまた優しい人なのだろう。 亜季とは、合コンで会ったきりの関係。放って帰ってもいいはずなのに、そばに居てくれた。そのお陰なのか、少し落ち着いてきた。 店員が持ってきたコーヒーにミルクと砂糖を入れて、静かにかき混ぜる。 一口飲むとホッと気持ちが楽になった。「……落ち着いたか?」「はい。お見苦しいところをお見せして、すみませんでした」「また謝っている。 こういう時は、ありがとう……と言うものだ!」 申し訳なさそうに謝罪をすると青柳は、そう言って指摘をしてきた。 亜季は驚いて彼を見る。 彼は、黙ったまま自分のカップに口をつけていた。「えっと……ありがとうございます」 言われた通りお礼を言う。そうすると、こちらをチラッと見て静かに微笑んでくれた。「どういたしまして」と言いながら。 フッと微笑む表情まで櫻井課長に似ているからだろうか? 彼の行動に亜季はドキッと胸が高鳴り動揺する。そして気になってしまう。「あの……青柳さんって、おいくつなんですか?」 急に何を言い出したのか自分でも驚く亜季だった。でも話を続けたくて、思わず声が出てしまったようだ。。 青柳は一瞬目を丸くする。驚いたのだろう。「28だけど?」「えっ……えぇっ!?」 てっきり30代だと思っていた。意外過ぎる年齢に亜季は驚いてしまった。 しかも同い年だったとは。 落ち着いているせいか、またハッキリした顔立ちだからか。「み、見えませんね……28には」「それって、俺が老けていると言いたいのか?」「えっ? いや、そういう意味ではなくて。落ち着いているというか、その……大人っぽいていうか……」 亜季は必死にフォローするつもりが、なかなか上手くフォローができない。 むしろ必死過ぎて、自分でも何を言っているのか分からないぐらいだ。「結局は、老けていると言いたいのか?」「いや……けして、そういう意味では……すみません」 言えば、言うほど墓穴を掘ってしまう。結局

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