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第2話

期久はホテルの名前を告げると、振り返ることなく安平を連れて立ち去った。

だけど私は彼らを取り戻す気なんてこれっぽっちもなかったし、もちろん会いに行くこともあり得ない。

翌日の午後5時、私はようやく家を出て空港へ息子の翔を迎えに行った。

彼はこの数日義妹のところにいて、今日ひとりで海外から帰国する予定だった。

半月ぶりに会えるから、とても楽しみにしていた。

ところが空港に着いた途端、期久と安平に出くわした。

二人とも険しい顔をしていたけれど、私を見るなり目に輝きが戻った。

「ママ、そのエッグタルト、僕のために持ってきたの?ありがとう!やっぱり来てくれたんだね!」 安平は勢いよく私の手から箱を奪い、喜んでいた。

隣で期久は冷ややかに言った。「3時までに来るって言っただろ?今、何時だと思ってるんだ?美鈴みたいに時間を守れないのか?」

彼らの度重なる挑発に、さすがの私も頭にきた。

「エッグタルトは私の息子のためのもので、空港に来たのも彼を迎えに来ただけ。あなたたちには関係ないでしょ?」

期久と安平は私を笑いものにするように、冷ややかな視線を送ってきた。

彼らはこれまで何度もこうやって私を精神的に追い詰めてきた。

でも今、私の息子が駆け寄ってくる姿を目にした瞬間、彼らの自信満々の態度は滑稽にしか見えなかった。

「ママ!ママに会いたかったよ!」 息子は私の足に抱きつき目をキラキラさせていた。

私は彼を抱き上げ頬にキスをして言った。「ママも会いたかったよ。ごめんね、ママが持ってきたエッグタルト、ちょっと汚れちゃったから、帰ったら新しく作ってあげるね」

「うん、いいよ!ありがとう、ママ!」

その様子を見て期久は険しい顔で私を睨みつけ、安平もエッグタルトの箱を持ちながら顔色を失っていた。 二人とも取り乱している様子だった。

私は翔君を抱きしめ、彼らを無視してその場を離れた。

この茶番劇もこれで終わりかと思っていた。

しかし、それから半日も経たないうちに父子は再び現れた。

期久は翔君を指差して言った。「この子、全然お前に似てないな。嫌がらせで養子にしたんだろ」

「自分勝手なことばっかり言わないでよ!翔君はただ父親似なだけ」

彼らがまた現れたことに私は本当にうんざりしていた。 まるでガムのようにしつこい。

期久は信じないと言い、安平も顔を青ざめながら言った。「僕たち調べたんだ。君の夫なんて見たことないって。僕とパパを怒らせるために嘘ついてるんだろ?」

私は彼らが私を調査していたことに嫌気がさしたが、仕方なく本当のことを話した。「私の夫は俳優の藤崎恭介よ。メディアやファンにバレないように隠れて結婚したの」

期久は鼻で笑った。「藤崎恭介が、お前なんか相手にするかよ。嘘つくならもっとまともな話をしろ」

彼の目に映る私はいつも下らない存在だった。

彼に選ばれたことが光栄で、彼の側にずっといるべきだと思っているのだろう。

私は彼との無意味な争いを続ける気はなくちょうど店も閉める時間だったので、翔君を連れて店を出ることにした。

安平が追いかけてきた。「ママ、僕が小さい頃に悪いことをしたのは分かってる。ごめんね。僕たちと一緒に帰ろうよ」

期久も出てきた。「お願いする必要なんてないだろ?絵子、美鈴みたいに完璧でなくてもいいから、せめてそんなに我がまま言うな。階段を作ってやったんだから、素直に従った方がいいよ」

私は適当に返事をした。「そうね、美鈴は何もかも完璧よ。だから、私は身を引いてあなたたちに譲ったの。もう私のことは放っておいてくれる?」

期久は眉をひそめて言った。「離婚してから半年間、確かに美鈴と一緒にいた。でも、彼女とはどうしても馴染めなかった。最終的に一番しっくりくるのはお前だったんだ」

「他の人とうまくいかないからって、私を探しに来るの?期久、なんで私があんたのために待ってると思ったの?」

彼らに対して本当に嫌悪感しか湧かず、翔君の手を引いてその場を去ろうとした。

しかし次の瞬間期久は無理やり私を抱き上げた。

「もういい加減にしろ、絵子!駆け引きもほどほどにしろ!明日、会議があるんだ。お前と時間を潰してる暇はないんだよ。さっさと俺と帰るぞ!」

「離して!」

私は必死にもがいたが、解放されることなく車に押し込まれた瞬間、怒りが爆発しそうだった。

その時、恭介が現れたのだ。

「誰が駆け引きなんてしてるって?俺の嫁さん、結婚してるって何度も言ってるだろ?お前はバカか?人の言葉が理解できないのか?」

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