第9話

大学時代の夢を見た。

あの頃の私は歌うことが大好きだった。

学校で歌のコンテストが開かれるたび、私は必ず参加し、舞台の上で歌うたびに心が沸き立つのを感じた。

数々の賞を勝ち取り、成績は輝かしかった。

そのおかげで、私には多くの追っかけがいた。

その中の一人は、市内の大企業の御曹司だった。

あるコンテストの後、彼は花束を抱えて舞台裏に来て、私に告白した。

「僕の彼女になってほしい」

最初は穏やかに断ろうと思った。

しかし彼は先にこう言ったのだ。

「占い師に言われたんだよ。颯太は将来、君にとって足手まといになる。最悪、命まで奪われるかもしれないって。君は僕と一緒にいれば、もっと幸せになれるし、きっと成長できる」

その言葉――どこかで聞いたことがある気がした。

夢の中で、その御曹司の顔が急に颯太の顔と重なった。

颯太の澄んだ瞳は真っ直ぐで、まるで水滴が零れ落ちそうなほどに純粋だった。

彼は催眠をかけるように、私にこう言った。

「杏奈、僕は君の足手まといになんてならない。君が歌手になりたいなら、僕も一緒に夢を追いかけるよ。信じてほしい。僕はずっと君の味方だから！」

――はっと目が覚めるような気がした。

すべての始まりは、大学時代にあったのだ。

卒業後、未来に迷っていた私にとって、歌手という夢は唯一の道だった。

そして颯太は、働くことを選んだ。

「杏奈の夢のために、道を作るんだ」と。

日々が過ぎるにつれ、私の彼への愛は深まり、依存も大きくなっていった。そして、私は彼からのプロポーズを受け入れた。

だが、結婚してからすべてが変わった。

颯太の母が脳卒中で倒れ、介護が必要になった。

だがその頃の私たちには、ヘルパーを雇う余裕すらなかった。

私は、まだ人気の出ない歌手だった。収入も不安定で、生活は颯太の給料に頼っていた。

そして、ある日、彼が泥酔して帰宅し、私を抱きしめて泣いた。

「杏奈……俺、もう疲れたよ……」

その一言で、私は大きな決断を下した。

仕事をすべて辞め、彼の母の介護に専念することにしたのだ。

その結果――

彼はどんどん金持ちになっていった。

そして私は、何もかも失った。

この痛みが、何年もの間、私を蝕んだ。

それでも、どうしてか分からないけれど、私は彼に微かな期待を抱き続けていた。

その時、現実に