第4話

その後の数日間、千夏は私に何もしてこなかった。

看護師たちから聞いた話では、颯太が病院の入り口で千夏を怒鳴りつけ、その言葉はとてもひどかったそうだ。

そして、颯太に注意するようにと言われた。どうやら彼は怒りやすい症状を持っているらしい。

実際、私は彼が恐れているのだと分かっている。

高校時代、颯太と私は学校へ行く途中で大きな黒い犬に出会った。その犬は私たちに向かって狂ったように吠えてきた。

私は怖くて縮こまり、颯太の後ろに隠れて泣きじゃくった。

颯太は短い枝を持って、凶暴な顔をして悪口を言いながら、その犬を追い払った。

その後、私は彼の手を握って、彼の手のひらがびしょびしょに汗ばんでいるのを感じた。彼の目には恐怖がまだ残っていた。

あの時、私は気づいた。颯太は怖いことに直面すると、いつも強気な態度を取る。

その勇気に私は魅了されていた。

でも今、私はただ面倒に感じるだけだった。

どうしても理解できない。彼は私の命さえも気にしないのに、なぜ離婚したがらないのだろう？

次に颯太が来たとき、私はついに我慢できずに尋ねた。

「あなた、私に何か手伝わせたいことがあるんじゃないの？」

彼の目に一瞬、満足げな光が浮かんだ。

「見抜かれたか。来月、大事な投資会議があるんだ。一緒に来てほしい。もしチップの利点を生かして会社の投資を勝ち取れたら、それは会社にも、私たちにも大きな助けになる」

私は目を伏せて、彼に問いかけた。

「もし成功したら、私のお願いをひとつ聞いてくれる？」

「何だ？」

「その時に教える」

颯太は軽く笑い、私の鼻先を人差し指でつつきながら言った。

「まだ秘密にしておくのか」

学生時代、彼はよくこうして私をからかっていた。

いつも私を真っ赤にさせて、恥ずかしがらせていた。

結婚してからは、あまりこういうことはしなくなった。

その瞬間、私は驚きも恥ずかしさも感じなかった。

私は布団の中から手を出して、鼻をこすりながら黙っていた。

颯太はそれを見て、半分皮を剥いたリンゴをテーブルに放り投げ、病室を出て行った。