第87話

今では成瀬も優奈の性格をある程度理解していた。彼女は他人が先にちょっかいを出さなければ、決して自分から問題を起こすことはない。

成瀬が自分の味方にしてくれないのを見て、比奈は一層悲しげな表情を浮かべた。

「廉兄さん、私は本当にお姉ちゃんを手伝って茶碗蒸しを運ぼうとしただけなのに、不注意でひっくり返してしまったの。だけどお姉ちゃんは私がわざとやったと思い込んで、私を叩いたのよ......」

成瀬は数秒黙り込んでから、口を開いた。「わかった。もう帰っていい」

比奈の顔に驚きの表情が浮かんだ。彼は自分のためになんとかしてくれないのか？

「じゃあ、また日を改めて伺うわ。廉兄さん、お姉ちゃんを責めないで。私が余計なことをしたから、お姉ちゃんが怒ったの。私はお姉ちゃんを責めたりしないから」

成瀬の顔は静かなまま、深い感情を一切見せない。比奈は悲しそうな表情をしながら去っていった。

成瀬はしばらくリビングで探し回り、ようやく救急箱を見つけた。

彼は車椅子を動かして寝室に戻った。優奈はちょうど冷たい水で腕を洗い終え、洗面所から出てきたところだった。成瀬の手にある救急箱を見て、優奈の顔に意外の表情がよぎった。この時、成瀬は比奈を慰めているはずではなかったのか？

「こっち来て、薬を塗ってやる」

成瀬の冷静な視線を受けて、優奈はしばらくその場に立ち尽くし、ようやく彼の前に歩み寄った。

「救急箱を貸して、自分でやるから」

成瀬は顔を少し険しくし、「自分で塗るのは難しいだろう。俺が塗ってやる」

「それならいいわ。どうせ数日経てば治るし」

優奈が振り返って去ろうとした瞬間、成瀬の胸には怒りがこみ上げた。「待て！」と冷たく言い放った。

彼は救急箱を優奈に差し出し、その周囲からは怒りが溢れていた。彼の不機嫌さが伝わってくる。

優奈は救急箱を受け取ったが、一度も成瀬を見ずに寝室を出ていった。

成瀬は車椅子を動かして彼女を追いかけた。優奈はソファに座って薬を塗っていた。彼女の白い腕が赤く腫れているのを見て、成瀬の目は一層暗くなった。

「今日はなぜ比奈に四回も平手打ちしたんだ？」

優奈は成瀬を一瞥し、皮肉げに微笑んで言った。「気にしてるの？それなら、これからは彼女とここで会わないで。私が見えないところでなら、好きにしていいわよ」

成瀬は眉をひそめ、少し冷たい声で言