第5話

私は幼い頃から体が弱く、10歳の時に康之と一緒に空手道を習い始めた。

しかし、女子の中で唯一、教官に「お前の力じゃ鶏も捕まえられない」と言われて、退学を勧められてしまった。

私は一日中落ち込んでいたが、最後には康之が「空手道ができなくてもいいよ、俺が守ってあげるから」と言ってくれた。

あの日、私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしながらも、強がって胸を叩き、「そんな細い腕で何ができるのよ。守るのは私の方だから」と言い放った。

後になって気づいたのは、その日から康之が私の心の中で特別な存在になったということだった。

幼い頃から両親に教えられたのは、強く、自立し、抜け目なくあることだけだった。そんな中で、唯一康之だけが私に自分を守ることを教えてくれ、さらに守るとまで言ってくれたのだ。

今では少し後悔している。もっと頑張って続けていたら、少なくともこんな無防備な状態にはならなかったかもしれない。

彼らに捕まえられ、まるでひよこを掴むように簡単に両腕を抑えられ、無理やり押さえつけられて、目の前には美珊が立っていた。

「気が変わったわ。ただの寝相手にするなんて甘すぎる。康之があんたの顔に未練があるなら、今日この顔を台無しにしてやる」

美珊の手に光るナイフを見た瞬間、彼女が一歩一歩近づいてくるのを見て、私は反射的に抵抗を試みた。

しかし、その抵抗は嵐の前の静けさのようなもので、全く効果はなかった。

そのことに私も薄々気づいていたのか、数回もがいた後はおとなしくなってしまった。

不思議と、今の私は恐怖を感じることもなく、未知のすべてに対して、驚くほど冷静で、むしろ麻痺したように感じている。

せめて最後には、康之の愛を確かに感じられたからだろう。

これまで片思いだと思っていたものが、実は彼からの応えがあったと分かっただけで十分だった。

康之は不器用で口下手な人間だったから、幼い頃から私は彼が何か言い間違えたぐらいで機嫌を損ねたりすることはなかった。

だが今回ばかりは、彼に対する怒りが最高潮に達していた。

この無口な人、もっと早く言ってくれればよかったのに。

そうすれば、私たちはちゃんと一緒にいられたはずなのに。せっかく誤解が解けたのに、またすれ違うことにはならなかったのに。。

鋭利なナイフが近づいてくるのを見て、私は思わず目を閉じた。

頭の中では「康