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老騎士ランデル

last update Last Updated: 2025-01-27 02:46:26
 ランデルと呼ばれたその男の顔や体には、何度も死線を潜り抜けてきたためか無数の傷跡がある。

 獲物を狙う猛獣のごとく鋭い銀色の瞳。顔に深く刻まれたシワが表情に凄みを与えており、まるで年輪のように戦歴を表しているようだ。

 後頭部が大きく円状に禿げあがり、その周りから申し訳なさそうに生える白髪が肩まで伸びている。

 見た目は武人らしくかっこいいのだが、台無しにするくらいのハゲだった。

コメ:ハゲだな。

コメ:うむ、可哀想なくらいハゲだ。

コメ:お前らやめろ!w

「ランデルよ、そなたは魔王軍四天王が一人――残虐の王ネフィスアルバを討伐し、みなの士気を高めるのだ!」

「はっ、必ずやネフィスアルバの首を持ち帰ってご覧に入れましょう! 勇者ユートルディス殿、四天王討伐はワシに任せて下され!」

 王による発令に従い、青い鎧の老兵ランデルが勢いよく立ち上る。

 胸のあたりを拳でガチャンと叩き、残虐の王ネフィスアルバを討ち取ると高らかと宣言した。

勇太:なんかハゲが四天王を倒してくれるみたいです。ついでに魔王もやって欲しい!

コメ:ハゲが倒したらハゲに三億なんじゃ?

コメ:ハゲが倒してもユートルディスにガチで三億マネチャしますよw

コメ:ハゲハゲ言うのやめてあげて!w

 このランデルという勇ましい騎士が魔王に勝ったとしても、俺に三億円が入る確約を貰ったからな。任せてくれと言うならお願いしようじゃないか。

「おにぇぎゃいしみゃしゅ!」

※お願いします!

 四天王を一人削ってくれるのはありがたい。

 他にもランデルみたいに強そうなやつがいるといいんだけど。

「なんと! 『俺が行きます』……ですと? これは頼もしい。さすがは勇者殿」

 ……ん?

 俺はお願いしたんだぞ?

 ランデル、どこでそうなった?

「ふむ、面白い。勇者ユートルディスよ、ランデルと共にゆけい!」

 言ってない言ってない、何も面白くないでしょうが!

 待ってくれよ王様、ゆけいじゃないんだってば!

コメ:さすが勇者ユートルディス。勇敢すぎるw

コメ:滑舌悪さしすぎwww

コメ:これ死んだだろw

 仮に俺が勇者だとしましょうか。

 だとしたら、魔王とか四天王を倒す前に、まずは訓練とか修行をするべきなんじゃないの?

 素振りとか弱いモンスターと戦ったりとか、戦闘の経験を積ませて欲しいんだけど
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    「店長、俺バイト辞めます! 今までお世話になりました!」 昨晩の出来事だ。  俺は、一年半勤めていたコンビニバイトを辞めた。  高校を卒業してから一番長く続いたバイトだった。 俺の日常は、ルーティン化されたつまらないものだった。  朝起きたらストレッチをする。  リビングへ行くと、テーブルの上には母さん手作りのご機嫌な朝食が用意されている。  レースのカーテンを通して柔らかくなった朝の日差しに包まれながら、優雅に食事をする。  食事を終えたら歯磨きの時間だ。  歯ブラシは極細毛で硬めというこだわりがある。  強烈ミントの歯磨き粉が、口の中を爽やかな香りで満たし、一日の始まりを感じさせてくれる。  お洒落好きな俺は、毎朝シャワーを浴びる。  お気に入りのフローラル系の香がついたボタニカルシャンプーで髪を洗うと、とても気分がいい。  鏡の前で髪を乾かしながら、マットなヘアワックスで髪形を自然に整えて、バイト先の近所のコンビニへ向かう。 そんな毎日に嫌気が差した。  バイトの安い給料でも、実家暮らしの俺なら必要最低限の生活は出来る。  しかし、二十歳になり、このままの生活でいいのかと考えるようになってしまった。  食って寝て仕事して、たまに趣味に金を使う。  平凡な生活の中に、ささやかな幸せを感じるのが人生だと頭では理解している。  ほとんどの人がそうであると頭では理解している。  でも、俺は変えたかった。  刺激的な毎日を送りたいと考えてしまったんだ。 今は、ベッドの上で寝転んで束の間の無職を満喫している。  ヒューコンのシアター機能を使い、とある配信を見ているところだ。  ワーキャスの日本キャスターランキング一位、タイキンさんの異世界配信だ。  五万人以上の視聴者が常駐しており、多い時には三十万人を超える。  タイキンさんの推定年収は数十億円と言われている。 タイキンさんは、イグドラシアという異世界にワープし、『炎の勇者』というスキルを授かった。  主な配信内容はダンジョン攻略なのだが、派手な火属性魔法と勇者の身体能力を活かした迫力のある戦闘が視聴者を虜にしている。  時折、異世界の商品紹介なんかも混ぜながら、見ている者を飽きさせない工夫も素晴らしい。 キャスターの収入源は、広告掲載料、サブスクライブ、マネー

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   プロローグ

     化石燃料の枯渇、森林伐採、その他様々な影響で地球の寿命が尽きかけていた。  人間が生活可能な環境ではなくなる寸前だったと表現した方が正しいかもしれない。 ある日を境に、紫色の葉をつけた新種の樹木が地球上の至る所で発見されるようになった。  その不思議な樹は、魔樹(まじゅ)と名付けられ、あっという間に勢力を拡大した。  後に判明した事だが、ほぼ同時期に宇宙全体でこの魔樹という植物が確認されたという。 魔樹は、月光を浴びると大気中に魔素(まそ)を放出する性質を持っていた。  魔素は生態系を元通りに整え、地球の機能は正常に戻った。  それだけでなく、魔素は膨大なエネルギーに変換する事が可能で、魔素の研究が盛んになった。  魔素には与えられた情報を現実に発現するという特性もあり、まるで魔術の素(もと)かのようであった。  電気回路が魔素回路に置き換わり、魔素を用いた通信技術が発達し、産業革命を超える技術革新が起こった。 一番大きな変化は、延髄にマイクロチップを埋め込むことで人体をコンピュータ化したことだろう。  ヒューマンコンピュータ、通称ヒューコンと呼ばれるようになる。  ヒューコン化した人類は、超長距離間ワープを実現させる事に成功した。  地球上の何処にでも気軽に移動出来るだけでなく、地球とは別の世界へも一瞬で移動出来るようになったのだ。 ここで、驚くべき事実が発覚した。  世界で初めて別の世界へ行った人物の発表によると、地球とは異なる生態系の世界に降り立った瞬間に、特別な力を授かったと言うのだ。  研究が進むにつれ、別の世界を異世界と呼ぶようになり、特別な力はスキルと名付けられた。 異世界への超長距離間ワープの際に、細胞レベルで魔素と結びついた肉体が宇宙空間を一瞬で移動することで、何らかの力が作用してスキルが身につくという説。  異なる世界に降りたつ事で、防衛反応のような何かがスキルを芽生えさせるという説。  全て推論の域を出ない曖昧な報告ではあったが、それら全ての論証は世界を震撼させた。  異世界から地球に戻る際にはスキルを失い、また異世界に行くと別のスキルを授かるという摩訶不思議な現象を解明出来た学者はまだ居ない。 まるで小説やゲームのようだと若者達の間で異世界旅行が人気となり、それに目をつけたどこかの国がワールドキャス

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