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マネーチャットきたー!

last update Huling Na-update: 2025-02-17 18:10:29

「ユートルディス殿、起きて下され!」

 ランデルの馬鹿でかい声が響く。

 俺を揺さぶり起こそうとしているらしい。肩を押されるたび、首が右へ左へ傾いて、兜と鎧がガキンガキンと音を立ててぶつかる。

 このジジイ、力が強すぎないか。もしも俺が赤子だったら、揺さぶられ症候群で命を落としていた自信がある。

「お、ちゅいちゃきゃ?」

※お、着いたか?

 このままで頸椎がいかれてもおかしくない。しょうがなく目を開ける。

 首が寝違えたように突っ張っているし、長時間座っていたおかげで腰が悲鳴を上げていた。

 そして何よりお尻が痛い。

 移動中くらいこの重すぎる装備を脱がせて欲しい。

 大昔に、正座をした人間の|ふとももの上に岩の板を乗せる刑罰があった気がする。

 この重たい鎧を着せられた状態は、それと同様の拷問だと言われても納得できる。

コメ:勇者ユートルディスキター!

コメ:恐ろしい速さで首揺れてたぞw

勇太:おはようございます。目覚まし時計になった気分です。

コメ:切り抜きから来ました!

コメ:目覚ましユートルディスで草

コメ:初笑い記念【二千円】

勇太:え、えええっ! マネチャありがとうございます!

コメ:ワースレから。

 目覚めた瞬間からコメントの勢いが凄い。

 初めてのマネーチャットも頂いてしまったし。

 ……え?

 視聴者数が三百人を超えている?

 登録者数千五百人だと?

 コメントに切り抜きとワースレって書いてあったし、もしかしてバズったのかもしれない。

「ランデル殿に伝令、上空にワイバーン三体を確認しました! このまま進めば戦闘は避けられません!」

 偵察兵が大慌てでランデルに報告している。

 この部隊には、偵察隊という周囲の状況を確認して報告する特殊な役目を持った兵士が存在する。

 部隊の遥か前方を広範囲に網羅し、不意打ちされるリスクを極限まで減らすのが偵察隊の役目となっている。

 馬に乗り広範囲を索敵する偵察騎馬兵が五名、中
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     俺もよく異世界配信は見ていたほうだが、このサイズのワイバーンは初めて見た。  こんなのもはやドラゴンじゃないか。コメ:この世界のワイバーンでかくね? コメ:ユートルディス、フォトンセイクリッドだ!w コメ:早くリセットで逃げろ! ワイバーンは、俺達を敵と認識したのだろう。  耳をつんざく金切り声を上げて威嚇し、その鳴き声で大気を震わせた。そして俺は、おもらしで股間を濡らしそうになった。「勇者殿、装備をお持ちしました!」 地面に這いつくばる俺の元に、騎士の一人がやってきた。俺の両脇を抱えて持ち上げる。  重い金属鎧を着た成人男性をこうも軽々立ち上がらせるとは。こいつもまたすごい力だな。  そして、俺に闇払いの盾ルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを差し出してくる。何度見ても神々しい装備だ。とてつもないチート性能だとしても疑わない。だが、今の俺に盾は必要ないし、剣も要らないぞ。「さあ、お早く!」 騎士が俺の指を一本ずつ伸ばしていく。不必要なものを無理矢理持たせようとしてくる。  俺なんかの握力じゃ抗うこともできず、強制的に勇者ユートルディスの完成だ。  はい、両腕ブラーン状態の案山子になりましたよーっと。 一刻も早くリセットしたいのは山々だが、今リセットするとミラージュアーマーを着たまま帰還してしまう。  命の危険があった事を伝えて、持ち帰った物を全て返却する意思を表明すれば刑は軽くなるのだが、それでも刑務所行きは確定している。  ……まあ正直なところ、魔法部隊がワイバーンを倒してくれれば三万円分のマネチャが貰えるのではと期待しているだけなのだが。 「全魔法部隊、攻撃開始じゃああああああ!」 ランデルの号令を皮切りに、魔法使いの杖が光り輝く。空中に色とりどりの魔法陣が浮かび上がった。  火の玉やら氷の槍やら様々な魔法が発現し、ワイバーンに向かって飛んでいく。 放たれた火の玉は、涙型に形を変え、尾を引くように弧を描く。真っ赤に燃えた炎の線が、オレンジ色のグラデーションを作り上げた。  

    Huling Na-update : 2025-02-19
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     ワイバーンとの激闘を終え、小休止をしながら食事を取ることになった。 この時点で視聴者数は千人を超え、登録者は三千人以上。今日貰ったマネーチャットとサブスク報酬を合わせたら、先月のバイト代を余裕で超えている。 周囲を見回すと、先の戦闘で少なからず怪我をした者が居たらしい。 肩を大きく抉り取られた騎士に、衛生兵がポーションを振りかける。緑色の蒸気が発生し、みるみるうちに傷口が塞がっていく。その上から包帯を巻いていた。現代医療も真っ青だ。 それ以外の騎士や魔法使い達は、火を起こしたり、鍋を準備したり、かまどを作って鉄板を敷いたりと、忙しなく動き回っている。「ユートルディス殿、知っての通り残虐の王ネフィスアルバは四天王の中でも最弱と言われておりますが、身の丈を超える巨大な魔剣による一撃が非常に強力です!」 そして俺はというと、なぜかランデルから四天王戦に向けての作戦を相談をされていた。 戦闘に関して何の知識も無いこの俺が、何を答えればいいのだろうか。突っ立ってればいいんだよとでも言わせるつもりなのだろうか。あまり頭に話が入ってこない。「ぢょりぇきゅりゃいきょうりょきゅにゃにょ?」※どれくらい強力なの? 知っての通りと言われても、こっちは前情報無しなんだよね。ヒューコンで探ってみても、ネフィスアルバは四天王ですとしか出てこない。ランデルから聞くしかないだろう。「ネフィスアルバが最後に姿を現したのは半年程前なのですが、その時は魔剣を振り下ろした衝撃波でライラットの街が消し飛んだらしいですな。まあ、ユートルディス殿なら楽勝でしょうが」 なるほど、剣で街を壊滅させる程度の相手か。 じゃあユートルディスならいけるかもね。 ……って、そんなわけあるか!「ひぇー、しょうにゃんりゃ……」※へー、そうなんだ……「そこでなのですが、ワシと騎兵でネフィスアルバの注意を引き、攻撃し続けることで隙を作ります。無防備となった奴の背後から、ユートルディス殿の強力な一撃で仕留める

    Huling Na-update : 2025-02-21
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    Huling Na-update : 2025-02-23
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    Huling Na-update : 2025-02-25
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   走馬灯が浮かんでくる

    「御武運を!」 剣と盾を持ってきた騎士が深々と頭を下げた。俺の両腕はだらりと下がった。ボクサーがノーガードで相手を挑発しているような体勢だ。「ささ、ユートルディス殿。出陣ですぞ!」 ランデルが俺の背中に両手を当てて、強制的に前へ前へと進ませようとしてくる。 押すな押すなクソジジイ! マジで死ぬってあんな化け物。俺は生まれてから一度も喧嘩をした事が無いし、口論すら避けてきた人畜無害な人間なんだぞ。 「「「ユートルディス! ユートルディス!」」」 ミノタウロスがまだ暴れ回っているというのに、みんな俺の方を向いて右手を天に突き挙げている。殴り飛ばされて宙を飛んでいる奴まで俺を応援している。コメ:お、おい。流石にマズくないか?コメ:死ぬやつだろこれ……。コメ:調子に乗った俺達が悪かった! マネチャするからリセットしろ!コメ:ワクワク!コメ:ごめん、俺配信閉じる。 場の雰囲気に流されて、勝手に足が前に進んでしまう。 戦場におもむいた兵士は、こんな感じで死んでしまうのだろう。 あぁ、ミノタウロスまであと半分くらいの距離まで来てしまった。 近づけば近づくほど化け物の巨大さが分かる。 死刑台に向かう囚人てのはこんな気持ちなんだろうか。 視聴者数が五千人を突破していた。 死肉にたかろうとハゲワシが集まってきたようだ。 ハゲといえば、ランデルは何をしているのだろうか。 後ろを振り向き、潤んだ目でランデルに助けを求めてみたが、ランデルは大剣を地面に突き刺し、全力でユートルディスコールに混ざっていた。 危なくなったら助けに来てくれるよな? 信じてるからな? そのうなずきは何を意味してるんだ? ちゃんと助けてくれよランデル!コメ:いや、マジで何してんの?コメ:もう見てられない。コメ:また馬鹿な新人キャスターが死ぬな。コメ:誰か何とか出来ないの?コメ:他人

    Huling Na-update : 2025-02-27
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   モロンダルの坑道

    「ユートルディス殿、ついにモロンダルの坑道に到着しましたぞ!」 街道から脇道に入り、緩やかな坂道を登り続けること四日間。 背の低い樹木と、黄緑や濃緑色の苔が所々に生えた、巨大な白い岩山に到着した。 銀鉱山として栄えていたらしく、微量ながら銀が含まれているのか、岩肌は陽光を反射してラメが入っているかのようにキラキラと輝いていた。 坑道の入り口は、鳥居型に組まれた木材で補強されており、おそらく中まで同様の作りになっているのだろう。 岩山の見惚れるような白に、鮮やかな緑黄色の植物がその形をくっきりと表現し、思わず息を呑むような美しい景色だった。 そして、坑道の入り口からは、何の力も無い俺でも目視出来るほどの禍々しくドス黒いオーラが溢れ出しており、思わず息を引き取りそうになる光景だった。 そして、俺はお尻が痛い。 おそらく真っ赤に腫れあがっているだろう。 昔鉱山だったというだけあり、ここに来るまでの道は平らに整えられていたのだが、砂状の硬い路面には小石が目立つようになり、馬車が揺れに揺れた。 精神的にも肉体的にも俺は限界を迎えている。 この数日間、俺は何度もランデルを説得した。 四天王はランデルが倒してくれと。 しかし、俺のスキル『絶望的な滑舌』が邪魔をして会話にならなかったのだ。「りゃんぢぇりゅ、おりぇにちゃちゃきゃうちきゃりゃはにゃい!」※ランデル、俺に戦う力は無い! と、言ってみた。「ははは、流石ですなユートルディス殿。ちゃちゃっとやっちゃって下さい!」 と、返されて気を失なった。「りゃんぢぇりゅ、おにぇぎゃいぢゃきゃりゃいっきゃいみゃじみぇにひゃにゃしをきいちぇきゅりぇ!」※ランデル、お願いだから一回真面目に話を聞いてくれ! と、声を荒げてみたが、少し沈黙が続いた後ランデルは瞳を|潤《うる》ませた。「……ユートルディス殿、ワシはこの命を国に捧げております。そう言って頂けるのは騎士冥利に尽きますが、最後までお供させて頂きます!」

    Huling Na-update : 2025-03-01
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   俺に憧れてるらしい

     ドラゴンには、スキル『炎の勇者』を持つタイキンさんでさえ苦戦していた。  弓や魔法をものともしない|強靱《きょうじん》な鱗に守られ、尻尾の一薙ぎで巨大な建造物を吹き飛ばし、上空から灼熱の炎を吐いて街を壊滅させてしまう最強最悪のモンスターだ。  名前のついたモンスターはネームドと呼ばれ、同種の中でも抜きん出た強さを誇ることで知られている。  ネームドドラゴンというだけでも恐ろしいのに、その中で一番強い個体を一分もかからず瞬殺したのが狂乱の一角獣ライトニングビーストという四天王らしい。勇太:良かった、俺なら今回の四天王を簡単に倒せるらしいです。……んなわけあるかいっ! コメ:突然のノリツッコミwww コメ:この状況でよくふざけていられるなw 勇太:ちょっと企画やっていいですか? コメ:唐突すぎて草 コメ:面白かったらマネチャするわw 勇太:俺よりランデルの方が強いって分かってもらえれば、代わりに戦ってくれると思うんですよね。なので、今からジジイと模擬戦します! コメ:自殺する気か? コメ:ちゃんとイカれてて草 コメ:身投げ企画お疲れ様です! 危険なのは重々承知の上だが、説得しても伝わらないのだから体で分からせるしかない。  直接戦えば、いくらこのジジイが脳無しだとしても、俺がどれだけ弱いか気付いてくれるはず。「りゃんぢぇりゅ、いっきゃいりぇんしゅうしにゃい? みょぎしぇんちぇいうにょきゃにゃ。おりぇぎゃちゃちゃきゃえにゃいっちぇきょちょを、しょろしょろきぢゅいちぇひょしいんぢゃよにぇ」 ※ランデル、一回練習しない? 模擬戦っていうのかな。俺が戦えないってことを、そろそろ気付いて欲しいんだよね「よろしいのですか? ワシが本気で戦っても傷一つつけられるかどうか……。しかし、いち武人として、勇者と戦えるのはこの上ないほまれ。全力で行きますぞ!」 近くにいた騎士に聖宝剣ゲルバンダインとルミエールシールドを持って来てもらった。  勇者の戦いが見れると興奮していたのか、剣と盾を雑に渡された。  あまりの重さ

    Huling Na-update : 2025-03-02
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   また死にそう

     模擬戦という名の茶番が終わり、俺は自分の弱さを証明出来なかった。あのアホジジイがまともにやっていたとて、どうせ俺が手を抜いただの花を持たせてくれてありがとうだのと言ってきたに違いない。ユートルディスコールはどちらにせよ起きていただろう。どちらにせよ最初から俺の負けだったのだ。 このままでは、四天王と戦うことになってしまう。ミノタウロスのときは、奇跡が俺の命を守ってくれたけれど、今回ばかりは間違いなく死ぬ。勇者の立場を利用して、無理矢理ランデルを戦わせてしまおう。 それしかない気がする。 「ではユートルディス殿、早速ライトニングビーストを倒してしまいましょう!」「ひゃいひゃい、しょりぇじゃおにぇぎゃいしみゃしゅにぇ」※はいはい、それじゃお願いしますね「『ソロで俺が行きますね』、ですと? 四天王なんぞユートルディス殿の敵ではないのでしょうが……」 そんでこれね。 俺のスキルって、活舌が悪くなるだけじゃなく、不運まで引き寄せてるんじゃないか?勇太:うわ、またやっちまった。自然な流れでランデルにお願いしようとしただけなのに!コメ:悪夢再び。コメ:お願いしますと言うと行かされる定期wコメ:このスキル『絶望的な滑舌』がマジで悪さしかしないな。コメ:変なデバフよりよっぽど厄介だよねwww勇太:さすがに四天王は無理なんですが。コメ:四天王じゃなくても無理だろw【二千円】 四天王と戦うなんて絶対に嫌だ。 俺はゴネる! 何が何でも逃げきってやる!「いや、ちぎゃう。りゃんぢぇりゅぎゃ……」※いや、違う。ランデルが……「みなのもの、聞けい! これより勇者ユートルディス殿が単独で坑道に入る!」 この流れはまずい、今度こそ殺されてしまう。 こいつらを戦わせて、俺はいつでも逃げれるように遠くで見ていたいのに。 「みゃちぇみゃちぇみゃちぇ!」※待て待て待て!

    Huling Na-update : 2025-03-03

Pinakabagong kabanata

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ワーキャス専用スレ その2

    ワーキャスについて語るスレ【第1806世界】206 名前:異世界好きの名無しさん ユートルディスの時代来るかもしれん!207 名前:異世界好きの名無しさん すぐ死ぬだろ208 名前:異世界好きの名無しさん 死ぬの分かってるのにミノタウロスに向かって歩いて行った時は、コメントが悲鳴で溢れてたよ!209 名前:異世界好きの名無しさん そらそうやろw 目の前で人死ぬとこなんて見たい奴おらんw210 名前:異世界好きの名無しさん タイキンの方が面白い。ユートルディスはクソw211 名前:異世界好きの名無しさん >>210 で、でたーwwwタイキンキッズ奴ーwwwww212 名前:異世界好きの名無しさん そいつ、まろんだのんチャンネルより面白いわけ? まろんタソの魅力に勝てないならこの話終わりで!213 名前:異世界好きの名無しさん >>212 ブスの話は今要らないんでw214 名前:異世界好きの名無しさん >>213 ○すぞテメー!215 名前:異世界好きの名無しさん タイキンがダンジョン行かない時はユートルディス見てるぞ! 結構おもろいw216 名前:異世界好きの名無しさん 俺も最近見てるわw ・ ・ ・ワーキャスについて語るスレ【第1809世界】795 名前:異世界好きの名無しさん 今日のユートルディス見てた奴おる?796 名前:異世界好きの名無しさん 今タイキンが下層攻略中なんでwwwww 弱小キャスター乙wwwwww797 名前:異世界好きの名無しさん >>795 見てたで!798 名前:異世界好きの名無しさん タイキンてネームドドラゴン30秒で倒せん

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   卒業

    「いやー、美味かったですなユートルディス殿。特に、タラバスパイディーはワシの大好物なんです!」「りゃんぢぇりゅにはきゃんしゃしにゃいちょいきぇにゃいにゃ。よきゅわきゃりゃにゃいちゃべみゅにょびゃきゃりぢゃっちゃきぇりょ、じぇんびゅめちゃきゅちゃうみゃきゃっちゃ!」※ランデルには感謝しないといけないな。よく分からない食べ物ばかりだったけど、全部めちゃくちゃ美味かった! 俺とランデルは、三杯目のエールを飲みながら料理の余韻に浸っていた。 少し酔っ払ってしまったが、とても楽しい気分だ。「さて、そろそろ目的の場所に向かいますが、人間の店にします? ……それとも?」「じゅうじんっしょ?」※獣人っしょ?「「だははははははははは!」」 ランデルも酔っ払っているのか、笑い上戸になっている。 馬車の中で、獣人の凄さをこれでもかという程聞かされていたので、ここは獣人の店以外ありえない。 この世界でしかできない事を、俺はやるのだ。「それじゃあそろそろ?」「いっちゃいみゃしゅきゃ?」※行っちゃいますか?「「わはははははははははは!」」 何が面白いのか分からないが笑いが止まらない。 お酒を飲んで楽しくなっているのと、これから起こるであろうハッピーな出来事への期待で最高に楽しい。 会計を済ませて酒場を後にすれば、いよいよお待ちかねのご褒美タイムだ。 初めてだと緊張して下半身が敵前逃亡してしまうと聞いたことがある。 酒が入ると弱虫になってしまうと聞いた事もある。 しかし、今の俺は緊張よりもワクワク感で一杯で、なんなら既にいつでも出撃できる状態になっている。 会計の時に、牛獣人の胸を食い入るように見続けて気持ちを昂らせたからな。「さあユートルディス殿、本日のメインイベントといきましょう!」「おしゅしゅみぇのみしぇはありゅにょ?」※オススメの店はあるの?「ユートルディス殿、このランデル、不詳の身ではありま

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ジークウッドの街

    「全隊止まれ! これより物資の補給に入る! 補給部隊は、物資調達後自由行動! それ以外は、部隊毎に交代で馬車の見張りをするように! くれぐれもライトニングビーストの首を盗まれないように気をつけろ! 解散!」 隊列を指揮する騎士の号令で目が覚めた。 どうやらジークウッドの街に到着したようだ。 生首を大事にする考え方は理解出来ないが、そんな事はどうでもよくなっている。 いつもはお尻の痛さと精神的苦痛で、不快な気持ちになりながら馬車を降りていたが、今日は違う。 ランデル大先生の助言を聞いたり、自分の中でのイメージトレーニングに忙しく、道中が楽しく充実していたのは初めてだった。 ここ数日は、常に視聴者が五人前後いるのだが、俺がコメントをしても返事をしてくれない。 今までが上手くいきすぎていただけなのだと思いたいが、とても寂しかった。 今日は全てを忘れて楽しみたいと思う。 一人旅だと思えば気が楽だ。 こんなに胸が高まっているのはいつ以来だろうか。 小学生の時、友達が秘密基地にエロ本を持ってきた時だろうか。 中学生の時、修学旅行で、先生の見回りを掻い潜り、女子の部屋でトランプをやった時だろうか。「明日の朝出発しますので、ユートルディス殿はワシと一緒に行動しますか?」「うん!」※うん! この世界に来てから、一番の笑顔で、一番元気に返事をしたかもしれない。 鎧を脱がせてもらえたのも嬉しかった。 絡まれたりしたら嫌だし街にも詳しくないので、ここはランデル先輩と一緒に行動した方がいいだろう。 ランデルが、金貨を一枚手渡してくれた。「この金貨が一枚あれば、二ヶ月は余裕を持って生活出来ます。平民の年収が金貨九枚前後といったところでしょうか。ユートルディス殿の体力が続く限り楽しんで下さい!」「にゃりゅひょぢょ、ありぎゃちょう!」※なるほど、ありがとう! こんな小さなコイン一枚が結構な大金みたいだ。 無くさないように気をつけないと。「では、行きましょ

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   地獄の推理ゲーム

    「おんにゃは、しゃいきんにゃきゃよきゅにゃっちゃゆうじんきゃりゃきいちゃ、しぇきゃいいちおいしいりょうりをぢゃしゅおみしぇにいきちゃいちょおみょっちゃぎゃ、しょにょみしぇにょびゃしょぎゃわきゃっちぇいりゅにょに、ちゃぢょりちゅきゅきょちょにゃきゅしょにょしょうぎゃいをおえちぇしみゃっちゃ。にゃじぇきゃ?」※女は、最近仲良くなった友人から聞いた、世界一美味しい料理を出すお店に行きたいと思ったが、その店の場所が分かっているのに、辿り着くことなくその生涯を終えてしまった。何故か?勇太:みなさんも一緒に考えてみて下さいね。「なるほど。その店は、友人から聞いたすぐ後に無くなってしまったのでは?」「いいえ」※いいえ「その友人なのですが、最近知り合ったという部分が重要ですかな?」「ひゃい」※はい ほうほう、このジジイ初っ端からなかなかいい質問をしてくるじゃないか。 俺との会話が成り立たないだけで、騎士を率いているし、本当に頭が良いのかもしれない。「その問題に出てくる女というのは、その女じゃないと成り立ちませんか? 例えば、男でもよいのでしょうか?」「ひゃい」※はい「ほう、では何か辿り着けなかった理由があるのですな?」「ひゃい」※はい「ふむ……」 こういう時だけ会話が成り立っているという事実に腹が立つんだが。 しかし、質問自体は的確だし、このゲームが初めてとは思えないくらい、いい線をいっている。勇太:みなさんも気になった事があれば質問してみて下さい!「その店が辿り着けない場所にあったのでは?」「いいえ」※いいえ「その店は、誰でも気軽に食べに行けるような店なのですか?」「ひゃい」※はい「むむむ……」 困ってる困ってる。 ただでさえ厳つい顔のランデルが眉間にシワを寄せて悩んでいるせいで、鬼のような形相に変化し

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   馬車の中

     三日経ち、視聴者が七人になってしまった。 特に何も起こらなかったというのもあるが、ランデルとの会話のほとんどが下ネタだったというのが大きいみたいだ。 視聴者が期待していたのは、従来のキャスターと異なる新しいスタイルの英雄であり、鼻の下を伸ばした欲望丸出しの成人男性ではなかった。 異世界で勇者ユートルディスになってしまった一般人が、何度も死戦をくぐり抜ける奇跡の冒険に胸を熱くしていたのだ。 俺の人間性やユーモアだったり、ランデルの男らしさや強さに魅力を感じてくれていた方々も居たのだが、何日も同じような下品な話しを続けていれば、見る気も無くすのは当然だ。  コメントがお叱りや非難する声で溢れていたのは気づいていた。 しかし、ランデルと仲良くなって初めてまともに会話が出来たこと、男としての本能で自制が効かなかったことで、視聴者を蔑ろにしてしまったのだ。 いくら後悔や謝罪をしたところで視聴者は戻って来てはくれないだろう。 その人達はもう俺の配信を見ていないのだから。 今更リセットをして新しい冒険を始めたところで、俺という人間の印象が固定されてしまった以上、何をしようが覆されることは無いだろう。 今回の反省を次に活かそうとしても、一度離れてしまった人の心が戻ってくるような甘い仕事ではない。 俺のキャスターとしての人生は終わったに等しい。 後は、自分の好きなようにラドリックという異世界での冒険を楽しむだけだ。 その内に、自分という人間性を含めてやっぱり俺の配信が見たいという視聴者が戻って来てくれるのを願うしかない。 というわけで、仲良くなったランデルと暇つぶしに推理ゲームをすることにした。 お題に対して解答者は質問をしていき、出題者はそれについて「はい」か「いいえ」で答える。 これを繰り返すことで、お題が含む謎を解き明かし、答えを導き出すという遊びだ。 例えば、『中身の見えない箱の中に、金貨が一枚、銀貨が三枚、銅貨が五枚入っており、この中から一枚がランダムに貰える。男は、自分が確実に金貨を貰えると分かった。何故か?』という問題があった

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ランデルの下ネタ

     どの世界でもエロ談義は男同士の絆を深めてくれるんだな。 言葉では言い表せない不思議な感覚で、自分という存在が受け入れられたような気持ちになる。 何気ない友人との会話の中で、好きな異性のタイプとか、実はこんな性癖があるとか、秘密を打ち明けた時に、分かるわーと共感し共感される謎の一体感だ。コメ:うわ、最低ですね。登録解除します!コメ:勇太くん好きだったのに幻滅しました。コメ:エロ求めてねえんだわ。じゃあな!コメ:はあ、こういう勘違いキャスターいるんだよな。視聴者が何を求めてるのかを理解してくれよ。コメ:そういう流れになるならエロ専のチャンネルにしな。俺は勇者ユートルディスの冒険が見たかったのに。 打ち解けたと感じた俺とランデルは、好みの女性のタイプやら何フェチかなど、そっち方面の話題で盛り上がった。 途中、コメントが荒れて視聴者が激減しているのに気付いたが、おかまいなしに話を続けた。 今だけは配信なんてどうでもよく、ただただ楽しいひと時を過ごす方が有益だと判断したからだ。 全然要らない情報だが、ランデルは腰のクビレに興奮するらしい。 目つきの悪い気の強そうな女性がタイプで、それを上から屈服させるのが堪らないと言いながら気持ち悪い顔をしていた。 どうやらランデルは、エスの者だったようだ。 これも全然要らない情報だが、俺はお尻フェチだ。 ケツはデカければデカいほどいい。 学生の時は、後ろから見るジャージ姿がたまらなかった。 獣人と呼ばれる動物の特徴や特性を体に宿した人間がいるらしく、その中でも猫人族が凄いらしい。 容姿は人間とほぼ変わらないが、柔軟性のあるしなやかな体が、男たちのあらゆる欲望を受け入れてくれるのだとか。 また、猫獣人の特徴として、舌のつくりが違うらしい。 ブラシのように突起状になっており、ザラついているのだが、それが大量の唾液を纏った時に、恐ろしい兵器に変わるという。 細かく小さな突起群にぬるりと撫でられた時、男たちは自然と喜びの声を上げてしまうのだとか。 そういった理由

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   和解

     食事中に俺の話を聞きたいと言われて連れてこられたはずなのだが、俺はほとんど喋らなかった。  ランデルが泣きながら口をゆすいでいたせいで、進行を取れる人間が居なくなってしまったからだ。  俺を前にした兵士達は、自分の考える勇者ユートルディスはこうだみたいな話題で盛り上がっていた。  ユートルディス談義が白熱し、何故か取っ組み合いの喧嘩にまで発展し、俺の目の前に地獄絵図が広がった。  怒号と悲鳴が響き渡り、呆然と立ち尽くしていた俺は、最終的に俺の為に争うんじゃないという美少女みたいなセリフを言わされる羽目になった。 さて、四天王の首が張り付けられた悪趣味な馬車に、俺とランデルが二人で乗っている訳だが。  小休止という名の地獄が終わり、四天王ネフィスアルバが潜むオウッティ山脈へと向かっている。  緩やかな下り坂なので、馬車の速度が上がり、デコボコした路面が俺のお尻を終わらせにきている。  衝撃を和らげるクッションのような何かが欲しいと思い、座席とお尻の間に手を入れてみたところ、鎧の重さで手の骨がゴリゴリと音を立てて砕けそうになった。  それだけでもきついのに、もう一つの問題が生じている。  馬車の幌に、狂乱の一角獣ライトニングビーストの体液と血液が染み込み始めている。  そのせいで、凝縮された凄まじい獣臭と血生臭い不快な香りが馬車の中に充満している。  馬車の揺れと不快な臭いでいつ吐いてもおかしくない。「にゃありゃんぢぇりゅ、びゃしゃにょうえにょやちゅぎゃきゅしゃきゅちぇひゃきしょうぢゃきゃりゃ、しょりょしょりょありぇしゅちぇにゃい?」 ※なあランデル、馬車の上のやつが臭くて吐きそうだから、そろそろあれ捨てない?「お気づきでしたか。ユートルディス殿がおっしゃる通り、そろそろ物資の残りが怪しくなってきておりますので、途中街に寄り補給したいと考えております!」勇太:あの、今のって会話になってました? 各々が自分の意見を述べただけでしたよね? コメ:平常運転だね! コメ:いつもの聞き違いではなかった。 勇太:もしかして、俺がキンタマを食わせたことを怒ってるんで

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   食べたくない

    「勇者殿、こちらが本日の昼食になります!」 いつもの麦がゆと……何だこれは?  握りこぶし大で、そら豆に似た形状の茶黒い物体が串に刺さっている。  気のせいじゃなければいいのだが、こんがり焼けたその物体からは、嫌な臭いのする湯気と微弱な黒くて禍々しいオーラが立ち昇っている。コメ:キモwww コメ:またゲテモノじゃねえか! コメ:さすがに不味そう。 コメ:なんか黒いオーラ出てない?w「きぇみょにょしゅうをぎょうしゅきゅしちゃようにゃきょうりぇちゅにゃあきゅしゅうをはにゃちゅきょりぇはにゃにきゃにゃ?」 ※獣臭を凝縮したような強烈な悪臭を放つこれは何かな?「はっ、こちらはライトニングビーストの睾丸を串焼きにしたものです! 先の四天王との激戦で、勇者殿が疲弊されているかもしれないとランデル殿に相談しまして、精のつきそうな部位をお持ちしました!」 ちょっとこいつが何を言っているのか理解できない。  俺は今、本当に正しい解答を聞けたのだろうか。「えっちょ、ききみゃちぎゃいじゃにゃいちょいいんぢゃきぇりょ。きょりぇはにゃにきゃにゃ?」 ※えっと、聞き間違いじゃないといいんだけど。これは何かな?「はっ、こちらはライトニングビーストのキンタマを串焼きにしたものです! 戦の疲れに一番効くのは獣のキンタマですので、多少臭いますが、食べやすい調理法を選んだつもりです!」勇太:イカれてんのかこいつらは! 睾丸が何か分からなかったから聞き直したんじゃないんだよ! 可愛く言い直されても困るんだが! コメ:別に可愛くないけどなw コメ:四天王なんて食えるのか? 勇太:多少ってレベルじゃないくらい臭いですよこれ。 コメ:見てるだけで吐き気するw コメ:腹壊しそう。「えっちょ……りゃんぢぇりゅ? きょりぇっちぇしゃっきにょしちぇんにょうぢゃよにぇ? いみゃみゃぢぇぢゃりぇきゃちゃびぇちゃきょちょありゅにょ?」 ※えっと……ランデル? これってさっきの四天王だよね? 今まで誰か食べたことあるの?「はっ

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   話を聞いてくれ

     そういえば、先日のミノタウロスは最高に美味しかった。 肉は筋繊維が太くて硬すぎる為、噛み切れないので食べないらしいが、内臓系はどの部位も絶品らしい。 俺は、ミノタウロスのミノというダジャレのような部位を頂いた。 塩を振るだけのシンプルな味付けであったが、歯応え、旨み、脂身、全てにおいて究極のミノと言えた。 怪我をした騎士には、優先的にレバーが与えられていた。 彼らがレバーを噛み締めるたびに、恍惚とした表情を浮かべていたのは忘れられない。 ちなみに、一番美味いのは大腸らしいのだが、切り開いて川で洗ったりと下処理が大変なので、食べるまでに時間がかかってしまう。 早く食べられる部位は、身分が上の物に優先的に提供されるという仕組みらしい。 その理論でいくと、一般男性の俺が大腸を食べられるはずなのだが、勇者として祭り上げられているピエロなので、俺の願いが叶うことは無いだろう。 小さく切り分けられたミノタウロスの大腸が網の上に乗ると、焚き火でその上質な油が溶け出し、なんとも香ばしい良い香りのする煙が立ち昇っていた。 こんがり焼けた大腸を口に含み、飛び上がって体でその美味しさを表現する奴らを見て、次があれば俺もあれを食べさせてもらおうと決意した。 ワイバーンも美味かったしな。 次は目玉以外を食べさせてもらいたいが。「ユートルディス殿、今回圧倒的な力を見せて頂き、騎士達の士気は最高潮に達しております。是非、次のオウッティ山脈では残虐の王ネフィスアルバの討伐を我々にお任せ下され!」 これは願ってもない申し出だ。 アホランデルから初めてまともな提案が出てきた気がする。 しかしだ、ここは最新の注意を払って返答しなければならない。 俺の滑舌とエスパー翻訳ジジイの相互作用で、どんな曲解をされるか分かったもんじゃないからな。 ここでお願いしますと言うと俺が行かされるので、ここは短く分かりやすい返事をするとしよう。 お願いしますと言うと俺が行かされるっておかしいけどな。「うん!」※うん! 流石に伝わっただろう。

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