スキル『絶望的な滑舌』を授かったみたいだ。
ヒューコンは、常に体の状態を監視していて、重大な変化が起こった時には自動で教えてくれる。 その機能によって、どんなスキルを授かったのかが分かるのだが、俺が獲得したのは滑舌が悪くなるだけの大ハズレスキルだった。勇太:『絶望的な滑舌』ってスキルを手に入れました。
コメ:ダメそうw コメ:どういうスキルなんですか? 勇太:絶望的に滑舌が悪くなるみたいです。 コメ:どうすんのそれw コメ:終わったな……。目を開けてみると、高級そうな赤い絨毯が敷き詰められた広場だった。
壁には、美しい女性や騎馬に乗った騎士が描かれた巨大なステンドガラスが何枚もはめ込まれており、そこから色鮮やかな陽光が差し込んでいた。 その下には、鈍く光る金属鎧姿の騎士らしき人々や、暗色のローブを身に纏った怪しい人達が立っていた。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」
声がする方を見ると、黒髪に白髪が混じった偉丈夫が、玉座のような椅子に大股を開いて座っていた。
その男は、仕立ての良い派手な衣装を身に纏まとい、豪勢な装飾品がついた金色の王冠をかぶっている。 筋骨粒々で背が高いのだが、その割りに顔が小さい。 鼻筋が通っており、顎がしっかりした美しい顔立ちをしている。 四十代半ばに見えるその男性は、目が合ったはずなのにしばらく無言を貫く俺を見下ろしながら、心配そうな面持ちで自分のあごひげをなでていた。勇太:勇者じゃなくて勇太なんですけどねw
コメ:草生やしとる場合か! コメ:やめい!w コメ:おもろwふと視聴者数を確認すると、二十一人になっていた。
会話が出来ないのは不安だったが、いざコメントをしてみたら意外と楽しい。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」
おそらく王様であろう人物が、心配そうにこちらを見ている。
俺がコメントと会話をしていたせいで、まさか自分が無視されているのではと不安になったのだろう。コメ:二回目?w
コメ:勇太さんが答えてあげないからw「ぢょうみょ、きょんにちは!」
※どうも、こんにちは!まずは挨拶と思い口を開いたのだが、自分でも何を言ってるのか分からないほどに活舌が悪い。
コメントの人たちも、ヒューコンの翻訳機能を通した文字でしか俺の言葉を理解できないのではなかろうか。 ……とんでもないことになってきたぞ。勇太:何これ?
コメ:滑舌悪すぎワロタwwww コメ:ハズレ中のハズレやないか!w「おお、やはり勇者であったか! 魔王が猛威を振るいし時、光の中から救国の勇者が現れると伝承にあるのだ! 余はジャックス王国の国王、エディウバ・ジャックス三世である!」
こっちの心情などお構いなしに、エディウバ国王が話しかけてくる。
正直なところ、さっさとリセットしたい。 しかし、自分でも活舌が悪すぎることが面白く、リスナーも楽しそうにしているので、どこでやめるかが問題だ。コメ:救国の勇太w
コメ:それやめてwww 勇太:こっちは救いようのない活舌なんですけどね コメ:馬鹿だこいつw コメ:ワロタどうやら俺がワープしてきたのは、ジャックス王国の王城の中だったみたい。
異世界で初めて会話した相手が国王って、とんでもないことになっている気がする。 魔王を倒す勇者というのは、ロールプレイングゲームのようでワクワクする設定ではあるのだが。俺のスキルがタイキンさんと同じ勇者だったなら、バズりにバズっていたに違いない。 このまま冒険を続けたいところだけれど、流石にこのスキルでは戦えないからなぁ。 アタリのスキルが出るまでこの場所でリセマラするのもありかもしれない。「ところで勇者よ、そなたの名は何と申す?」
「ゆうちゃでぃしゅ!」
※勇太です!しばらくリアルロールプレイを楽しむとするか。
王に問われ、大きな声で自己紹介する。「ほう、『ユートルディス』と申すか。実に勇者らしい勇敢そうな名前であるな!」
だが、絶望的な活舌が悪さして、俺は異世界チックな別人になってしまった。
勇太:え?
コメ:飲み物吹いたんだがwwww コメ:おい、勇者ユートルディスが爆誕したぞwww コメ:面白すぎて切り抜いたわ!w確かに今のやりとりは漫才みたいだった。
切り抜きがバズってくれるかもしれない。 でも、魔王どころかその辺の雑魚モンスターと戦っても死にそうな気がするし、ここはやっぱりリセットしかないと思う。 魔王を倒す勇者……みたいな設定の異世界にワープしてきたからには、配信向きのスキルではないよな。勇太:このスキルは流石にキツイんで、リセットしてもいいですかね?
コメ:このまま魔王倒したら三億のマネーチャットするけど? 勇太:え? コメ:三億キター! コメ:いけ! 勇者ユートルディス!三億だって?
本当かどうか分からないけど、人生が変わる程の大金だぞ……。 動画で、リスナーのチャレンジに成功したら5億円貰えたってのがあった。 このままリセットしたら、こんな一攫千金のチャンスは二度と来ないかもしれない。 命を取るか金を取るか……か。 俺は、平凡を捨てて刺激を取ったんだ。 ここで逃げたらバイトの店長に申し訳ないよな!「勇者ユートルディスよ、世界は魔王により滅亡の危機にある。どうか我々に協力してもらえんだろうか?」
俺の決意を確かめるかのように、王様が協力を要請してくる。
「ひゃい! みゃおうをちゃおしみゃしゅ!」
※はい! 魔王を倒します!答えは当然イエス。どうなるかは分からないが、やれるところまでやってみよう。
コメ:無理だろwww
コメ:お前に何が出来んねん!w 勇太:俺、三億欲しい……。 コメ:馬鹿だこいつw 「ふむ、心強い。ランデルよ!」「はっ! ランデルであります!」
王様に名を呼ばれ、青い鎧に身を包む白髪の老兵が歩み出る。
そして、玉座に続く階段の下でひざまずいた。ランデルと呼ばれたその男の顔や体には、何度も死線を潜り抜けてきたためか無数の傷跡がある。 獲物を狙う猛獣のごとく鋭い銀色の瞳。顔に深く刻まれたシワが表情に凄みを与えており、まるで年輪のように戦歴を表しているようだ。 後頭部が大きく円状に禿げあがり、その周りから申し訳なさそうに生える白髪が肩まで伸びている。 見た目は武人らしくかっこいいのだが、台無しにするくらいのハゲだった。コメ:ハゲだな。 コメ:うむ、可哀想なくらいハゲだ。 コメ:お前らやめろ!w「ランデルよ、そなたは魔王軍四天王が一人――残虐の王ネフィスアルバを討伐し、みなの士気を高めるのだ!」「はっ、必ずやネフィスアルバの首を持ち帰ってご覧に入れましょう! 勇者ユートルディス殿、四天王討伐はワシに任せて下され!」 王による発令に従い、青い鎧の老兵ランデルが勢いよく立ち上る。 胸のあたりを拳でガチャンと叩き、残虐の王ネフィスアルバを討ち取ると高らかと宣言した。勇太:なんかハゲが四天王を倒してくれるみたいです。ついでに魔王もやって欲しい! コメ:ハゲが倒したらハゲに三億なんじゃ? コメ:ハゲが倒してもユートルディスにガチで三億マネチャしますよw コメ:ハゲハゲ言うのやめてあげて!w このランデルという勇ましい騎士が魔王に勝ったとしても、俺に三億円が入る確約を貰ったからな。任せてくれと言うならお願いしようじゃないか。「おにぇぎゃいしみゃしゅ!」 ※お願いします! 四天王を一人削ってくれるのはありがたい。 他にもランデルみたいに強そうなやつがいるといいんだけど。「なんと! 『俺が行きます』……ですと? これは頼もしい。さすがは勇者殿」 ……ん? 俺はお願いしたんだぞ? ランデル、どこでそうなった?「ふむ、面白い。勇者ユートルディスよ、ランデルと共にゆけい!」 言ってない言ってない、何も面白くないでしょうが! 待ってくれよ王様、ゆけいじゃないんだってば!コメ:さすが勇者ユートルディス。勇敢すぎるw コメ:滑舌悪さしすぎwww コメ:これ死んだだろw 仮に俺が勇者だとしましょうか。 だとしたら、魔王とか四天王を倒す前に、まずは訓練とか修行をするべきなんじゃないの? 素振りとか弱いモンスターと戦ったりとか、戦闘の経験を積ませて欲しいんだけど
「ではユートルディス殿、そろそろ参りましょうか!」 宝物庫から出て、ランデルと一緒に今来た道を戻っているだけなのだが、全身から大量の汗が吹き出してくる。 盾と剣を預かってもらえたのは幸運だったが、金ピカの全身鎧は脱がせてもらえなかった。 このミラージュメイルがとにかく重くて、まともに歩けない。 全身分を合わせたら四十キロ前後あるのではないだろうか。 普通に歩こうとするとももを上げる感覚が狂い、段差の無いところでつまずいて転びそうになる。 ペンギンのようにヨチヨチと歩くしかなく、それだけでも息が上がる。コメ:デバフかかってる? コメ:ゼンマイで動いてるのかよw 勇太:こういう感じに動くおもちゃありますよね? コメ:冷静で草 視聴者数は三十三人に増えていて、登録者数が二十五人になっている。 配信開始から二時間程度でこの人数は多いのだろうか? コメントを見る限り、みんな楽しそうに視聴してくれているのは分かる。 だんだん歩くのが辛くなってきたので、コメントと会話をして気を紛らわせたい。勇太:他のキャスターさん達も初日はこんな感じなんですかね? コメ:初日で四天王を倒しに行く奴が他に居るとでも? コメ:最初の挨拶で死にたくないから安全に行くって言っておきながら、滑舌が悪くなるスキルで魔王を倒しに行くのが普通だと思ってる? コメ:勇者ユートルディスはお前だけだわ!w 城の外に出る頃には、心臓が破裂しそうなほど強く鼓動していた。 城は小高い丘の上にあるようで、石造りの街並みが一望出来る。 少し下った所にある石畳の広場では、兵士達が綺麗な長方形の形に整列している。 冒険の始まりを感じさせる圧巻の光景であった。 異世界に来たんだと強く認識させられ、今更ながら三億を諦めて元の世界に戻りたくなった。 脳内では、帰還という二文字の危険信号が繰り返し点灯している。 それはそうだろう。 俺がやっている事は時間をかけた自殺に等しいのだから。「ユートルディス殿、いよいよですな。このランデルがどこまでもお供しますぞ!」「おうてぃにきゃえりちゃいよおりぇは……」 ※お家に帰りたいよ俺は……「ほう、流石はユートルディス殿。残虐の王ネフィスアルバが『オウッティ』山脈に潜んでいることに気づかれましたか。この場所からでも奴
「ユートルディス殿、お気を確かに!」 ランデルが深緑色の液体を持った小瓶を持っている。 俺が大量の汗をかいているから、何か飲み物をくれようとしているのだろうか。 とてもじゃないが今はまだ飲み物を口に出来るような状態ではない。 もう少し落ち着いたら貰うとしよう。「さあ、飲み込むのです!」「びゅひぇあっ!」※ぶふぇあっ! このジジイ、瓶を俺の口の中に突っ込んできやがった! 息をするのもやっとだというのに。「お早く、お命に関わりますゆえ!」 こいつ、鼻を塞いできやがった。 お、溺れる。 今がまさにお命の危機なんだが!「ぎぇひょっ、ぎぇひょぁ、おええええっ!」※ゲホッ、ゲホァ、おええええっ! し、死ぬかと思った。 火事場の馬鹿力というやつだろうか。 こんなに早く液体を飲み干したのは初めてだ。 しかも恐ろしく不味かった。「ふぅ、危ない所でしたな。では先を急ぎましょう!」 危なかったのは完全にお前のせいだけどな! 陸の上で溺死するところだったんだが。 液体が気管に入り込んでしまったのか、咳が止まらない。 椅子に座って背中を丸め、落ち着くのを待つしかない。 シンプルな木製の長椅子なので、座り心地が非常に悪い。コメ:陸で溺れる勇者wコメ:ランデル殺す気満々で草コメ:何を飲んだの?コメ:食レポよろw たしかに、俺は一体何を飲まされたのだろうか。 馬車の揺れも相まって吐き気を催している。勇太:センブリ茶のような苦味と、本格的なインドカレーに似たスパイシーな香りがあった。それを無理やり誤魔化そうとしたのだろうが、気持ちの悪い甘ったるさがあり、なんとも不快な味を作り上げている。罰ゲームだと言われても納得できるほど不味い液体だった。コメ:食レポ上手くて草コメ:ユートルディスは、スキル『絶望的な食レポ』を獲得した。コメ:
ワーキャスについて語るスレ【第1802世界】135 名前:異世界好きの名無しさん 結局、タイキンが大金稼いでるだけだろ? まあ見ちゃうんだけどさ。136 名前:異世界好きの名無しさん タイキンさんは、商品紹介してる配信が一番面白いよね! この前の声変換する魔道具のやつ腹抱えて笑った!137 名前:異世界好きの名無しさん >>136 本日のタイキンキッズ138 名前:異世界好きの名無しさん もはやタイキンスレなんだよなあ139 名前:異世界好きの名無しさん タイキンが一番おもろいのは事実。 ランキングが証明してる!140 名前:異世界好きの名無しさん 最近のキャスターはタイキンの二番煎じばっかりで……141 名前:異世界好きの名無しさん >>140 だから癒し系キャスターの『まろんだのんチャンネル』を見ろとあれほど142 名前:異世界好きの名無しさん >>141 ブスやんけwwww143 名前:異世界好きの名無しさん あの声癒されるやろ!144 名前:異世界好きの名無しさん 面白いキャスターおらんのか? 強いスキルで無双する配信ばっかりで飽きてきた。145 名前:異世界好きの名無しさん 強いスキルではあるが、この前の変態は面白かったな!146 名前:異世界好きの名無しさん >>145 kwsk147 名前:異世界好きの名無しさん >>146 裸になると身体能力が爆上がりするスキルだったんだけど、公然猥褻(こうぜんわいせつ)で逮捕されてリセットしてたw 裸の王様で検索したら切り抜き見れるで!148 名前:異世界好きの名無しさん クソワロタwwww サンキュー見てみるわ!149
「ユートルディス殿、起きて下され!」 ランデルの馬鹿でかい声が響く。 俺を揺さぶり起こそうとしているらしい。肩を押されるたび、首が右へ左へ傾いて、兜と鎧がガキンガキンと音を立ててぶつかる。 このジジイ、力が強すぎないか。もしも俺が赤子だったら、揺さぶられ症候群で命を落としていた自信がある。「お、ちゅいちゃきゃ?」 ※お、着いたか? このままで頸椎がいかれてもおかしくない。しょうがなく目を開ける。 首が寝違えたように突っ張っているし、長時間座っていたおかげで腰が悲鳴を上げていた。 そして何よりお尻が痛い。 移動中くらいこの重すぎる装備を脱がせて欲しい。 大昔に、正座をした人間の|ふとももの上に岩の板を乗せる刑罰があった気がする。 この重たい鎧を着せられた状態は、それと同様の拷問だと言われても納得できる。コメ:勇者ユートルディスキター! コメ:恐ろしい速さで首揺れてたぞw 勇太:おはようございます。目覚まし時計になった気分です。 コメ:切り抜きから来ました! コメ:目覚ましユートルディスで草 コメ:初笑い記念【二千円】 勇太:え、えええっ! マネチャありがとうございます! コメ:ワースレから。 目覚めた瞬間からコメントの勢いが凄い。 初めてのマネーチャットも頂いてしまったし。 ……え? 視聴者数が三百人を超えている? 登録者数千五百人だと? コメントに切り抜きとワースレって書いてあったし、もしかしてバズったのかもしれない。 「ランデル殿に伝令、上空にワイバーン三体を確認しました! このまま進めば戦闘は避けられません!」 偵察兵が大慌てでランデルに報告している。 この部隊には、偵察隊という周囲の状況を確認して報告する特殊な役目を持った兵士が存在する。 部隊の遥か前方を広範囲に網羅し、不意打ちされるリスクを極限まで減らすのが偵察隊の役目となっている。 馬に乗り広範囲を索敵する偵察騎馬兵が五名、中
俺もよく異世界配信は見ていたほうだが、このサイズのワイバーンは初めて見た。 こんなのもはやドラゴンじゃないか。コメ:この世界のワイバーンでかくね? コメ:ユートルディス、フォトンセイクリッドだ!w コメ:早くリセットで逃げろ! ワイバーンは、俺達を敵と認識したのだろう。 耳をつんざく金切り声を上げて威嚇し、その鳴き声で大気を震わせた。そして俺は、おもらしで股間を濡らしそうになった。「勇者殿、装備をお持ちしました!」 地面に這いつくばる俺の元に、騎士の一人がやってきた。俺の両脇を抱えて持ち上げる。 重い金属鎧を着た成人男性をこうも軽々立ち上がらせるとは。こいつもまたすごい力だな。 そして、俺に闇払いの盾ルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを差し出してくる。何度見ても神々しい装備だ。とてつもないチート性能だとしても疑わない。だが、今の俺に盾は必要ないし、剣も要らないぞ。「さあ、お早く!」 騎士が俺の指を一本ずつ伸ばしていく。不必要なものを無理矢理持たせようとしてくる。 俺なんかの握力じゃ抗うこともできず、強制的に勇者ユートルディスの完成だ。 はい、両腕ブラーン状態の案山子になりましたよーっと。 一刻も早くリセットしたいのは山々だが、今リセットするとミラージュアーマーを着たまま帰還してしまう。 命の危険があった事を伝えて、持ち帰った物を全て返却する意思を表明すれば刑は軽くなるのだが、それでも刑務所行きは確定している。 ……まあ正直なところ、魔法部隊がワイバーンを倒してくれれば三万円分のマネチャが貰えるのではと期待しているだけなのだが。 「全魔法部隊、攻撃開始じゃああああああ!」 ランデルの号令を皮切りに、魔法使いの杖が光り輝く。空中に色とりどりの魔法陣が浮かび上がった。 火の玉やら氷の槍やら様々な魔法が発現し、ワイバーンに向かって飛んでいく。 放たれた火の玉は、涙型に形を変え、尾を引くように弧を描く。真っ赤に燃えた炎の線が、オレンジ色のグラデーションを作り上げた。
ワイバーンとの激闘を終え、小休止をしながら食事を取ることになった。 この時点で視聴者数は千人を超え、登録者は三千人以上。今日貰ったマネーチャットとサブスク報酬を合わせたら、先月のバイト代を余裕で超えている。 周囲を見回すと、先の戦闘で少なからず怪我をした者が居たらしい。 肩を大きく抉り取られた騎士に、衛生兵がポーションを振りかける。緑色の蒸気が発生し、みるみるうちに傷口が塞がっていく。その上から包帯を巻いていた。現代医療も真っ青だ。 それ以外の騎士や魔法使い達は、火を起こしたり、鍋を準備したり、かまどを作って鉄板を敷いたりと、忙しなく動き回っている。「ユートルディス殿、知っての通り残虐の王ネフィスアルバは四天王の中でも最弱と言われておりますが、身の丈を超える巨大な魔剣による一撃が非常に強力です!」 そして俺はというと、なぜかランデルから四天王戦に向けての作戦を相談をされていた。 戦闘に関して何の知識も無いこの俺が、何を答えればいいのだろうか。突っ立ってればいいんだよとでも言わせるつもりなのだろうか。あまり頭に話が入ってこない。「ぢょりぇきゅりゃいきょうりょきゅにゃにょ?」※どれくらい強力なの? 知っての通りと言われても、こっちは前情報無しなんだよね。ヒューコンで探ってみても、ネフィスアルバは四天王ですとしか出てこない。ランデルから聞くしかないだろう。「ネフィスアルバが最後に姿を現したのは半年程前なのですが、その時は魔剣を振り下ろした衝撃波でライラットの街が消し飛んだらしいですな。まあ、ユートルディス殿なら楽勝でしょうが」 なるほど、剣で街を壊滅させる程度の相手か。 じゃあユートルディスならいけるかもね。 ……って、そんなわけあるか!「ひぇー、しょうにゃんりゃ……」※へー、そうなんだ……「そこでなのですが、ワシと騎兵でネフィスアルバの注意を引き、攻撃し続けることで隙を作ります。無防備となった奴の背後から、ユートルディス殿の強力な一撃で仕留める
「どうなされましたユートルディス殿? ワイバーンの肉は非常に美味でして、富豪達がこぞって買い集めるほどです。特にこの眼球は鮮度が命なので、滅多に市場に出回らない希少部位なのですぞ!」 ランデルが不思議そうな顔で、料理に手を付けようとしない俺に話しかけてくる。 ワイバーンの肉の美味さを説明されたところで、目玉も同じように考えられると本気で思っているのだろうか。 だったら肉が食べたいんだけど。なんで美味い肉の部分じゃなくて希少な部位を出されるんだよ。有名なカレー屋さんで親子丼を食べさせられる気分だ。 給仕係りもランデルも俺が食べるのを待っているみたいだし。……でもこれを食べたらマネチャが貰えからなあ。 よし、腹を括ろう。いくらなんでも勇者に食えないものを出すはずがない。 ワイバーンの眼球をフォークで刺す。意外にもシリコンのような感触で、持ち上げてもしっかりと形を保っていた。 俺は、心の中で十字を切りながら巨大な目玉にかじりつく。「うっわあ……。しょっきゃんはしゅぎょきゅきみょちわりゅいきぇぢょ、ちょんぢぇみょにゃきゅうみぇえ。きょりゃうんみぇえわ!」※うっわあ……。食感はすごく気持ち悪いけど、とんでもなくうめえ。こりゃうんめえわ! 思わず叫んでしまうほどの美味さ。 しかしこれは未知の食材。分かりやすくリスナーに伝えなくては。コメ:え、美味しいの?勇太:かぶりついた時のムチュンという食感が気持ち悪く、不快感を感じる。しかし、熱で白く変質したゼラチン質の目玉を咀嚼した途端、口内に上品かつ濃厚な旨みが広がる。これが、今までに経験した事のない脳に電流が走るかのような強烈な旨みで、考えるより先に喜びの声が自然と口から漏れ出してしまった。この味が何に似ているかと聞かれても例を挙げるのは難しいけれど、似ている食材をあげろと言われたら白子だろうか。茹でたタラの白子を食べた事があるが、あれを二千倍美味しくした食材と考えてみて欲しい。コメ:一瞬でこの感想が出てくるセンスwwwコメ:口から出た感想は頭悪そ
呆然と立ち尽くす俺達の目の前には、かつて山だった物が散らばっている。 山脈が消え去ったことで隠されていた風景が姿を見せ、平になった大地は岩の欠片で埋め尽くされている。コメ:俺たちは何を見せられたんだ?コメ:あれ、山どこいった?コメ:僕もアルちゃんに粉々にされたい!【2万円】コメ:その気になれば世界滅ぼせるだろwコメ:こんな化け物に挑もうとしてたんか勇者ユートルディスは……。コメ:四天王でこれなら魔王どんだけ強いの?w「ママすごーい! お山が無くなっちゃった!」 ナタリアが手を叩いて喜んでいる。 凄いとかそういう次元の話じゃない気がするんだが。「ナタリアちゃん、パパ、少し下がりましょうかっ。ゴミの望みが叶ったようですので、兵隊の皆さんも離れた方がいいと思いますよっ?」 口角を上げて微笑むアルの表情は、氷のように冷ややかな怒りを含んでいた。 瞳の奥に暗い感情が見える。 背中に熱を感じていた俺の体温が氷点下にまで落ちたような寒気を感じた。 アルが斜面を下り始めたので、俺とナタリアもそれにならう。 アルの迫力に気圧され、兵士達も俺達の後に続く。 ランデルだけが瓦礫の山を見つめていた。「ん?」※ん? 足元が揺れた気がした。 いや、やっぱり地面が震えている。 一歩一歩大地を踏みしめる足が振動を感じ取っている。 気になって立ち止まると、その違和感が音となって現れた。 遥か後方からいくつもの爆発音が聞こえる。 それは、とてつもない速さでこちらに近づいてきているようだ。「にゃんぢゃ……ありぇは……?」※なんだ……アレは……? 振り返ると、爆発音とともに砂煙が立ち昇っていた。 瓦礫が次々と火柱のように舞い上がり、こちらに近づくにつれてだんだん大きく弾けていく。
「よし、準備が整ったな! それでは、予定通り見張りは待機地点に移動せよ! ワシらもすぐに出るぞ!」 ランデルの指示で馬車と兵士が移動を始めた。 残った五十人程で四天王を探すようだ。 俺が混ざるはずだった部隊が遠ざかっていく。「いや、ちょっちょみゃちぇ! おりぇもちゃいきぎゅみにひゃいりゅ!」※いや、ちょっと待て! 俺も待機組に入る!「王から褒美を貰った時に、ワシとユートルディス殿でネフィスアルバを倒しに行けと命じられておりましたので、てっきり一緒に行くものかと。もう無理ですぞ?」 無理ですぞじゃないんだが。 予定通りって事は、事前に作戦を考えていたんだよね? 何で作戦会議に勇者を誘わないんだろうか。勇太:作戦失敗です。コメ:知ってたwコメ:勇太の作戦が成功するわけない。コメ:様式美で草コメ:ストレスゲージが真っ赤になってるぞ!w「ぎょひゃんはぢょうしゅりゅにょ?」※ご飯はどうするの?「三日前に立ち寄った村で携行食を買ったではありませんか。これ一枚で二日分の食料になりますので、五ヶ月は余裕を持って探索出来ますぞ?」 ランデルが懐から取り出したのは、クレジットカードくらいのビスケットに似た食べ物だった。 これをちびちび食べながら移動を続けるらしい。 兵士が背負っている大きなカバンの中には、この携行食とやらが大量に詰まっている。 水は山中の湧き水から補充する。 地獄のような登山計画に目眩がしてきた。 騎士が俺の剣と盾を持ってきてくれたが、受け取るつもりはない。「ねえ、ダディ……。もしかして、あの山に登るの? せっかく買ってもらった服が汚れちゃいそう。あたし行きたくないなぁ……」 駆け寄ってきたナタリアが今にも泣き出しそうな顔で見上げてくる。 いつも明るく笑顔を絶やさない娘がこんな表情をするのは初めてだ。 生まれたばかりのこの子は、こちらの都合で連れ回され
ファッションショーから五日が経過した。 ナタリアは少し背が伸びたくらいで、今までのような異常な成長は見られない。 今日のナタリアは白いワンピースを着ている。 兵士に三つ編みのやり方を教わったらしく、色々と工夫を重ねた結果、右耳の上あたりからふんわりと編み始めて横に流したサイドテールになっている。 清楚で上品なお嬢様の出来上がりだ。 アルも先日購入したセクシーニットの組み合わせだ。 ナタリアに三つ編みにされたらしく、ナタリアと逆方向のサイドテールになっている。 アルの膝上に横向きで座っているナタリアと楽しそうに会話しているアルを見ると、歳の離れた姉妹に見える。 歳といえば、二日前にナタリアの成長は普通なのかと聞いてみた。 ランデルは、早すぎると言っていた。 自分がナタリアと同じくらいの時は、友達の誰々とこんな遊びをしただのと昔話を始めた。 あまりにも長かったので口を封じて無理矢理やめさせた。 アルもナタリアと同じだったらしく、生後五日程で今のナタリアくらいまで成長したのだとか。 そこから一か月かけて大人になり、その姿を維持し続けているらしい。 気になったので年齢を聞いてみたのだが、教えてもらえなかった。 俺より年上とだけ知る事が出来た。 ランデルは、「ワシよりは年下ですかな?」と聞いた瞬間に平手打ちされていた。 アルの動きがあまりにも速く、パシィンという乾いた音しか聞こえなかったのだが、ランデルの左頬に真っ赤な紅葉が浮かび上がったので分かったというのが正しい。 日本では女性に聞いてはいけない事ランキング一位の質問なので、ランデルの左顔面が骨折したかのように腫れあがったのも仕方がないのかもしれない。 翌日には元通りのイカつい顔に戻っていたが。 馬車は森を抜けて高原地帯を走っている。 丈の短い雑草に覆われた大地は緩やかに起伏しており、所々に岩が露出している。 路面は段々と荒れてきて、馬車の揺れがお尻の皮膚を削り取ってくる。 尾てい骨と腰が悲鳴を上げ始めた。 そう
「パパっ! ちょっと来て下さいっ!」 試着室の方からアルの声がする。 振り向くと、アルがカーテンの隙間から顔を半分だけ覗かせていた。「どうでしょう?」 カーテンが開くと、美しい天女が現れた。 絵画の中から飛び出して来たのだろうか。 胸元までが灰色で、そこから下が黒色の袖がないニットだ。 首元はタートルネックになっており、丸出しの腕が艶かしい。 破壊力抜群な暗色の服がピンク色のウェーブがかった髪を際立たせている。 下はタイトなベージュのパンツで、スラリとした脚線美が強調されている。コメ:勇太さん、これ買いです!【二万円】 コメ:可愛すぎて一瞬気を失ったわw【一万円】 コメ:アルたそ似合いすぎ!【二万円】「きゃいみゃしゅ!」 ※買います! 何を迷う必要があろうか。 こんなもん買いでしかない。「ダディ、どっちがいいかな? 大きくなったら着る服なんだけど……」 天使が二択を迫ってきた。 一つは袖と胸元に白いレースのフリルがついた可愛らしい薄いピンク色のワンピース。 一つは襟の無い赤いシャツと黒いレザーのスカートという大人びたセクシーな組み合わせだ。 成長したナタリアの姿を想像しながら選ばなければならない。 どっちが似合うかと問われた時の回答に正解は無いが、世の男達にとって永遠の課題である。 無難なのは、ナタリアがどっちが好きかを聞いて、俺もそっちが好きと答える安定パターンなのだが。勇太:みんな、力を貸してくれ! コメ:ワンピースは白いの買ったから赤い方かなぁ? コメ:どっちも買うのが男だぞ! コメ:お前ら大丈夫か? 可愛い系とセクシー系のどっちに成長するかの重要な分岐だぞここ。ちなピンク一択! コメ:ギャルゲー脳は帰ってどうぞw コメ:俺もどっちも派。 コメ:俺達の勇太はどこに行っちまったんだ? 脳なしのお前は何も考えずにここまで来たんだろ! 迷う前に買え! 勇太:そうでした……。俺
プァルラグを倒した俺達は、食事休憩をする事になったのだが、ランデルから待ったがかかった。 プァルラグの肉は野生味が強いので、個性を活かすには鍋にするのが一番らしい。 ベースのスープにマロミスという調味料を使うと格別な美味しさになるという。 この近くにはヨランザの街があり、調理役の兵士がプァルラグを解体している間に少人数で買い出しに行くというのがランデルの提案だ。 俺としては、持てるだけの肉塊を街に運んで、店に調理をお願いしたかった。 みんなで街に行けば宿に泊まれるからだ。 しかし、ナタリアに美味しいプァルラグ鍋を食べさせたいと張り切っていたランデルを見たら何も言えなかった。 ランデルと名乗りを上げた騎馬兵五人がヨランザの街に行くことになったが、やりたい事があったので俺、アル、ナタリアも加えてもらった。 御者も合わせた馬車組と騎馬兵の計十人で買い出しに向かう。「拠点の指揮はノイマンに任せる! では出発じゃ!」 馬車が行軍時より少し速い速度で走り始めた。 少し先にある脇道に入って数キロ進めばヨランザの街があるらしい。「ねえ、パパっ? どうして急に街に行きたくなったんですかっ?」「にゃちゃりあにょふきゅをきゃっちぇおきょうちょおみょっちぇにぇ。おりぇやありゅにょびゅんみょひちゅようぢゃりょ?」※ナタリアの服を買おうと思ってね。俺やアルの分も必要だろ? 騎士がナタリアの服を作ってくれているとはいえ、お洒落をしたい年頃の子には物足りなさを感じるだろう。 俺もこの世界に来てからずっと同じ服装だしな。 夜営の時に魔法使いが水魔法と風魔法で洗濯してくれるのだが、毎日同じ服というのは生活のリズム的に精神衛生上良くないと思う。「わあっ、新しい服を買ってくれるの! ダディありがとう!」「パパっ! ありがとうございますっ!」 まるで馬車の中に花が咲いたかのようだ。 可愛い娘と美人な妻の喜ぶ姿がこれほど良いものとは。 嬉しさと誇らしさの中にむず痒い気持ちがある。
ワーキャスについて語るスレ【第1812世界】052 名前:異世界好きの名無しさん おい、タイキンがパーティメンバー募集してるぞ!053 名前:異世界好きの名無しさん 見た見た! 三人までらしいけど、選ばれたらタイキンバフで勝ち組確定じゃね?054 名前:異世界好きの名無しさん 四窓推奨みたいになりそうだしな。タイキンの視聴者数分の広告掲載料がそのまま入ってくるんだから、宝くじ当てるみたいなもん。055 名前:異世界好きの名無しさん タイキンさんと一緒に商品紹介してみたい!w056 名前:異世界好きの名無しさん >>055 タイキンキッズさんお疲れっす!057 名前:異世界好きの名無しさん 募集した奴どんくらいおる?058 名前:異世界好きの名無しさん >>057 したで?059 名前:異世界好きの名無しさん >>057 不細工ワイ応募してしまう060 名前:異世界好きの名無しさん タイキンはイケメンやしな。実際そこで人気取ってるのもある。061 名前:異世界好きの名無しさん >>059 他にもチャンスあるって!062 名前:異世界好きの名無しさん >>061 まだ落ちてねーわ!063 名前:異世界好きの名無しさん ワロタwww064 名前:異世界好きの名無しさん でもさ、チームで売ってくんならビジュアル重要じゃね?065 名前:異世界好きの名無しさん それはそうw066 名前:異世界好きの名無しさん >>059 残念だったなw067 名前:異世界好きの名無しさん >>066 いや、だから勝手に落とすなってw068 名前:異世界好きの名無しさ
おそらく、角がある方がオスで爪が長い方がメスだろう。 迫り来る二体のプァルラグに怯むことなく、ランデルは巨大な剣を振り上げた。 大きく左足を前に出すと、込められた力で大地が砕けた。 仰け反らせた背をバネのようにしならせ、踏み込んだ力を全身で爆発させた。「ぬうんっ!」 ランデルが大剣を振り下ろすと、目の前の地面が激しく炸裂した。 放たれた衝撃波が土煙を巻き上げながらプァルラグをに迫る。 驚いたプァルラグは急ブレーキをかけて立ち上がったが、ランデルの強力な一撃を受けると後方に吹き飛ばされた。コメ:ジジイすげえええええ!【四千円】コメ:タイキンより強くね?w【二千円】コメ:ゴミ呼ばわりされてるとは思えないwコメ:ランデルかっけえな!コメ:人間業じゃねえぞw【二千円】 ゆっくりと起き上がったプァルラグは、警戒するようにランデルを睨みつけている。 下手に動けないその様子がランデルの剣撃の威力を物語っていた。 四足歩行の時も迫力があったが、立ち上がったプァルラグはその比ではない。 目の前に二本の大木が現れたかのようだ。「ダディ、ちょっと借りるね!」「ん? あ、ちょっちょ……」※ん? あ、ちょっと…… 俺の手からルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを奪い取ったナタリアが前傾に身を屈めて溜めを作った。 ナタリアの後ろ髪が鞭のように空気を打つと、目の前からその姿が消えた。 放たれた矢のように風を切り、一直線にプァルラグへと向かって行く。コメ:え、何してんの?コメ:ナタリアちゃんが危ない!コメ:ランデル頼む、止めてくれ!コメ:勇太お前マジでゴミだな。コメ:ナタリアたそ戻って来てー!「きょりゃ! にゃちゃりあ、みゃちにゃしゃい!」※コラ! ナタリア、待ちなさい! 俺の叫びも、伸ばした手も、ナタリアには届かなかった。
馬車は、豊かな緑に囲まれた広い街道を走っている。 木々の間を通り抜ける風は青々とした草木の香りを含み、大きく息を吸い込むと気分が落ち着くような気がする。「蛇がとぐろを巻くように生えているのが蛇木(じゃぼく)、妖精の羽のように一対の半透明の葉があるあの花はフェアロワイス、茎がまん丸と大きく傘が屋根のようになっているキノコが家茸(かたけ)、家茸の茎には入り口があって、中に入った生物を養分にするんじゃ」 ランデルが外を指差し、ナタリアにあれはこれはと教えている。 くしゃりと目尻に横皺を寄せた青い鎧の老兵は、なんとも好々爺然としている。 ナタリアもランデルに懐いているようで、おじいちゃんと孫のような関係性になっていた。 父になって早六日なのだが、色々と変化があった。 最近の子供は成長が早いと聞くが、俺の娘のナタリアは小学校五年生くらいの身長になっている。 飛んだり跳ねたり走り回ったりと元気いっぱいだ。 髪も肩まで伸びて、癖のない真っ直ぐな黒髪が光を浴びて天使の輪を作り出している。 アルに似て整った顔立ちだが、つり目がちで勝気な雰囲気がある。 子供らしい喋り方ではあるが、もう普通に話せるようで、いつの間にか兵士達のアイドル的存在になっていた。 昼の休憩と夜の野営の時、兵士達はナタリアを奪い合うように話したり遊んだりしている。 裁縫上手な兵士がナタリアの服を作ってくれているのだが、有り合わせの布で作った間に合わせなので、デザインはあまりよろしくない。 ナタリアは、アルのことをママと呼び、俺のことをダディと呼び、ランデルのことをハゲちゃんと呼ぶようになった。 アルの血を強く受け継いでいるのか、アルのように炎を操ることが出来るようだ。 また、俺とは違い身体能力も高いようで、棒切れを使った模擬戦という名のチャンバラごっこではあるが、ノイマンと互角以上に戦っていた。 次はハゲちゃんを倒すと意気込んでおり、非常に愛くるしい。 反抗期に殺されないことを祈るしかない。 そして、俺にとって重大な問題が発生している。「にゃあ
「しゅみゃにゃいぎゃ、みじゅをみょっちぇきちぇきゅりぇにゃいきゃ?」※すまないが、水を持ってきてくれないか?「はっ!」 アルの体から大量の水分が汗として放出されてしまっているので、心配そうに見守っていた兵士に水をお願いした。 ほっと安堵の息を吐き、アルの額に滲む汗を手拭いで吸い取ってやる。 アルは、長いまつげをたくわえたまぶたを伏せると、弱々しくへにゃりと笑った。 その目元には涙が滲でいた。「ありが……とう……ございます……。良くなった……気がします……」 再び苦しそうな表情を浮かべたアルのひたいから、大量の汗が噴き出す。 アルを抱える俺の腕も湿ってきていることから、症状が治まっていないのが分かる。 明らかに強がりを言っている。 ハイポーションの効果が出るのには時間が掛かるのだろうか。 いや、そんなはずが無い。 俺が溺れた時、ランデルは俺にハイポーションを飲ませてすぐに、俺が助かったと確信していた。 万能薬でも治せないような絶望的な状態なのかもしれない。「勇者殿、水をお持ちしました!」 兵士が水を持ってきてくれた。 水差しからコップに注いでもらい、アルに水を飲ませる。 一瞬安らいだような表情を浮かべたが、すぐに歯を食いしばるように苦しみだしてしまった。 アルの体は熱を持ち、薄らとピンク色に染まっている。 胸部が苦しそうに上下し、首筋から流れた汗が胸元を伝う。 俺に癒しを与えてくれる唯一の存在が目の前で苦しんでいるのに、これ以上何も出来ないのが歯痒い。 水を飲ませて、汗を拭いてあげることしか出来ない。「ぢょうしちゃりゃ……」※どうしたら……「勇者……様……。手を…&hel