スキル『絶望的な滑舌』を授かったみたいだ。
ヒューコンは、常に体の状態を監視していて、重大な変化が起こった時には自動で教えてくれる。 その機能によって、どんなスキルを授かったのかが分かるのだが、俺が獲得したのは滑舌が悪くなるだけの大ハズレスキルだった。勇太:『絶望的な滑舌』ってスキルを手に入れました。
コメ:ダメそうw コメ:どういうスキルなんですか? 勇太:絶望的に滑舌が悪くなるみたいです。 コメ:どうすんのそれw コメ:終わったな……。目を開けてみると、高級そうな赤い絨毯が敷き詰められた広場だった。
壁には、美しい女性や騎馬に乗った騎士が描かれた巨大なステンドガラスが何枚もはめ込まれており、そこから色鮮やかな陽光が差し込んでいた。 その下には、鈍く光る金属鎧姿の騎士らしき人々や、暗色のローブを身に纏った怪しい人達が立っていた。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」
声がする方を見ると、黒髪に白髪が混じった偉丈夫が、玉座のような椅子に大股を開いて座っていた。
その男は、仕立ての良い派手な衣装を身に纏まとい、豪勢な装飾品がついた金色の王冠をかぶっている。 筋骨粒々で背が高いのだが、その割りに顔が小さい。 鼻筋が通っており、顎がしっかりした美しい顔立ちをしている。 四十代半ばに見えるその男性は、目が合ったはずなのにしばらく無言を貫く俺を見下ろしながら、心配そうな面持ちで自分のあごひげをなでていた。勇太:勇者じゃなくて勇太なんですけどねw
コメ:草生やしとる場合か! コメ:やめい!w コメ:おもろwふと視聴者数を確認すると、二十一人になっていた。
会話が出来ないのは不安だったが、いざコメントをしてみたら意外と楽しい。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」
おそらく王様であろう人物が、心配そうにこちらを見ている。
俺がコメントと会話をしていたせいで、まさか自分が無視されているのではと不安になったのだろう。コメ:二回目?w
コメ:勇太さんが答えてあげないからw「ぢょうみょ、きょんにちは!」
※どうも、こんにちは!まずは挨拶と思い口を開いたのだが、自分でも何を言ってるのか分からないほどに活舌が悪い。
コメントの人たちも、ヒューコンの翻訳機能を通した文字でしか俺の言葉を理解できないのではなかろうか。 ……とんでもないことになってきたぞ。勇太:何これ?
コメ:滑舌悪すぎワロタwwww コメ:ハズレ中のハズレやないか!w「おお、やはり勇者であったか! 魔王が猛威を振るいし時、光の中から救国の勇者が現れると伝承にあるのだ! 余はジャックス王国の国王、エディウバ・ジャックス三世である!」
こっちの心情などお構いなしに、エディウバ国王が話しかけてくる。
正直なところ、さっさとリセットしたい。 しかし、自分でも活舌が悪すぎることが面白く、リスナーも楽しそうにしているので、どこでやめるかが問題だ。コメ:救国の勇太w
コメ:それやめてwww 勇太:こっちは救いようのない活舌なんですけどね コメ:馬鹿だこいつw コメ:ワロタどうやら俺がワープしてきたのは、ジャックス王国の王城の中だったみたい。
異世界で初めて会話した相手が国王って、とんでもないことになっている気がする。 魔王を倒す勇者というのは、ロールプレイングゲームのようでワクワクする設定ではあるのだが。俺のスキルがタイキンさんと同じ勇者だったなら、バズりにバズっていたに違いない。 このまま冒険を続けたいところだけれど、流石にこのスキルでは戦えないからなぁ。 アタリのスキルが出るまでこの場所でリセマラするのもありかもしれない。「ところで勇者よ、そなたの名は何と申す?」
「ゆうちゃでぃしゅ!」
※勇太です!しばらくリアルロールプレイを楽しむとするか。
王に問われ、大きな声で自己紹介する。「ほう、『ユートルディス』と申すか。実に勇者らしい勇敢そうな名前であるな!」
だが、絶望的な活舌が悪さして、俺は異世界チックな別人になってしまった。
勇太:え?
コメ:飲み物吹いたんだがwwww コメ:おい、勇者ユートルディスが爆誕したぞwww コメ:面白すぎて切り抜いたわ!w確かに今のやりとりは漫才みたいだった。
切り抜きがバズってくれるかもしれない。 でも、魔王どころかその辺の雑魚モンスターと戦っても死にそうな気がするし、ここはやっぱりリセットしかないと思う。 魔王を倒す勇者……みたいな設定の異世界にワープしてきたからには、配信向きのスキルではないよな。勇太:このスキルは流石にキツイんで、リセットしてもいいですかね?
コメ:このまま魔王倒したら三億のマネーチャットするけど? 勇太:え? コメ:三億キター! コメ:いけ! 勇者ユートルディス!三億だって?
本当かどうか分からないけど、人生が変わる程の大金だぞ……。 動画で、リスナーのチャレンジに成功したら5億円貰えたってのがあった。 このままリセットしたら、こんな一攫千金のチャンスは二度と来ないかもしれない。 命を取るか金を取るか……か。 俺は、平凡を捨てて刺激を取ったんだ。 ここで逃げたらバイトの店長に申し訳ないよな!「勇者ユートルディスよ、世界は魔王により滅亡の危機にある。どうか我々に協力してもらえんだろうか?」
俺の決意を確かめるかのように、王様が協力を要請してくる。
「ひゃい! みゃおうをちゃおしみゃしゅ!」
※はい! 魔王を倒します!答えは当然イエス。どうなるかは分からないが、やれるところまでやってみよう。
コメ:無理だろwww
コメ:お前に何が出来んねん!w 勇太:俺、三億欲しい……。 コメ:馬鹿だこいつw 「ふむ、心強い。ランデルよ!」「はっ! ランデルであります!」
王様に名を呼ばれ、青い鎧に身を包む白髪の老兵が歩み出る。
そして、玉座に続く階段の下でひざまずいた。ランデルと呼ばれたその男の顔や体には、何度も死線を潜り抜けてきたためか無数の傷跡がある。 獲物を狙う猛獣のごとく鋭い銀色の瞳。顔に深く刻まれたシワが表情に凄みを与えており、まるで年輪のように戦歴を表しているようだ。 後頭部が大きく円状に禿げあがり、その周りから申し訳なさそうに生える白髪が肩まで伸びている。 見た目は武人らしくかっこいいのだが、台無しにするくらいのハゲだった。コメ:ハゲだな。 コメ:うむ、可哀想なくらいハゲだ。 コメ:お前らやめろ!w「ランデルよ、そなたは魔王軍四天王が一人――残虐の王ネフィスアルバを討伐し、みなの士気を高めるのだ!」「はっ、必ずやネフィスアルバの首を持ち帰ってご覧に入れましょう! 勇者ユートルディス殿、四天王討伐はワシに任せて下され!」 王による発令に従い、青い鎧の老兵ランデルが勢いよく立ち上る。 胸のあたりを拳でガチャンと叩き、残虐の王ネフィスアルバを討ち取ると高らかと宣言した。勇太:なんかハゲが四天王を倒してくれるみたいです。ついでに魔王もやって欲しい! コメ:ハゲが倒したらハゲに三億なんじゃ? コメ:ハゲが倒してもユートルディスにガチで三億マネチャしますよw コメ:ハゲハゲ言うのやめてあげて!w このランデルという勇ましい騎士が魔王に勝ったとしても、俺に三億円が入る確約を貰ったからな。任せてくれと言うならお願いしようじゃないか。「おにぇぎゃいしみゃしゅ!」 ※お願いします! 四天王を一人削ってくれるのはありがたい。 他にもランデルみたいに強そうなやつがいるといいんだけど。「なんと! 『俺が行きます』……ですと? これは頼もしい。さすがは勇者殿」 ……ん? 俺はお願いしたんだぞ? ランデル、どこでそうなった?「ふむ、面白い。勇者ユートルディスよ、ランデルと共にゆけい!」 言ってない言ってない、何も面白くないでしょうが! 待ってくれよ王様、ゆけいじゃないんだってば!コメ:さすが勇者ユートルディス。勇敢すぎるw コメ:滑舌悪さしすぎwww コメ:これ死んだだろw 仮に俺が勇者だとしましょうか。 だとしたら、魔王とか四天王を倒す前に、まずは訓練とか修行をするべきなんじゃないの? 素振りとか弱いモンスターと戦ったりとか、戦闘の経験を積ませて欲しいんだけど
「ではユートルディス殿、そろそろ参りましょうか!」 宝物庫から出て、ランデルと一緒に今来た道を戻っているだけなのだが、全身から大量の汗が吹き出してくる。 盾と剣を預かってもらえたのは幸運だったが、金ピカの全身鎧は脱がせてもらえなかった。 このミラージュメイルがとにかく重くて、まともに歩けない。 全身分を合わせたら四十キロ前後あるのではないだろうか。 普通に歩こうとするとももを上げる感覚が狂い、段差の無いところでつまずいて転びそうになる。 ペンギンのようにヨチヨチと歩くしかなく、それだけでも息が上がる。コメ:デバフかかってる? コメ:ゼンマイで動いてるのかよw 勇太:こういう感じに動くおもちゃありますよね? コメ:冷静で草 視聴者数は三十三人に増えていて、登録者数が二十五人になっている。 配信開始から二時間程度でこの人数は多いのだろうか? コメントを見る限り、みんな楽しそうに視聴してくれているのは分かる。 だんだん歩くのが辛くなってきたので、コメントと会話をして気を紛らわせたい。勇太:他のキャスターさん達も初日はこんな感じなんですかね? コメ:初日で四天王を倒しに行く奴が他に居るとでも? コメ:最初の挨拶で死にたくないから安全に行くって言っておきながら、滑舌が悪くなるスキルで魔王を倒しに行くのが普通だと思ってる? コメ:勇者ユートルディスはお前だけだわ!w 城の外に出る頃には、心臓が破裂しそうなほど強く鼓動していた。 城は小高い丘の上にあるようで、石造りの街並みが一望出来る。 少し下った所にある石畳の広場では、兵士達が綺麗な長方形の形に整列している。 冒険の始まりを感じさせる圧巻の光景であった。 異世界に来たんだと強く認識させられ、今更ながら三億を諦めて元の世界に戻りたくなった。 脳内では、帰還という二文字の危険信号が繰り返し点灯している。 それはそうだろう。 俺がやっている事は時間をかけた自殺に等しいのだから。「ユートルディス殿、いよいよですな。このランデルがどこまでもお供しますぞ!」「おうてぃにきゃえりちゃいよおりぇは……」 ※お家に帰りたいよ俺は……「ほう、流石はユートルディス殿。残虐の王ネフィスアルバが『オウッティ』山脈に潜んでいることに気づかれましたか。この場所からでも奴
「ユートルディス殿、お気を確かに!」 ランデルが深緑色の液体を持った小瓶を持っている。 俺が大量の汗をかいているから、何か飲み物をくれようとしているのだろうか。 とてもじゃないが今はまだ飲み物を口に出来るような状態ではない。 もう少し落ち着いたら貰うとしよう。「さあ、飲み込むのです!」「びゅひぇあっ!」※ぶふぇあっ! このジジイ、瓶を俺の口の中に突っ込んできやがった! 息をするのもやっとだというのに。「お早く、お命に関わりますゆえ!」 こいつ、鼻を塞いできやがった。 お、溺れる。 今がまさにお命の危機なんだが!「ぎぇひょっ、ぎぇひょぁ、おええええっ!」※ゲホッ、ゲホァ、おええええっ! し、死ぬかと思った。 火事場の馬鹿力というやつだろうか。 こんなに早く液体を飲み干したのは初めてだ。 しかも恐ろしく不味かった。「ふぅ、危ない所でしたな。では先を急ぎましょう!」 危なかったのは完全にお前のせいだけどな! 陸の上で溺死するところだったんだが。 液体が気管に入り込んでしまったのか、咳が止まらない。 椅子に座って背中を丸め、落ち着くのを待つしかない。 シンプルな木製の長椅子なので、座り心地が非常に悪い。コメ:陸で溺れる勇者wコメ:ランデル殺す気満々で草コメ:何を飲んだの?コメ:食レポよろw たしかに、俺は一体何を飲まされたのだろうか。 馬車の揺れも相まって吐き気を催している。勇太:センブリ茶のような苦味と、本格的なインドカレーに似たスパイシーな香りがあった。それを無理やり誤魔化そうとしたのだろうが、気持ちの悪い甘ったるさがあり、なんとも不快な味を作り上げている。罰ゲームだと言われても納得できるほど不味い液体だった。コメ:食レポ上手くて草コメ:ユートルディスは、スキル『絶望的な食レポ』を獲得した。コメ:
ワーキャスについて語るスレ【第1802世界】135 名前:異世界好きの名無しさん 結局、タイキンが大金稼いでるだけだろ? まあ見ちゃうんだけどさ。136 名前:異世界好きの名無しさん タイキンさんは、商品紹介してる配信が一番面白いよね! この前の声変換する魔道具のやつ腹抱えて笑った!137 名前:異世界好きの名無しさん >>136 本日のタイキンキッズ138 名前:異世界好きの名無しさん もはやタイキンスレなんだよなあ139 名前:異世界好きの名無しさん タイキンが一番おもろいのは事実。 ランキングが証明してる!140 名前:異世界好きの名無しさん 最近のキャスターはタイキンの二番煎じばっかりで……141 名前:異世界好きの名無しさん >>140 だから癒し系キャスターの『まろんだのんチャンネル』を見ろとあれほど142 名前:異世界好きの名無しさん >>141 ブスやんけwwww143 名前:異世界好きの名無しさん あの声癒されるやろ!144 名前:異世界好きの名無しさん 面白いキャスターおらんのか? 強いスキルで無双する配信ばっかりで飽きてきた。145 名前:異世界好きの名無しさん 強いスキルではあるが、この前の変態は面白かったな!146 名前:異世界好きの名無しさん >>145 kwsk147 名前:異世界好きの名無しさん >>146 裸になると身体能力が爆上がりするスキルだったんだけど、公然猥褻(こうぜんわいせつ)で逮捕されてリセットしてたw 裸の王様で検索したら切り抜き見れるで!148 名前:異世界好きの名無しさん クソワロタwwww サンキュー見てみるわ!149
「ユートルディス殿、起きて下され!」 ランデルの馬鹿でかい声が響く。 俺を揺さぶり起こそうとしているらしい。肩を押されるたび、首が右へ左へ傾いて、兜と鎧がガキンガキンと音を立ててぶつかる。 このジジイ、力が強すぎないか。もしも俺が赤子だったら、揺さぶられ症候群で命を落としていた自信がある。「お、ちゅいちゃきゃ?」 ※お、着いたか? このままで頸椎がいかれてもおかしくない。しょうがなく目を開ける。 首が寝違えたように突っ張っているし、長時間座っていたおかげで腰が悲鳴を上げていた。 そして何よりお尻が痛い。 移動中くらいこの重すぎる装備を脱がせて欲しい。 大昔に、正座をした人間の|ふとももの上に岩の板を乗せる刑罰があった気がする。 この重たい鎧を着せられた状態は、それと同様の拷問だと言われても納得できる。コメ:勇者ユートルディスキター! コメ:恐ろしい速さで首揺れてたぞw 勇太:おはようございます。目覚まし時計になった気分です。 コメ:切り抜きから来ました! コメ:目覚ましユートルディスで草 コメ:初笑い記念【二千円】 勇太:え、えええっ! マネチャありがとうございます! コメ:ワースレから。 目覚めた瞬間からコメントの勢いが凄い。 初めてのマネーチャットも頂いてしまったし。 ……え? 視聴者数が三百人を超えている? 登録者数千五百人だと? コメントに切り抜きとワースレって書いてあったし、もしかしてバズったのかもしれない。 「ランデル殿に伝令、上空にワイバーン三体を確認しました! このまま進めば戦闘は避けられません!」 偵察兵が大慌てでランデルに報告している。 この部隊には、偵察隊という周囲の状況を確認して報告する特殊な役目を持った兵士が存在する。 部隊の遥か前方を広範囲に網羅し、不意打ちされるリスクを極限まで減らすのが偵察隊の役目となっている。 馬に乗り広範囲を索敵する偵察騎馬兵が五名、中
俺もよく異世界配信は見ていたほうだが、このサイズのワイバーンは初めて見た。 こんなのもはやドラゴンじゃないか。コメ:この世界のワイバーンでかくね? コメ:ユートルディス、フォトンセイクリッドだ!w コメ:早くリセットで逃げろ! ワイバーンは、俺達を敵と認識したのだろう。 耳をつんざく金切り声を上げて威嚇し、その鳴き声で大気を震わせた。そして俺は、おもらしで股間を濡らしそうになった。「勇者殿、装備をお持ちしました!」 地面に這いつくばる俺の元に、騎士の一人がやってきた。俺の両脇を抱えて持ち上げる。 重い金属鎧を着た成人男性をこうも軽々立ち上がらせるとは。こいつもまたすごい力だな。 そして、俺に闇払いの盾ルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを差し出してくる。何度見ても神々しい装備だ。とてつもないチート性能だとしても疑わない。だが、今の俺に盾は必要ないし、剣も要らないぞ。「さあ、お早く!」 騎士が俺の指を一本ずつ伸ばしていく。不必要なものを無理矢理持たせようとしてくる。 俺なんかの握力じゃ抗うこともできず、強制的に勇者ユートルディスの完成だ。 はい、両腕ブラーン状態の案山子になりましたよーっと。 一刻も早くリセットしたいのは山々だが、今リセットするとミラージュアーマーを着たまま帰還してしまう。 命の危険があった事を伝えて、持ち帰った物を全て返却する意思を表明すれば刑は軽くなるのだが、それでも刑務所行きは確定している。 ……まあ正直なところ、魔法部隊がワイバーンを倒してくれれば三万円分のマネチャが貰えるのではと期待しているだけなのだが。 「全魔法部隊、攻撃開始じゃああああああ!」 ランデルの号令を皮切りに、魔法使いの杖が光り輝く。空中に色とりどりの魔法陣が浮かび上がった。 火の玉やら氷の槍やら様々な魔法が発現し、ワイバーンに向かって飛んでいく。 放たれた火の玉は、涙型に形を変え、尾を引くように弧を描く。真っ赤に燃えた炎の線が、オレンジ色のグラデーションを作り上げた。
ワイバーンとの激闘を終え、小休止をしながら食事を取ることになった。 この時点で視聴者数は千人を超え、登録者は三千人以上。今日貰ったマネーチャットとサブスク報酬を合わせたら、先月のバイト代を余裕で超えている。 周囲を見回すと、先の戦闘で少なからず怪我をした者が居たらしい。 肩を大きく抉り取られた騎士に、衛生兵がポーションを振りかける。緑色の蒸気が発生し、みるみるうちに傷口が塞がっていく。その上から包帯を巻いていた。現代医療も真っ青だ。 それ以外の騎士や魔法使い達は、火を起こしたり、鍋を準備したり、かまどを作って鉄板を敷いたりと、忙しなく動き回っている。「ユートルディス殿、知っての通り残虐の王ネフィスアルバは四天王の中でも最弱と言われておりますが、身の丈を超える巨大な魔剣による一撃が非常に強力です!」 そして俺はというと、なぜかランデルから四天王戦に向けての作戦を相談をされていた。 戦闘に関して何の知識も無いこの俺が、何を答えればいいのだろうか。突っ立ってればいいんだよとでも言わせるつもりなのだろうか。あまり頭に話が入ってこない。「ぢょりぇきゅりゃいきょうりょきゅにゃにょ?」※どれくらい強力なの? 知っての通りと言われても、こっちは前情報無しなんだよね。ヒューコンで探ってみても、ネフィスアルバは四天王ですとしか出てこない。ランデルから聞くしかないだろう。「ネフィスアルバが最後に姿を現したのは半年程前なのですが、その時は魔剣を振り下ろした衝撃波でライラットの街が消し飛んだらしいですな。まあ、ユートルディス殿なら楽勝でしょうが」 なるほど、剣で街を壊滅させる程度の相手か。 じゃあユートルディスならいけるかもね。 ……って、そんなわけあるか!「ひぇー、しょうにゃんりゃ……」※へー、そうなんだ……「そこでなのですが、ワシと騎兵でネフィスアルバの注意を引き、攻撃し続けることで隙を作ります。無防備となった奴の背後から、ユートルディス殿の強力な一撃で仕留める
「どうなされましたユートルディス殿? ワイバーンの肉は非常に美味でして、富豪達がこぞって買い集めるほどです。特にこの眼球は鮮度が命なので、滅多に市場に出回らない希少部位なのですぞ!」 ランデルが不思議そうな顔で、料理に手を付けようとしない俺に話しかけてくる。 ワイバーンの肉の美味さを説明されたところで、目玉も同じように考えられると本気で思っているのだろうか。 だったら肉が食べたいんだけど。なんで美味い肉の部分じゃなくて希少な部位を出されるんだよ。有名なカレー屋さんで親子丼を食べさせられる気分だ。 給仕係りもランデルも俺が食べるのを待っているみたいだし。……でもこれを食べたらマネチャが貰えからなあ。 よし、腹を括ろう。いくらなんでも勇者に食えないものを出すはずがない。 ワイバーンの眼球をフォークで刺す。意外にもシリコンのような感触で、持ち上げてもしっかりと形を保っていた。 俺は、心の中で十字を切りながら巨大な目玉にかじりつく。「うっわあ……。しょっきゃんはしゅぎょきゅきみょちわりゅいきぇぢょ、ちょんぢぇみょにゃきゅうみぇえ。きょりゃうんみぇえわ!」※うっわあ……。食感はすごく気持ち悪いけど、とんでもなくうめえ。こりゃうんめえわ! 思わず叫んでしまうほどの美味さ。 しかしこれは未知の食材。分かりやすくリスナーに伝えなくては。コメ:え、美味しいの?勇太:かぶりついた時のムチュンという食感が気持ち悪く、不快感を感じる。しかし、熱で白く変質したゼラチン質の目玉を咀嚼した途端、口内に上品かつ濃厚な旨みが広がる。これが、今までに経験した事のない脳に電流が走るかのような強烈な旨みで、考えるより先に喜びの声が自然と口から漏れ出してしまった。この味が何に似ているかと聞かれても例を挙げるのは難しいけれど、似ている食材をあげろと言われたら白子だろうか。茹でたタラの白子を食べた事があるが、あれを二千倍美味しくした食材と考えてみて欲しい。コメ:一瞬でこの感想が出てくるセンスwwwコメ:口から出た感想は頭悪そ
ワーキャスについて語るスレ【第1806世界】206 名前:異世界好きの名無しさん ユートルディスの時代来るかもしれん!207 名前:異世界好きの名無しさん すぐ死ぬだろ208 名前:異世界好きの名無しさん 死ぬの分かってるのにミノタウロスに向かって歩いて行った時は、コメントが悲鳴で溢れてたよ!209 名前:異世界好きの名無しさん そらそうやろw 目の前で人死ぬとこなんて見たい奴おらんw210 名前:異世界好きの名無しさん タイキンの方が面白い。ユートルディスはクソw211 名前:異世界好きの名無しさん >>210 で、でたーwwwタイキンキッズ奴ーwwwww212 名前:異世界好きの名無しさん そいつ、まろんだのんチャンネルより面白いわけ? まろんタソの魅力に勝てないならこの話終わりで!213 名前:異世界好きの名無しさん >>212 ブスの話は今要らないんでw214 名前:異世界好きの名無しさん >>213 ○すぞテメー!215 名前:異世界好きの名無しさん タイキンがダンジョン行かない時はユートルディス見てるぞ! 結構おもろいw216 名前:異世界好きの名無しさん 俺も最近見てるわw ・ ・ ・ワーキャスについて語るスレ【第1809世界】795 名前:異世界好きの名無しさん 今日のユートルディス見てた奴おる?796 名前:異世界好きの名無しさん 今タイキンが下層攻略中なんでwwwww 弱小キャスター乙wwwwww797 名前:異世界好きの名無しさん >>795 見てたで!798 名前:異世界好きの名無しさん タイキンてネームドドラゴン30秒で倒せん
「いやー、美味かったですなユートルディス殿。特に、タラバスパイディーはワシの大好物なんです!」「りゃんぢぇりゅにはきゃんしゃしにゃいちょいきぇにゃいにゃ。よきゅわきゃりゃにゃいちゃべみゅにょびゃきゃりぢゃっちゃきぇりょ、じぇんびゅめちゃきゅちゃうみゃきゃっちゃ!」※ランデルには感謝しないといけないな。よく分からない食べ物ばかりだったけど、全部めちゃくちゃ美味かった! 俺とランデルは、三杯目のエールを飲みながら料理の余韻に浸っていた。 少し酔っ払ってしまったが、とても楽しい気分だ。「さて、そろそろ目的の場所に向かいますが、人間の店にします? ……それとも?」「じゅうじんっしょ?」※獣人っしょ?「「だははははははははは!」」 ランデルも酔っ払っているのか、笑い上戸になっている。 馬車の中で、獣人の凄さをこれでもかという程聞かされていたので、ここは獣人の店以外ありえない。 この世界でしかできない事を、俺はやるのだ。「それじゃあそろそろ?」「いっちゃいみゃしゅきゃ?」※行っちゃいますか?「「わはははははははははは!」」 何が面白いのか分からないが笑いが止まらない。 お酒を飲んで楽しくなっているのと、これから起こるであろうハッピーな出来事への期待で最高に楽しい。 会計を済ませて酒場を後にすれば、いよいよお待ちかねのご褒美タイムだ。 初めてだと緊張して下半身が敵前逃亡してしまうと聞いたことがある。 酒が入ると弱虫になってしまうと聞いた事もある。 しかし、今の俺は緊張よりもワクワク感で一杯で、なんなら既にいつでも出撃できる状態になっている。 会計の時に、牛獣人の胸を食い入るように見続けて気持ちを昂らせたからな。「さあユートルディス殿、本日のメインイベントといきましょう!」「おしゅしゅみぇのみしぇはありゅにょ?」※オススメの店はあるの?「ユートルディス殿、このランデル、不詳の身ではありま
「全隊止まれ! これより物資の補給に入る! 補給部隊は、物資調達後自由行動! それ以外は、部隊毎に交代で馬車の見張りをするように! くれぐれもライトニングビーストの首を盗まれないように気をつけろ! 解散!」 隊列を指揮する騎士の号令で目が覚めた。 どうやらジークウッドの街に到着したようだ。 生首を大事にする考え方は理解出来ないが、そんな事はどうでもよくなっている。 いつもはお尻の痛さと精神的苦痛で、不快な気持ちになりながら馬車を降りていたが、今日は違う。 ランデル大先生の助言を聞いたり、自分の中でのイメージトレーニングに忙しく、道中が楽しく充実していたのは初めてだった。 ここ数日は、常に視聴者が五人前後いるのだが、俺がコメントをしても返事をしてくれない。 今までが上手くいきすぎていただけなのだと思いたいが、とても寂しかった。 今日は全てを忘れて楽しみたいと思う。 一人旅だと思えば気が楽だ。 こんなに胸が高まっているのはいつ以来だろうか。 小学生の時、友達が秘密基地にエロ本を持ってきた時だろうか。 中学生の時、修学旅行で、先生の見回りを掻い潜り、女子の部屋でトランプをやった時だろうか。「明日の朝出発しますので、ユートルディス殿はワシと一緒に行動しますか?」「うん!」※うん! この世界に来てから、一番の笑顔で、一番元気に返事をしたかもしれない。 鎧を脱がせてもらえたのも嬉しかった。 絡まれたりしたら嫌だし街にも詳しくないので、ここはランデル先輩と一緒に行動した方がいいだろう。 ランデルが、金貨を一枚手渡してくれた。「この金貨が一枚あれば、二ヶ月は余裕を持って生活出来ます。平民の年収が金貨九枚前後といったところでしょうか。ユートルディス殿の体力が続く限り楽しんで下さい!」「にゃりゅひょぢょ、ありぎゃちょう!」※なるほど、ありがとう! こんな小さなコイン一枚が結構な大金みたいだ。 無くさないように気をつけないと。「では、行きましょ
「おんにゃは、しゃいきんにゃきゃよきゅにゃっちゃゆうじんきゃりゃきいちゃ、しぇきゃいいちおいしいりょうりをぢゃしゅおみしぇにいきちゃいちょおみょっちゃぎゃ、しょにょみしぇにょびゃしょぎゃわきゃっちぇいりゅにょに、ちゃぢょりちゅきゅきょちょにゃきゅしょにょしょうぎゃいをおえちぇしみゃっちゃ。にゃじぇきゃ?」※女は、最近仲良くなった友人から聞いた、世界一美味しい料理を出すお店に行きたいと思ったが、その店の場所が分かっているのに、辿り着くことなくその生涯を終えてしまった。何故か?勇太:みなさんも一緒に考えてみて下さいね。「なるほど。その店は、友人から聞いたすぐ後に無くなってしまったのでは?」「いいえ」※いいえ「その友人なのですが、最近知り合ったという部分が重要ですかな?」「ひゃい」※はい ほうほう、このジジイ初っ端からなかなかいい質問をしてくるじゃないか。 俺との会話が成り立たないだけで、騎士を率いているし、本当に頭が良いのかもしれない。「その問題に出てくる女というのは、その女じゃないと成り立ちませんか? 例えば、男でもよいのでしょうか?」「ひゃい」※はい「ほう、では何か辿り着けなかった理由があるのですな?」「ひゃい」※はい「ふむ……」 こういう時だけ会話が成り立っているという事実に腹が立つんだが。 しかし、質問自体は的確だし、このゲームが初めてとは思えないくらい、いい線をいっている。勇太:みなさんも気になった事があれば質問してみて下さい!「その店が辿り着けない場所にあったのでは?」「いいえ」※いいえ「その店は、誰でも気軽に食べに行けるような店なのですか?」「ひゃい」※はい「むむむ……」 困ってる困ってる。 ただでさえ厳つい顔のランデルが眉間にシワを寄せて悩んでいるせいで、鬼のような形相に変化し
三日経ち、視聴者が七人になってしまった。 特に何も起こらなかったというのもあるが、ランデルとの会話のほとんどが下ネタだったというのが大きいみたいだ。 視聴者が期待していたのは、従来のキャスターと異なる新しいスタイルの英雄であり、鼻の下を伸ばした欲望丸出しの成人男性ではなかった。 異世界で勇者ユートルディスになってしまった一般人が、何度も死戦をくぐり抜ける奇跡の冒険に胸を熱くしていたのだ。 俺の人間性やユーモアだったり、ランデルの男らしさや強さに魅力を感じてくれていた方々も居たのだが、何日も同じような下品な話しを続けていれば、見る気も無くすのは当然だ。 コメントがお叱りや非難する声で溢れていたのは気づいていた。 しかし、ランデルと仲良くなって初めてまともに会話が出来たこと、男としての本能で自制が効かなかったことで、視聴者を蔑ろにしてしまったのだ。 いくら後悔や謝罪をしたところで視聴者は戻って来てはくれないだろう。 その人達はもう俺の配信を見ていないのだから。 今更リセットをして新しい冒険を始めたところで、俺という人間の印象が固定されてしまった以上、何をしようが覆されることは無いだろう。 今回の反省を次に活かそうとしても、一度離れてしまった人の心が戻ってくるような甘い仕事ではない。 俺のキャスターとしての人生は終わったに等しい。 後は、自分の好きなようにラドリックという異世界での冒険を楽しむだけだ。 その内に、自分という人間性を含めてやっぱり俺の配信が見たいという視聴者が戻って来てくれるのを願うしかない。 というわけで、仲良くなったランデルと暇つぶしに推理ゲームをすることにした。 お題に対して解答者は質問をしていき、出題者はそれについて「はい」か「いいえ」で答える。 これを繰り返すことで、お題が含む謎を解き明かし、答えを導き出すという遊びだ。 例えば、『中身の見えない箱の中に、金貨が一枚、銀貨が三枚、銅貨が五枚入っており、この中から一枚がランダムに貰える。男は、自分が確実に金貨を貰えると分かった。何故か?』という問題があった
どの世界でもエロ談義は男同士の絆を深めてくれるんだな。 言葉では言い表せない不思議な感覚で、自分という存在が受け入れられたような気持ちになる。 何気ない友人との会話の中で、好きな異性のタイプとか、実はこんな性癖があるとか、秘密を打ち明けた時に、分かるわーと共感し共感される謎の一体感だ。コメ:うわ、最低ですね。登録解除します!コメ:勇太くん好きだったのに幻滅しました。コメ:エロ求めてねえんだわ。じゃあな!コメ:はあ、こういう勘違いキャスターいるんだよな。視聴者が何を求めてるのかを理解してくれよ。コメ:そういう流れになるならエロ専のチャンネルにしな。俺は勇者ユートルディスの冒険が見たかったのに。 打ち解けたと感じた俺とランデルは、好みの女性のタイプやら何フェチかなど、そっち方面の話題で盛り上がった。 途中、コメントが荒れて視聴者が激減しているのに気付いたが、おかまいなしに話を続けた。 今だけは配信なんてどうでもよく、ただただ楽しいひと時を過ごす方が有益だと判断したからだ。 全然要らない情報だが、ランデルは腰のクビレに興奮するらしい。 目つきの悪い気の強そうな女性がタイプで、それを上から屈服させるのが堪らないと言いながら気持ち悪い顔をしていた。 どうやらランデルは、エスの者だったようだ。 これも全然要らない情報だが、俺はお尻フェチだ。 ケツはデカければデカいほどいい。 学生の時は、後ろから見るジャージ姿がたまらなかった。 獣人と呼ばれる動物の特徴や特性を体に宿した人間がいるらしく、その中でも猫人族が凄いらしい。 容姿は人間とほぼ変わらないが、柔軟性のあるしなやかな体が、男たちのあらゆる欲望を受け入れてくれるのだとか。 また、猫獣人の特徴として、舌のつくりが違うらしい。 ブラシのように突起状になっており、ザラついているのだが、それが大量の唾液を纏った時に、恐ろしい兵器に変わるという。 細かく小さな突起群にぬるりと撫でられた時、男たちは自然と喜びの声を上げてしまうのだとか。 そういった理由
食事中に俺の話を聞きたいと言われて連れてこられたはずなのだが、俺はほとんど喋らなかった。 ランデルが泣きながら口をゆすいでいたせいで、進行を取れる人間が居なくなってしまったからだ。 俺を前にした兵士達は、自分の考える勇者ユートルディスはこうだみたいな話題で盛り上がっていた。 ユートルディス談義が白熱し、何故か取っ組み合いの喧嘩にまで発展し、俺の目の前に地獄絵図が広がった。 怒号と悲鳴が響き渡り、呆然と立ち尽くしていた俺は、最終的に俺の為に争うんじゃないという美少女みたいなセリフを言わされる羽目になった。 さて、四天王の首が張り付けられた悪趣味な馬車に、俺とランデルが二人で乗っている訳だが。 小休止という名の地獄が終わり、四天王ネフィスアルバが潜むオウッティ山脈へと向かっている。 緩やかな下り坂なので、馬車の速度が上がり、デコボコした路面が俺のお尻を終わらせにきている。 衝撃を和らげるクッションのような何かが欲しいと思い、座席とお尻の間に手を入れてみたところ、鎧の重さで手の骨がゴリゴリと音を立てて砕けそうになった。 それだけでもきついのに、もう一つの問題が生じている。 馬車の幌に、狂乱の一角獣ライトニングビーストの体液と血液が染み込み始めている。 そのせいで、凝縮された凄まじい獣臭と血生臭い不快な香りが馬車の中に充満している。 馬車の揺れと不快な臭いでいつ吐いてもおかしくない。「にゃありゃんぢぇりゅ、びゃしゃにょうえにょやちゅぎゃきゅしゃきゅちぇひゃきしょうぢゃきゃりゃ、しょりょしょりょありぇしゅちぇにゃい?」 ※なあランデル、馬車の上のやつが臭くて吐きそうだから、そろそろあれ捨てない?「お気づきでしたか。ユートルディス殿がおっしゃる通り、そろそろ物資の残りが怪しくなってきておりますので、途中街に寄り補給したいと考えております!」勇太:あの、今のって会話になってました? 各々が自分の意見を述べただけでしたよね? コメ:平常運転だね! コメ:いつもの聞き違いではなかった。 勇太:もしかして、俺がキンタマを食わせたことを怒ってるんで
「勇者殿、こちらが本日の昼食になります!」 いつもの麦がゆと……何だこれは? 握りこぶし大で、そら豆に似た形状の茶黒い物体が串に刺さっている。 気のせいじゃなければいいのだが、こんがり焼けたその物体からは、嫌な臭いのする湯気と微弱な黒くて禍々しいオーラが立ち昇っている。コメ:キモwww コメ:またゲテモノじゃねえか! コメ:さすがに不味そう。 コメ:なんか黒いオーラ出てない?w「きぇみょにょしゅうをぎょうしゅきゅしちゃようにゃきょうりぇちゅにゃあきゅしゅうをはにゃちゅきょりぇはにゃにきゃにゃ?」 ※獣臭を凝縮したような強烈な悪臭を放つこれは何かな?「はっ、こちらはライトニングビーストの睾丸を串焼きにしたものです! 先の四天王との激戦で、勇者殿が疲弊されているかもしれないとランデル殿に相談しまして、精のつきそうな部位をお持ちしました!」 ちょっとこいつが何を言っているのか理解できない。 俺は今、本当に正しい解答を聞けたのだろうか。「えっちょ、ききみゃちぎゃいじゃにゃいちょいいんぢゃきぇりょ。きょりぇはにゃにきゃにゃ?」 ※えっと、聞き間違いじゃないといいんだけど。これは何かな?「はっ、こちらはライトニングビーストのキンタマを串焼きにしたものです! 戦の疲れに一番効くのは獣のキンタマですので、多少臭いますが、食べやすい調理法を選んだつもりです!」勇太:イカれてんのかこいつらは! 睾丸が何か分からなかったから聞き直したんじゃないんだよ! 可愛く言い直されても困るんだが! コメ:別に可愛くないけどなw コメ:四天王なんて食えるのか? 勇太:多少ってレベルじゃないくらい臭いですよこれ。 コメ:見てるだけで吐き気するw コメ:腹壊しそう。「えっちょ……りゃんぢぇりゅ? きょりぇっちぇしゃっきにょしちぇんにょうぢゃよにぇ? いみゃみゃぢぇぢゃりぇきゃちゃびぇちゃきょちょありゅにょ?」 ※えっと……ランデル? これってさっきの四天王だよね? 今まで誰か食べたことあるの?「はっ
そういえば、先日のミノタウロスは最高に美味しかった。 肉は筋繊維が太くて硬すぎる為、噛み切れないので食べないらしいが、内臓系はどの部位も絶品らしい。 俺は、ミノタウロスのミノというダジャレのような部位を頂いた。 塩を振るだけのシンプルな味付けであったが、歯応え、旨み、脂身、全てにおいて究極のミノと言えた。 怪我をした騎士には、優先的にレバーが与えられていた。 彼らがレバーを噛み締めるたびに、恍惚とした表情を浮かべていたのは忘れられない。 ちなみに、一番美味いのは大腸らしいのだが、切り開いて川で洗ったりと下処理が大変なので、食べるまでに時間がかかってしまう。 早く食べられる部位は、身分が上の物に優先的に提供されるという仕組みらしい。 その理論でいくと、一般男性の俺が大腸を食べられるはずなのだが、勇者として祭り上げられているピエロなので、俺の願いが叶うことは無いだろう。 小さく切り分けられたミノタウロスの大腸が網の上に乗ると、焚き火でその上質な油が溶け出し、なんとも香ばしい良い香りのする煙が立ち昇っていた。 こんがり焼けた大腸を口に含み、飛び上がって体でその美味しさを表現する奴らを見て、次があれば俺もあれを食べさせてもらおうと決意した。 ワイバーンも美味かったしな。 次は目玉以外を食べさせてもらいたいが。「ユートルディス殿、今回圧倒的な力を見せて頂き、騎士達の士気は最高潮に達しております。是非、次のオウッティ山脈では残虐の王ネフィスアルバの討伐を我々にお任せ下され!」 これは願ってもない申し出だ。 アホランデルから初めてまともな提案が出てきた気がする。 しかしだ、ここは最新の注意を払って返答しなければならない。 俺の滑舌とエスパー翻訳ジジイの相互作用で、どんな曲解をされるか分かったもんじゃないからな。 ここでお願いしますと言うと俺が行かされるので、ここは短く分かりやすい返事をするとしよう。 お願いしますと言うと俺が行かされるっておかしいけどな。「うん!」※うん! 流石に伝わっただろう。