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第5話

Author: 初夏の瑤瑤
田中ゆりが叫び声を上げながら伊藤晴を引き起こそうとしたが、逆に強く押され、地面に倒れてしまった。

純白のワンピースは泥と遺骨で汚れ、彼女は恐怖に震えながら必死に払い落としていた。

私の胸は張り裂けそうだった。

死んでまでこんな目に遭わなければならないなんてあんまりだ。

息が詰まり、気を失ってしまった。

目を覚ますと病室のベッドで、二人の刑事が近づいてきた。

若い刑事が優しい目でこう告げた。

「鈴木さん、娘さんの溺死事件として捜査を始めました」

私は顔を上げ、涙ながらに言った。

「ありがとうございます。必ず、犯人を裁いてください」

「犯人」という言葉を強調しながら、入り口に立つ伊藤晴をじっと見つめた。

彼の顔が青ざめ、握りしめた拳が震えていた。

刑事が去ると、伊藤晴が駆け寄ろうとしたが、田村部長と叔母に止められた。

叔母は私を抱きしめ、心配そうに見つめていた。

「めぐみ......あいこが勝手に出て行くのが悪いんだ」

伊藤晴は掠れた声でこう言って、怒りに任せて保温ポットを投げつけた。

「黙れ!あいこの名前を口にするな!」

熱いお茶を浴びせられても、彼はただ呆然と立ち尽くすばかりだ。

私は布団に顔を埋めて「離婚する!」と叫んだ。

晴さんは驚いて首を振った。

「離婚?もうあいこもいないのに、そんな......

これは事故だったんだ!

ちゃんと待つように言ったのに......」

私は冷たく言い放った。

「そんな言い訳は警察と裁判所でしなさい!

出て行って!」

叫んでまだ何か言おうとする彼を追い払った。

初めて見る私の様子に戸惑いながらも、彼は部屋を出て行った。

一人になった病室で、あいことの写真を握りしめ、涙が止まらなかった。

無邪気な笑顔が、今は胸を刺す刃のように感じられる。

顔を上げると、そこには田村部長の姿があった。

いつもの凛とした制服姿だが、少し疲れた表情でフルーツバスケットを持って声をかけてくれた。

「少しは楽になった?」

私は言葉につまった。

「田村部長......」

田村部長は静かに言った。

「研究所に戻ってきなさい」

「研究所に......?」

「そう。あの時、妊娠さえなければ、今頃は主任になっていたはずだった」

「伊藤晴の席は、本来は鈴木さんのものだったんだよ」

そうだった。
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    あいこが私の元に戻ってきた時、小さな体は小さな骨壷に変わっていた。その骨壷は、想像以上に重く感じられた。あいこの遺骨を抱きしめながら、叔母に連絡を入れた。明日が告別式だ。告別式の日、空からは激しい雨が降り注ぎ、私の心のように重たい空気に包まれていた。冷たい骨壷を抱きしめながら、私は耐えきれない悲しみに襲われた。「あの日の海は冷たかったね......もう二度と寒い思いはさせないからね」と、震える声で心の中で語りかけた。連絡を受けた伊藤晴が不機嫌そうに現れ、そばには田中ゆりの姿があった。田中ゆりは白いレースのワンピース姿で、墓地にそぐわない様子だった。叔母は田中ゆりを見た瞬間、怒りを爆発させた。私を後ろに庇いながら、伊藤晴を指さして「よくもそんなことができたわね!」と叫んだ。「この女のためにあいこを置き去りにしたの?人でなしね!」私を一人娘のように育ててくれた叔母は、かつては伊藤晴にも優しかったのに、今日は怒りを抑えられなかった。伊藤晴が何か言う前に、田中ゆりが泣きながら言い始めた。「おばさま、私が悪いんです。あいこちゃんにもっとアレルギーのことを…」「パシン!」叔母の平手打ちがゆりさんの言葉を遮った。「何様のつもり?あんたにあいこのことを言う資格なんてないわ!ここはあいこの葬式よ。さっさと出て行きなさい!」田中ゆりは頬を押さえ、綺麗に結んでいた髪も乱れ、涙で潤んだ目で哀れな様子だった。伊藤晴は彼女を庇いながら怒鳴った。「めぐみ!芝居がかったことはやめろ!叔母さんまで巻き込むな!あいこを呼んで、ゆりに謝らせろ!」私は骨壷を見つめ返した。「呼ぶ?謝る?あいこはここにいるのよ。謝るべきは、あなたたち!」田中ゆりは動揺を隠せず、こう呟いた。「お姉さん、そんな恐ろしいこと......」「ガシャン!」伊藤晴は私の手から骨壷を奪い、地面に叩きつけた。「もういい加減にしろ!あいこがこうなったのは、お前の育て方が悪いからだ!早くあいこを連れて来い!」私は伊藤晴の髪を掴み、死亡証明書を突きつけた。「よく見なさい!」叔母は地面に散らばった遺骨を必死に集めながら、泣きながら言った。「人でなしめ!これがあいこなのよ!」伊藤晴の顔から血の気が引き、やっと、あいこが本

  • 無人島で愛娘を失う   第3話

    怒りと悲しみで涙が溢れそうになり、思わず伊藤晴の足を蹴った。「反省すべきなのはあなたよ!無人島に置き去りにされるべきなのもあなたでしょう!」深呼吸をして、感情を抑えながら続けた。「それに、自分の娘のことを何も分かってないわ!あいこはまだ好奇心旺盛な年頃なのよ。もしも何かあったら......」それ以上は言葉にならなかった。私の可愛いあいこ。あんなに無邪気な子が、もし本当に何かあったら......伊藤晴を押しのけ、田村部長の腕を掴んだ。「田村部長、警察を呼ぼう!」田村部長も一瞬驚いたが、すぐに私を支えてくれた。「鈴木さん、落ち着いて。すぐに警察と救助隊を手配します。必ずあいこちゃんを見つけますから」その時、伊藤晴が私の腕を掴んで引き戻して言った。「前から田村のことが気になってたんだろう?今日は俺の前でこんなことまで!」そして田村部長に向かって胸を突いた。「家庭の問題に余計な口出しするな」田村部長は急に表情を変え、伊藤晴さんを押さえつけた。「これは家庭の問題じゃない。経験のない実習生を連れて行き、6歳の子供を置き去りにする。研究所全体の問題だ」同僚が私を警察署まで送ることになり、車の中で私はあいこの笑顔を思い出しては涙が止まらなかった。あの時、行かせるべきじゃなかった......パトカーのサイレンが鳴り響く中、私の心は重くなるばかりだった。無人島に着くと、すぐに浜辺に走り出し、「あいこ!ママよ!どこにいるの!」と叫び続けた。しかし、返ってくるのは波の音だけ。警察犬が島中を探し、救助隊も手分けして捜索を始めた。私も必死に探し回り、奇跡を祈った。時が過ぎ、夕陽が沈み始め、私の希望も消えていった。砂浜に座り込んで泣いて言った。「あいこ......私の宝物......」「海も探しましょう」隊長の言葉に、私は凍りついた。まさか......そんなはずない......あいこはきっとまだ島のどこかに......そう思った矢先、隊員が走ってきた。「隊長!見つかりました!」「どこ?!」私は慌てふためいてその隊員のそばに走って、震える声で聞いた。隊員は重い表情で告げた。「島の北500メートルの沖で漁師さんが......もう......」その瞬間、世界が真っ暗になっ

  • 無人島で愛娘を失う   第2話

    商業施設で一時間も待ち続けたのに、二人の姿は見当たらなかった。後になって、別の出口から出て行ってしまったことがわかった。何度も電話をかけたが、通話中を知らせる冷たい音が響くばかり。私の心も少しずつ冷めていった。一晩中、不安な気持ちで家で待った。翌朝早く研究所に着くと、入り口で伊藤晴が田中ゆりを抱き寄せている姿が目に入った。でも、あいこの姿が見えない。私は伊藤晴を突き飛ばして叫んだ。「あいこは?!」伊藤晴は平然と、田中ゆりを指さして言った。「ゆりがアレルギーを起こしたから、診てもらいに戻ってきたんだ」頭の中が真っ白になった。「どういうこと?!伊藤晴!あいこはまだ六歳よ!一人で無人島に置いてきたの?!」田中ゆりは泣いた後の赤い目で言った。「鈴木さん、科長も心配しているんです。あの島は安全ですから、すぐに迎えに行きますから」「安全ですって?!」私は思わず平手打ちをした。「小さな子が一人で無人島にいるのよ。どれだけ怖い思いをしているか分かる?!」田中ゆりは体を傾けながら、伊藤晴の胸に倒れ込んだ。「鈴木さん......私......」伊藤晴はすぐにゆりさんを支え、後ろに庇いながら、私を冷たい目で見つめた。私は震える手で携帯を取り出し、警察に通報しようとした。その瞬間、携帯は伊藤晴に奪われ、地面に叩きつけられた。「めぐみ!いい加減にしろ!田中ゆりは何度もマンゴーアレルギーのことを言ったんだ。なのにあいこは、わざと食べさせた!これがお前の育て方の結果だ!」私は信じられない思いで苦笑いを浮かべた。「アレルギー?迎えに行った時、あいこの鞄にマンゴーなんて入ってなかったわ!あんたたちが買ったんでしょう!アレルギーと知っていて、なぜ買ったの?不倫の証拠隠しに、私の娘を利用したの?そんなに邪魔だった?二人の仲を邪魔する存在だった?」パシンという音と共に、頬が熱く痺れた。私は二人を指差し、一字一字噛みしめるように言った。「伊藤晴、覚えておいて。あいこに何かあったら、絶対に許さないわ」壊れた携帯を拾おうとしたが、もう動かなかった。焦る気持ちで晴さんの携帯を奪い取った。画面に映し出されたのは、二人の親密な写真だった。その瞬間、心が凍りついた。伊藤晴が携帯を取

  • 無人島で愛娘を失う   第1話

    あいこを迎えに行く途中、アウトドアショップから出てきた佐藤晴とゆりに出くわした。一時間前、伊藤晴は残業だからと私にあいこの送迎を頼んだばかりだった。結婚して十年、田中ゆりのためにこんな嘘をつくのは数え切れないほどだった。田中ゆりは私を見て笑顔で言った。「鈴木さん、誤解しないでください。明日、晴さんが南の無人島で調査をするので、私も一緒に行かせていただくことになって。何も分からないものですから、装備を買いに来たんです」私が黙って頷くと、伊藤晴は突然怒鳴りつけた。「めぐみ、子供の迎えに行くはずじゃなかったのか。何でここにいる?」あいこが私の前に立ち、幼い声で言った。「パパはゆりさんと買い物に来ていいのに、どうしてママは私と来ちゃいけないの?」伊藤晴は眉をひそめながら言った。「そんな口の利き方、誰に教わったんだ?」田中ゆりはしゃがんであいこの頭を撫で、優しく言った。「晴さん、明日は週末ですし、あいこちゃんも一緒に連れて行きませんか?」伊藤晴が戸惑っていると、田中ゆりは続けた。「鈴木さんに誤解されたくないんです。あいこちゃん、パパのことをちゃんと見ていてあげてね!」伊藤晴は私を非難するように見た。「お前が疑り深いから、子供までこんな風になってしまった」あいこは戸惑いながら私を見上げた。私は彼女の手をしっかり握って言った。「行かせません。あの無人島は危険です。あいこは私の一人娘なんです」田中ゆりは涙を浮かべた。「鈴木さん、私があいこちゃんと晴さんをお守りします。どうして信じてくださらないんですか?それとも、晴さんを信用していないんですか?研究室で一番の専門家なのに」私が言い返す間もなく、伊藤晴はあいこの手を取った。「子供の頃にいろんな経験をさせるのは大切だ」止めようとする私をゆりが遮った。「鈴木さん、島は近いですし、私たちがついていますから大丈夫です!」あいこは小さいながらも状況を理解していた。伊藤晴の手を振り払い、「行く!」と言い切った。私は不安になって、しゃがんであいこに「危ないから行かない方がいいよ」と諭した。でも、あいこは真剣な顔で「ママ、パパと喧嘩してほしくないの。パパが行けって言うなら、行く」と言った。それでも心配で「私も一緒に行きます」と言うと、田中ゆりは顔を

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