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第96話

紗希は主寝室で寝たくない。あの寝室にどんな女性が寝たことがあるか分からないからだった。

翌朝、紗希は時間通りに起きて朝食を取りに階下へ降りた。メイドの由穂が彼女の好物を用意していた。

ホールに入ると、壁に掛かっていた結婚写真が消えたことに気づいた。

彼女の顔が曇って、取り外されたのも良かった。どうせそこに掛かっていても何の意味もなかったのだから。

紗希がダイニングルームに座ると、背の高い人が入ってきた。高級なオーダーメイドのスーツを着て、優雅で威厳のある様子で彼女の向かいに座った。

紗希の手が止まり、彼もいるとは思わなかった。

昨夜は詩織と外泊したのではなかったか?こんなに早く戻ってくるとは。

彼女の目が彼の薄い唇に見つめ。昨夜のキスを思い出し、素早く視線を逸らした。

ダイニングルームは静かだった。紗希が味噌汁を2杯、ご飯を1つ、卵焼きを2つ食べた後

向こうの男がついに我慢できずに口を開いた。「そんなに食べるの?」

紗希は未だ食べ足りない様子で箸を置いた。「知るかよ」

拓海も彼女の影響を受けて、少し多めに朝食を取った。彼の視線が彼女の顔に止まった。「顔が随分丸くなったな」

紗希の表情が少し不自然になった。「そう?私はそうは思わないけど」

彼女の最近の食事量は確かに以前より増えていた。

男は冷静な口調で言った。「太ったら次の相手が見つからないよ」

彼女はナプキンを取って口元を拭った。「もしかしたら、節穴の男性が私のようなタイプを好きになってくれるかもしれないわ」

「節穴の男を見つけるのは難しい」

「夢くらいあってもいいじゃん」

紗希は彼とこれ以上無駄話をしたくなかったので、携帯を取り出し、渡辺おばあさんのメッセージに返信した。「おばあさん、さっきの朝食見ましたか?全部私が食べたんですよ。おばあさんもたくさん食べてくださいね」

音声メッセージを送った後、男が自分をじっと見つめているのに気づき、彼女はゆっくりと口を開いた。「何を見ているの?」

「あなたは年寄りを喜ばせるのが上手いな」

「これは思いやりよ。ここでの朝食の写真を送って、私がここで食事をしていると信じてもらえば、おばあさんも疑うことはないだろう」

拓海の目が深くなった。「おばあさんの体調はだんだん悪くなってきた」

「分かっているわ。だからこそ、早く渡辺おばあさんの手
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