共有

第140話

直樹は冷ややかに笑い、紗希に笑顔を向けた。「紗希の言うとおりだ。これは無駄遣いだ。やっぱり紗希は賢いよ」

すでに絵を落札した拓海は、自分の頭上に「無駄遣いする奴」という文字が書かれたような気がした。

彼は番号札をきつく握り、何も言わずにその絵を見つめた。全然嬉しくなくて、むしろもっと辛くなったと感じた。

この時、詩織はウェーターに言った。「絵を片付けて、後で一緒に支払う」

言い終わると、彼女は紗希を見た。「オークションってこういう競争的なものよね。拓海も渡辺のおばあさまに孝行するために買ったんだから」

紗希は詩織が拓海のために言い訳をしたことを知り、微笑んで何も言わなかった。

拓海の細い目は暗く、気持ちがいらいらしていた。

しばらくして、ダイヤモンドのネックレスのオークションが始まり、開始価格は6千万円だった。

直樹はすぐに口を開いた。「紗希、ネックレスを買ってあげるよ。お前が着けたらきっと綺麗だ」

妹思いの男は、紗希には何を着けても綺麗だと思っているのだ。

紗希が何か言う前に、隣から詩織が札を上げた声が聞こえた。「8千万」

直樹はこれを聞いて一瞬黙った。どうしていつも妹へのプレゼントを横取りする人がいるのだろう?

次から次へと、きりがない。

直樹は札を上げた。「1億円!」

価格が上がるたびに、オークション価格は2千万円ずつ上がり、再び全員の注目を集めた。

詩織は眉をひそめ、直樹を見て、やや強引な笑みを浮かべて言った。「直樹さんもこのネックレスが好きなの?」

「紗希が好きなんだ。お前には買わせないぞ」

直樹はさっきの絵を買えなかったことで、すでに十分に腹が立っていた。

詩織は直樹に強気に出る勇気はなかった。もし直樹が後で彼女が養子だという事実をバレしたら、将来青阪市でどうやって生きていけばいいのだろう?

詩織は仕方なく笑顔で答えた。「じゃあ、私は買うのをやめるわ」

言い終わると、詩織はわざと隣の拓海を見た。そうすれば、紗希にはすでに男がいるのだという現実が、拓海にもはっきりとわかるはずだ。

詩織が入札を断念した後、直樹は自分が必ずこのネックレスを買えると思った。

しかし拓海は再び番号札を上げた。「2億円!」

今度は紗希も思わず彼を直視した。この男は狂ったの?

さっきまで1億円だったのに、拓海は一気に2億円に引き上げた。
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status