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初めての恋-02

last update 最終更新日: 2024-12-31 23:14:06

「そう、かも」

口に出してしまったら、ますます顔に熱が集まってきているような気がした。

うどんを食べているから暑いとか言い訳できるレベルではないような気がする。

ドクンドクンと速くなる心臓は止められそうにない。

「いいじゃん」

「で、でも、付き合いたいとか思ってなくてっ。私にはほら、海斗がいるし」

なぜだか依美に対して慌ててしまう。

子どもを養っている自分には恋愛など必要ないと思っていたのに、なぜこんなことになるのか。

紗良の気持ちは複雑に混じり合って、自分のことなのに自分がわからなくなってしまう。

あまりにも初々しい紗良に若干羨ましさを感じつつ、依美は自嘲気味に笑う。

「まあ、複雑な事情はわかるし海ちゃんへの責任もあると思うけど、紗良ちゃんはもう少し自分の幸せを考えた方がいいと思うよ」

「自分の幸せ?」

「そう、自分の幸せ。とりあえずこれあげるから、杏介さん誘ってみなよ。海ちゃんがいるときといないときでは性格違うかもしれないし、男はちゃんと見極めないとね」

依美がポケットから取り出したのは二枚の紙だ。

何だろうと、紗良は受け取る。

依美は小さく息を吐き出す。

こんな時に水を差すものでもないなと思いながらも、愚痴りたい気持ちの方が勝った。

そのために映画のチケットを持ってきたのだ。

「私さ、もう彼と別れるんだ」

「え、なんで?」

「たぶん浮気されてる。仕事が忙しいってのも嘘」

はあ、と依美は大きなため息をついた。

その横顔は憂いを帯びているようで、紗良の胸は苦しくなる。

「だからさ、その分楽しんできてよ。使わないともったいないじゃん、そのチケット」

「依美ちゃん……」

順調にお付き合いしているように見えていた依美でさえ上手くいかないのだ。

恋愛とはやはり難しいものなのでは……と考えたところで背中をバシンと叩かれた。

「やだ、何暗い顔してるの? 私は吹っ切れてるから大丈夫よ。ちょっと愚痴りたかっただけ。次は絶対いい男ゲットするし」

「……依美ちゃん意外と肉食だね」

「何言ってんのよ。紗良ちゃんもこれくらいガツガツ行きなさいよ」

「あ、はは。がんばる」

二人はぎこちなく笑い合う。

残りのうどんを啜りながら、それぞれ思いを馳せた。

「映画のチケット?」

「そう。平日限定ペアチケット。彼氏と行こうと思ったんだけどさ、しばらく仕事忙しくて平日休めないって言うから」

「もらっ
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    最終更新日 : 2025-01-05

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-11

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-10

    その後はスタジオ内、屋外スタジオにも出てカメラマンの指示のもと何枚も写真を撮った。残暑の日差しがジリジリとしているけれど、空は青く時折吹く風が心地いい。汗を掻かないようにと木陰に入りながら、紗良はこの時間を夢のようだと思った。「杏介さん、連れてきてくれてありがとう」「思った通りよく似合うよ」「なんだか夢みたいで。ドレスを選んでくださいって言われて本当にびっくりしたんだよ」「フォトウエディングしようって言ったら反対すると思ってさ。海斗巻き込んだ壮大な計画」「ふふっ、まんまと騙されちゃった」紗良は肩をすくめる。騙されるのは好きじゃないけれど、こんな気持ちにさせてくれるならたまには騙されるのもいいかもしれない。「杏介さん、私、私ね……」体の底からわき上がる溢れそうな気持ち。そうだ、これは――。「杏介さんと結婚できてすっごく幸せ」「紗良……」杏介は目を細める。紗良の腰に手をやって、ぐっと持ち上げた。「わあっ」ふわっと体が浮き上がり杏介より目線が高くなる。すると満面の笑みの杏介の顔が目に飛び込んできた。「紗良、俺もだよ。俺も紗良と結婚できて最高に幸せだ」幸せで愛おしくて大切な君。お互いの心がとけて混ざり合うかのように、自然と唇を寄せた。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-09

    カシャッ「じー」小気味良いカメラのシャッター音と、海斗のおちゃらけた声が同時に聞こえて、紗良と杏介はハッと我に返る。「あー、いいですねぇ、その寄り添い方! あっ、旦那様、今度は奥様の腰に手を添えてくださーい」「あっ、はいっ」カシャッ「次は手を絡ませて~、あっ、海斗くんはちょっと待ってね。次一緒に撮ろうね~」カシャッカメラマンの指示されるがまま、いろいろな角度や態勢でどんどんと写真が撮られていく。もはや自分がどんな顔をしているのかわからなくなってくる。「ねえねえ、チューしないの?」突然海斗がとんでもないことを口走るので、紗良は焦る。いくら撮影だからといっても、そういうことは恥ずかしい。「海斗、バカなこと言ってないで――」と反論するも、カメラマンは大げさにポンと手を叩いた。「海斗くんそれいいアイデアです!」「でしょー」カメラマンと海斗が盛り上がる中、紗良はますます焦る。海斗の失言を恨めしく思った瞬間。「海斗くん真ん中でパパママにチューしてもらいましょう」その言葉にほっと胸をなで下ろした。なんだ、それなら……と思いつつ、不埒な考えをしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。「うーん、残念」杏介が呟いた声は聞かなかったことにした。

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-08

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-03

    「どうしたの、海斗」「これを見て!」海斗はおもむろにランドセルを背負う。 まだまだピカピカのランドセルを、紗良に見せつけるように体を捻った。「ランドセル?」「そう! ランドセル! 写真撮りたい。リクもさなちゃんも写真撮りにいったんだって」「写真? 写真なら撮ってあげるよ」紗良は自分のスマホのカメラを海斗に向ける。「ちがーう。そうじゃなくてぇ」ジタバタする海斗に紗良は首を傾げる。 咄嗟に杏介が「あれだろ?」と口を挟む。「入学記念に家族の記念写真を撮ったってことだよな?」「そう、それ! 先生わかってるぅー」「ああ~、そういうこと。確かに良いかもね。お風呂で何か盛り上がってるなぁって思ってたけど、そのことだったのね」「そうそう、そうなんだよ。でさ、会社が提携しているフォトスタジオがあるから、予約してみるよ」「うん、ありがとう杏介さん」ニッコリと笑う紗良の頭を、杏介はよしよしと撫でる。 海斗に関することなら反対しないだろうと踏んでいたが、やはりあっさりと了承されて思わず笑みがこぼれた。「?」撫でられて嬉しそうな顔をしながらも、「どうしたの?」と控えめに上目遣いで杏介を見る紗良に、愛おしさが増す。「紗良は今日も可愛い」「き、杏介さんったら」一瞬で頬をピンクに染める紗良。 そんなところもまた可愛くて仕方がない。夫婦がイチャイチャしている横で、海斗はランドセルを背負ったまま「写真! 写真!」と一人でテンション高く踊っていた。

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