LOGINShare
第689話
Related chapters
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第690話
奏は彼女の態度があまりに激しいと感じ、隣に座った。家政婦がスープを運んできて、二人が見つめ合い視線が絡んでいるのを見ると、そっとスープを置いて部屋を出て行った。「もし彼が本当に疲れてるなら、家で好きなだけ休ませればいいと思うよ。俺は特に文句はない」奏は声を抑え、子どもに聞かれないように言った。「でも、もう学校が始まって一ヶ月だ。家で一ヶ月も休んで、まだ足りないのか？」「後で話をしてみるわ」とわこはスープを手に取り、飲んだ。「ただの疲れじゃなく、君に隠してる何かがあるんじゃないか」奏は彼女のスプーンを取り上げた。「蓮は君が思ってる以上に複雑だ」彼女はスプーンを取り返そうとしたが、彼は悠然とスープをすくい、彼女の口元に運んだ。「自分で飲むから」彼女は顔を赤くしてスプーンを奪い返した。「実は先生に電話で直接聞いてみたの。学校では同級生とうまくやってるって。サマーキャンプでも特に問題はなかったみたい」「同級生以外に接触した可能性もある」奏は自身の考えを続けた。「学校で何の問題もなかったなら、家で一ヶ月も休む理由にはならない」最初は何も疑っていなかったとわこだが、奏に言われて不安が募ってきた。「まずはスープを飲んで」彼はゆっくりとスープを一口飲み、冷静に分析した。「直接本人に聞いても何も出てこないだろう。マイクに聞くのがいい」「分かった。マイクが帰ってきたら聞いてみる」とわこは小声で答え、スープを飲み終えた。「こんなに小声で話してたら、誰かに聞かれたら密談してるみたいに思われちゃう」「さっき彼が部屋から少し出てきたけど、俺がいるのを見てすぐ戻ったよ」彼は同じく小声で話した。「そう......じゃあ......」「俺が話をしに行こうか？」彼は彼女の言葉を遮った。「俺と彼の間の問題を解決しないと、俺がここに住むようになった時、さらに問題が出てくる」とわこは眉を上げ、彼の熱い視線を見つめ返した。「あなたが彼との問題を解決できるとでも思ってるの？自信を持つのはいいことだけど、それは単なる過信よ」「じゃあどうすればいい？」彼は彼女に打ちのめされ、冷静さを取り戻した。「彼は俺の好意を一切受け入れないし、俺の顔を見るとすぐ逃げる。お手上げだよ」この問題は確かに厄介だった。奏は蓮を責めていない。すべては自分が引き起こしたことだか
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第691話
しかし、直美を倒すには証拠が必要だ。「ねえ、今日は午後に奏が家に来たの。彼が言うには、あなたが彼を見て部屋に戻ったって」とわこは胸を痛めながら言った。「ここはあなたの家なのよ。彼を避ける必要なんてないわ」「別に避けてない」蓮は眉をひそめた。「ただ会いたくないだけ」「でもね、彼は弟が生まれたら一緒に住んで弟の面倒を見たいって言ってるの」とわこは困り果てた様子でため息をついた。「そんなことになったら、あなたが辛くなるんじゃない？」蓮の眉間のしわがさらに深くなった。「だったら、彼を空気だと思う！」「ごめんね、大変な思いをさせて」とわこは息子の肩を撫で、申し訳なさそうに言った。「本当は私だって彼に住んでほしくないの。でも弟は私一人のものじゃないから、どうしても彼を断れないの」蓮は深く息を吸い込み、きっぱりと言った。「ママ、心配しないで。僕は彼を絶対に認めない！レラも認めない！弟だって絶対に認めさせない！」とわこ「？？？」彼と話をした目的は何だっただろう？たしか、親子関係を和らげるためだったはず。決して、対立を深めるためではなかったのに！どうやら、蓮は彼女の意図を完全に誤解していた。しかし、それはそれで構わない。いずれ奏が住み始めたら、少しずつ親子で馴染んでいけばいい。半月後。奈々の顔の包帯が外された。今日は退院の日だ。直美が彼女を支えながら洗面所へと向かった。奈々の足は重く、鏡を見るのが怖くて仕方がなかった。しかし、直美は彼女にその壊れた顔と向き合うよう無理やり迫った。鏡の前に立った瞬間、彼女は自分の顔に刻まれた醜い傷痕と歪んだ鼻を見て、思わず悲鳴を上げた。「化け物！化け物！」彼女は両手で顔を覆おうとしたが、直美はそれを許さなかった。「奈々、これはとわこが雇った人がやったことよ。あの女のせいで、あなたはこんな恐ろしい姿にされたの」直美は歯を食いしばりながら、彼女の顔を鏡の前に押し付けた。「ほら、自分の姿を見て！もう誰にも愛されることはない。生きる理由なんて復讐以外にないのよ！」奈々は充血した目で呟いた。「復讐......」「そう、復讐よ」直美は彼女の耳元で囁いた。「これが最後のチャンスよ。成功したら、私がお金を出して新しい顔を手に入れさせてあげる。でも失敗したら......」「絶対に
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第692話
「どうして電源が入ってないの？」とわこは小声で呟き、別荘の外へと歩き出した。「とわこさん、お出かけですか？」家政婦が彼女の動きを見て、すぐ後を追った。「瞳が来るって言ってたのに、まだ来ないの。渋滞してたとしても、もう着いてもいい頃なのに」とわこは門の外まで歩き、辺りを見回した。家政婦は安心させるように言った。「たぶんプレゼントを買いに行ってるんじゃないですか？瞳さんは毎回、たくさんのプレゼントを持ってきてくれるし、すごく気を使ってますから」その言葉で、とわこは少し安心した。「とわこさん、外は風が強いので、家に入りましょう」家政婦は彼女が冷えないよう気遣いながら言った。「奏さんから特に言われてます。とわこさんをしっかりケアして、絶対に体調を崩させないようにって」「私、毎日家に閉じこもってると、かえって病気になりそうよ」「それでも外で冷たい風に当たるのはよくないですよ！」家政婦は彼女を家の中へと促した。「季節の変わり目は特に体調を崩しやすいんですから」「お昼ご飯はできてる？」「ええ、できてますよ。先に食べちゃいませんか？瞳さんがいつ来るか、まだ分からないですし」「もう少し待つわ」とわこは首を傾げながら言った。「瞳、普段は絶対に携帯の電源を切らないのよね」「出かけるときにたまたま電池が切れちゃったんじゃないですか？」「でも今は充電なんて簡単よ。街中どこにでもスマホ充電器があるんだから」とわこは言った。「あと30分待って、まだ来なかったら、私が探しに行くわ」「外にいるかも分からないのに、どうやって探すんですか？家で待っていた方がいいですよ。もしそれでも来なかったら、瞳さんの旦那さんに電話して探してもらいましょう。それか、運転手さんにお願いしてもいいですし」家政婦が自分を外出させたくないのは、奏のプレッシャーが原因だということを、とわこは理解していた。彼らが気を使えば使うほど、彼女はむしろ居心地が悪かった。「とわこさん、スープを持ってきますね！今日はスープを作りましたよ」家政婦はキッチンに向かった。とわこはソファに座りながら、再び瞳の携帯に電話をかけたが、やはり繋がらなかった。彼女は仕方なく、裕之とのチャット画面を開き、今何をしているのかを尋ねた。裕之「仕事中だよ！年末は特に忙しいんだ。そういえば奏兄
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第693話
「本当に美味しいわ。甘すぎないし、これならもっと食べられる」とわこは褒めながらもう一口食べた。「結菜、本当にどんどん上手くなってるわね。次は何を学びたいの？」「運転を習いたいの。でもお兄さんがダメって言うのよ」結菜は眉をひそめ、とわこにお願いするように言った。「とわこ、お兄さんに頼んでくれない？」とわこは目を上げて、真に視線を向けた。「二人が来たのは、その話をするため？」真は首を横に振った。「結菜は君にケーキを食べてもらいたくて来たんだよ。でも運転の件については、僕も反対だ」とわこは結菜に向き直った。「結菜、どうして運転を習いたいの？危ないと思わない？」「みんな運転できるから、私もやりたいの。人が多いところには行かないから大丈夫だよ」結菜は涙目になりながら、とわこに哀願するような目を向けた。ちょうどそのとき、とわこの携帯が鳴った。画面を見ると、奏からの着信だった。とわこは結菜に画面を見せて優しく微笑んだ。「彼に頼んでみるわ。もしダメって言われたら、私にもどうしようもないけどね」結菜は笑顔を浮かべながら小さく頷いた。とわこは電話に出て、スピーカーモードに切り替えた。奏の声がすぐに響いた。「とわこ、もうご飯食べた？」「まだ......瞳が来るって言ってたから、待ってるの」とわこは咳払いしながら話を続けた。「結菜が運転を習いたいんだって。試しにやらせてみてよ。ちゃんと一人で運転しないように言えば大丈夫でしょ」「彼女、そっちにいるの？」奏の声が少し厳しくなった。「ええ。ケーキを作って持ってきてくれたの。味がすごくいいのよ。帰国したら、あなたにも食べさせてあげる」とわこはフォークでケーキを一口運びながら言った。「明日帰国する。帰ったらまた話そう」奏の口調からは、結菜が運転を習うことを許すつもりがないのが伝わった。「わかった」とわこは電話を切ろうとした。「今、国内は午後1時半だよ。先にお昼を食べてね」奏は念を押した。「わかってる」とわこは電話を切り、携帯を置いた。「結菜、彼に頼んでもダメだったわ」結菜は少しがっかりした様子だったが、怒ることはなく、「真も私に運転を習わせたくないし......とわこは本当に優しいわ」と言った。「彼らが反対するのは、あなたの身の安全を心配してるからよ。さあ、私もまだお昼
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第694話
瞳が行方不明になった！彼女は午前11時に家を出たきり、姿を消したのだ。裕之は交通管制センターで、瞳が家を出た後の監視映像を確認していた。映像には、彼女が車で市内のショッピングモールに向かい、地上駐車場に車を停めた様子が映っていた。しかし、それ以降車は動かされていない。つまり、瞳はモール内で事件に巻き込まれた可能性が高い。ショッピングモールには多くの監視カメラがある一方、死角も数え切れないほど存在する。裕之は交通管制センターから急いでショッピングモールの監視室に向かった。そのとき、とわこから電話がかかってきた。彼は深呼吸し、電話に出た。「瞳の車はモールの外に停まっている。彼女はモールの中で行方不明になったんだ」「どうしてそんなことに」とわこは息を呑んだ。瞳が誰かに誘拐された可能性を思ったが、口に出すのをためらった。すると裕之が喉を詰まらせるように言った。「きっと誘拐された！以前、君がボディーガードを雇う話をしたとき、僕は彼女にもボディーガードをつけるべきだって話し合ったんだ。でも、瞳は『私は仕事をしていないし、出かけない日も多いから必要ない』って言った！あのとき、無理にでも説得すべきだった！」瞳は松山グループの相続人で、父親の遺産は将来的に彼女のものになる。その立場を考えれば、ボディーガードをつけることは当然だった。しかし、人は危険が自分に降りかかるまでは「自分だけは例外だ」と思いがちだ。「裕之、そんなに自分を責めないで。瞳はモールで事件に巻き込まれたんだから、監視カメラを確認するしかないわ！」とわこは話しながらバッグを手に取り、家を出る準備をしていた。「私もそっちに行って、一緒に映像を確認するわ」裕之は胸が張り裂けそうな思いだったが、まだ冷静さを保っていた。「とわこ、君が来る必要はない。僕一人で十分だ。瞳の情報がわかったらすぐに知らせる」そのとき、マイクが声を聞きつけてやってきた。彼はとわこの手からバッグを取り上げ、置きながら言った。「君はここで待機してくれ。もし君に何かあれば、事態はさらに悪化する」とわこはその場に立ち尽くした。「私のせいだ......もし私が瞳にメッセージを送らなかったら、彼女は急に来るなんて言わなかったのに......」と彼女は呟きながら、急に声を張り上げた。「瞳は妊娠して
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第695話
直美は残酷な人であり、彼女の手にかかれば無事では済まない。「......子遠に一郎を探しに行かせて！一郎に直美を追及させて！」マイクはとわこを直美の元へ行かせるつもりは毛頭なかった。「直美は君が問題を起こすのを夢見てるんだ。今行けば自分から面倒事に首を突っ込むだけだぞ」マイクの声が屋敷中に響き渡った。蓮とレラが険しい表情で近づいてきた。「ママ、外に出ないで」蓮が低く言った。「ママ、マイクおじさんとお兄ちゃんの言うことを聞いて、家でおとなしくしていてよ！」レラは彼女の腕をつかみ、甘えた声で懇願した。二人の子供の存在が、とわこの理性を少しずつ取り戻させた。「わかった、母さんは出ない」彼女は妥協し、ソファから立ち上がった「シャワー浴びてくる」心は焦りで燃え盛るような感覚に包まれていた。何か行動を起こしたかったが、体は重く感じられた。さっき外に出ようとしたとき、お腹の子が何かを感じたように、ずっと彼女を蹴っていた。寝室に戻り、ドアを閉めると、彼女は背をドアにもたれかけ、深く息をついた。本当に何もできないのだろうか。もし自分が同じ目に遭ったら、瞳はきっと何とかして助けようとしてくれるはずだ。こんなふうに家にいるだけなんて......そのとき、携帯の着信音が彼女の思考を現実に引き戻した。電話に出ると、奏の力強い声が響いてきた。「とわこ、焦るな。俺がもう人を派遣した。瞳を見つけるためなら、この街全体をひっくり返してでも探す！」彼の言葉で、彼女は少しだけ息をつけた。「私、本当は昼にあなたにメッセージを送るつもりだったの。でも、それを間違えて瞳に送ってしまった。彼女はそのメッセージを見て来ることを決めたのよ......」「とわこ、これは誘拐事件だ。彼女を誘拐した奴らは、今日動かなくても、明日や明後日には行動していた。君には何の責任もない！」奏は彼女の考えを正そうとした。「どうして私に関係ないなんて言えるの？」とわこはかすれた声で反論した。「直美以外に誰がいるって言うの？瞳が私の親友じゃなかったら、絶対に誘拐されなかった！」「一郎がもう直美のところに向かっている......」「それが役に立つと思うの？」とわこの目は冷たく、声もさらに冷え切っていた。「私が一郎と直美の関係を知らないとでも思ってるの
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第696話
彼女に返ってきたのは、果てしない沈黙だった。瞳を誘拐した者たちは、とわこに何かを要求するつもりはないようだ。そうでなければ、一言も発しないわけがない。とわこは動画に映る興奮して暴れる男たちを見た。それは瞳に襲いかかる姿で、彼女の頭皮は痺れるほど緊張し、血液が沸騰し、体が止められないほど震えた。死に直面するような絶望が彼女を覆い尽くした。まるで誰かが刃物で彼女の体を何度も刺しているようだった。彼女の悲鳴を聞いたマイクは急いで彼女の部屋に駆け込んだ。浴室のドアを支えるように前かがみになっている彼女を一目で見つけた。「とわこ！どうしたんだ？！」マイクは彼女を支え、彼女の顔色が青ざめているのを見て、胸騒ぎを覚えた。「まさか産まれるのか？今すぐ病院に連れて行くぞ！」彼は彼女を抱き上げようとしたが、彼女の体が緊張で硬直し、彼女はかすれた声で言った。「救急車を呼んで......」「とわこ、驚かさないで！ここで待ってろ。俺がすぐに救急車を呼ぶ！」マイクはそう言うと、すぐさま携帯を取りに走った。しばらくして、救急車が到着した。とわこは救急車で搬送され、マイクも同乗した。二人の子供は家で待機することになった。マイクは子遠に電話をして、子供たちの世話を頼んだ。実際のところ、二人の子供は特に世話が必要なわけではない。彼らは非常に大人しく、毎晩9時には自分たちでベッドに入る。しかし、母親に突然の出来事が起きた以上、きっと不安に感じるに違いない。マイクは彼らを病院に連れて行くわけにはいかなかった。そうすればさらに混乱するだけだった。「お兄ちゃん、弟ってもうすぐ産まれるのかな？」とレラはつぶやいた。蓮は冷静な表情で外の夜空を見つめ、低い声で言った。「瞳おばさんが危ない目に遭った」彼の頭の中には、ママの苦しそうな悲鳴がまだ響いていた。レラはママが出産すると思っていたが、蓮は知っていた。ママがあんなにも苦しんでいたのは、瞳おばさんのためだった。「瞳おばさんに何が起きたの？お兄ちゃん、瞳おばさんに何も起きてほしくない」レラは口を尖らせ、悲しそうにしていた。「瞳おばさんは悪者に捕まった。でも警察がきっと助け出してくれる」蓮はレラの手を引き、階段を上がって部屋へと向かった。「これから外に出るときは必ずボディーガードを連れて
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第697話
「もう寝たけど、蓮は寝てないみたいだ」子遠は言った。「彼が休めるように話しかけなかった」「そりゃそうだ。早熟な子だから、いろいろ考えて眠れないだろう」マイクは急診室の外で焦りながら歩き回っていた。「とわこが影響を受けて、今夜にも出産するかもしれない」「早産ってことか？」子遠は眉をひそめ、「赤ちゃんは大丈夫なのか？」「赤ちゃんがどうなろうと俺には関係ない。俺が心配なのはとわこだ……彼女の顔色がどれほど悪かったか、お前には分からない。そんな状態なのに、まだ瞳のことを気にかけているんだ……」マイクは廊下を行ったり来たりしながら言った。「一郎に電話をして、直美との話がどうなったか確認してくれ」もし瞳が救出されなかったら、たとえとわこが赤ちゃんを無事に産んだとしても、心の傷は癒えないだろう。「多分、望みは薄いな」子遠は直美のことをよく知っていた。「もし本当に直美が関わっているのなら、証拠を突きつけない限り、彼女は絶対に認めない。理屈や友情に訴えるなんて無駄だ」「とわこはこれが直美の仕業だと言い切っているが、どう思う？」マイクが尋ねた。「とわこの気持ちは分かるが、軽々しく判断できない」子遠は慎重に答えた「ところで、君は赤ちゃんの準備品を持ってきたのか？」「いや、まだだ」「じゃあ、僕が今から持って行こうか？家にはボディーガードがいるし、大丈夫だろう」「それで頼む。準備品はとわこの部屋にある。探してみてくれ」「分かった」高級マンションにて。一郎は険しい表情で直美を見つめていた。「裕之は僕の後輩で、普段から僕を尊敬してる。彼を弟のように思ってるし、瞳は彼の妻だから、彼女を妹だと思ってる」「そんなこと私に言ってどうするの？あなたたちの関係には興味がないわ」直美はワインを2杯持ってきて、そのうちの1杯を差し出した。「まさか瞳の件が私と関係あると思ってるんじゃないでしょうね？」「直美、この件は君と無関係であるべきだ」一郎は冷たい目で彼女を見据え、差し出されたワインを受け取らなかった。「もし関係があるなら、奏だけでなく、僕も君を許さない。人としての一線を越えたら、それはもう人間じゃない」「人間じゃない」との言葉に、直美の顔から穏やかさが消えた。「なぜ私を疑うの？私が悪事をしたら、すべてのことも全部私の仕業だと思うの？」直
Latest chapter
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第767話
彼女は蒼を抱え、振り返って歩き出そうとした。その時、背後から彼の咳払いが聞こえた。彼女の足がぴたりと止まった。普段、彼は咳をすることはない。風邪をひいたり、体調が悪くならない限り、咳をしない。彼女は階段のところに立っている千代の元へ歩み寄り、子供を千代に渡すと、すぐに書斎に向かって歩き出した。彼女は彼の前に戻り、咳をして赤くなった彼の顔を見つめた。空気の中には言葉で説明できない、手を伸ばすとすぐに壊れてしまいそうな、強烈な感情が漂っていた。「あなた、具合が悪いの？」彼女は言いながら、彼の額に手を当てた。彼は数歩後退して言った。「少し風邪を引いたけど、熱はない」彼女は彼に近づき、問い詰めた。「蒼を抱かせたのは、風邪をうつしたくないからなの？それとも、蒼に会いたくないから？」彼の深い黒い瞳が彼女を見つめ、正直に答えた。「両方だ。君が来なければ、こんなことにはならなかったのに」「誰かが私に来るように言ったわけじゃない。私が来たかったから来たの」彼女は強い口調で言いながら、デスクの方に向かい、パソコンを閉じて、彼の腕を引っ張りながら書斎を出た。「風邪は軽い病気だけど、休まないと回復が遅くなるわよ。あなたがずっと病気でいたいのはわかるけど、逃げても解決にはならない」「君は問題を解決しに来たんだろう」彼は彼女の言葉をまとめるように言い、少し考えてから、「君は、俺とみんなで蒼の到着を喜んで迎え、その後一緒に蒼を育てたいんだろう？」と予測した。「確かにそう考えたこともあった。でも、それはあなたにとっては難しすぎることだってわかってる。だから無理強いはしたくない。でも、子供は私が育てるとしても、あなたが会う勇気すらないのはおかしいわ。まるで蒼が殺人犯みたいじゃない」とわこは急に感情を抑えきれなくなった。彼女は彼の腕を放し、胸が激しく上下していた。「もし結菜が生きていたら、絶対にあなたと蒼の関係がこんな風になっているのを見たくなかったはずよ！」奏は結菜の名前を聞いて、何かに刺激されたように見えた。彼の顔が冷たくなり、彼は大きな足音を立てて寝室へ向かって歩き出した。とわこは彼の後を追い、「奏、あなた少し熱があるわよ。薬を飲まないと、夜には高熱が出るかもしれないわよ」「もう薬を飲んだ」と彼は答えた。「何の薬を飲
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第766話
彼女の心の中は実際に不安でいっぱいだった。もし彼の心のわだかまりが自分で解けなければ、子供を抱えて彼に会わせることは逆効果になる。しかし、彼女は家のリビングに入った後、すぐに後悔した。だが、千代は蒼を見て非常に喜んでいた。彼女は蒼をとわこの腕から取り、少しの間遊んだ後、また蒼をとわこに戻した。「とわこ、旦那様は上の階にいる。昨晩はお粥しか食べてないけど、どうしてもこれ以上は食べたがらない。今は休んでるのか、それとも書斎にるのか」千代は話しながら前を歩き、「子供を抱える時、足元に気をつけてね」とわこは迷いながら言った。「千代、やっぱり私は彼を邪魔しない方がいい。蒼を見たことで、彼の心の負担が増してしまうかも」その言葉を聞いて、千代は少し驚いた様子だった。「でも、もし彼が蒼を見たことで心のわだかまりが解けたら？」千代は言った。「彼は蒼の父親だから、いつか蒼に向き合わなければならない。心のわだかまりが解けないなら、一生この子を認めないの？」千代がとわこに蒼を抱かせて奏に会わせるように言ったのは、彼女が奏が今、ひとりぼっちだと心配していたからだった。彼の母親は亡くなり、結菜もいなくなり、今や唯一の兄とも完全に関係が断絶している。つまり、彼にはもう家族がいないのだ。もし他の誰かが奏の立場なら、きっと心理的にも問題が起きているだろう。千代は、とわこと蒼が奏の家に温かさをもたらすことを望んでいた。「とわこ、試してみて。もし彼が激しい反応を示したら、子供を戻して」千代は言った。とわこは頷いた。せっかく来たのだから、試してみる価値はある。もし効果があったらどうしよう？2階に到着すると、千代はまず彼の寝室を覗いてみた。寝室のドアは少し開いていて、中には誰もいなかった。「旦那様は書斎にいると思う」千代はとわこに言った。「そのまま書斎のドアをノックしてみて。私は行かないから」奏の寝室にはベッドだけがあり、あまり物は置かれていなかった。千代は毎日掃除をしているので、特に気にしないが、彼の書斎には多くのものが置かれている。通常、彼が掃除を命じない限り、下僕たちは書斎に入ることはない。とわこは蒼を抱いて、書斎に向かって一歩一歩進んでいった。書斎のドアの前に立つと、深呼吸をしてノックをした。耳を澄ま
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第765話
突然、蒼の泣き声が彼女の思考を引き戻した。蒼は外の音に驚いて泣き出したのだろう。とわこはすぐに彼を揺りかごから抱き上げた。抱き上げると、すぐに泣き止んだ。「蒼、お兄ちゃんとお姉ちゃんが外で雪遊びをしているよ。もう少し大きくなったら、一緒に雪遊びしようね」彼女は子供を抱え、窓辺に立って外の景色を見ながら言った。蒼はまだ縦抱きには対応できないので、彼の明るい目がとわこの顔をじっと見つめている。「お腹すいてない？前回のミルクから2時間くらい経ったような気がするけど......ママがミルクを作ってあげるね」とわこは彼をベビーベッドに戻しながら言った。ベビーシッターは手伝おうとしたが、とわこが子供をあやすのも、ミルクを作るのも全て非常に慣れていて、手を出す余地はなかった。「三千院さん、本当にすごいですね。何をしても、どれも得意なんですね」ベビーシッターが褒めると、とわこはその褒め言葉を受け取り、「いつごろお正月に帰省される予定？前もって教えてね」と聞いた。ベビーシッターは「29日に帰省する予定です。蒼がまだ小さいから、三浦と一緒に忙しくなると思いますので、少なくとも料理や掃除の手伝いはできますから」「それは助かるわ」「いいえ、全然」ベビーシッターは手伝いようがないと感じたのか、「じゃあ、昼食の準備をしてきますね」と言った。常盤家。奏は今日、会社には行かなかった。風邪を引いていたが、会社に行かない理由は風邪だけではない。彼は昨晩、一郎と子遠がとわこの家に行って、蒼の退院を祝ったことを知っていた。もし今日、会社に行けば、一郎と子遠がきっと蒼の話をしてしまうだろう。彼らが話さなかったとしても、自然にそのことを考えてしまうだろう。昨晩、子供のことを見に行きたいという気持ちもあったが、最終的に苦しみが理性を超えて支配した。彼はずっと心の中で乗り越えられない壁を感じていた。彼は病気かもしれない。生理的な病気ではなく、心理的なものだと感じていた。朝食後、彼は薬を一錠飲んで、ぼんやりと眠りに落ちた。昼過ぎに目を覚ますと、天井のシャンデリアを見つめながら、気分がますます沈んでいった。心理的な問題もあるし、病気の影響もあるのだろう。もし子供に関わりがなければ、彼はこのまま病気に陥ったままでも構わないと思っ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第764話
直美は、蓮は若いけれども、大人よりも賢いと考えていた。一方、とわこの娘は、普通の子供に過ぎない。だから、レラを捕まえるのはもっと簡単だろう。和彦は彼女の言葉を聞いて、しばらく黙って考え込んだ。これは危険な一手だ。もし確実な自信がなければ、軽々しく動けない。次の日、朝7時。とわこは子供の部屋に入った。子供は寝ていたが、三浦はすでに起きていた。「三浦さん、昨晩はお疲れ様。今は休んで。昼間は私が子供をみるから」とわこが言った。「うん、夜中に三回牛乳を飲んだわ。食欲もあって、元気もある」三浦が笑いながら言った。「彼はちゃんとお利口さんだったわ。お腹が空いたら泣いて、満足するとすぐに寝るの」「蓮もこのくらいの時期、そんな感じだったわ。レラは少しだけ泣いたけど」とわこが自然に答えた。三浦は少し驚いて言った。「とわこ、レラと蓮も旦那様の子供よね？皆さんはあまりこのことを話さないけど、裏では皆がそう言ってるのよ」とわこは少し黙った後、答えた。「別に言わないわけじゃないの。ただ、昔、彼は蓮を危うく殺しそうになったことがあったから。もし蓮が彼を許さなければ、私も無理に子供達に彼を認めさせたりしない」三浦は理解したように頷いた。「旦那様は以前、確かに少し衝動的だったわね」「誰にでも衝動的な時はあるわ」とわこはベッドの縁に座り、蒼を見ながら言った。「完璧な人なんていないから」「うん。じゃあ、私は休んでくるわ」三浦は立ち上がりながら言った。「蒼をリビングに移してもいいわよ。そうすれば、ずっとここで見守っていなくても大丈夫よ」「分かった」とわこは蒼をリビングのベビーベッドに移した。これでいつでも蒼を見ることができ、ベビーシッターも手伝ってくれるので心配はなかった。あっという間に10時になった。涼太が車でやってきて、彼女と子供の様子を見に来た。彼はたくさんのプレゼントを持ってきた。子供用のものもあれば、彼女へのものもあった。「とわこ、今、レラは冬休みで、君は蒼の世話をしないといけないから......」涼太がとわこに相談した。とわこは彼が言いたいことが分かっていた。彼女はレラを見ながら言った。「レラ、ママに教えて、どうしたいの？ママは弟の世話もしないといけないけど、ママはあなたとお兄ちゃんのこともちゃんと見るこ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第763話
「彼は私に連絡してきていない。ただ、時間がもうあまりないわ。和彦、そっちの方は進展があったの？」すみれは冷たい口調で言った。「私たちは今、仲間でしょう。もしあなたが私を守れないなら、私もあなたを引きずり込むわよ」「すみれ、僕が殺すのを恐れないのか？どこからその自信が湧いてきた？」「和彦、私が今日の位置にたどり着いたのは、顔だけじゃないわよ！」すみれの声は冷徹になった。「私には無事に撤退する方法がたくさんある。ただ、ネズミのように隠れたくないだけ。私はあなたと手を組み、奏を倒したい。奏を倒すことで、やっととわこに集中できる」和彦は数秒間沈黙した。彼も奏を倒したいと思っていた。だから今はすみれと顔を合わせるのではなく、彼女と手を組む方が賢いと感じた。「その箱について、少し手がかりが見つかった」彼は箱を見つけてから話すつもりだったが、すみれが追及してきたので、仕方なく言った。「どんな手がかり？」すみれは緊張して尋ねた。「すみれ、箱を見つけたら、教えてあげる。でも、今詳しいことを教えたら、奏に伝えるかもだろ？」和彦は慎重に答えた。すみれは冷笑した。商界で生き残る者は、誰もが愚かではない。すみれは確かにそんなことを考えていた。もし三ヶ月後に奏が彼女を殺すなら、和彦を裏切ることだってあり得る。命を守るためなら、彼女は何でもやる覚悟があった。「そういうことなら、箱を見つけたら教えて。もし私が手伝えることがあれば、いつでも言って。奏とあなたの間で、私は絶対にあなたと手を組むわ」「分かった。頼むことがあれば、連絡する」電話を切った後、和彦は直美の部屋に向かった。直美は海外で休養しており、奏から逃れていた。この間、直美は心身ともに疲れていた。彼女はもう逃げたくないと決心して帰ってきた。自分のアパートには泊まれなかったので、和彦の家に来ていた。「誰と電話していたの？」直美はシャワーを終えて、濡れた髪をタオルで乾かしながら尋ねた。「すみれだ」和彦はドアの前に立ちながら彼女の顔を見た。「奏が彼女に三ヶ月の猶予を与え、暗紅色の箱を見つけろと言ってる。もう一ヶ月以上経っっているから、すみれは焦ってる」「うーん、私は暗赤色の箱のことは聞いたことがないわ」直美は悔しそうな口調で言った。「彼のことは自分でもよく分か
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第762話
しかし、夜の11時になっても、奏は現れなかった。もし彼が本当に蒼に会いたいなら、今夜は間違いなく来ていただろう。「とわこ、部屋に戻って休んだほうがいいわよ！」三浦は時間を見ながら言った。「蒼はお利口さんだから、もし夜中に泣いたら、私がミルクをあげるわ」「うん、ありがとう。明日の朝、私が代わるね」とわこは部屋を出て、主寝室に向かった。心の中はだいぶ落ち着いていた。人は全てを手に入れることはできない。今、三人の子供たちがそばにいるだけで、元気に無事でいてくれれば、他のことはどうでもいい。気持ちを整理した後、ようやく重荷が下りたように感じた。部屋に戻っても、眠気は一向にやって来なかった。三浦が蒼の面倒を見てくれているので、何も心配することはなかった。ふと思い出したのは、妊娠中に受けた仕事のこと。患者の方は急いでいなかったため、妊娠後期になってその仕事を中断していた。彼女は引き出しから患者のカルテを取り出し、最初から読み始めた。この患者の病状は、結菜の病気と非常に似ていた。今、結菜はもういないが、この患者を治すことを決意した。たとえその患者を治しても、結菜を取り戻すことはできない。しかし、それが彼女の慰めとなるだろう。彼女はもっと善行を積んで、もし来世があるなら、結菜が病気や苦しみから解放されて生まれ変わることを願ってる。しばらくして、彼女の目が少し痛くなったが、眠気は依然として訪れなかった。彼女はベッドサイドのライトを点け、カルテに記載されている情報が目に入った。おそらく、蒼の病気が影響して、彼女は血液型に敏感になっていたのだろう。一目見て、患者の血液型が目に飛び込んできた。血液型はRH陰性のO型であるとわこはその文字を見た瞬間、電気ショックを受けたように体が固まり、動けなくなった。この患者の血液型は、結菜と全く同じで、病気の症状も似ている......これは偶然だろうか？さらに恐ろしいことに、その患者の顔つきが結菜に幾分似ている......こんなに偶然なことがあるだろうか？彼女は急にその患者に会いたくなった。最初に会った時は短い時間だったため、彼女の顔も記憶の中でぼんやりしてきていた。......ある豪邸。すみれはここ数日、連日眠れず、頭が痛かった。奏が弥の母親を殺
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第761話
奏がこちらに来たのは、仕事が主な目的ではなく、逃げるのが目的だった。結菜が蒼のために犠牲になったことを考えると、心臓が何度も引き裂かれ、血が溢れそうになる。スマートフォンの画面が点灯し、彼はメッセージを開いた。そこに飛び込んできた写真――蒼が黒くて澄んだ目を開き、カメラを見つめている姿だった。まるで彼と目を合わせているかのようだった。その写真を見た瞬間、彼の呼吸は一瞬で重くなった。深く息を吸い、スマートフォンを置いた。理性は、結菜の死が蒼とは関係ないと告げている。だが、彼はその心の壁を越えることができなかった。結菜がもう二度と現れないこと、もう二度と甘い声で「お兄ちゃん」と呼ばないことを思うと、悲しみが止まらなくなり、すべての理性を崩壊させてしまう。夜、館山エリアの別荘。マイクは裕之と一郎を招待し、蒼の退院を祝うパーティーを開いた。蒼と同じ年齢の赤ちゃんは、かなり寝る時間が多い。彼らが到着した時、蒼は眠っていた。彼らは蒼が奏に似ていると言った。とわこは心の中で、自分の考えが自然に浮かんだ――蒼は奏にはそんなに似ていない。彼女は最近、奏の子供時代の写真を見たばかりだった。その頃の奏は、こんな顔ではなかった。しかし、その言葉は口には出さなかった。見た目だけで言うと、確かに蒼は今の奏に少し似ているところもある。夕食時、一郎はとわこにジュースを注いだ。「とわこ、以前、君のことを誤解していたことを、謝りたい」一郎は恥ずかしそうに言った。「それに、蒼を産んでくれて、本当にお疲れ様」子遠は尋ねた。「一郎さん、社長が帰ってくるの、いつだか知ってる？」「君は彼の助手だろう？君が知らないなら、僕は分からないよ」一郎は答えた。「でも、少しだけ知っているのは、彼がH市に行ったのは、確かに仕事もあるけど、その場所は彼自身が選んだことだ。彼がH市に行きたがったんだ」「多分、H市のほうが暖かいからだろうね！」子遠は社長を庇うように言った。「彼は蒼の退院のことに向き合いたくなかったんだろう」一郎は話題を逸らしながら言った。「とわこ、心配しなくていい。彼はそのうち気持ちが整理できるはずだ。最近は弥のことに忙しくて、他のことに気を回す余裕がないんだ」「弥？」とわこは驚いた。弥の母親はすでに弥のために命を落と
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第760話
これが、彼女が蒼と初めて正式に会った瞬間だった。以前は保温箱の中でほとんど昏睡状態だったが、回復した後は一度も面会しなかった。今、彼の明るい目を見たとわこは、思わず口元がほころんだ。「蒼！」マイクは彼女の横に立ち、指を伸ばして蒼の小さな頬をくすぐった。「叔父さんに抱っこさせてくれ！」マイクは蒼をとわこの手から慎重に抱き上げた。その時、子遠がベビーバスケットを持ってやってきて、マイクに子供をバスケットに寝かせるように言った。「こんな小さな子供を抱けないなら、触らないほうがいい」と子遠が注意した。「後ろの首の部分をしっかり守らないと」「まるで経験豊富みたいに言ってるね。でも、俺が蓮とレラを育てていた時、その専門技術を見たことがないだろう？」とマイクが自慢げに言いながら、蒼をバスケットに寝かせた。半時間後、車は館山エリアの別荘に到着した。バスケットの中で寝ていた蒼はソファに置かれた。レラと蓮は大きな目を丸くして、弟をじっと見つめていた。蒼はこの時すでに寝ていたので、二人はしばらく見つめて、好奇心が満たされるとすぐに視線を外した。子遠は携帯で蒼の写真を撮った。マイクが彼の横に歩み寄り、尋ねた。「蒼の写真を撮ってどうするつもり？もしかして、奏に送るつもりか？」「自分で見て何が悪いんだ？」と子遠は携帯をしまった。「見たいなら毎日ここに来て見ればいいだろう。わざわざ写真を撮る必要はない」とマイクは指摘しながら言った。「蒼の写真を送らないほうがいい。もし彼が息子に会いたいなら、自分で来ればいいんだ。来ないってことは、その子を認めていないってことだ。どうして蒼の写真を彼に送って、わざわざ面倒をかけるんだ？」子遠はマイクの言葉に言葉を失った。とわこは二人の会話を聞きながら、心の中で波紋が広がっていった。彼女は蒼をバスケットから抱き上げ、寝室に向かって歩き始めた。三浦が後ろについてきた。寝室に入ると、三浦がドアを閉めた。「とわこ、私が蒼を見ておくわ。もし疲れてるなら休んで、疲れてないなら、リビングで遊んでていいわよ」と三浦が言った。とわこは三浦を見て、尋ねた。「蒼の面倒を見てくれるつもりなの？」三浦は微笑んで答えた。「これは旦那様の指示よ。前に言われたことだけど、後からも私に頼んでくれたから」
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第759話
とわこも会社に戻りたいと思っていたが、体調がまだ回復していなかった。もし会社に行きたいと思っても、マイクは絶対に行かせてくれなかった。今日はまた激しい雨が降った。今年の冬は例年よりも気温が低く、マイクは会社に行く前に、とわこに「今日は外に出ないように」と言っていた。「とわこ、もし家にいて退屈だったら、友達を呼んで遊んでもいいよ」とマイクが言った。とわこは淡々と返事をした。マイクが出かけた後、とわこはふと思った。自分にはもともと友達が少ないし、今は瞳が起こした出来事が心に影を落としていて、真も消えてしまった。もう、誰も呼ぶ友達がいなかった。一時間後、マイクが帰ってきた。彼は毛糸を持っていた。「とわこ、もし退屈なら、編み物でもしてみて。子供にでも、俺にでも編んでくれたら嬉しいよ」編み物なら疲れず、時間を潰すのにもいいと思って、マイクは言った。「それか、子遠の家の犬にでも編んであげたら？」とわこは手に持っていた本を置き、彼を見上げた。「私、そんなに退屈そうに見える？」マイクは笑って言った。「ずっと本を読んでるけど、目が疲れない？」「疲れたら休めるわ」とわこは、マイクが持ってきた毛糸を手に取り、見つめながら言った。「これじゃ、犬に編むのが精一杯ね」「蒼もまだ子犬みたいなもんだろ？」とマイクがからかうように言った。「蒼が退院できる頃には、もうそんなに小さくないわ」とわこが言った。「私、編み物なんて久しぶりだから、今はうまくできるか分からない」「自由にやればいいよ、そんなに真剣に考えなくて」マイクは時計を見て言った。「じゃ、俺は会社に行くよ。年末で忙しいから」「運転気をつけてね。雪道は滑りやすいから」とわこは注意した。「うちの庭だけ雪が多いけど、外の道は除雪車が通ってるよ」マイクは準備をしながら、ふと思い出した。「あ、そうだ。医者が言ってたけど、あと2週間くらいで蒼が退院できるって」とわこは知っていた。医者からも電話があったし、きっと奏にも連絡があっただろう。でも、彼がその時に病院に来るかどうかは分からなかった。2週間後、とわこは子遠の犬に、マフラーと毛糸のベストを編んだ。マイクは彼女の作品をとても気に入った。「とわこ、本当に器用だね。子遠の犬もきっと喜ぶよ」マイクは褒めた。「蒼が退院し
