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第491話

さくらは一瞬の沈黙の後、静かに言った。「お珠、お客様をお送りして」

「まだ話は終わっていないわ!」淡嶋親王妃は怒りを爆発させた。「さくら、私はあなたの叔母よ!そんなに追い出したいの?」

激昂のあまり、手にした茶碗を床に叩きつけた。その胸は怒りで激しく上下している。

さくらは足元に散らばった茶碗の破片と、自分の足先を濡らす茶溜まりを静かに見つめた。

「ねえ」さくらは顔を上げ、厳しい眼差しで親王妃を見据えた。「もしあなたが承恩伯爵邸でこれほどの怒りを見せられたなら、あの場で茶碗を叩き割って、梁田のことを非道と罵ることができたなら、蘭のためにどれほど良かったか。そうすれば、私はあなたを叔母として今でも敬っていました」さくらの声は冷たく響いた。「あの夜、蘭がどれほど苦しんでいたか、あなたは見ていたはずです。なのに、ただ事を丸く収めようとするばかり。離縁を願う蘭に、せめて実家に戻ることを認めると言うだけでも慰めになったはず。一時の感情で離縁を口にしたのかもしれない。でも、あなたの拒絶が彼女をどれほど傷つけ、絶望させたか、考えたことはありますか?」

「離縁なんてできないわ!」淡嶋親王妃は顔を真っ赤にして叫んだ。「これだけ説明してもわからないの?もし私が彼女を実家に戻すと承諾して、妊娠中の彼女が本当に戻ってきたら、どうなると思う?本当に蘭のことを考えているの?あの子はあなたを尊敬しているのに、どうしてこんな酷いことを?」

親王妃は立ち上がって足を踏み鳴らし、ハンカチで涙を拭っては新たな涙が溢れ出る。「今の辛さなんて、たいしたことじゃないわ。姫君である彼女が、正妻である彼女が、遊郭上がりの妾ごときに怯える必要なんてないのよ。大長公主の落とし胤だろうと、あんな場所で育った女なんて、いずれ夫も愛想を尽かすわ。最後には必ず蘭のもとに戻ってくる。この道理を蘭に説けば、離縁なんて言い出さないはず。あの子はいつもあなたの言うことを聞くのだから、あなたが説得すれば、きっと分かってくれるわ」

親王妃は再び腰を下ろし、顔を横に向けて涙を拭い、鼻をすすった。その姿は見るも無残だった。

さくらは、母親に似た面影を持つ叔母の涙に濡れた顔を見つめた。鼻をすすり、涙を拭う姿に胸が痛んだが、それでも声を強めて問いかけた。「何をそんなに恐れているんですか?一体何を怖がっているんですか?」

「何を
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