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第2話

「俺は忙しいんだ。貴重な時間はおまえのためじゃなくて仕事にあてなきゃならないんだよ!妊娠したぐらいでいちいち面倒くさいな。帰れないって何度も言っただろう、ダメだったら一人で病院で死んじまえ!」

私は携帯を持ち、再び仲村和人にメッセージを送った。

「要求は一つだけ。子供の親権は私が持つ。私への財産分与も一円たりとも少ないのは許さないわ」

仲村和人はすぐに返事をしてきた。

「俺は今日すごく重要な用があるんだ。

そんなふうにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるな。明日帰るから」

三日後、病院から退院の許可が出ても、仲村和人の姿は見えなかった。

車の中で、遠ざかる病院の建物を見つめながら、以前の記憶が頭の中に駆け巡った。

私と仲村和人は大学生の時に知り合って、相思相愛の仲だった。

結婚一年目、仲村和人は初めて事業を起こしたが、友人に騙されて多くの負債を背負ってしまった。

その時期は、私は一日に三つのアルバイトを掛け持ちし、彼の負債の返済のために奔走した。夜は家に帰って彼のために洗濯も食事の用意もしてあげた。

彼が二度目の事業に成功して、それからやっと楽しい結婚生活を送ることができると思っていた。

そして、一年前。

彼が持田芽衣と浮気をしたその日から、全てが変わった。

私が家に帰ってすぐ、仲村和人がようやく帰ってきた。

彼はテーブルの上に置かれた手術記録に目を通し、不機嫌そうに熟睡している私の体を揺らして起こした。

「おまえ、こっそり手術をしたのか?どうして俺が帰るの待たなかったんだ?」

私は三日連続入院してあまりよく眠れておらず、帰ってようやく眠りに就いたところを起こされたのだ。

今の私は心身ともに疲れ果てていた。

「和人、つまり病状が悪化してから三日放置し続けて、あなたが帰ってくるのを待ってから手術をしろって言いたいわけ?」

仲村和人はギクリとし、顔色を少し和らげた。

「まあいい、今回は許してやるよ。それより早く俺のスーツにアイロンかけてくれ、出かけなきゃならないんだ」

私は呆気にとられた。

彼が家に帰ってきてすぐに思いつくのは私の手術に付き添うことではないのか。

そうじゃなく、仕事上で必要なやり取りだけなのだ。

携帯のバイブレーションが突然鳴り、ミルクの時間を告げた。

私は弱い体を引きずってミルクを入れ始めた。

仲村和人は苛立ち、そばにあった椅子を蹴飛ばした。

「ざけんな、おまえとなんか結婚するんじゃなかった。後悔で煮えくり返りそうだ!」

そう言い終わると、バタンと大きな音を立ててドアを閉めて出て行った。

私は彼を無視し、その音で驚き大泣きを始めた子供をあやしに行った。

三十分かけて、ようやく息子は再び眠りに就いた。

私は携帯を手に取りメッセージを送った。

「離婚の弁護士さんを紹介してちょうだい」

「気でも狂ったの?今日は誕生日なのに、どうして突然離婚だなんて?」

翌日の朝、仲村和人が突然帰ってきた。

彼は冷めた目で私を見つめ、その口調は私を責めていた。

「昨日おまえの誕生日だってどうして事前に俺に教えないんだ?」

私は黙ったまま、一言も発しなかった。

「もういい、わざわざプレゼントを買ってきてやったんだ」

仲村和人は金のネックレスを渡してきた。

それをちらりと見た。

とても細いネックレスだった。

その金の重さは仲村和人が気前良く買った高価なアクセサリーセットにはるかに及ばなかった。

愛しているか愛していないか、それは様々な場面において知ることができるのだ。

「ネックレス、つけてみろよ。後で飯作ってやるからさ、一緒にお祝いしよう」

「そんな必要ないわ」

冷ややかな声で私はそれを断った。

期限が過ぎてしまったプレゼントとお祝いなんて、そんなのはただ私に……私に更なる反感を覚えさせるだけなのだから。

仲村和人は私の気持ちに気づいたらしく、顔を曇らせた。

「優しくしてやってるっていうのに、おまえはこんな態度なのか!一体なにわがままを言ってるんだよ?」

私は顔を上げて、落ち着いて話し始めた。

「わがままなんて言ってないけど」

仲村和人は怒りで勢いよくネックレスを床に叩きつけ、それを強く踏みつけた。

「何に怒ってるか分かってるよ。彼女と一緒に家族写真を撮った件だろ?あれは彼女の娘さんの先生がクラスメートの家族写真をLINEグループに送る必要があるっていうから、彼女と一緒に写真を撮っただけだよ」

そしてすぐ、彼はまたため息をついた。

「言っとくが、彼女に対して腹立ててさ、俺が彼女にちょっとしたプレゼントを贈ったからってなんだよ?彼女に謝れなんて俺は言ってないだろ!」

出産後に喧嘩をするのは体に負担がかかる。

私は深呼吸をした。

「ええ、あなたの言うとおりよ」

そう言い終わると、携帯に会社からの通知が来た。

社長は私の離職届けを承諾したらしい!

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